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二幕三場:タシガン空峡:上空


 空峡の空に、大小の飛空艇が姿を現す。
 対峙は一瞬だった。
 信号弾が瞬き、空賊達の船が速度を上げる。
 が、こちらは多くのワイルドペガサス載り達を擁している。
 音井 博季(おとい・ひろき)がペガサスを駆り先陣を切った。
 ペガサスの機動力は小型飛空艇のそれを軽く上回る。速度を活かして、空賊達の懐へと突っ込んでいく。
「我呼び覚ますは天空の怒り!」
 博季が手にした聖剣エクスカリバーを掲げて叫ぶと、サンダーブラストの雷撃が空賊達を襲う。直撃こそした機体は無かったようだが、雷撃がいくつかの飛空艇の計器を狂わせる。
 が、それでもお構いなしに博季へと突っ込んでくる空賊の飛空艇が一機。
「へっ、魔術師なんざ、近づいちまえばこっちのモンよ!」
 下卑た笑いを浮かべ、飛空艇の後部席から身を乗り出した空賊そのいちが、大降りの剣を振りかぶる。が、博季は冷静にエクスカリバーを構え直して迎え撃つ。
「ライトブリンガーッ!」
 かけ声一発、手にした剣をなぎ払う。
 刀身が正確に空賊を捉え、また剣から放たれる光が操縦している空賊団員の視界を奪った。
 コントロールを失った空賊の飛空艇は、ひるひると空峡の雲の間へと消えていく。
「まずは一機!」
 快哉の声を上げ、博季は別の一機へと狙いを定める。魔法少女――少年?……青年?――らしく、シューティングスター☆彡の呪文を唱えると、空から降ってきたお星様が別の飛空艇を襲う。乗っている二人とも直撃を受けてコントロールを失った飛空艇は、突然動力部から火花を散らせたかと思うとその場で爆発、四散した。
 小型飛空艇・ヴォルケーノに乗った閃崎 静麻(せんざき・しずま)の、マシンピストルによる狙撃だ。静麻は擦れ違いざま博季に軽く手を挙げると、他の飛空艇に狙いを定めて引き金を引く。
 相手の軌道を読み、その軌道上に置くように成される正確な狙撃だ。
 数機の飛空艇が、動力部や翼に深刻なダメージを受けて体勢を崩す。
「危ない!」
 と、照準に集中していた静麻の背後から、パートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)の声が響く。同時に、レイナの手から放たれた雷が、静麻の背後から迫っていた飛空艇を打つ。しかし空賊たちは直撃を避け、ぐるりとその場で旋回する。
 レイナがバーストダッシュで飛空艇との距離を一気に詰める。
 同時に、反対側から小型飛空艇・ヘリファルテと合体したクァイトス・サンダーボルト(くぁいとす・さんだーぼると)が一直線に飛んでくる。
 クァイトスは二つ搭載された六連ミサイルポッドの照準を瞬時に、レイナの追う飛空艇へと定めた。
 翼をレイナに、動力部をクァイトスに、同時に貫かれ、完全に飛行能力を失った飛空艇は空賊達の悲鳴と共に落ちていった。

「いきます……!」
 空飛ぶ箒で飛空艇から飛び立った如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)は、そのままふわりと空高く舞い上がる。身体の周囲に、三本一組の空飛ぶ魔法のマスケット銃……に見えるけれど魔法少女用の杖。杖ったら杖、「やたがらす」を纏わせて。
 皮膚を硬質化させる寄生虫の一種である『銀華蝶』との同化を瞬時に終えた日奈々のパートナー、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)も背中の宮廷用飛行翼をはためかせて後を追う。
「いいよ、日奈々!」
 目が見えない日奈々の替わりに周囲を見渡した千百合の合図で、日奈々が辺り一面にアシッドミストの煙幕を張る。
 煙幕の直下に居た空賊達は突然視界を奪われ、混乱に陥った。
「よし、良い感じだよ!」
 千百合の声に、空賊達の混乱する気配を察した日奈々も頷く。
「やたがらす……展開っ……!」
 かけ声とともに「やたがらす」の砲身が展開し、魔力の光による巨大砲身が姿を現す。
「シューティングスター☆彡」
 日奈々が叫ぶ。「やたがらす」の砲身から放たれた三色の光が、空賊達目掛けて降り注いだ。
 濛々とたちこめる煙幕の中、いくつかの爆発音が響く。
 何機かは撃墜できただろうか、と日奈々が一瞬気を緩めた。と。
「日奈々、危ない!」
 千百合の声が響く。
 日奈々に向かう、一機の飛空艇に気付いて。
 後ろの一人が身を乗り出して銃撃してくるが、『銀華蝶』との同化によって硬質化された上に、あらゆる防御スキルを発動している千百合にとっては、実弾など豆鉄砲の様なものだ。躊躇うことなく、千百合は日奈々に向かう銃撃との間に割り込み、その攻撃から日奈々を守る。
 よく見れば『銀華蝶』との同化によって千百合の肌に浮かび上がった銀色の紋様に気づけたかも知れないが、アシッドミストの煙幕に遮られている所為もあって、空賊の目には「生身の人間が銃撃を跳ね返した」ようにしか見えなかった。
 動揺する空賊に、千百合がすかさずライトニングランスの一撃を放つ。
 それは狙い違わず操舵手に命中し、操舵手を失った飛空艇はよたよたと明後日の方向に向かって飛んでいった。
「ありがとう……千百合ちゃん」
「大丈夫? ほら、次来るよ!」
「はいっ……!」
 千百合は次の標的へと向かっていく。
 と、日奈々の背後に気配が一つ。
 気付く、シューティングスター☆彡を放つ為構えるが、間に合わない、まずい!
「ふおりゃぁ!」
 気合い一閃の声と共に、小型飛空艇ヘリファルテが日奈々の横を通り抜け、日奈々に向かう飛空艇と凄い勢いですれ違って行った。
 何だ、と空賊の意識が一瞬逸れる。と、その直後何かものすごい衝撃が空賊を襲い、彼の意識は空の星となる。
 ヘリファルテの乗り手、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の操るフラワシ、シュヴァルツ・エンゲルによる擦れ違いざまのラリアットだ。コンジュラーでなければ見ることができないので、後ろに乗っていた空賊には、突然前に乗っていた仲間がすっ飛ばされた様子が見えただけだ。
「人の恋路を邪魔する輩は馬に蹴られてナラカに堕ちろ、という名言があってだな…」
 空中で旋回して、空賊の背後に迫りながらエヴァルトは呟く。
 呟きながら、非物質化しておいたアーミーショットガンを物質化によって具現させ、空賊に向かって構えた。
 ぱん、と発砲音が響き、呆気に取られていた空賊の背中が赤く染まる。
 落ちていく飛空艇を追い抜く頃には、ショットガンは再び非物質化によって虚空へ溶けていた。
「あ……ありがとうございます……!」
「良いってことだ!」
 自分へ向かう気配が急に消えたことに気付いた日奈々が、すれ違う気配に向かって精一杯声を張り上げる。それに軽く手を挙げて答え、エヴァルトは他の空賊を落とすべくヘリファルテを加速させた。

 その先では、エヴァルトのパートナーであるドラゴニュートのデーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)が光る箒に跨って空賊を相手に戦闘を繰り広げていた。
「暴力に訴えるのなら、暴力で返される覚悟があっての事であろう?我も容赦はせぬぞ!」
 一声吼えると、その手から火術の炎が飛空艇の操舵手に向けて放たれる。
 直撃こそしなかったものの、操舵手の洋服に火が点いた。
 ぎゃぁ、と悲鳴を上げて、操舵手は消化しようと火の点いた部分をばたばたと叩く。当然、操縦桿からは手が離れ、飛空艇はコントロールを失う。
「畜生!」
 後に乗っていた空賊が、半ばやけっぱちで手にした機関銃をデーゲンハルトに向けて放つ。
 バババ、と幾つもの銃弾が正確にデーゲンハルトを襲う。
 が、それらが直撃する直線、デーゲンハルトは偽龍翼を広げると、箒から手を離して高く舞い上がった。光る箒はそのまま直進していき、銃弾は何もない空間を貫いた。
 なんだと、とデーゲンハルトを見上げる空賊達を、天のいかづちが襲う。
 ひとたまりもなく爆発する飛空艇をよそに、デーゲンハルトはその爆風の中から飛び出してきた光る箒を偽龍翼で回収し、再び跨った。
「飛行手段を二段構えにしていると、このような芸当も可能になるのだよ!」
 そう言ってニヤリと笑い、再び戦線へと加わる為上昇する。