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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

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4.

 子ギツネは走った。日陰の多い校舎内と違い、外は太陽によってまんべんなく照らされている。
「あーっ! 子ギツネ発見!」
 木陰を目指すあまり、気が付かなかった。小さな少女のそばを通ってしまい、見つかってしまった。
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)の声に反応し、御神楽ヶ浜のえる(みかぐらがはま・のえる)が子ギツネを追って駆けだす。
「ボクに任せて!」
 目指した木陰に飛び込んだ子ギツネは、そこでのえるに顔を向けた。
 下から風が巻き起こり、ミニ丈のスカートがめくれあがる。
「別に気にならないもんね!」
 パンツがまる見えの状態で子ギツネへ近づいて行くのえる。
「きゃああー!!」
 突然響いた叫び声に、のえるはびくっとして後ろを振り返った。
 ネージュが必死にスカートを押さえている。香苗とどりーむが彼女のスカートをめくったのだ。
「ナイスくまさん!」
 びしっと親指を立て、逃げ出す香苗とどりーむ。
「もう、香苗ちゃんにどりーむちゃんってば……」
 と、むくれるネージュ。
 はっとしたのえるが前を見た時、そこに子ギツネの姿は見当たらなかった。

「パラミタアカギツネってぇ、本能で男性と女性を見分けられるって本当ですかぁ?」
 ほとんどの生徒が街へ散った頃、雷霆リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は八森博士へそう尋ねた。
「え、そりゃあ動物だし、本当のはずだけど」
 と、何故か自信なさそうに答えを返す。
「……たとえばぁ、匂いが女性だったら気がつかない、とか?」
 リナリエッタはそう言って上目遣いに八森博士を見る。それはないと思うけど、と彼が答えを返す前に、リナリエッタは彼の白衣へ手をかけた。
「実験してみません?」
 それを無理やり脱がし、自分もジャンパーを脱ぐ。
「え、え、何なに? ちょっと、キミっ!」
 混乱する八森博士に構わず、強引に服を交換するリナリエッタ。あっという間に身ぐるみをはがされた八森博士は、気づくとリナリエッタの服を身に着けていた。
「……あれ?」
 先ほどまで着ていたはずの服はなぜかリナリエッタが着ている。
「あとはぁ……やっぱり髪型よねぇ」
 と、どこからか櫛を取り出し、八森博士の頭を梳かしはじめる。どこからどう見ても逆セクハラ、完全にリナリエッタに遊ばれている八森博士なのであった。

 子ギツネを追っていたはずの薫だったが、路地を出たところでその姿を見失ってしまう。
「ど、どこに行ったでござる?」
 きょろきょろと辺りを見回すが、そこには人間しかいない。薫はキツネに対する思いから、勘で道を歩きはじめる。
 薫が背を向けた道の先では、人間に化けた子ギツネが慣れない二本足で走っていた。お尻にはもれなく尻尾が生えていたが、幼い少女にしか見えないおかげでそれも含めて可愛らしい。
 角を曲がろうとして、どんっと子ギツネは誰かにぶつかった。
「大丈夫か?」
 差しのべられた手はゴツゴツしていた。見上げれば、パワードスーツを着ていることが分かる。そう、子ギツネがぶつかったのは【ケンリュウガー・ザ・グレート】となった武神牙竜(たけがみ・がりゅう)その人だった。
 初めて見る異質な人間に、子ギツネはしばし呆然としていた。そしてお腹が空腹を知らせる音ではっとする。
「もしかして、お腹がすいてるのか?」
 子ギツネは頷いた。
 普段着へと着替えた牙竜は、レストランで食事をほおばる幼女を微笑ましく見守っていた。
「ところで君、名前は?」
 ライスをおかわりした幼女が、ぎこちなく掴んだフォークを止める。
「なまえ?」
 人間に化けてはいても、頭の中は子ギツネだ。人間の社会なんて全く知らない。
「そう。たとえば、俺の場合は武神牙竜っていうんだけど」
 幼女は悩んだ。三匹のうち、一番最後に生まれて発育も良くない自分。姉や父、母からはチビちゃん、なんて呼ばれていた気がするけれど、それは「なまえ」なのだろうか。
「……わかんない」
 そう返して、幼女は再び食事を再開させる。
「そうか」
 牙竜は彼女に名前がないのだと思った。ならば付けてあげよう、と。
 そうして牙竜が頭を悩ませている最中、幼女は満腹になったせいでしっぽだけではなく、頭に耳まで生えてきた。どう見ても獣人である。
「そうだ、ルビーってのはどうだ?」
 と、牙竜は言った。彼女の姿が半分キツネになっていることにも気付かずに。
「るび?」
「だって君の目、ルビーみたいに赤いからさ」
 と、牙竜は笑う。幼女は何故だか嬉しくて、耳を隠すことを忘れて頷いた。
 ルビー、ルビー、と呟きながら、幼女は店を出る。牙竜はまだ会計の途中だったが、ルビーは気分が高揚しすぎて駆けださずには居られなかった。
 幼女からキツネの姿へと戻ったルビーは、どこへともなく走ってゆく。その姿を見た店員は、思わず牙竜の顔を覗き込んだ。
「あんた、さっきの子、キツネじゃ?」
「キツネ?」
 外へ出た牙竜は、そこに誰もいないのを見てようやく気付く。
「ば、化かされた……!? 不幸だー!!!」