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THE Boiled Void Heart

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7.頭脳監獄


 偽ドージェは、ゆっくりと地面に倒れる。
「これ以上死人を出してたまるかよ!」
 カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)は舌打ちしつつ偽ドージェにヒールを放つ。
「彼はなぜ逃げ出さなかったのかしら」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は、次第に元の体格へと戻っていく青年を見つめて首を傾げる。
「逃げ出そうとするたびに、そいつの目の前でオークの子供を殺してやったんだよ……二回やったら、二度と逃げようとしなくなったよ」
 学生達に取り押さえられたジョシュアは自分の思いつきを披露する子供のように邪気のない顔で答える。
「!!」
 リリィは思わず手を振り上げて、すんでの所で動きを止める。
「憎しみに駆られては、あなたを喜ばせるだけね……でも、わたくしはあなたを憎んだりしません。でも、心底から、あなたを軽蔑します」
 リリィはそれだけ言うと、もう二度とジョシュアを見ようとはせず、無傷の者など誰一人いない学生達の治療に向かった。
「やぁ、きみ。きみは分校の生徒会長なんだってね」
 ジョシュアは片腕を失っているとは思えない平静さで、パラ実イリヤ分校生徒会会長である姫宮 和希に話しかける。
「……何か用か」
 和希は少し警戒しながらもジョシュアにいう。
「この遺跡はね、分岐の一切ない構造だ。クノッソスの迷宮のようなものだ……だから、迷わなければ、疑わなければすぐに脱出することが出来る」
「……それで」
 和希は警戒しながらも先を促す。この男の言うことなどとても信用できない。和希は軽身功を使いつつ所々壁を破壊しながら進んできたので、ジョシュアの言葉が真実なのか判断する術もない。
「どこかの誰かさんがこの遺跡に爆弾を仕掛けたようだ。時間がない。迷わず、疑わず逃げれば間に合うかも知れないよ」
 ジョシュアは片手の人差し指と中指をこめかみに当てる。
「最後にひとつ質問。きみは生徒会長として、窮余の時、救命ボートに乗せる人員を選べるかな。」
 ジョシュアはそのまま二本指を自分のこめかみに突き刺す。
 和希が悲鳴を上げる間もなく、ジョシュアは人差し指と中指を引抜く。二本指の間にはピンク色の脳髄に絡まって、透明な水晶が挟まっている。空気に触れた水晶は、一瞬で白濁し砂状になって砕けてしまう。
 言葉を失う和希の前で、ジョシュアの身体が輪郭をうしなっていく。
「あ……」
 ジョシュアの身体がゼリー状になり、ついには人間の形を保てなくなって床に広がる。
「行きましょう……確かに爆発音が聞こえます」
 うつむく和希に、昴 コウジが声を掛ける。血に染まった戦闘服が、彼が最後までオークの子供達を蘇生させようと努力したことを物語っている。
 そんな彼が、一刻も早くここを離れるべきだと行っているのだ。
「よし、みんな、その人を連れてここを離れよう!」