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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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第八章 混戦

 傷を負う瑛菜に、黎明は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
 飛来する弾丸はゴム弾を使っているらしく当たっても貫通などはしないが、その衝撃は決して弱くない。
 負傷している左腕は何故か狙ってこないが、それ以外の攻撃は的確に打ち抜いてくる。
 攻撃を避けながら周囲を見る。個々の力は強くないならず者達だが、数で押しているように見えた。
 攻められているこの状況に焦りが滲み出る。

「なぁ嬢ちゃん。忙しそうな所悪いんだけどよ」
 交戦中の瑛菜に、塚原 忍(つかはら・しの)が、声をかける。
 武器を構えるわけでもなく、包帯が巻かれた顔の下から半眼で瑛菜を見つめている。
「コンサートならご大層な建物が無くたって十分だし、壊されても建て直せる。
 ……だが、この村の平穏は金じゃ買えない」
 違うか? と忍が口角を上げる。その言葉は暗に別の意味を持っていた。
 一回だけ壊させてくれりゃあ、後は直すなり何なり好きにしてくれても構わない、と。
「馬鹿な事を……言うな!」
「建物が壊れるのと、人が壊れるのはワケが違うと思うんだがなぁ」
 反発する瑛菜に、忍がニヤニヤと笑いながら辺りを見回す。
 眼に映るのは、傷付いていく仲間と、怯える村人達。この状況で未だに死人が出ていないのが奇跡としか言えない。
「それでも……そんなのは、間違ってる」
「そうかい。まぁ、どの道壊れるかもしれんしな」
 忍は、つまらなそうな表情で、瑛菜を一瞥すると、何処へともなく歩き出した。
 この状況が打破できるとしたら、シズルの到着か、あるいは何か他に起きなければ、と歯を食いしばる。
 その時、野外ステージに設置されているスピーカーから小さくブツッ、とマイクが入った音がした。

「おうおうおう! 何だお前ら、そんなにオレが待ちきれなかったのか!?」
 ボリュームが最大に引き上げられたスピーカーから、野太い声が響く。
 ステージ上にはいつの間にか吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)がマイクを握り締めて立っていた。
「ったくよ、暇だから練習でもしようと思って来てみりゃあ、何処から話を聞いて来たんだ?
 そんなに俺の歌が聞きてぇのか、お前ら。いいぜ、存分に聞かせてやる!」
 村全体をステージから見下ろして、マイクを力強く握り締めながら竜司が吼える。
 その場に居る人間達の反応を見る事もせず、歌声なのか叫び声なのか解らない『何か』をメロディに乗せもしないで叫び始めた。
 さらにスキンヘッドを手で撫で上げてからキメ顔まで作ってポーズを決める。

 誰も予想していなかったこの状況。殆どの人間がステージ上を直視している。
 ――そう、瑛菜の前にいる黎明も例外ではない。顔を上げている黎明に瑛菜が駆け出す。
 一歩目を踏み出した時にはもうすでに黎明が反応してショットガンを構えなおしていたが、先程までと比べるとはるかに遅かった。
 銃の側面を手で払い、脇腹に一発。『くの字』に曲がった黎明が銃を手放して、瑛菜の足元に攻撃を仕掛けようとするが、瑛菜はタイミングを合わせて飛翔。
 その勢いで空中で回転した後に黎明の側頭部を蹴り飛ばした。
 吹き飛ばされた黎明が立ち上がる。瑛菜は、向かい撃つ形で構えを取るが、黎明はそれ以上攻めてくる事はなく、以外にも笑顔を見せた。
「降参です。良く出来ました」
 破顔する黎明に警戒を解かずに、歩み寄る。
「何の冗談なの、黎明」
「冗談でも何でもないですよ、それよりも……」
 眼鏡の位置を直しながら黎明が視線を向けた先では、相変わらずの蹂躙が行われていた。



 混戦が繰り広げられている中心部で、小さな呟きが繰り返される。
「モヒカンは壊していい。……モヒカンは壊していい」
 ブラックコートを身に纏った斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は、何度も『破壊対象』を呟きながら気配を隠して戦場を駆ける。
 ならず者達の背後を取ると玩具を貰った子供のように笑いながら背中にダガーを突き立てた。
 周りのならず者達が無闇に振り回す血煙爪や、ショットガンの流れ弾で負傷していても、敵を倒すことに夢中で怪我を気にしている様子は無い。
 刺したダガーを笑顔で抉るハツネにエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が、
「素敵なお嬢さん、貴女の玉の肌に傷がついては大変だ」
 と一輪の花を差し出しつつヒールをかける。傷の治癒にも花にも、さして興味を示さずにハツネはエースの顔をまじまじと見つめる。
「……えっと?」
「モヒカンじゃないから、壊さないの」
 ハツネはそれだけ言うと、ダガーを握りなおして新しい敵を求めて去っていった。
(……モヒカンだったら、どうなっていたんだろう)
 よく判らない所で命拾いをした気分になっているエースの隣で、明るい声が響く。
「ほらほらー! 危ないよっ」
「マジで危ねぇっ!」
 逃げ惑うならず者達を追い立てるように、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が機関銃を乱射している。
 敵にも見方にも分け隔てなく最小の被害で済むように、警告を発しながらの発砲。
 更に、出来るだけ集団になっている敵を分散できるように、固まって動いている敵に銃口を向けていく。
 そんなクマラの考えを知ってか知らずか、大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)はハツネのすぐ傍らで、ならず者達を背後から斬り飛ばしながら、うっすらと笑みをこぼす。
「ククク……楽しいねぇ、愉快だねぇ」
 刀にこびり付いた血を合間に払いながら、敵の間を縫うように奇襲を重ねていく。
「楽しそうなのは構わんが……数が多いな」
 敵の隙を付いて攻撃しているハツネと鍬次郎に向かって射撃を仕掛けようとしている敵を狙撃していた東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)が一人ごちた。
 狙撃対象が多いので打ち抜くのは楽だが、中心部で戦っている仲間達の傷も増えていく。



「何だこりゃ……」
 ツァンダから一足速く村の上空へと駆けつけたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が見たのは、負傷した仲間と暴れまわるならず者達だった。
 手早くレッサーワイバーンで上空を旋回しながら、ならず者達のリーダーを探し出す。
(アレか……?)
 ならず者達の中でも一際モヒカンが大きく、中心部で暴れているリーダーらしき人物に目星を付けると、トライブはレッサーワイバーンから飛び降りた。
「誰だてべぶぅば!」
 着地と同時に、目を見開くならず者の顔面を殴りつけながら開いた手で刀を抜く。更に、突然振ってきたトライブに反応が遅れている周囲の敵に向かって音速を超えた斬撃を叩きつける。
 上空から当たりを付けていたリーダーらしき敵に向かって駆け出そうとした瞬間に、森の方から悲鳴が聞こえた。
 そのまま敵のリーダーを叩こうと考えていたのだが、思考より先に身体が動く。
 駆けつけた先ではアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が、光を失いかけている光条兵器を手に、ならず者達に立ち向かっていた。

 肩で息をしながらも接近する敵に剣を振るアリアを、ならず者達が弄んでいる。
「……まだ、負けないっ」
「ほぉ? ハハッ! 膝が笑ってるぜぇ」
 疲弊したアリアをならず者が蹴り飛ばし、既に抵抗する力が残っていないアリアの頭を地面に押さえつけて冷たい笑いを浮かべた。
 手にした血煙爪を器用に使ってアリアのローブを切り裂いていく。そして、露になった腹部に向かって手を伸ばす。
「はぁ、はぁ……んっ、や、やめて……いやああああ!」
 悲壮な悲鳴が、村に響き渡った。その時――