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第9章 移動楽団スノードロップ「すのどろ公演会」



「バックに流れていたオルゴール演奏、素敵でしたね。
 さて、続いてはオルゴールでなく楽器を弾いての演奏です。
 プログラムNO.10、『移動楽団スノードロップ』」

 画面には、森の中の小径を歩く、竪琴を持った四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)の姿が映った。
 唯乃が不意に、周囲を見回し始めた。どこかから聞こえてくるフルートの音。
 フルートの旋律が鳴っている方向に歩いていくと、森が開け、美しい湖畔の景色が飛び込んできた。その岸辺に、フルートを口にしている音井 博季(おとい・ひろき)の姿があった。
 博季、唯乃に気がついて眼が合う。博季の眼が唯乃の横に、いつの間にか、ギターを持った咲夜 由宇(さくや・ゆう)も立っていた。
 フルートの旋律が終わると、博季は無言でフルートを少し掲げて見せた。
 唯乃、由宇、やはり無言で頷き、調律を始めた。
 調律を終えると、促すように博季を見る。頷く博季。その手がこっそり動き、携帯ラジオのスイッチを切った。
 博季が最初の音を鳴らす。奏でられるのはバラードの旋律だった。
 主題が一周した所で、由宇のギターがその下に入って響きに厚みを加え、唯乃の竪琴が時折掻き鳴らされて和音を鳴らし、メリハリをつける。
 主題は形を変え、演奏パートを変え、やがて曲が終了した。
 唯乃、由宇が満足したように息を吐くと、またフルートの音。博季はフルートを口にしていない。
 博季がちょっと気まずそうに笑いながら、ポケットより携帯ラジオを取り出してみせた。唯乃、由宇は肩を竦め、再び弦を爪弾き、鳴っているフルートの曲にアドリブで音を合わせ始めた。博貴もまたフルートを口にして、ラジオから流れる旋律に音を重ねてハーモニーを作った。
 文字が入った。
音楽は、言葉を超える――移動楽団スノードロップ

 スノードロップ  >検索」


「台詞が一切ない寸劇。なかなか素敵なセンスですね」
「えぇ。最初は台詞もあったんですけど、『演奏だけに特化した方がいいかな』って事になって」
 由宇が微笑みながら答えた。
「背景は、あれはCG合成ではありませんよね?」
「はい、ロケーション撮影です。場所選ぶのが大変でした。博季さんや唯乃さんが『資料検索』してくれたり、如月正悟さんが『博識』で候補地提案してくれたり……みんなの力があったから、この映像ができたんだと思います。
 あと、撮影は私のパートナーのアレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)がしてくれました」
 すると、隣に座っていたアレンが「オレは何もやってねぇよ」とぶっきらぼうに答えた。
「オレは三脚にカメラ載っけて立たせてただけだ。撮影はカメラがしたんだよ」

 手芸に音楽。
 戦闘にも駆け引きにも情報収集にも使えない、趣味だけのコミュニティの紹介が続いた。
「いいね」
 湯島茜は思わず口に出した。
「あたしのいる舞踊コミュと合わせたら、面白い事が出来るかも」
 彼女は脳裏で、「みんなで手芸くらぶ」がドレスを作り、「移動楽団スノードロップ」がワルツを演奏する舞踏会を思い浮かべ、しばらくその想像を楽しんだ。