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【2020年七夕】サルヴィン川を渡れ!?

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【2020年七夕】サルヴィン川を渡れ!?

リアクション


5章

 途中離脱した三人と無事に合流することができた彦星たちは、織姫たちの下へ向かっていく。
「織姫たちを元に戻せるのは、彦星たちの想いだけ、ね……なるほどな」
「他の織姫にさせられた方々も、早く元に戻してあげたいですね」
 どうやって戻すか知らなかった峯景たちは、説明を受けて頷いていた。
 アレグロにいたっては、心配そうな表情で織姫たちのことを案じている。
「でも、もうすぐ織姫たちを元に戻せるんだよね? みんな、頑張ろう!」
 そう言って元気づけようとしてくれたマリエルに、皆は頷きで返す。
 もうすぐ助けられる――そんな想いと共に織姫たちの下にたどり着いた救出メンバーだった。
 しかし織姫の元に着いた全員は、絶句することとなる。



「しかし、セリス殿もよく考え付きましたね。最後の最後にアレがあるなんて、誰も思わないでしょうし」
「だからこそ、なのだろうな。たしかに、最後にふさわしい内容であることに変わりは無い」
 今、妨害していたメンバーは物陰に隠れて彦星たちを見守っていた。
 そんな折、小次郎からこぼれた言葉に毒島は腕を組みつつ応えている。
「でも難しいよね……だって、ほぼまったく同じなんだよね?」
 玲奈の言葉に、厳しい表情のまま拓海も同意を表している。
「だが、それぐらいでないとアルタイルも納得はしないだろう。そこまで考えたから……であろうな」
 幻覚による、彦星たちの想いの確認。
 これがセリス考案の最後の妨害だった。
 自分が変装することも考えたのだが、一人だけでは足りず、身長の問題もあって断念するしかなかった。
 しかし、アルタイルに幻術をかけてもらえれば、問題が全て解消されるのである。
 アルタイルに頼んだのはこのことだった。
「結果がどうなるか……アルタイルのことも含めて、あとは彦星たち次第ね」
 美由子の言葉がここにいる者たちの全てを物語っている。
 あとは彦星たち、救出メンバーにかかっていた。



 目の前に広がる光景に、ほとんどの者は思考が追いつかなかった。
「なんで……何で織姫たちが、二人ずついるんだ? だって、え??」
 エリシアが混乱するのも無理はなく。
 そこには対になるように、まったく同じ姿の織姫たちが機織をしていたのだ。
 そんな、混乱の極み状態のメンバーに、どこからか聞こえてくる声があった。
「どうやら混乱しているみたいだな。二人いる織姫のうち、片方は本物。当然もう片方は幻覚となっている。ここから自分たちの、本物の織姫たちを当てるんだ。ちなみに、当てる以外に幻覚は解けることは無い」
 その声を聞いたメンバーたちは、一斉に緊張が走る。
 ――もし、間違えでもしたらどうなるのか?
「あの、間違えたときはどうなるんですか?」
「もしや来年まで機織を続ける、といったことになるのでござるか?」
 彦星たちが聞くわけにもいかないだろうと、陽太とジョニーは気になっているであろうことを質問してみた。
「……そんな事を聞いてどうする? 間違えなければいい、ただそれだけだ。――それとも、きみたちの想いはその程度のものだったのか?」
 おもわずハッとなった全員は、だんだん覚悟が決まった顔つきになる。
「タイミングは各々に任せる。――それぞれの想い、見せてもらうぞ」
 そして、彦星たちはそれぞれの織姫の下へ向かっていくのだった。



 ミューレリアの前にきた和希は、沈痛な面持ちで立ち止まっていた。
 二人のミューレリアは虚ろな表情のまま、和希のほうには顔を向けず、機織を続けている。
 目を瞑り、心を落ち着かせてから、口を開いた。
「今日いろんなことあったんだ。それでも、自分に対してのやつなら耐えられた――苦しいことも辛いこともあったけどな。だけど、ミュウに対してのやつには、それだけは耐えられない。……ミュウが辛いのは嫌なんだ、見てられないんだ」
 和希の独白に、ミューレリアたちは和希の方に顔を向ける。
「俺は何があってもミュウを助ける。それほど、ミュウが大切なんだ。だから――帰ろうぜ? 一緒に、な」
 手を差し伸べながら和希はミューレリアの反応を待った。
「……ひ……め……や、ん?」
 段々と表情が変わっていき、ミューレリアたちが淡い光に包まれていく。そして――
「――っ! 姫やん!!」
 一人になったミューレリアは和希の胸に飛び込んでいった。



 アインの姿を確認した、朱里たちは動きを止めてアインを見続けていた。
 朱里たちの前に来たアインは、膝を突いて目線を合わせる。
 「こんなにも待たせてしまって……すまない。僕は騎士として、否、一人の男として、君を悲しませる全てから命に代えても守り抜くと誓った」
 朱里たちの涙を指ですくいながら、アインは想いを伝える。
「その気持ちは今も変わらない。君が…好きだ。もう決して、一人にはしない」
 朱里を抱きしめながら、アインは誓いを立てる。
 決して破ることのない、絶対の誓約を――
「やっぱり……来てくれた。私だけの、彦星様……」 
 ゆっくりと抱きしめながら、朱里はアインのぬくもりを感じていた。



 京子の前に来た真は、京子が小さく口ずさんでいるメロディーに頬をゆるめた。
 なにより、自分の曲が気に入ってもらえてたことが嬉しかったのだ。
「遅くなってごめんね? まさか、そのメロディーを口ずさんでまで待ってくれてたのは予想外だったけど……でもよかった、気に入ってくれてたんだね」
 メロディーはいつの間にか止まっており、京子はこちらをじっと見ている。
 真は京子を見据えながら、言葉を紡いでゆく。
「何処にいても、どんなときでも俺は、君の傍にいるよ。だから……助けに来たよ、京子ちゃん」
 真の言葉を聞いた京子は微笑みを向け、そして――
 真の前から消えてしまった。
 起きた出来事に理解ができず、ようやく状況を飲み込んだ真が動こうとしたとき、背中に軽く触れてくる何かがあった。
「あんまりにも遅いから待ちくたびれちゃったよ? 今のは、そのお返し」
 消えてしまったはずの京子は、真と背中合わせで、ちゃんとそこにいた。
 「信じてたよ、真くん……助けに来てくれて、ありがとう」
 背中合わせで互いの存在を確認しあった二人は、しばらくそのままで佇んでいた。



 ウィキチェリカの前にきたカセイノフはひたすら悩んでいた。
 なぜなら、当てにしていたリリィに断られてしまったからだ
「お前が行けよ。パートナーなんだろ」
「――チーシャの彦星はわたくしではありませんわ。わたくしは、あくまで彦星の付き添いです」
何も考えていなかったカセイノだったが、その場での素直な気持ちを伝えることにした。
「チーシャのことはだな、あーっと……うーん、なんつーか……友達、は違うし、親友、も違う」
 ウィキチェリカたちは、涙を目じりにためながらも言葉を待っている。
「……兄弟…? そう、それだ! お前のことは弟だと思っている!」
 その言葉を聞いたウィキチェリカたちはあんまりな言葉に涙の堤防が決壊した。
「付き合ってたわけではないんですわね……そして、せめてそこは妹にするべきですわ。というかなんで弟?」
 カセイノは真剣に考えての言葉だったが、リリィはこめかみを押さえてしまう。
 しかし、想いはウィキチェリカには届いていたようで。
「酷いよ。あたしのことそんな風に思ってたの?」
「な、何が不満なんだよ! 弟に性別なんて関係ないだろ!?」
 リリィは頭を抱えてしまうが、ウィキチェリカは立ち直ったのか笑顔を向けてきた。
「えっとね……助けてくれて、ありがと〜」
「……おう」
 まるで、本当の家族のような暖かさがそこにはあった。



 郁乃の下へたどり着いた桃花は、二人の郁乃の体が何もなっていないか確かめていた。
 無事に何も無いと判断した桃花は息をつくと、背筋を伸ばして向き直る。
「郁乃様、大変お待たせいたしました。たとえ一時でも離れるのが、こんなにも辛いのです。一年に一度などとなれば、耐えられるはずもございません」
 そういって郁乃の顔に手を添えた桃花は、表情を柔らかくしながら続きを述べる。
「ですから桃花は一年に一度では我慢できませんから、毎日お顔を見せてくださらないといけませんよ」
 暫らく虚ろな表情をしていた郁乃だったが、次第に赤面していく。
「わかった、約束する。でも……いつも傍にいてくれなきゃ嫌よ?」
 上目遣いでそう懇願する郁乃に、桃花は微笑みをもってかえした。
「心得ております。桃花は郁乃さまとともに」
 あっという間に二人だけの世界を作り出すと、しばらく見つめ続けあう二人だった。



 未沙、美羽、マリエルの三人は愛美の下に来ていた。
 淡々と機織を続ける愛美を見て、それぞれが声をかける。
「マナ! 助けにきたよ!」
「待ってて、今助けるから」
「マナ、もう大丈夫だよ!」
 虚ろな表情を三人に向けるも、愛美たちはすぐに視線を元に戻してしまう。
 そんな愛美を見ていられなかった三人は、必死に説得をする。
「マナ……このまま七夕にしか逢えなくなってもいいの?」
「せっかく仲良くなれたのに……その日だけしか逢えないなんて……」
「マナ……お願いだから元に戻って……」
「「「マナと1年も離ればなれなんて、そんなの嫌だよ!!」」」
 虚ろな表情だった愛美は、次第に泣き顔に変わってゆく。
「みんな、ありがとう。もう、大丈夫だから」
 そういって笑顔を見せた愛美に、美羽とマリエルは抱きついて泣いていた。
 愛美に対して、必死に説得しているうちに涙目になっていたことに気づいてなかったようだ。
「うん、やっぱりマナは笑ってるほうがいいね」
 笑いあえるようになった三人を見て、未沙は頷きながらそんな結論に達していた。
 先ほどまであった悲壮感などどこにもなく、そこには笑顔があふれていた。



 茜の前に来た莱菜は困ってしまった。
 なぜならどちらが本物か、なんて見当がつかなかったからだ。
「初めまして、になるのかな? ボクは篠崎 莱菜。蒼空学園に通ってるんだよ」
 よって莱菜は自己紹介からはじめたのだった。
 少しでも興味を持ってもらえれば、もしかしたら違う動きをするかもしれないと考えてのことだった。
 最初は反応しなかった茜も、莱菜の姿を見てからは、少し興味をもったらしい。
 しばらくして、茜たちは機織にまた戻るのだが、もどるまでに若干のズレがあったのを莱菜は見のがさなかった。
 深呼吸をしてから行動に出る。
「ボクの紹介は終わったから、今度はキミの番。ボクはキミの話を聞いてみたい。だから、ボクと友達になってほしいな」
 その言葉と共に莱菜は手を差し出す。
 暫らくして、小さく微笑むと茜はその手を握り返した。
「あたしの名前は湯島 茜。これからよろしくね」
「改めて、ボクの名前は篠崎 莱菜だよ。よろしくね!」
 何の混じりけも無い笑顔で握手する二人は、友達になるべく、会話を始めるのだった。



 由宇の前にきたセシリアは、おもわずキョトンとしてしまった。
 ――他の女子生徒よりも涙の量は少ないのに、機織のスピードが遅いのだ。
 丁寧ではあるが、圧倒的に遅かった。
 疑問に思いつつもすぐに声をかけ始めてみる。
「俺はセシリア・ブレス。キミとは初対面かな?」
 当然のように反応がないが、セシリアはそれでも会話を続けようとする。
 しかし、唐突に機織が止まったかとおもえば、ゆっくりとこちらの方に視線を向けてきた。
 その後も、行動がゆっくりしていたため、のんびりな人だと分かったが、どちらが本物かまではわからなかった。
 だからこそセシリアは二人一緒に声をかける。
「俺は君の事を良く知らない。よってどっちが本物のキミなのかも分からないんだ。だから、キミたち二人に言うよ。織姫の一日体験はここで終わり。俺と一緒に、みんなのところに戻ろうよ、ね?」
 なぜなら知らなかった以上、セシリアにとっては、どちらも本物であることに間違いはなかったのだから。
「助けに来てもらえて感謝してるのです。セシリア君は面白い人ですねぇ〜」
 開口早々に、何故か面白い人と称されたセシリアは、苦笑しつつもみんなの所へ向かう。
 ノンビリとした雰囲気のまま二人は歩いていくのだった。