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リアクション
「――それではもう少し、時代を現代に近付けて参りましょう――」
北都のアナウンスを聞きながら、楽屋へと戻った藍はすぐさまパートナーの元へ走り寄った。
ドレスの所為で動きづらいのか、静は楽屋の入り口で足を止めている。
「静、すごく良かったぜ!」
些か興奮気味に、しかし舞台に声が聞こえないように小声で言いながら、エスコートしようと藍は静の手を取る。しかし、静は顔を真っ赤にして黙りこくっている。
「静?」
「はっ…………はずかし、かった……」
なんとかそれだけ言うと、静は再び俯く。取った手が少し震えている。
「大丈夫……すごく素敵だった」
静を宥めるように、震える手を両手で包みながら囁くと、その手に軽く口づけた。アリスキッスの力もあって、静はうん、と頷くと、何とか顔を上げる。頬はまだ少し赤かったけれど。
「はいはいお二人さん、良いムードをぶち壊すようで悪いけど着替え、大急ぎ!」
とそこへ、テディがドレス片手に割り込んできた。
かと思うと、無遠慮に静のドレスを脱がしにかかる。
「ほらほら、お姫様は俺に任せて、藍は自分の着替えして! あと五分で次の出番!」
そう、モデルは三組しか居ないが、男女三着ずつではファッションショーにならない。着なければならない衣装はまだまだある。
楽屋の隅に据えてある、舞台の様子を映しているモニターが、もうエリオ達が二回目の舞台を踏んでいる事を伝えている。一組が出て行って引っ込むまでおよそ三分と少し。ファッションショーにしては非常にゆったりとした進行だが、裏で着替えをする方としては、時間が足りない。
先に楽屋に戻っていた陽とソーマの二人は、既に慌ただしく二着目の衣装への着替えを終えようとしているところだ。
静と藍のふたりも、慌てて二着目への着替えを始める。
全員が数度ずつ怒濤の勢いでの着替えをこなし、いよいよ最後の衣装となった。
エリオとカールハインツを先頭に、全員が同時に舞台へ上がる。
纏うのは、現代に近い時代の貴族服。色も形もシンプルだった昔のものとは違い、どれも色とりどりで華やかだ。
客席からも感嘆の声が上がる。
一同はそれぞれ花道の先端でくるくると舞ってから、舞台に一列に並び、深々とお辞儀をした。
拍手が会場を暖かく包み込む。
「さて、ショーの最後を飾りますは、これからの時代の貴族服――」
北都のアナウンスが入ると、舞台を照らしているスポットライトがすぅっと消える。
その頃、別室で準備を整えていたジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)とラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)の元に、早着替え大会のフォローを終えたテディが訪れた。
「ジェイダス様、ラドゥ様、そろそろお支度をお願いします」
「うむ」
外見が少年になってもそのカリスマは変わらず、ジェイダスは鷹揚に頷いて立ち上がる。
それに従うように、ラドゥもゆったりとした動作で立ち上がった。いつもながら、二人が並ぶと壮観だ。
テディは些か緊張の面持ちで、二人を舞台裏へと誘導する。
「生徒達は下手から降りてきますので、ジェイダス様とラドゥ様は上手から舞台中央へお願いします」
「ああ、解った」
ジェイダスは楽しそうに頷くと、すたすたと上手の舞台袖へと向かって歩き出す。外見が若々しい所為だろうか、楽しそうにしている様子がなんだかとても似合っている。
「ラドゥ様ラドゥ様、ジェイダス様と人前でベタベタして、自分のものだぞってアピールするチャンスですよ……!」
そんなジェイダスに一歩遅れたラドゥに、テディが良からぬことを耳打ちする。
ラドゥの頬がカッと赤くなった。
「なっ……そ、そんなこと、私は考えて居ないぞ……!」
あわよくばそうしようって考えていました、と書いてある顔を隠すように、ラドゥは腕を顔の前に翳す。
「どうした、ラドゥ」
「いいいえ、何でもありません」
いつまでも二人が追いついてこないことを訝しんだジェイダスが振り返る。ラドゥは慌てて後を追う。
「……素直じゃ無いんだから、ラドゥ様」
後に残されたテディが、肩を竦めた。
「モデルは、薔薇の学舎理事長、ジェイダス・観世院様、そしてタシガン領主、ラドゥ・イシュトヴァーン様にお願い致しましょう!」
華々しいコールと共に、壮大なBGMが流れ始めた。
スポットライトが舞台中央をパッと照らし出すと、そこには煌びやかな衣装を纏ったジェイダスと、ラドゥの姿があった。なお、この二人に限り二人とも男性の衣装だ。
ジェイダスが纏うのは、鮮やかな色合いの貴族の服を、独自の美意識に乗っ取って和服と融合させた、不思議なデザインの服。一方のラドゥは、古き良き時代を彷彿とさせる、伝統的なデザインの服だ。二人とも、揃いの薔薇を胸に留めている。
客席からはやんやの喝采。その中を、実に堂々とした足取りで進んでいく。
そして、花道の先端まで来たところで、胸の薔薇を取ると客席に向かって放り投げた。きゃぁあ、という女性の声と、わああ、という男性の声が混ざって……多分、男性の声の方が大きい……客席が大きくどよめく。
割れんばかりの歓声と拍手を浴びた二人は、優雅に客席へと手を振って見せる。
客席のテンションは最高潮、最高のフィナーレだ。
ふたりはたっぷりと勿体を付けて、余韻を楽しみながら踵を返す。
そして。
ラドゥが差し出した手に、ジェイダスが自然に手のひらを重ね、二人は花道を引き返していく。
最後の名残を惜しむように、照明が落ちた。
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