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リアクション
「空京大で大規模衝突発生」の一報を、寒極院 ハツネはヒラニプラの鉄道始発駅の貨物車両の引き込み線のレールの側で聞いていた。度重なるゲリラ攻撃で運河での行程は遅れに遅れ、結局緒戦に間に合わなかったのだ。
そして今やっと船から鉄道にゴーレムを積み替え、そのまま空京を目指すことになっていた。もはやこれ以上の遅れは許されない事態になっていた。
「なんだ。美人だって言うから期待したんだけど、それほどでもないなー」
教導団第4師団に属する空挺小隊、『黒豹小隊』の小隊長黒乃 音子(くろの・ねこ)は、ヒラニプラの険しい渓谷地帯の崖の上から、狙撃中の高倍率スコープでハツネを見下ろしていた。ハツネは葉巻を取り出すと、下級将校に火をつけさせ、それから幹部クラスらしい女性の将校から報告を受けていた。
「で、あれが最高幹部のガードルードかな……」
「小官にもそのご尊顔を拝ませていただけませんか?」
と言って寄ってきたのはロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)だ。
「あんまり面白くないよ? ほい、望遠鏡」
「どれどれ。ふむ……。部隊規模は1個大隊……それにあれは装甲列車だ!」
「特攻隊長殿の興味はやっぱそっちかぁ。少しは色気見せないと一生独身だよ?」
「特攻隊長って……暴走族じゃないんですから」
と、ロイは気色ばんだ。ロイはこの小隊の戦術を担当する戦闘指揮官だ。
「で、どう? やれそうですか?」
黒豹小隊副隊長のジャンヌ・ド・ヴァロア(じゃんぬ・どばろあ)がつぶやく。
「1大隊あたりのゴーレムの定数が30、4分の1の6機が輸送中もスクランブル体制についているとして、それに加えて装甲列車に装備された火砲が、見えるだけで20門以上。戦闘箒魔女の直援も考えられます」
「厳しいですね……」
と、ジャンヌ。
「何とかなるんじゃない?」
と、音子。
「ロイ、何とかするように」
と、ジャンヌ。
「そんなわけでよろしく」
と、音子。
「そんなわけって……ええええええ?」
と、特攻隊長。
そのころ。
ハーレック少佐から報告を受けているハツネは、ちらちらと山岳の稜線に目をやっていた。
「連中、見ているザマスね。さっき崖の上で何か光った」
「ライフルスコープか何かかと」
「おまえならあの距離からわたしを狙撃可能ザマスか?」
「私でしたらやめておきます。これから先、もっと絶好のポイントがいくつもあるでしょうし、それにおそらく列車の出発時刻やルートも聞き出しているかと」
「そうだな。……少尉! タバコ好きだと言ったザマスね。貴官も吸え」
ハツネは少し離れたところで警戒任務についているメルヴィンに声をかけた。
「はっ、いやしかし、よいのですか?」
「いいから来い」
ハツネは葉巻ケースを取り出すとメルヴィン少尉にむりやり差し出した。メルヴィンは恐縮しながらも側により、手を伸ばす。
「動きを止めずそのまま聞くザマス。メルヴィン少尉、特務を命じる……」
「ハツネっていうのは部下想いですなあ。お付きの少尉に葉巻をおごってますよ。それに引き替えウチの……まてよ?」
「どうかしたか? 特攻隊長」
照準器をのぞき込んだまま固まっているロイに音子が声をかけた。
「……いや、ちょっと気になることがありましてね」
ロイはそう言って狙撃銃を音子に返すと、携帯電話で隊員であり、パートナーのアデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)に電話をかけた。
「……間違いなくゴーレムは装甲列車に積み込まれているんですね? 指揮官たちに変わった言動もありませんね?」
ロイはアデライードとひと言ふた言話してから電話を切った。
「なんだって?」
「いえ、ちょっと嫌な予感がしまして。装甲列車を丸ごと囮に使うのではと思ったのですが、変装して内偵中のアデライードに確認させたところ、どうも気のせいだったようです」
「へえ。なら問題ないね」
「さあ、行きましょう。今から先回りしないと待ち伏せポイントを素通りされてしまいます」
ロイはそう言って狙撃銃を音子に返し、黒豹小隊は待ち伏せポイントへと山路を歩んでいった。
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