校長室
輝く夜と鍋とあなたと
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「偶然だね! のぞみ達も来ていたんだね!」 「ね! 偶然! せっかくだし、一緒のカマクラに入っても良いかな?」 「勿論だし!」 わざとらしい感じの会話をカマクラの前で繰り広げているのはテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)と三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)だ。 そのわざとらしさに、ミカ・ヴォルテール(みか・う゛ぉるてーる)は気づいていたが……皆川 陽(みなかわ・よう)は全くと言っていいほど気づいていない。 「ちょうど、このカマクラに入ろうと思っていたから中に入ろうじゃないかー」 「早くあったかくなりたいもんね」 わざとらしさに棒読みが加わった。 「え? 大きいカマクラならあそこに……」 「良いから、良いから!」 陽は隣の空いている大人数用のカマクラを指差したが、無理矢理テディに押し込まれてしまった。 2人用のカマクラだけあって、中に入ると4人はやはり狭い。 ぎゅうぎゅう状態だ。 だが、のぞみとテディの狙いはまさにこれだったのだ。 話しは少しさかのぼり、今朝の事。 友人のテディからのぞみに電話があったのだ。 『今晩、空京自然公園でそんなイベントをやるんだけど、ヨメともっともーっと近付ける良い方法はあるかな?』 「んー……狭いカマクラの中でぎゅうぎゅうになるなんてどう!?」 『ソレ、良いね!』 「じゃあ、ぎゅうぎゅうのラブラブになるのを手伝ってあげるよ!」 『本当か!?』 「うん! あのね――」 そう言い、のぞみが提案したのが、2人用のカマクラに4人で入ってぎゅうぎゅうになるというものだったのだ。 (明らかに失念してるだろ……俺たちが参加することによって、ふたりきりというシチュエーションを邪魔してるってことを……) 側にいたミカはそんな事を思っていたが、まあカマクラで鍋は楽しそうなので言わないでおくことにしたらしい。 狭きカマクラの中に場面は戻り、すき焼きをテディが着々と作っている。 「すき焼きまだ〜? けっこうお腹空いて来たよ」 「待ってろ、もうすぐ食べられるから。あ、じゃあ卵を割って待ってろし」 テディに言われて、陽は全員分の卵を割って、わくわくしながら鍋を凝視する。 「出来たー! これで食えるぞ!」 ちなみに席はテディ、陽、のぞみ、ミカの順になっている。 「いただきまーす」 みんなで食べ始めるとあっという間に肉が無くなっていく。 テディがどんどん追加するのだが、すぐに空になる。 「そういえば、地球とパラミタの食事情ってあんまり変わらないんだな」 ふと、肉を頬張りながらミカが呟いた。 「そういえば……こっちにきてから食べ物で困ったりしたことってないかも」 言われて、のぞみが首を捻った。 「ツァンダやヴァイシャリーとかの都市部では地球の食材や調理法が普通に取り入れられてるしな……種族間でもそう珍しいのは……吸血鬼も普通に食べるし、機晶姫も食事をする機能がついていない個体以外は食べられるし、特にいないな。今のところ」 「へぇ〜、そうなんだ」 ミカの説明に陽が相槌を打つ。 「ああ、でも……農村部に行けば面白い食材や調理法がまだまだあるだろうな。サイクロプスの目玉焼きなんかはポピュラーだろ」 「なんか……美味しそうなのか、なんなのか微妙そう……ね?」 「う、うん」 (顔が近いよ……女の子が近いよぅ……) のぞみが陽に同意を求める為に顔を近付けると、陽は真っ赤になって頷いた。 「だぁっ! ヨメとくっつくのは僕だよ!」 のぞみの側から陽を引っぺがし、自分の胸に抱き寄せたが、すぐに陽に脱出されてしまった。 食の情報をミカから教えられながら、楽しくすき焼きを食べきった。 「こんなの持ってきた! のぞみ達もついでに入っていいぞ」 テディが取りだしたのは長いマフラーだ。 これをみんなで首に掛け、夜遅くまで会話を弾ませたのだった。