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機械達の逃避行

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機械達の逃避行

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 バッサイーンが走り、白雪が暴走し、追いかける人々が過ぎ去った後……。
 白いショートカットの髪が汗に濡れるのにも構わず、穴のあいた大地にせっせと、花を植えていく茜ケ久保 彰(あかねがくぼ・しょう)
 バッサイーンと白雪の軌跡をたどるかのごとく、高速で作業をこなしていく。その姿は、まるで工場の機械のごとく鮮やかだ。
 落ちているゴミも集め、袋に詰めていく。
 戦いのすぐ後を追っているため、ミサイルの着弾が近い。
「危険だと思いますです。離れていた方が――」
「僕のことはいいから、早くアレをなんとかしてください」
 心配する咲夜由宇に応えつつ、手は止めない。
 と、荒地の緑化を進める茜ケ久保彰の眼に、小さな布の欠片が映った。やや固い繊維の、小さな布。
「これは布……でしょうか。ゴミですね、ゴミ」
 そう言った茜ケ久保彰は、何のためらいもなくその布をゴミ袋の中に突っ込んだ。
「さて、美化運動、頑張りますか」
 一度伸びをして、再び作業を開始した。
 荒れ果てた大地に、木の苗が植えられていく。
 ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)は苗を撫で、丁寧に植える。色とりどりの花々も手に取り、道沿いに並べていく。
「少しでも、綺麗になればいいな」
 ふわりと笑って桃色のポニーテールの髪を揺らし、作業を続ける。
 そんなケイラ・ジェシータの背後から、湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)高嶋 梓(たかしま・あずさ)が近付いてきた。
「また、派手にやったもんだなぁ……」
 白雪の攻撃で、穴が開いた地面と、焼けたり倒れたりする木々と、荒れた花々を見遣る。
「まあ、通り掛ったのも何かの縁だ。後片付けを手伝おう」
 そう言って、湊川亮はケイラ・ジェシータに近付く。
「私は、怪我人の捜索と治療に行きますわ」
 パートナーの後ろ姿を見送って、高嶋梓が周囲を回りに走っていく。少し遠くで、柔らかな光が溢れた。
 高嶋梓が怪我人を見つけ、治療しているのだ。それを確認するかのように頷くと、湊川亮はケイラ・ジェシータの背中に声をかける。
「俺も手伝うぜ」
「本当? ありがとう」
 微笑み合って、緑化作業を始める二人。
 開いた穴に花を植え、倒木を脇に寄せ、緑を増やしていく。
 二人が作業するほど近くで、掘り返された草花に、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が頭を下げた。
「うぅ〜、いたかったですか、ごめんなさいなんです」
 銀色の瞳を揺らめかせて、謝る。
 木の破片や、焼け焦げた草花を袋に入れていく。
「あっ、このお花さん、いきてますね」
 にっこり微笑んで、愛の宿り木を取り出すヴァーナー・ヴォネガット。
「イタイのイタイのとんでいくです〜」
 愛の宿り木を回し、自身もくるくるっと回って、温かい光が満身創痍の花を包み、もとの通りに直していく。
 可憐な花びらが、お礼を言うように風に揺れた。
「もっと、もっとキレイにするです〜」
 愛の宿り木をくるくる回しながら、傷ついた草花達を回復させていく……。

「ちー、せっかく空京に来たんやから帰りに何か食べてくか?」
「うんっ。やー兄とお出掛け楽しいなぁー」
 仲睦まじく空京の街を歩く、日下部 社(くさかべ・やしろ)日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)
 と、二人の耳に轟音が響く。
「あ! なんかあっちで大きな音したよ? なんだろね?」
 そのまま、てくてくと音の方へ歩いていく日下部千尋。慌てて日下部社が続く。
 その先に見えたのは、荒れた空京の姿と、暴走する白雪、バッサイーンの姿。日下部千尋は思わず日下部社の手を強く握った。
「ちーの事は兄ちゃんが守ったるから安心せぇや♪」
 そう言った日下部社は【殺気看破】と【ディテクトエビル】を発動。危険から逃げるように、日下部千尋の手を引く。
「ちーちゃんはね、やー兄がいたら何も怖くないよ!」
 彼女は、満面の笑みを浮かべて応える。日下部社の顔にも、笑みがこぼれる。
 安全な方へ道をそれていくと、復旧作業をしているメンバーが二人の眼に入った。
「ちーも、みんなのためにお花植えたいな!」
「そうか。それなら一緒にやってみよか?」
「うんっ☆あそこの花壇にもう一度お花を植えよ? みんなが笑顔になっちゃうくらい、いーっぱいお花さかせるのぉー☆」
「おぉ、ええなぁ」
 二人は、ヴァーナー・ヴォネガットのいる花壇の隣へ。
 花の種をまいていく。ヴァーナー・ヴォネガットが愛の宿り木を使っているところを見て、日下部千尋が瞳を輝かせた。
「ちーも、できるかなぁ?」
「やってみればえぇやん」
 日下部社の了承も得て、日下部千尋は【ヒール】を使用。傷ついてしおれていた葉が、むくりと起きあがるように伸びた。
「やったぁ☆」
「ちー、この調子で頼むで!」
 二人は、しっかりと後片付けを始めた。

 魔法の箒が二つ、宙を舞って降りてきた。
「ぴょっ!」
 驚きの声を上げ、地面への着地を失敗した宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)。涙でうるんだ瞳をこすり、顔を上げる。
「みらびちゃん、大丈夫?」
 箒に乗ってきたもう一人……クラーク 波音(くらーく・はのん)が心配そうに首を傾げる。宇佐木みらびはこくりと頷いた。
「うさぎは、大丈夫ですっ! 波音先輩、早速始めましょうっ!」
「うんっ!」
 箒をしっかりと握る二人のもとに、近寄る影二つ。
「波音ちゃん、買ってきましたよ!」
「ララもしゅ〜ふく頑張るよぉ〜」
 ビニール袋を提げたアンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)とスコップを持ったララ・シュピリ(らら・しゅぴり)
 これで【前より美しくっ!】のメンバーがそろった。
「壊れる前より美しくっ♪」
 クラーク波音と宇佐木みらびは魔法の箒で地面を掃き、細かく散らばった瓦礫やゴミを集めていく。
 白雪の暴走以前に落ちた、空き缶や袋などの目立ったゴミも一緒に回収していく。
「埋め埋め〜うめちゃお〜♪梅〜はすっぱい……あれ?」
 優しい曲調に乗せて歌いながら、ララ・シュピリがスコップで穴を塞いでいく。
 集めたゴミを袋に入れ、大きなゴミに取りかかる宇佐木みらび。クラーク波音はアンナ・アシュボードと共に、花壇へ。
 買ってきたチューリップの球根を、土に植えていく。色は赤、白、黄色。歌にもあるシンプルかつ、スタンダードな美しさ。
「折角なので、これも再利用しちゃいますっ!」
 宇佐木みらびは、落ちていた瓦礫の中から看板のようなものを取り出した。
「埋めちゃお〜♪」
 穴を埋め続けるララ・シュピリの脇、土が丸見えになった焼け野原にアンナ・アシュボードがシロツメクサの種をまき始めた。
 シロツメクサと言えば、クローバー。彼女はそっと祈りを込める。
「幸せの四つ葉が出てくるよう祈って……」
 それぞれがそれぞれの作業を分担し、効率よく作業をしていく。彼らの顔には、おのずと笑みがこぼれていた。