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リアクション
「はい、これが当店のメニューだぜ」
ステア・ロウ(すてあ・ろう)が涼司達にメニューを渡す。
「それじゃ決まったら声かけてね〜」
チャティー・シュクレール(ちゃてぃー・しゅくれーる)が微笑みながら言った。
涼司達は今、チャティー出店の店に来ていた。店の前を通りかかった所、チャティーに声をかけられた。
「時間があるなら売り上げに貢献していってくれないかしら〜? 暇なのよ〜」といった感じに。
「さて、何か頼みます?」
「これとこれとこれなのよ」
精霊がメニューを指差す。
「それじゃ私は……これかな。山葉校長はどうします?」
「いや、俺は……ん?」
涼司の目に知った顔が映った。
「どうしました?」
「いや、ちょっと知った顔がいまして……ちょっと声かけてくるんで、二人は休んでいてください」
涼司はそう言って、席を立った。
「よう、お疲れ」
「あ、校長か。お疲れ」
涼司は店の裏側に居た七尾 正光(ななお・まさみつ)に声をかけた。正光は空の段ボールを潰していた。
「所で何をやってるんだ?」
「俺? 俺は裏方だよ。在庫の管理とか、こんな風に空段ボールを纏めたりとか」
「多いな。売れたのか?」
正光が潰した段ボールを見て、涼司が聞いた。
「まあそこそこ入りは良かったかな。今は落ち着いているけど」
そう言いながら正光は潰した段ボールを折り畳み、纏める。そこそこ、とは言っているが結構客は来ていたようだ。
「接客とかはやらないのか?」
「接客は母さん達、調理はアリアの方が向いてるしな……」
そう言って、正光は精霊達の方に目を向けた。
「はい、お待ちどうさま〜」
「待たせたな!」
丁度チャティーとステアが、出来上がったものを精霊たちに運んでいる所だった。
「お母さん、これ忘れてるよ」
その後ろから、アリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)が現れた。
「あらあら、うっかりしてたわ〜」
「……お母さん?」
精霊が首を傾げる。
「あ、この人はね私のお母さんだよ」
アリアがチャティーの方を見て精霊に言った。
「あ、貴方母親なのよ!?」
「うふふ〜そうなのよ〜」
精霊が目を丸くしてるのを見て、チャティーは楽しげに言う
「私も最初は驚きましたからね……」
「ははは……誰もが一度は通る道だよ」
泪とステアが苦笑した。
「とまぁ、あんな感じだ」
正光が涼司にそう言った。
「それに……あの三人の会話にゃついていけんから」
そう言って、再度目をチャティー達に向ける。
「……娘が居るなんて思えないのよ」
「あらあら、娘だけじゃなくて息子も居るのよ〜?」
「な、なんとなのよ!?」
「息子、って言っても義理の、だぜ?」
「え? と言うことは……」
「うふふ〜……アリアちゃんがね、婚約したのよ〜」
「まあ、おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます泪先生……」
「しかし、ニーサンとアリ姉が結婚だなんてな〜。この前だってアリ姉と一緒にニーサンの風呂、乱入したんだぜ?」
「おにーちゃん慌てたねー」
「あらあら〜」
「……確かに、ありゃついていけないな」
「わかってくれるか。あんな感じの事ばっか言ってるんだ……」
正光が大きな溜息を吐いた。話のネタにされる側としてはたまったものではない。
「大変だな……」
「いいさ、慣れたし。それに俺は裏方作業くらいしかできないし」
そう言って正光は段ボール潰しの作業を再開した。
「まあ、校長もゆっくりしていってくれ。料理の味は保障するから」
「ああ、そうさせてもらうよ」
そう言って、涼司は精霊達の所へ戻っていった。
「あら、涼司くん。正光くんは裏かしら?」
戻ると、涼司にチャティーが話しかけてきた。
「ええ、裏で作業してましたよ」
「あ、お母さん。私おにーちゃん手伝ってくるね」
そういうと、アリアは裏へ向かっていった。正光の所へ行くのだろう。
「うふふ〜仲がいいわね〜」
そんなアリアを見て、チャティーが嬉しそうに言う。
「……あ、そうそう。涼司くん、さっき他の聞いたんだけど、すごいみたいね〜」
「え? 何がですか?」
「何って、学園の出店よ。話題になってたわよ〜?」
「学園の出店?」
「校長、知らないんですか?」
「ええ……出すって話はしていたけど、ノータッチだったので」
泪の問に、首を傾げながら涼司が答える。
「なら行ってみるのよ。凄いのなら見てみたいのよ」
「そうだな……行ってみるか」
「そうですか……チャティーさん、ご馳走様でした」
「は〜い、それじゃ頑張ってね〜」
チャティーに見送られ、涼司達は店を後にした。
「……凄い人なのよ」
「……確かに、凄いな」
学園の出店の前に来て、精霊と涼司が呟く。
用意してある席が満席。それどころか待ちまで出来ている。
「凄いお客さん……でも男の人ばかりですね」
泪が言う通り、客の大半……というより殆どが男性であった。
「おや、涼司さんじゃないですか」
「ん? 凶司か?」
涼司が振り返ると、そこには湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)がいた。
「しかし、大盛況だな」
「ええ、僕がプロデュースしたんですよ」
「そうなのか?」
「立ち話も何ですし、見て行って下さいよ」
凶司の後に、涼司達は続いていった。
「かなり好評のようだが、メニューはどんな内容なんだ?」
「ああ、ここにあるので御覧下さい」
凶司が差し出したメニューを受け取り、中を見る。
「メニュー内容は普通なのよ」
「あら、本当ですね……特別な物を使っているわけではありませんね」
泪の言葉通り、アルコールの取り扱いがあるくらいで内容としては軽食や弁当と他の出店と大差は無い。
「ああ、流石にそこは時間がありませんでしたので。だから他の点で勝負する事にしました」
「他の点?」
そう言われ、涼司は客席を見回した。言われて見ると、どの客も酒を頼んでいるようだった。
「ん? あれは……」
その客席の間を、右往左往している存在が目に付いた。
「本日はご来店ありがとうございまーす!」
「は、はーい! た、ただ今まいります!」
「ほぉら、いっぱいのんじゃえ〜」
それは、エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)、ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)、セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)の三姉妹だった。
「ああ、気づきましたか。あれはコンパニオンです」
「コンパニオン!?」
「ええ、先程も言った通り、急な話だったので物資確保は難しかった。他の出店と比べても大差はありませんが、商品で売りになる物を出す事も出来ませんからね」
「あら、涼司ちゃんじゃない」
凶司が話している途中、涼司達に気づいたセラフが近寄ってくる。
「お客として来たの? サービスするわよ?」
「いや、通りがかっただけだ……」
「あらそう? 何か用事があったら言ってねん♪」
そう言うと、セラフは手をひらひらと振りながら客席へと戻っていく。途中、呼ばれると酌をして回っていた。
「そこであいつらです」
凶司はそう言って、セラフ達三姉妹を指差した。
「あいつらは以前アイドルユニットを組んだ事があります。これを利用しない手は無い、と思い全面に出してアピールしてきました」
「アピール?」
「ええ、学園以外にもネットのSNSや口コミサイト等、ありとあらゆる物を使って宣伝しましたよ。飲み食いも出来て、有名人美女との出会いもある……欲求を刺激してやればこんなもんですよ」
「だから男性客ばかりなんですね……」
泪が呟いた。
「客層ターゲットを絞りましたからね……あいつらのポスターもばら撒きましたし。お陰で効果覿面ですよ」
凶司が口の端を歪めて笑った。
三姉妹は客に呼ばれるまま、忙しそうに回り酌をしている。
「……はぁ、何で私がこんな事を……」
注文が途切れた合間、ディミーアがぼやいた。
「やっと真人間になったと思ってたのに……何でまた私が……」
「でもキョウジにしてはまだマトモだ。何を企んでいるんだろう……」
「あら、そういいながらポスター撮影の時はノリノリだったじゃない、エクス?」
「あ、あれはその・・・!!」
セラフの言葉に反論しようにも、言葉が浮かばずあたふたするエクス。
「それに……何企んでいるかなんて見ればわかりそうじゃない?」
「え?」
「何のこと?」
解らず、エクスとディミーアは首を傾げた。
「解らないならそれでいいんじゃない? ほら、お客さん呼んでるわよん?」
「あ! い、いらっしゃいませぇ!」
「た、ただ今〜!」
慌ててエクスとディミーアが客席へと駆けていった。
「やれやれ……それにしても」
セラフが視線をやる。そこには涼司に色々と説明している凶司がいた。
「凶司ちゃん、つまらなくなったわね〜。もっと小悪党していた時の方が輝いてたのに……ま、涼司ちゃんが絡んでくるならそれはそれで面白くなりそうだわん♪」
そう呟き、笑みを浮かべた。新しい玩具を手に入れた、子供のような笑みを。
「他にもあいつらはアイドルユニットですからね。歌で客を呼べると思い、ステージも用意しました」
凶司が指す先には、そのステージがあった。
「……なあ、聞きたいんだが」
「はい、何ですか?」
「……大体どのくらい経費掛かってるんだ、これ?」
「経費は……大体こんなもんですかね」
凶司が端末を取り出し、キーを入力し画面を表示させる。
「…………」
それを覗き込んだ涼司の顔が凍りついた。
「や、山葉校長? どうしました?」
泪の言葉に答えず、涼司はそのまま空いていた座席に座る。
「あら、涼司ちゃん。何か頼むの?」
セラフが涼司に寄って来る。
「記憶無くなるくらいキッツい酒を頼む」
「おっ、涼司ちゃんおっとこ前〜!」
「や、山葉校長! 落ち着いてください! 校長は年齢的に飲酒はNGですよ!?」
「泪先生、止めないで下さい……ゼロが……大量のゼロが俺を……!」
うわ言のように『ゼロが』と呟く涼司。
「お待たせ〜。アルコールをアルコールで割ったからキッツいわよ〜? 火を近づけると青い炎が上がるんだから」
それは最早飲酒物としてどうか、という代物である。
「そんな危険な物扱わないで下さい! 行きますよ山葉校長!」
「誰か……俺の記憶を……記憶を消してくれ……!」
涼司は泪に引き摺られるように出て行った。
「……生きろ、なのよ」
そんな涼司を見て、精霊が呟いた。
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