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リアクション
フェイズ0
「エメリヤン、エメリヤン、どこ?」
パートナーのエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)の姿が見えないため、大図書館で本を読んでいた高峰 結和(たかみね・ゆうわ)はイルミンスールにてパートナーを探していた。まさかゾンビ退治に出たということなど知るはずもなく。
「よくぞ我がもとにつどいました戦死者の亡霊たちよ。ふふふ……いいでしょう、あなた達が成仏できる位に、宴を盛り上げましょう」
自称アンデッドのネクロマンサーエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)はそう言って呼び起こした、さまよえる戦死者の亡霊たちに語りかけた。
すぐに襲いかかってくるゾンビ。しかしエッツェルはネクロマンサーの技能を使用して即座にゾンビやファントムを支配下に収めた。
「ワタシ、レッド。アーマード レッド(あーまーど・れっど)。コンゴトモヨロシク」
レッドは【アームドベース・デウスマキナ】に乗りながらそうつぶやいた。
「戦って、戦い抜いて、成仏するのですよ……」
アザートスがそう言っている頃、村のはずれの小屋に数人の男女が立てこもっていた。
逃げ遅れたのだ。先行偵察していた麻木 優(あさぎ・ゆう)が発見し、小屋に保護したのだ。
「入り口にはバリケードを! 窓際には絶対たつな! 引き込まれるぞ!」
優の指示で防御陣地が構築されていく。
ドシン! ドシン! 扉にゾンビが体当りしている音がわかる。
恐怖に煽られる村人たち。
「大丈夫。ワタシにはこのパラミタイルカがある。小屋の中に武器になりそうなものはあった?」
「ええ……農具がなんぼか」
「十分です。ゾンビはとにかく頭を狙いなさい。頭さえ破壊してしまえばOKです」
バリィン!
窓が破られる。
そこからゾンビが入ってこようとする。
「パラミタイルカよ!」
氷属性の攻撃でゾンビを凍りづけにする。
「よし、これで少しは時間が稼げますね」
だが、扉が崩壊しバリケードが破られていく。
「足を捕まえて引っ張り倒して! それから頭を」
「分かりましただ……ひい、おっがねえ」
男はタックルをしてゾンビを引きずり倒すと別の男が農具でその頭を破壊した。
「しかし、これではキリがない……って、あれ?」
ゾンビたちが小屋から離れていった。優たちには知る由もないが、アザートスがアンデッドすべてを支配下に置いて集合するように命令をかけたせいだった。
「何かよくわかりませんが、これはチャンスです。ワタシが先行して様子を見ます。みなさんは合図をしたら出てきてください」
優は外をのぞく。ゾンビの影はない。
「OKです。行きましょう……」
こうして取り残された村人たちは脱出を果たしたのであった。
「ひのふのみの……ゾンビ多すぎだろう! 近寄るだけで臭い! 気持ち悪い! あれと生身で戦うなんて絶対嫌だ!」
ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)はパートナーのレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)に絶対にイコンで戦うべきだと提案した。
褐色系の肌に青い目と同じ色をしたベリーショートの髪。端正な顔立ちでシャンバラ教導団の軍服が似合う。
だがその顔は今ゾンビへの恐怖で震えていた。
「戦場では腐敗した死体の側で戦う事も珍しくなったのですが……団長もそうしていたでしょうに何を……そうでした、団長ではなくハイラルでしたね」
レリウスが所属していた、故人となった傭兵団の団長に瓜二つなハイラルを、思わず団長と重ねてしまう。
「やーめーろおおおおおおおお! 聞いただけで背筋が寒いわ!! 絶対にイコンでないと駄目だ!それ以外は嫌だ! って、何寂しそうな顔してんだよ。あ、また団長と俺を間違えそうになったのか? 気にすんな。そう簡単に立ち直れるわけじゃない」
「…………すまない」
レリウスが頭を下げると銀色の髪がなびく。髪と同じ色をした瞳は、悲しみの色をたたえていた。
「なにしてるの?」
そう声をかけたのはルカルカだった。
「はっ、中尉。その……」
「大切なのは今よ。過去は過ぎ去った物。未来はまだ来ない物。今に腰掛けて、真っすぐ前を見つめなさい」
「そうね、元少年傭兵……色々あったんだろうけど、今を大切になさい」
そう言ったのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だった。彼女も中尉である。
「はい。クライツァール中尉」
「よろしい。ところでルー中尉、私は戦闘に専念するわ。現場の指揮はお願いね」
「了解です。クライツァール中尉」
「では、戦場で会いましょう」
「戦場で!」
そうして二人の中尉が去っていくと、一人の男がやってきた。
「レリウス! レリウスじゃないか!!」
赤いショートカットに金色の瞳、さりげなく付けているイヤリングが色っぽい。そして、端正な顔立ちは旧知の仲と出会えたことで喜んでいた。
その男、名をグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)という。
「グラキエス! 久しぶりです」
「貴公ら、何を話しておった?」
パートナーの吸血鬼、青いロングヘアに夜の生き物(ミディアンズ)に多い赤い瞳、美形でいかにも育ちが良い貴公子然とした男の名はベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)という。
レリウスが事情を話すと、ベルテハイトもハイラルに同意した。
「あのような下等なものども、私は恐れないがそれとこれとは話が違う。奴らの体液がかかりでもしたら……ああ、考えるだけでもおぞましい。幸いシュヴァルツには光輝属性の武器が二つ装備されていたはずだ。ゴーストイコンだろうがファントムだろうが十分戦える」
「俺のクェイルには光輝属性の武器がないのですが、そちらとパートナーを組めるならこちらがゴーストイコンの相手をメインにするということでいいですかね?」
「俺としては異存ないな。光輝武器はファントム相手にとっておこう」
レリウスの言葉にグラキエスがそう答える。
「「ありがたい」」
ベルテハイトとハイラルの声がハモる。
「…………」
レリウスが呆れて沈黙した。