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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 プロローグ

     〜1〜

 6月下旬、プリム・リリムがバイトに加わってから数日。
「ここが、あの広告にあった海の家か」
 素朴な趣の海の家の近くを、風祭 隼人(かざまつり・はやと)は1人で歩いていた。駐車場には何台かのトラックが停まっていた。浜辺に建設途中の、巨大生物用の『海の家・大』の資材を運んできているのだろう。
 隼人は浜辺からパラミタ内海を眺める。海開きに際して、彼はルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)を一泊の小旅行に誘っていた。今日はその下見だ。本当に『パラミタ上で一番楽しい海岸』なのかはさておき、一番綺麗な景色を、ルミーナと一緒に見たい。
 ルミーナは泊まりと聞いた時は少し躊躇いを見せていたが、アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)が一緒だと聞くと小旅行を了承した。2人きりだったら断られていたかもしれないところが、少ししょっぱい。
 しかし。
(良い雰囲気を作って……今度こそルミーナさんとラブラブになってみせるぜ!)
 隼人は燃えていた。

「ルミーナさん、この水着なんてどうですか?」
 その頃、アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)はルミーナとデパートに新作水着を買いに来ていた。ナラカでは頑張った、ということで、アイナは今回「だけ」隼人のデート計画に協力することにしたのだ。この買い物も、その一環だ。
「ビキニですか。色味が落ち着いていていいですわね」
 ルミーナは鏡の前で水着を合わせ、柔らかく微笑んだ。
「よく似合うと思いますよ!」
「そうですか? じゃあ……」
 隼人が好みそうなパレオ付きのビキニを持って、ルミーナはレジへと歩いていった。

     〜2〜

 6月30日。
 海開き前日の夜。アクア・ベリル(あくあ・べりる)は自室で翌日の準備をしていた。風森 望(かぜもり・のぞみ)に海に行きましょうと誘われたのは一週間程前になる。それだけ前に誘われれば断ることも出来ず、また、殊更に断る理由も無かったので彼女はその誘いを受けた。その後、他からも誘われたこともあり、アルバイトの方も休みを取った。
「それは、全部持っていくつもりなのでしょうか?」
 望に声を掛けられて顔を上げる。フローリングの上に座っているアクアは、スポーツバッグの周囲に様々なものを広げていた。バスタオル数枚にビニールシート。ビニール袋、冷却シート、ビーチサンダルに海には似合わないごつい工具類。2リットルのペットボトルが2本に着替え。他にもこまごまとした海用便利グッズがいくつも。先程から、アクアはこれらをバッグに詰めては出し、詰めては出しを繰り返している。うまく入らないらしい。
「そのつもりですが、何か? 全て、海には必需品だと思いますが」
「そうかもしれませんが、この中にはあちらで調達出来るものもあると思いますよ。少し整理しましょう」
 向かいに座り、望は荷物を整理していく。
「楽しみで仕方なくて眠れないかもしれませんが、今日は早めに寝ましょう」
「…………。別に、楽しみにしてなどいません。私は貴女が行きたいと言うから……」
「そうですか?」
 目の前に広がる海グッズに、望はくすりと笑う。彼女は、アクアが冷凍庫でペットボトルを冷やしているのも知っている。準備万端意気込みバッチリという感じであるが、気のせいらしい。
 手持ちぶさたになったアクアは、窓の外に目を遣っていた。薄く雲のかかった夜空。明日は快晴という予報だが――
 何を心配しているのかあたりをつけ、望は言う。
「ああ、そうそう。明日が雨にならないようにするおまじないがありましてね」
「……おまじない、ですか?」
「てるてる坊主というんですよ。作ってみますか?」
 ハンカチを出してティッシュを用意する。アクアは興味無さげにその様子を見ていたが、やがて一緒に作り出した。
 何の変哲もないてるてる坊主が、窓に2つぶらさがる。
「これで明日は良く晴れますよ。……やっぱり、ファーシー様もお誘いしましょうか?」
「……! なぜ、そうファーシーと一緒にしたがるのです。私から誘う必要など無いでしょう。あちらから誘ってくれば付き合っても良いですが」
 誘った時と同じ言葉が返ってきた。自分から誘うのは、嫌らしい。

     〜3〜

 7月1日の朝。ファーシー・ラドレクト(ふぁーしー・らどれくと)フリードリヒ・デア・グレーセ(ふりーどりひ・であぐれーせ)からの電話着信に気が付いた。表示された名前を見ただけで、何だか少し緊張する。
「も、もしもし?」
 もしもしもしもし? ともしもしを変に繰り返しそうになるが、平常心を装って電話に出る。

「あ、ファーシー? 俺らこれから海行くんだけどさ〜?」
『海?』
「海の家だってよ! いろんな食いもん売ってたり人が多くて暑苦しかったり、ボロいシャワーがあったり、キンキンに冷えたビールがあったりするんだぜ!」
 フリードリヒは、ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)から仕入れた知識を自己流アレンジして並べ立てる。ファーシーは重量的に泳げなさそうだが、それはそれである。
「だから、来ねー?」
『えっと……それって……、楽しいの?』
 ファーシーのツッコミが聞こえてくる。確かに、あんまり長所は言っていないかもしれない。だが、海の家というのは短所だらけなところが長所なのだ。
『お酒とかは飲まないし』
「楽しいぜ? 来ないと損するぜ? あとで写真見せられたりすんぜ?」
『…………』
 何となくもぞもぞとした空気が伝わってくる。
「つーか俺、ちょーナンパとかされるんだよなー!」
『…………!』
 なんともあざとい誘い方である。

「な、ナンパ……?」
 ファーシーは、携帯をしっかと握り締めたまま絶句した。
「…………」
『海』というものがどんなものかは知っている。5000年前は知識として。最近はテレビの映像やそこら中に貼ってある広告で。
 そして海といえば、水着女子である。わんさといる水着女子に、フリードリヒがナンパされる――
「……………………」
 そこで、再び携帯が着信を告げた。
「…………!」
 今度は、橘 舞(たちばな・まい)からだ。
『ファーシーさん、今日は海開きなんですよ。一緒に行きませんか?』
 純粋に一緒に海を楽しみたい、という彼女の声色に、少し助かったような和んだような。
「うん……行くわ!」
 気付いたらそう答えていた。舞達と海で過ごしたら楽しいだろう。アクアさんも誘ってみようかな。それに、やっぱり――気になるから。

     〜4〜

 海開き当日を迎え、闇口達の準備も佳境に入っていた。コネタント・ピーがしぶしぶ手配したトラックで食料も運ばれ、巨大生物用海の家の増築も完了した。一見ムダに大きく見えるが、このくらいのサイズは必要だ。まあ、巨大生物2体くらいは寛げるだろう。ぎゅうぎゅうだが。実際に使われるかどうかははなはだ謎だが。著しく浜辺の景観の邪魔になっているが。
 そして、一般客用の海の家の前には、ピカピカに磨かれた普通の鉄板やたこ焼き用の鉄板、カキ氷の機械、各種海グッズや水着販売、ネットに入ったまるごとのスイカなどが準備されていた。
「よし、完璧だ。あとは、海の安全策の設置報告を聞けばオープンするだけだ。今年は例年より盛況な海開きとなりそうだな」
「でも、スタッフがこれだけじゃ、まわりませんよー」
 海の家の完成度に満足したらしい闇口に、コネタントが集まったスタッフの中心で言った。
「そうだね、3人じゃちょっと少ないかも。オレのパートナー呼ぼっか?」
 スタッフ最後の1人、プリムが中心で携帯を取り出す。3人しかいないから、別の方向から見れば誰もが中心である。
「いや、いい! むきプリ君は1.5軍だ! リンクが無いことだけが私達の共通項で他は1軍と変わらないだろう。だから太文字にもしないぞ、通常サイズ通常文字だ」
「だから、そういうメタ発言はやめましょうよー……」
「それもメタ発言だ」
「なんかよくわかんないから、呼ぶね。……あ、もしもし、ムッキー? 暇?」
「あーーーーーー!!」
「え? 常連と接客中? 何それ? さっきは脅迫された? え? 何があったの?」
 ちなみに、常連というのは桐生 ひな(きりゅう・ひな)、むきプリ君を脅迫したというのは毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)のことだ。大佐は擲弾銃バルバロスをむきプリ君の眉間に突きつけて説得し、彼からホレグスリのレシピとその薬を手に入れていた。
 という感じにプリムがむきプリ君と話をしていると、そこに、突然気合いの入った声が聞こえてくる。
「闇口氏、話は聞かせて貰った! 俺たちも度重なる留守番に憤ってたとこだ、俺たちにもやれんだってとこ、見せてやるぜー!」
 闇口達が振り返ると、そこには占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)高峰 結和(たかみね・ゆうわ)アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)が立っていた。
「いいか、俺は声を大にして言いたい。『シナリオ参加させろアホ背後!』と!」
 真ん中に立つ占卜は、砂浜の上で周囲が注目しそうな堂々とした声で宣言した。注目する客がまだ居ないのが残念だ。
「Pとかシナリオとか占卜の言うことはよくわかんないけどね……。ま、せっかくここまで来たんだし、バイトに精を出すってのもいいよね」
 占卜の台詞に肩をすくめ、アンネ・アンネは闇口達に苦笑を向け、結和はぺこりと頭を下げる。
「よろしくお願いしますー」
「「「…………」」」
 ぽかんとしていた2軍3人衆の中、最初に我に返ったのは闇口だった。
「そうか、君は普段『待機』組なんだな。シナリオ登場おめでとう!」
「だから、メタ発言は……」
「これで6人だね。6人いれば何とかなるかな? うーん……」
「2軍NPC諸兄、お困りのようね」
 そこで、またもやメタ発言をひっさげて海の家を訪れた者達がいた。イルミン新制服を夏っぽく着こなした金髪ツインテールの少女とロングの赤い髪を持つ少女だ。
 皆の注目を集める中、ツインテールの少女は自己紹介する。
「あたしはパラミタ共産主義学生同盟の藤林 エリス(ふじばやし・えりす)! 我々は、額に汗して働く名も無き労働者階級の味方よ! 団結と連携の精神の元、困難な労働に励むあんた達を手伝ってあげるわ!」
「「「「「「…………」」」」」」
「はいはーい、アスカちゃんも海の家のお手伝いしちゃいまーす!」
「よ、よろしくお願いします……で、でも、僕には名前ありますからね! 闇口さんとは違いますからね!」
 アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)も元気に手を挙げ、コネタントは2人に挨拶兼抗議をした。不機嫌そうに、闇口が注釈を入れる。
「彼女が言ったのは、そういう意味ではないと思うが」
「あれ、何かこちらにきますよー」
 とりあえずこれで8人。欲を言えばもう少しいてほしいな、とプリムが思っていると結和が皆にそう言った。示された方を見ると――

「うん、このダイバースーツの全身を覆う感じ。身が引き締まるわね」
 一方、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は黒い、全身をピッタリと覆うフード付きダイバースーツに身を包んで浜辺に立っていた。その手にはオレンジ色のブイがある。特殊部隊員にとって水中訓練は必要不可欠ということで、彼女はブイとネットの設置を自ら担当していた。海開き後は、この姿のままライフセーバーとして動くつもりだ。
「それにしても、巨大生物、か……」
 作業に入る前に、ローザマリアは海の家を振り返る。そこには、胴の下が長く長い蛇のようになっている黒紫色の屍龍がいた。
「まだ時間前だけど、あれは早めに来た海水浴客かしら。それとも、スタッフ?」
 海に向き直り、足につけたフィン、背中のスキューバタンクを確認し、マスクタイプの水中ゴーグルをつける。そして、海へと入っていった。

「わわわわわ……」
 黒紫色の屍龍、夜刀龍を前に、コネタントはびびっていた。微妙にへっぴり腰の彼に、神皇 魅華星(しんおう・みかほ)は言う。
「魔物も遊べるなんて、なかなか殊勝なよいアイデアでございますわ。わたくしが力をかしてさしあげますわ」
「力を貸すって……、えーと、何を担当してもらえるんでしょうか……」
 魅華星は既に黒い水着に着替えている。大事なところはちゃんと隠れているが、けっこうきわどいところまでレースで出来た水着だ。しかもシースルーだ。
 夜刀龍にびびり、顔を赤くして目のやり場に困っているという心情的に非常に忙しいコネタントに、魅華星は堂々と宣言した。
「監視員をやりますわ! 見た目なら神龍に寄り添う人魚みたいな美しさですわよ!」

              ◇◇◇◇◇◇

 と、いうわけで。
 海の家、ひいては海水浴場は無事にオープンした。
 ででーん! と浅瀬に鎮座まします夜刀龍に、海水浴客達は感嘆の声を上げる。迫力ある龍と、スレンダーで妖艶な雰囲気の魅華星は客達の目を惹いた。『巨大生物』がいることは承知の上で来ている客は彼女達をあっさり受け入れ、珍しがって楽しそうだ。
 神龍に寄り添う人魚に見えているかどうかは脇に置いといて、彼女達が注目されたのは確かである。
「これが、魔物もOKな海……! あれ、でもこの龍、海には入らないのか?」
 ……ただ、監視員として認識されているかはちょっと怪しかった。