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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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第三章 暗躍

「大体終わりだな」
「そうだね。あーあ、さっさと諦めて帰ってくれないかな」
 夜月 鴉(やづき・からす)と共にバリケードを張り終えたユベール トゥーナ(ゆべーる・とぅーな)が、誰ともなしに呟く。
(早く一緒にライブ見たいんだけどなぁ)
 村に付いて早々、ならず者達の話を聞いて黙っているわけにもいかずに協力しているが、本当は鴉と一緒にデートする事を望んでいるのだ。
 募る鬱憤を、小石にぶつけていると、鴉が顔を覗き込んでくる。
「どうした?」
「う、うっさい! 何でもない!」
 へぇ、と軽く相槌を打つ鴉に、ユベールは頬を膨らませる。
 その時『ぷっくり』と言う音がまさに似合う顔をしているユーベルの後ろを、風が通り抜けた。
 ん? と後ろを振り向いても、そこには何もいない。
(危ねぇ危ねぇ……)
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、息を殺して周りを警戒しながらも、ブラックコートを纏って慎重に音楽堂へ足を進める。
 正面から戦わずに、この混乱に乗じて埋蔵金を狙っているエヴァルトの後ろには、コルデリア・フェスカ(こるでりあ・ふぇすか)が付き従っていた。
「いくら金欠とはいえ……こんなことしてたら、また誤解される事が増えますわよ」
「背に腹は変えられん、と言うだろ。それに何より」
 ――俺は今、驚くほど金が無い。
 そう言いながらエヴァルトは、コルデリアに力強く握り締めた拳を向ける。
 今日、何度目かの溜息がコルデリアの口から吐かれた頃、二人は音楽堂まで辿り着いた。
「お宝は、ステージ直下がお約束……!」
 ステージの床下に入る戸を見て、鍵が掛かっていない事を確認する。咄嗟の場合は破壊も考えていたが、すぐに開きそうだ。
 音を立てないように戸を開く。その中には、輝くばかりの黄金――にさえ見える、ツインテール。
「はわ……?」
 楽器を綺麗に並べていたエリシュカが手を止めて、大きな瞳に侵入者達を映し出す。
 たっぷり十秒ほど見つめ合った後に、先に動きを見せたのはエヴァルトだった。
「お……俺達は怪しい者じゃない!」
 力いっぱい主張した意見は、思い切り発言とは逆の方向へ飛んでいった。背後からは、またしても深い溜息が聞こえるが、気にしない。
「うゅ……わるいひと?」
「いや、違う! 違わないけど! い……いいじゃないか、埋蔵金探すくらい! 爆破するわけじゃないし!
 それに、爆破するにしたって、こんな所に仕掛けたら埋蔵金もオジャンだろ!」
 とジェスチャーも加えて説得を試みるが、口を開けば開くほどエリシュカの怪訝そうな表情が深まっていく。
 相手の表情を見ながら更なる説得を試みようとするエヴァルトの肩にコルデリアが手を添えた。その表情はもう諦めの境地その物だ。
「ち……ちくしょーっ! お、覚えてろ!」
 どう足掻いても説得できそうにない相手に悪役らしく綺麗に捨て台詞を吐いた後、エヴァルト達はご丁寧に煙幕を張り巡らせ、その場から消えた。



 小さな争い(?)が音楽堂で終わりを迎えた頃、村では朱 黎明(しゅ・れいめい)の送り出したゴーレムが両腕を振るっていた。
 無駄に暴れまわっているように見えて、ならず者達が牽制に撃っている銃弾等の攻撃を防ぐように指示を出している。
 事実その通りに動くゴーレムを見ながら黎明は、薄ら笑いを崩さずに辺りを見渡す。
(瑛菜は……あそこですか)
 村のバリケードの向こう側にいる熾月瑛菜(しづき・えいな)を見つけると眼鏡の淵に指を掛ける。
「今日の私はちょっと厳しいですよ。どこまで頑張れますかね?」
 ショットガンを構えて、臨戦態勢を取った瞬間に、後ろでどよめきが起こった。黎明の眉尻が上がる。

「いや〜……これはその、違うんじゃ。はっはっは」
「何が違ぇんだ、おい」
 多数のならず者達の中で、ルメンザ・パークレス(るめんざ・ぱーくれす)がひきつった笑いを見せている。
 その姿はなぜか、他のならず者達が身に着けている衣服を半分まで着ている状態で地面に転がされていた。
 ならず者の一人が小さな紙切れを手にルメンザを問い詰める。そして声高らかに紙切れに書かれた文字を読み上げていった。
「その一。埋蔵金を狙う者の衣服を奪う」
「その二。埋蔵金が手に入れば分け前を貰う」
「その三。負けそうだったら衣服を着替えて正義の味方」
 紙切れの内容が淡々と読み上げられていく度にルメンザの額に汗が浮かぶ。
 当然ながら遠目に見えるバリケード側にいる人間達にすら渋い顔をされている。
「ハハハ、ほんの冗談ですけぇ、真に受けたらあかんよ……」
「その四。正義の味方の後はバイクや銃器を売り払って金にする……ってアレか。死にたいんだろ?」
 そこまで読み上げた所で完全に周囲一帯の怒りを買ったルメンザは、ならず者達に引きずられて青い顔をしながら何処かに連れて行かれた。
 遠くで聞こえる悲鳴に駆けつける者は、誰も居なかった。



 喜劇にすら見える粛清が行われている中で、鬼の面が影を這う。
(何か騒がしいけど……その方がやりやすい、か)
 集団で行動しているならず者の中にも、必ず単独で動くヤツが居る。
 そう考えて、あえて防衛に回らずに橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、暗がりに息を潜めながら機会を伺っていた。
 その時まさに、狙っていた事態が起きる。
「ったくよ、もう突っ込んじまっていいんじゃねぇか?」
 と、ぼやきながら、ならず者の一人がスパイクバイクから降りて、フラフラと歩き始めたのだ。
(役得、役得ってね)
 獲物が物陰に入り込んだ所で恭司が後ろから忍び寄る。
「……うおっ! な、何だてべむぅぐ」
 振り返りざまにならず者の口を塞ぎ、空いた手で首に腕を回す。そのまま締めながら相手の力が抜けるまで力を込めていく。
 やがて糸が切れた人形の様に手を下ろした相手を見下ろしながら細く息を吐いた。
「まだ時間はある、か」
 村の様子を見てから意識を失った相手の手足を容赦なく縛り、適当な場所に隠すと、他に単身で行動しているならず者を探して物陰に身を隠した。