校長室
Magic Cloth
リアクション公開中!
「ここが悪の魔女の住む……尖塔ね」 ツァンダ郊外に聳える塔を見ながら、佐倉 留美(さくら・るみ)はにんまりと笑う。 表立っては入らず、裏窓から潜入した留美は、吹き抜けになっている中を見上げて頷く。 上に行くには壁沿いの螺旋階段を上っていく他ないようだ。 そして、そこにはリビングソーンがびっしりと生い茂っている。 「ふふん、リビングソーンごとき、わたくしのファイアーストームで焼き払って差し上げますわ」 そう言って得意げに襲いかかって来ようとするそれら目掛けて、紡いだ魔法をお見舞いする。 が、瞬時動きを止めたリビングソーンは、再びうねりながら留美へと向かってきた。 心なしか先ほどよりも動きが早い。 「きゃっ!? ど、どういうことですの!? さっきよりも速…きゃっ!?」 しゅるしゅると手足に巻きついて動きを制してくるリビングソーンに悲鳴を上げる。 それを蹴散らすため魔法を紡ごうとするが、締めつけられてうまくいかない。 それどころか体を這うリビングソーンに意識を持っていかれる。 「ちょ、ちょっと変なところを触らないでくださいませっ」 言っても無駄とは知りながら、思わず口にする。それでも絡んでくるリビングソーンに全身を絡め取られる寸前。 「――ハッ!」 鋭い掛け声とともに、剣がが一閃。絡みついていたリビングソーンが一太刀の元に切り落とされた。 「きゃっ」 その反動で転びそうになった留美を、誰かの手が支える。 「おっと、大丈夫かいお嬢ちゃん? レディが無茶をするものじゃないぜ」 そして、肌も露わな魔女服を纏った留美にウィンクをして、自らの上着をかけてやる。 「お怪我はありませんか?」 真奈が駆け寄ってヒールを施しながら、そう問いかける横ではサファイアが近付くリビングソーンを槍で蹴散らしていた。 「無理はしないでくださいね。サファイア、愛美様」 「うふふ、ご心配ありがとうございます」 「無理なんてないわ! 魔女はこの上ね!」 行くよ! と先陣を切る愛美に遅れないようについて行きながら、ウィングは抜刀する。 「翡翠さんはそのまま後方から援護射撃をしてください。秋日子さんとトライブさんも、後衛に!」 「了解! キルティ、行くよ!」 「わかりました」 各人に指示を出しながら、ウィングは愛美に向かって来ようとするリビングソーンを両断する。 マリエルは無事かと振り返った下方に見えたものに、ウィングは息をのんだ。 巨大な虫がマリエルの後方に迫っていたのである。 「ウォームです! マリエルさん逃げてっ!!」 「ヒャッハー!! 任せな! 行けっ!」 「いー!!」 ウィングがしまったと方向転換をした瞬間、鮪がモヒカンゴブリンをけしかける。 けれど、跳ね飛ばされたり逃げ惑ったりであまり役には立たない。 「く……ッ、間に合うか……?」 ウィングが苦しげに呻いたその瞬間。 ひゅ、ひゅん! と鞭が一閃、二閃。 ウォームを打ち付け、また動きを止めるように絡んでいった。 「モンスターがうようよいますわね」 「ほほほ、しつけがいがありそうですわ!」 亜璃珠とネイジャスは同時にそう口にして、一瞥を交わす。 「獲物は渡さなくてよ?」 「こちらの台詞です」 言いながら不敵に笑みを浮かべた二人は、それぞれに背後を振り返る。 「つかさ、ほら、早くいらっしゃいな」 「ふぇ? は、はいっ」 亜璃珠に促されて前に出たつかさは愛美のように大胆なビキニアーマーを身に着けていた。 「よーし! 行きますよ!」 そう行って駆けだすが、ウォームに辿り着く前にリビングソーンにつかまってしまう。 「ひゃあ!?」 逃げようともがけばもがくほど絡まっていくそれに、涙目になりながらつかさは亜璃珠たちを見やる。 「助けてくださいぃ! 亜璃珠様ぁ」 「此方を片付けてからですわ。もう少しじっとしておいでなさい」 まるで苦戦でもしているかのようにそう言うが、亜璃珠の口元は少しばかり緩んでいる。 「楽しんでるじゃないですかぁ」 「そこで少しでも戦いやすくするためリビングソーンを引きつけていなさいな」 「うう……囮ってことですね……」 「ふぁいあニャっ!」 涙目のつかさが諦めかけた瞬間、アイリの炎の魔法がリビングソーンを焼き払う。 「よしニャ! これでマグロもらえるかニャ?」 「い、いい子ですからもう少しだけ頑張りなさい。ほら、ネイジャスも見ていますし……」 「うう……かつおぶしもつけるニャ……」 ネイジャスの冷たい視線を受けて、アイリは戦闘に戻っていく。 「……何の騒ぎだ、これ?」 そこへ顔を出したのは、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だった。 魔女一人が住んでいるという尖塔へ来てみればずいぶんと賑やかではないか、と瞬く。 しかしよくわからないが皆魔女に会おうとしているらしい。 そのために番犬代わりのモンスターを駆逐しているのか、と察しをつけた牙竜はすでに螺旋階段の上方に居る皆に追いつくために駆けだした。 魔女が飼い主なら穏便に済ますためにも傷つけたくはないと、身を隠しながら。 「追いついたはいいけど……すごい有様だねぇ」 残っていたリビングソーンの残骸を蹴散らしながら、師走もまた上へと昇っていく。 その腕には小さくなった皐月を抱いていた。 「でもまぁ、あれだけ戦力があった方が助かるかな」 「師走、僕自分で行けるからおろして。このままじゃ戦いづらいでしょ」 「しかし……」 「ルーシュチャもそう言ってるから」 「わかった……。離れるんじゃないよ?」 「うん!」 「ヒャッハー! ぶった押してやるぜー!」 「人の獲物取るんじゃねぇよ!」 「そんな乱暴な言葉遣いしちゃだめです!」 「ヒーローの奥義見せたるで!」 「紗月、出番じゃないか」 「はい、お守りいたします」 「私も行くアルヨ!」 「姉御! ついて行くぜー!」 「ま、待ってくださーい」 「治安を乱すことは許さんぞ!」 ガッシュ、朱里が駆けだしアインが止め、社が追うのを見てラスティが紗月を促す。それに朔とマリーとテュールが続いた。 それを諌めようと雅人までもが追ってくる。 そんな皆の攻撃が一斉に命中し、ウォームがひっくり返った。 「ミルザム様の敵はお前か!?」 そこへ突進してきたラズやフローレンス、魅世瑠の容赦ない一撃。 「よーし! ラズたちミルザム様の敵倒した!」 「おいっ! 上見ろ上!」 「きゃあっ!?」 総司が叫ぶと同時に桃花の悲鳴が上がり、飛び跳ねたラズの頭上に影が落ちる。 「ジャイアント・スパイダーですわ!」 長い脚をゆるゆると動かして現れたのは、巨大な蜘蛛だった。 よくよく見ると桃花の周りには蜘蛛の巣のようなものが張り巡らされていた。 「桃花様!」 「今お助けします!」 郁乃が声をあげ、千種がすぐさま抜剣して飛び上がる。 けれど粘性の蜘蛛の巣はそう簡単には断てない。 「く……ッ」 「桃花さん、じっとしていてくださいね!」 そこへ綾音のツインスラッシュや、トライブと秋日子の射撃の援護が入る。 蜘蛛を寄せ付けないようにするため、翡翠が蜘蛛の目を目掛けて一撃を放つ。 「……今だっ!」 蜘蛛が怯んだ隙を見て、血煙爪を構えたキルティスが巣を断ち切った。 すたん! とスカートをひらめかせて着地したキルティスは、得意げに笑う。 「流石僕だね!」 解放された桃花に駆け寄った郁乃は、すぐさま介抱を始める。 「大丈夫ですか?」 「ええ、大したことは……」 「よかった……」 「キルティ、いつの間に着替えたの?」 「さっきみんなが戦ってるときにちゃちゃっとね! こっちの方が戦いやすいでしょ?」 「それはそうかもしれないけど……」 「……あなたたち、誰ですか?」 その瞬間、聞こえてきたか細い声に、一同ははっと目を向ける。 塔の螺旋階段の終わりにある質素なドアから、少女が顔をのぞかせていた。 「もしかして……」 「あなたがこの塔の魔女ね!?」 愛美がぴしっと指をさすと、魔女はひっと顔を引っ込めた。 途端、主人の危機と思ったのか、リビングソーンやワームたちが襲いかかってくる。 「皐月! 危ない!」 と、襲ってきたリビングソーンから庇おうとした師走が皐月を突き飛ばす。 が、変わりに絡め取られてしまった。 「師走!」 「怪我はないかい?」 「そんなことより早く逃げなきゃ!」 「ああ、逃げるから……離れてな」 とはいいながら、麻痺毒にやられたのか動きの鈍い師走にさらにリビングソーンが触手を伸ばしてくる。 「……っ」 それを見ていられないと床を蹴った皐月は、等活地獄で触手から師走を引き離す。 「大丈夫!?」 「皐月……」 「師走」 ヒールを唱えながら、真剣な目でまっすぐ師走を見据えた。 「もっと僕を頼ってよ。こんな姿じゃ頼りないかもしれないけど。僕の為に師走が傷ついたら意味ないだろ?」 「……………」 「一緒に行って、一緒に帰ろう。ね?」 皐月の言葉にすう、と師走は目を細める。 (子に頼ってこその親、親に頼ってこその子、か) 息子同然に可愛いと思って見守ってきた皐月の言葉に、感慨深げに師走は頷く。 (……全く、孝行な息子を持ったもんだねぇ、私も) 「……じゃあ、有難く頼らせてもらおうか」 手当てを受けた身を起こして、皐月に手を伸ばす。 「もう少しだ。宜しく頼むよ、皐月」 「……うん!」 「ま、魔女さん! 話を聞いてください!」 「私たちはただ魔法を解いてもらいたいだけなんだってば!」 ウォームやジャイアント・スパイダーたちと応戦しながら、マリエルたちは叫ぶ。 「まったくだ! フリマに出した服のおかげで変なことになっちまったんだぞ!」 「……フリマ?」 みんなが次々と声をかける中で、フリマ、という単語を聞き咎めた魔女が再び顔を覗かせた。 と、ウォームたちがおとなしくなる。 「みんな、おとなしくしてて……」 モンスターたちにそう声をかけると、魔女はおずおずと姿を現した。 「えっと……あのぅ、ご用は何でしょうか?」