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リアクション
その日の夜。
空京の高級住宅街の一角、日村名誉教授邸。
黒塗りの高級乗用車が自宅のガレージへと滑り込んでいく。
その様子をデジカメで氷見 雅が撮影していた。
「ふーむ。怪しい様子無しかぁー」
「そろそろ帰りましょうよー。ガードマンがこっち見てますよー?」
タンタンがすぐにでも帰りたそうに促す。
「見てるのはガードマンだけじゃねえよ、お嬢ちゃん」
ふたりが振り返ると、そこには人間離れした巨漢、しかも片腕にはカニのハサミのようなものが生えている男が見下ろしていた。ジャジラッド・ボゴルだ。
「こんな日に夜歩きは物騒だぜ?」
「ぬおおおっ!? ここでなぜに中ボスと遭遇戦かっ!?」
雅がヌンチャクを構える。
「そう興奮するんじゃねえ。おめえら、あの家の中に入りてえんだろ?」
「え? あ、うん。そうよ」
「じゃあ、ちっとまってな」
大男は日村邸の玄関のガードマンのほうにのしのしと歩いて行くと、突然ガードマンを殴りつけ、一撃で昏倒させた。そして戻ってくると、
「やっこさん、これから昼寝だから入っていいって言ってさ」
と、言った。
「おぉ! さっすがーっ♪」
「さすがじゃないですよー」
「じゃあ行こうぜ。オレの肩に乗って塀を乗り越えて、中からドアを開けてくれ」
「いえっさーっ」
日村邸内に進入した3人は、どこか忍び込める場所がないか、母屋への進入口を探していた。
「ボゴル君はどうして日村の家に来たの?」
「そうだな。ヘッドハンティングってヤツかな」
「?」
「まぁ、オレだってたまにはココを使うわけさ」
ジャジラッドは左手の人差し指でこめかみを指さして笑みを浮かべた。彼の言ってることはあながち嘘ではない。古今東西、成功した『武装蜂起』なんてほんのわずかだ。正面で派手にやり合うのは他の教導団生徒に任せて、自分はトップアタックで事態を解決しようとしていたのだった。
「おまえさんたちこそ、こんな事件の何が面白い? それに派手な絵が欲しけりゃサークル棟の周りにいたほうが効率がいいだろう?」
「あたしは真実が知りたいの。シャンバラ人差別が行われてるなんて聞いたこともなかったし、絶対何か裏があると思うのよね。だからココに忍び込んだの」
と、ふたりが話しているその時、ガシャーンと何かが砕ける物音と、老人の悲鳴が聞こえてきた。
「だっ、だれかーーっ! 人殺しーーいっ!」
3人は顔を見合わせる。
「いそぐわよっ。特ダネにまにあわなくなっちゃう!」
騒ぎのするほうに駆けつけると、そこは日村教授の寝室で、ひとりの少女が日村を縛り付けてギロチンにかけようとしているところだった。その処刑人は元パラ実生のシリアルキラー空京大生、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)だった。
「やめろーっ! 教師を殺す気かっ!」
「首がちょん切れたら乾し首にしてあげますね。どうですか? 自分が人類文化学上の1資料になる気分は?」
「シャンバラ人学生のことなら撤回するっ。だから助けてくれっ」
「いいえ。私はただフィールドワークに熱心なだけです。 さあ、いよいよですよ? 何か言いたいことは?」
「よしな嬢ちゃん。オレもヘッドハンティングに来たんだ」
「あら、あなたも乾し首を?」
「オレの場合は新鮮じゃないと困るんでね」
「それは残念ですね♪」
優梨子がギロチンのレバーを引く。
掛けがねが外れて鋭い刃が落下を始める。
「タンタンっ!」
「らじゃーっ!」
機晶姫タンタンはギロチンに頭を向ける。すると突然、頭部がロケットでぶっとんでいき、間一髪、ギロチンの隙間に挟まって刃の落下が止まった。
「あら、これはなんという乾し首」
「グッジョブ。タンタン」
「あまりこういう使い方しないでくださいね……」
そんなこんなでしばらく話し合い、優梨子は単位無条件A判定、雅たちは日村の独占インタビューの確約、ジャジラッドは孫を教導団に転入させる旨の確約書をもらい、ほくほく顔で帰宅した。
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