校長室
家出娘はどこへ消えた?
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第6章 氷川 陽子(ひかわ・ようこ)とベアトリス・ラザフォード(べあとりす・らざふぉーど)はバローザ邸の前でアリアの帰りを待ち伏せていた。 やがて戻ってきたアリアが家に足を踏み入れる前に、陽子が引きとめた。 「家出からお帰りになったのね」 アリアは素直に認めた。 「そう……一緒にお父様にお会いするわ。その前に、あなたに一言注意しておきたいのです」 陽子はためらっていたが、やがて意を決して話を始めた。 「闇組織の人間に騙され、その一員にされてしまった百合園生で早河綾という少女がいましたわ。その彼女自身は有志によって救出されたものの、パートナーを組織に殺され、その後遺症で、自身も下半身不随になり、精神的にもダメージを負ってしまったのです」 アリアの表情に恐怖をみつけて、陽子は続けた。 「闇組織は、パラミタ中に拠点を持つ大きな組織で、空京センター街にも組織の手の者が入り込んでいる可能性がありますの。センター街にお友達もたくさんできたでしょうけど、今後とも気をつけて……」 バローザは再び彼を説得しに来た者たちとやり合っていた。 「親っていうのは、子供の幸せが第一だろ?」 洋兵は咥え煙草だが器用にも落とさずに話をしている。 煙草に火をつけようとしてバローザに叱られたので、煙は出ていない。 「あんたのエゴもわかるさ、俺だって同じような立場だ」 話しながら、なぜか洋兵は苛々を募らせているようだ。それは煙草が吸えないから、ただそれだけの理由かもしれないが。 「自分が自慢できる娘になってほしいと願うのは何もダメなことじゃない。まだ許される範囲内での親のエゴだ。ただよォ……親っていうのはその上で愛情を持って娘の幸せを願うもんじゃねぇか?」 バローザに問い詰める。「強すぎる親のエゴは取り返しのつかない事態を招きかねないぜ……今回みたいにな。だからよォ……娘さんと一回話し合ったら、どうだ?」 「話し合いの場は持つ。だが、娘の我が儘に折れるつもりはない」 洋兵は頭を振って、肩をすくめた。 「……とんだ頑固親父だ」 今まで黙って成り行きを見ていたナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は部屋の扉が開いてアリアが静かに入ってくるのを認めた。 「バローザ、あんたは所詮娘なんて道具に過ぎないんだねェ」 その言葉は効果覿面で、バローザに火をつけたようだ。 「道具だと? 私は一度もあの子のことを道具だなどと思ったことはない。ただ、彼女のことを思ってスケジュールを組んでやっているだけのことだ」 「何の自由もなかった小鳥が、一度自由を知った後、喜んで鳥籠に戻ってくるかねぇ」 怒りで顔を赤くしたバローザに、ナガンはせせら笑った。 「あんたが道具として扱っている証拠に、アリアの話をしっかり聞いたことがあるかぃ? 何が好きで何が嫌いで、あんたのことをどう思っているかも、あんた、知ってるのかい?」 バローザは口ごもった。 「それ見たことか、そりゃあ、道具の話なんか聞かないし、気持ちなんか知ろうとも思わない」 ナガンはバローザの胸を指で突いた。 「あんたは自分が一番大事なんだ」 バローザはその腕を振り払って叫んだ。 「娘が一番大切だ!大事に思っている、なによりも、誰よりも大事だ!」 「……お父様」 「アリア……!」 バローザはアリアの姿を見るなり、すっかり固まってしまった。 大人はめんどくさいねぇ、とナガンはつぶやく。 そこに、真口 悠希(まぐち・ゆき)がバローザにささやいた。 「何か、アリアさんの記念日とかありませんか、そうしたら簡単に気持ちを伝えられますよ」 藁にでもすがりたい気持ちだったのだろう、バローザはすぐに悠希の言葉に反応した。 「明日は……亡くなった妻の誕生日だ」 「あ……お母様の……お父様、覚えてらしたのですね」 アリアの意外そうな言葉に、バローザは少なからずショックを受けたようだ。 「私は、サティアのことを忘れたことは一度たりともない」 「そうでしたの……お父様、何もおっしゃらないから、私はてっきり……」 「そうだな、彼女が亡くなってから、私の心の中にはぽっかりと穴があいてしまって。あとは、なんとしてもお前をしっかりと育て上げないといけないと、そればかりを考えてきた。それが、サティアの一番望むことだと考えてだ」 バローザはアリアに歩み寄った。 「しかし、アリア、お前とはサティアのことも、お前のことも、私自身のこともしっかりと話をしたことがないように思う」 周りを見渡し、そしてアリアを見つめて、自嘲めいた笑みを浮かべる。 「皆のおかげで、私は気づいた。私にはお前との心のふれあいがなかったんだな。私は亡くなったサティアの人格を自分のいいように自分の中に作り上げ、その彼女とばかり対話していたのだ」 バローザは指をアリアの頬に触れた。 「お前を見ているつもりで、私はお前を見ていなかった。お前が出て行くのも当然だな、私はわかっていなかった」 アリアはそんなバローザの手に触れる。 バローザはしばらく言いよどんで、しかししっかりと口にした。 「自分、そして母親がこの世にいたからお前がいる、その奇跡を忘れるとことだった。些細なことでいがみ合ってこの奇跡を無駄にすることは勿体無いことだ」 バローザはアリアの瞳を覗き込んだ。 「お前を幸せにしたい、お前の生きる道を応援したい」 アリアはバローザの胸に飛び込んで、広い父の背中を抱きしめた。 「お父様……私は逃げるべきではなかった、逃げてごめんなさい!」 瞳を真っ赤にしながら、アリアは父を見上げた。 「これからは、どんなことでも、お父様にお話しするわ。私、学んだの、センター街の人たちから、そして私を探しにきてくれた人たちから!」 バローザは、先ほどまで自分に理解できないことばかり言ってるように思えた人々に改めて礼を述べた。 「皆さんの尽力に感謝します」 アリアも深々と頭を下げた。 「みなさん、ありがとうございました」 そして、にっこりと微笑んだ。 「もしよろしければ、皆さんもあすの母の誕生日にいらしてくださいな!」 後日、インターネット上に、チンピラを相手に、契約者たちの大暴れする動画が流れ、物議をかもし出したが、これはまた別の物語である。
▼担当マスター
巴若
▼マスターコメント
初めてマスタリングをします、巴若(ともわか)と申します。 初めてなので、色々と未熟な点はあったかと思います。 でも、皆様に楽しんでもらえるように、萌えと気力を糧に一生懸命頑張りますので、今後ともどうぞよろしくお願いします! ありがとうございました!!
▼マスター個別コメント