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仁義なき場所取り

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仁義なき場所取り

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[二場・西門の、朝]



――AM7:00――

 ピィー、と鋭く響いた笛の音と共に、西門もまた開いた。
 東の門と同じように周囲にそれとなくたむろしていた人々が、一斉になだれ込んでくる。
 まず先陣を切ったのは空飛ぶ箒の一団だ。西エリア狙いのイルミンスール生が多い為、この門には特に空飛ぶ箒が集まったようだ。箒の集団は、桜の枝とぶつからない程度の低空を飛んでいく。
 その中でも頭一つ飛び出したのは、光る箒を駆るザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)。それに、中央エリアを目指す本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)が続く。さらにその後を風森 望(かぜもり・のぞみ)が追ってくる。
「さて、ちょっと転んで貰いましょうか」
 望は後方の集団と少し距離を取ると、おもむろに地面に向かい氷術を放った。
 うおぉ、と凍った地面をモロに踏んでしまった人々の悲鳴が上がる。
「これはおまけっ」
 ついでに子守歌で人々を眠らせようとした望の、上空からエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の一撃が降ってくる。
 突然のことに、望は思わず箒から滑り落ちた。
「いっ……たぁーい! なんなのよもう!」
 不機嫌な眼差しで望がエヴァルトを見上げると、そのパートナーであるミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)が現れて、ハンドヘルドコンピューター越しのさくらの声を伝える。
『地面を凍らせたら、急な温度の変化で根がダメージ受けちゃうでしょ! 通路だって、その下にはいろんな植物が根を張り巡らせてるんだからっ!』
「……とのことですー」
 ミュリエルの宣告に、望はそんなぁ、とその場にへたり込む。
 しかし、望がペナルティを受けたからといって地面の氷がすぐ溶ける訳もない。ダッシュしてきた長曽我部 元親(ちょうそかべ・もとちか)が、へたりこむ望の隣で滑って転んだ。
 また、望のパートナーであるノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)は、バーストダッシュで勢いをつけて、膨らませた「SDじんるいふぉんくんボート」に飛び乗った。丁度、スケートボード、いや、スノーボードか?の要領で氷上を一気に滑っていき、軽々と西エリアに向かう集団を蹴散らして進んでいく。が。
「さ、そろそろ止まらないと……ブレーキ……ブレーキ?!」
 SDじんるいふぉんくんボートは、元来ただのビニールボートだ。ブレーキなど付いているわけもない。
 あうあうあう、とノートの哀しい悲鳴が尾を引き……どん、がしゃーん、がん、ごん、ぷしゅう、と盛大に哀しい音を立てて、ノートの姿は桜の木立の中へ消えた。
 
 西エリアへと向かう人の波はまだ途切れない。
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)がバーストダッシュで駆け抜けていく後から、神代 明日香(かみしろ・あすか)がパートナーの魔鎧、エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)を纏って走って行く。
「みんな、殺伐しすぎだよね〜。ちょっとゆっくりすると良いよ」
 空飛ぶ魔法↑↑で宙に浮いた秋月 葵(あきづき・あおい)が子守歌を歌って人々を眠りにつかせれば、多比良 幽那(たひら・ゆうな)が引きつれたアルラウネ――樹木人の一種――達を放って周囲の人々を足止めする。
 なにせ、彼等の校長、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)からの依頼は、西エリアの「占拠」。一人たりとも、一般人に場所を取らせる訳には行かないのだ。
 さくらの怒りを買わないギリギリラインの攻防を繰り広げながら、イルミンスールの生徒達……若干名違う者も居るが、いずれにせよエリザベートの依頼に飛びついた者達は公園西エリアへとなだれ込む。
「コロナリア、アトロパ、ローゼン、ヴィスカシア、リリシウム! シート敷いて座って!」
 名前を呼ばれたアルラウネ達は、幽那の声に応えるように取り憑いていた相手からぱっと離れ、それぞれ持っていたシートを一斉に広げて座りこむ。ルール上、座ってしまえばもう手出しされることはない。アルラウネ達の隣に自らもシートを広げて座りこんだ幽那は、ほっと胸を撫で下ろす。
 その横では、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が、引きつれてきた7人の武官達に指示を出してシートを広げさせている。そして自らの分と、その左右に一枚ずつシートを敷き、その片方の上には重石を、もう一枚にはちょこん、と、何故か雪だるまを置く。それから手際よくミラージュのスキルを発動し、自分の分身を重石だけおいたシートの上へと投影した。
「よし、これで10枚確保です!」
「んな訳あるか!」
 自信満々にどっかりシートの上に腰を下ろすクロセルに、空から見回りをしていたエヴァルトがすかさずツッコミを入れる。
「荷物での場所取りは禁止だ禁止!」
「ゆ、雪だるまは荷物などではありません!雪だるま王国においては人と同等の……」
「わかったわかった、だがここはシャンバラ王国なんでな。没収!」
 言うとエヴァルトは、容赦なくクロセルの隣から、雪だるまとビニールシート一枚を没収する。
 そのまま遠ざかるエヴァルトの背中を見送りながら、しかしクロセルは反対隣のミラージュは見破られなかったことに安堵する。
「おにーちゃん! この人こっちもニセモノです!」
 が、エヴァルトの後からやってきたミュリエルの、ディテクトエビルに違反を企てた悪意が引っかかった。
 ミュリエルの声にエヴァルトはものすごい勢いで引き返してくる。
 立ち上がって逃げ出せば場所を放棄したことになる。かといってこのまま座っていてもこれ間違いなく園外退去コースぅううう! とクロセルがあたふたしている間に、エヴァルトはその首根っこをふん捕まえて、ドラゴンアーツと金剛力のパワーでもって、ソニックブレードを応用してエヴァルトを園外の方向へ放り投げる!
 きらーん、と小さな音を立てて、クロセルの姿は空に消えた。