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リアクション
第五章 突撃! 隣の鍋食材その2 〜鍋は鍋でも魔女鍋違う〜
日も傾き、神社周辺は薄暗い。
神社側の用意した篝火とルカルカの光精の指輪の光で鉄鍋と周囲に陣取る人々の輪が映し出されている。
何が起こるかわからない闇鍋もとい鍋判じも、時間潰しには丁度いいのか、多くの人と食材が集まっていた。
流石に二人の鍋奉行だけで捌ききれず、三人目の鍋奉行と鍋将軍配下の文官・武官、鍋武将も食材の仕分けに大忙しだ。
「野菜はこっちに頼む。でかいのは切ってくれてもいいぜ」
「依子さん。そろそろ頃合です。」
「よぉーし。野菜投げ込め。葉物は後だぜ。根菜と灰汁の出るやつからだ!」
小カブに人参、ズッキーニ、巨大なパラミタ白菜の根元などが次々に投入されていく。
食べやすいサイズに切られたものもあれば皮付きのままのものもあるところが闇鍋らしい。
勿論、真っ二つに割れたでんすけスイカもある。
鍋の一角が薄いピンク色に染まっていく。
そこへ冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)がトマトを投げ入れる。
ピンクが赤に変わり、そこを中心に鍋の色が変わっていく。流石に鍋自体が大きいので全体が赤くなることはなかった。
「……うーん。さすが闇鍋。凄い色」
赤く染まった鍋の反対側。
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が取り出したタッパーから何か液体のようなものを流し込んでいた。
よくよく見れば、それは大根おろしにえのきにしめじ、椎茸、エリンギ、舞茸を和えたものように見えた。
みぞれ鍋でも狙ったのだろうか。
だが、それは鍋に入った瞬間、強烈に甘い匂いを放った。
詩穂が入れたのは各種きのこ類と擦りおろしたリンゴである。どう見てもきのこよりもリンゴの方が多い。
その隣から、さらに濃い、えもいわれぬ匂いを放つ黄色い塊――ドリアンが鍋に落ちた。
「うふふ。さぁ、この全てを侵食するあま〜い香りに耐えられますか?」
「この匂いがまたいいんですよね〜」
リンゴの甘い香りを更に凌駕する果物の女王ドリアンの香り。
鍋ならざる匂いのする一角で詩穂とみことは微笑み合った。
「「闇鍋だからね」」
それは正にこの場における免罪符だった。
災難なのはうっかりそれを目撃してしまった姜 維(きょう・い)である。
思わず、隣で椎茸を鍋に入れてるパートナーの鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)の腕を掴んだ。
「あ、兄者。……この闇鍋というものはやはり危険過ぎるのではないか」
「食べ物以外は持ち込めない決まりだ。それにどんな食材であれ、いれた者は食べられると踏んでのこと。
なに、大丈夫だ。食べられる物であればなんでも美味い」
それは父親に厳しくしつけられた真一郎の持論だ。
笑顔できっぱりと言い切られた維に反論の余地はなく、肩を落とす。
と、遠くから明るく自分とパートナーを呼ぶ声が聞こえた。
「真一郎さーん。姜 維ー! こっち、こっちー」
「あれは――ルカルカ姉者」
「そのようだな。行こうか。せっかくの鍋会だ。みんなと楽しもうじゃないか」
恋人の姿を見つけて微笑む真一郎に促され、維は覚悟決めた。
(――いざとなれば、淵殿の元へ退避するが上策とみた)
主に後ろ向きな。
なぜなら、英霊ではあってもその胃袋はあくまで常人のものだからである。
茹でうどん、ブランド米、きしめん、ペンネ、そば米。そして、恵方巻き。
〆類置き場と書かれた台の上に並ぶ食材の隣に新たな食材が置かれた。
餅である。
「お正月も終わりましたし、たんと召し上がれ」
百キロはあるだろうそれを持ち込んだのはレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)だ。
「闇鍋だから、どんなものが集まるのかと思ってたけど……以外と普通ねぇ」
「普通じゃないでしょう。運試しが闇鍋って……なんでそうなのるのよ?」
空京神社で運試しとだけ聞かされて連れ出されたパートナーのミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は頭を抱える。
「えー。だって吉凶鍋判じなんだから、やっぱり運試しだよねぇ」
小首を傾げるレティシアが参加する気満々なのを見てとってミスティは盛大にため息をついた。
「せっかく来たんだし、あちきは運試ししてくるねぇ。ミスティはどうする?」
「私は遠慮しておくわ。――そうね。あそこの救護所にいるから、終わったら合流しましょう」
「うん。わかった。じゃあ、またあとでねぇ」
無邪気に手を振るとレティシアは鍋の方へと駆けて行った。
その背を見送って、ミスティはもう一度ため息をついた。
「あの子ったら、嫌いなものでも一回口にしたら吐き出さないし……変なもの掴まなきゃいいけれど」
鍋役職を持つ謎の集団の席にはいつの間にか戦国ONABEと書かれた立て札が置かれていた。
「ただいまー」
「…お帰りなさい…え、と…鍋防人」
「うん。日奈々――鍋魔法少女」
如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)の出迎えに千百合は満面の笑みを浮かべる。
「お鍋…どう?…なんだか、凄い匂いが…しますぅ……」
「流石、闇鍋って感じで色々入ってたよ。あと、人も結構増えたしね」
大丈夫? と千百合は人込みがあまり得意ではない少女を気遣う。
「…平気……ここにはみんながいるし…それに…鍋防人が一緒ですぅ〜」
微笑む日奈々を抱きしめずにはいられない千百合だったが、寸でのところで思い留まった。
何しろ、周囲から視線が一気に集まるのを感じたからだ。
「と、ところで鍋魔法少女のきしめんは?」
「それなら〜」
「鍋若様が自分の食材と一緒に〆の食材置き場に持ってたヨ」
「鍋パンダも一緒だよ〜」
「なんでも入れる順番が大事なのだそうです。鍋とは実に奥が深い」
「あとは鍋奉行と鍋武将が戻ってくれば、お鍋かな〜。もーお腹すいたよー」
「僕もお腹すいたー」
「オイラも腹ペコ」
「そのうち合図があるさ」
「では。暇つぶしに将軍様が怪談話をしますー!」
戦国ONABEの席で始まった怪談はいつの間にか他のギャラリーにも伝播していた。
「なんか怪談はじめたみたいだぜ」
自分達の席にできた人だかりに気付いた鍋奉行が言えば、隣の鍋武将が暗い声で答えた。
「――今、この場にてあってはならん怪異が起きた」
「は?」
「――俺の持参した大福が麺に化けた」
言われて手元を覗き込めば、確かにそこには大福とは似ても似つかぬ麺があった。
調理開始から一時間強。
お玉で鍋の汁を掬ったトレッドヘアーの鍋奉行が親指を立てた。
鍋の完成である。
「では――紳士淑女の皆様。大変長らくお待たせしました。開始の前に闇鍋訓示。
一つ、ハズレを恐れず箸を突っ込むべし!
一つ、一度箸をつけた具は漢らしく残さず食べるべし!」
仮面の鍋奉行の言葉が終わると同時。四方八方から箸が伸びた。
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