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【カナン再生記】 降砂の大地に挑む勇者たち

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【カナン再生記】 降砂の大地に挑む勇者たち

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第二章 巨悪と峙する

ルミナスヴァルキリーの船首を背に、ドン・マルドゥークネルガルと相対した。
 拳を震わせながら睨みつけるマルドゥークに対し、ネルガルは薄く笑みさえ浮かべていた。
「ネルガル。どうして貴様がここに居る」
「どうしてだと? それはこちらの台詞だ。保育施設でも開くつもりか?」
「何?」
 ネルガルが生徒たちを眺め見た。ネルガルが姿を見せた直後からワイバーンの攻勢が止んでいた。それどころか彼を護るように彼の背後に集まっている、船内に居た生徒たちも多くが船を降りてネルガルに対していた。
「そのような子供ばかりを連れて来おって。ごっこ遊びなら付き合う義理はない」
「子供って……言ってくれるね」
 水上 光(みなかみ・ひかる)は幼い顔から笑みを消してネルガルに対した。
「確かにボクたちは幼いかもしれない。それでも、それでも戦える!」
 上空から見たカナンの地。本当にどこも砂に埋もれていて、人も動物の姿はどこにも見えなかった。それもこれも全て目の前の男が原因だと思うと……言いながら怒りが沸き上がってきた。
「王が民を支配する…そんなこと、絶対に許しちゃいけない!!」
「威勢は良い、しかしまだまだ青い。摘むには惜しい気もするのう」
「摘まれないよ! ここでボクたちがお前を倒す!!」
「よく洗脳されておる、お前にこのような事が出来るとは驚きだ、マルドゥーク」
「洗脳などしていない! 貴様からカナンを取り戻す、その志に同意し共に決起したのだ! これ以上、貴様の好きにはさせん!」
「ふっ、あくまでも余に刃向かうか。良いのか? 妻と娘は余の手の内にあるのだぞ」
「話を聞いてなかったのか?」
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)が歩み出た。精一杯に余裕を持ってゆっくりと。
「勝つのは俺たちだ。人質の元へは帰さない」
「状況が分かっていないようだな。貴様等を殲滅するに足る兵力が既に集結しているのだぞ」
「それはどうかな? 士元」
「はぃはぃ、ただいま」
 ホウ統 士元(ほうとう・しげん)が両手を広げると、使い魔である2羽のカラスとフクロウが彼の元に寄って来た。
 彼は何度か首を振ると、眼球をギョロリと動かして言った。
「ワイバーンが40、ヘルハウンドが50、彼の後方に敵兵が20。それ以外に潜ませている気配は無し、といったところでしょうか」
「何?」
 ネルガルが眉を小さく上げた。
 彼が姿を見せた直後から士元は使い魔に探らせていた。反応を見る限り、その数に大きな差異はなさそうだ。
「だそうだ。構成と数が分かれば幾らでもやりようはある。覚悟するんだな」
「あくまで勝つつもりか、良かろう。駄芽は育てたところで雑草にしかなかぬ。マルドゥーク共々、刈り取ってくれる」
「ふっ」
 挨拶代わりの早撃ちを。隼人は銃型の光条兵器でネルガルを狙撃した。
 殺しはしない。光条兵器の特性である任意の斬裂性を用いて、肉を切らせずに衝撃だけ与えるように調節した。
 挨拶弾は真っ直ぐにネルガルに向かった。しかし弾が彼の体に触れる前に、それは跳び出してきたヘルハウンドに衝突した。
 ネルガルの手が体前に出ている。ヘルハウンドを操り、我が身を護らせたということだろうか。
 隼人が次弾を撃とうとしたとき、彼の頭に2つの銃口が突きつけられた。銃を向けたのは顔に包帯を巻いた男と白銀狼の獣人であるソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)だった。
「何のつもりだ?」
 包帯の男は隼人の問いに答える事なくネルガルに向き直ると、
「士官したい」
 包帯を取り脱いでゆくグンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)の傍らに、椿 椎名(つばき・しいな)椿 アイン(つばき・あいん)が添い並んだ。
「戦艦を墜としたのは俺たちだ」
「なっ?! あの爆発はお前等がやったのか?!」
 強く眼球を向けた隼人ソーマが銃口を押しつけた。
「そうだよ〜ボクたちが船底と左腹部で爆発を起こしたんだよ〜」
「無理に決行したせいで怪我までしたんだ、仲間に入れてくれても良いだろう?」
 右肩を押さえている椎名を、そしてその後方の古代戦艦に目を向けてから、ネルガルは頬を歪めた。
「手土産としては秀逸か。面白い、我が軍に迎え入れてやろう」
「有り難き幸せ」
 4人がネルガルの元に歩むまでに、ネルガルは「他にも我が軍門に下る者は居ないか」と訊いた。誰一人名乗りでなかったが、彼は大いに笑っていた。
「マルドゥーク、ひとつだけ聞かせてくれねぇか」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)マルドゥークに並んで言った。
「ここまで来といて何だが、余所者である俺たちが、この国の揉め事に介入する、ここから先。この国の神官どもやカナン人とも戦わなきゃならなくなるかもしれねぇ」
 戦い、傷つけ、制圧する。
「それでも、構わねぇんだな?」
「あぁ」
 彼はそっと目を閉じた。
 自国の民を。共にイナンナに仕えた仲間を。そしてのびのびと生きるモンスターたちを。緑あふれる大地と共に生きる様を思い返して。それから彼は目を開けた。
「あぁ、構わない。我々の力だけでは現状を変えることは叶わぬ。奴の手から、カナンの地を取り戻すのだ」
「…………それを聞いて安心したぜ」
 眼光鋭く、ラルクがその身に気を漲らせてゆく。その意は皆にも伝わりゆき、思い思いに拳に力を込めてゆく。
 国を取り戻す戦い、敵の大将が目の前にいる。虐げられた民のためにも負けられない。
「行くぜ!! テメェら!!」
 ラルクの雄叫びと共に飛び出した両軍がここに激突した。