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【ぺいゆさんイラスト500枚突破記念】夢のぺいゆ王国

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【ぺいゆさんイラスト500枚突破記念】夢のぺいゆ王国

リアクション

「――やあやあ、遠からんムシは音にも聞け、近からば寄って目にも見よ!」

朗々と響く高らかな口上。
述べられているのはうねうねと動き回るオヤジムシ。
そしてその口上を述べているのは、
「オレ様はシャンバラ国軍の若き建築工兵、新谷衛だぁ!」
他でもない新谷 衛(しんたに・まもる)でした。
名乗りが終わるや否やオヤジムシに突進していく衛は、けれど攻撃を仕掛けることはなくわざとオヤジムシに噛まれようと身を差し出しました。
「あーあーあー……やっぱりか、やっぱりそうだったか……」
オヤジムシにたかられ、もみくちゃにされている衛を見ながら、林田 樹(はやしだ・いつき)は深いため息をつきました。
日頃から女性の体になってしまったことに不満を持っている衛でしたから、オヤジムシの存在は願ったりといったところだったのでしょう。
退治するどころか喜んで噛まれている衛は、変わっていく姿に満足そうでした。
「うふふ〜、あはは〜、これで綺麗な姉ちゃん口説いてあーんなことやこーんなことができるんだ〜」
「だめだ……早くあのバカを何とかしなくては」
「ねーたん」
頭痛さえ起こりそうな光景にこめかみを押さえていると、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)がとてとてとやってきました。
手にはぺいゆクレヨンを握っています。
「ねーたん、ぺーゆしゃんから、くれおんかりてきたお」
「おお、コタロー。戻ったか」
「これれ、なにすれまいーんれすか?」
「ん、それでさっそく絵を描いてくれんか」
「う? おえかきれすか? ……こた、なにかけまいーんれすか?」
「……ふむ、何でも良いぞ。自分が一番強いと思うモノを描いてくれ」
「いっちゃんつおいの?」
樹の答えにむぅと考え込んだコタローは、すぐにぱあっと顔を輝かせました。
「う! こた、ねーたんかくれす!」

「子どもになるとリーチが短くなって結構大変なのね」
手足を動かしていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、いつものようにふるまえないことに興味深そうに頷きました。
「やっぱり直接なってみると違いがわかるわ。届かないところも多いし」
走ってみたり飛んでみたり、高い所に手を伸ばしてみたり。
小さな少年の体ではままならないことが多いことが身をもってわかりました。
これを知っているのといないのとでは、演技の深みが違います。
色々な役を演じるための見識を深めるには、この機会を逃す手はありませんでした。
しかも聞けばショタになれるだけでなく、オッサンになれるともいうではありませんか。
もちろんこのままにはしておけませんが、少しくらい体験してそういった役どころを演じられるようになりたいというのも本当のところです。
「オヤジムシは何処にいるかな」
「あそこにいるようですよ」
リカインの傍にいた空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は、笑って前方を指し示しました。
その笑みはいつもの穏やかなそれではなく、含みのあるたくらみ顔でした。
どうやら小さくなった影響でいつもはなりを潜めている性格が表に出てしまっているようです。
「聞けばぺいゆちゃんは虫が苦手だとか。どれほど苦手なのか見てみたいものですね」
言うが早いか狐樹廊はトラの毛皮を式神化して、オヤジムシを大量に捕えさせました。
「別にオッサンにするのはいいけどさぁ、俺の邪魔すんなよな」
アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が興味なさげにリカインと狐樹廊を見ながら後をついていきます。
アストライトとしては別にオッサンに会いたいわけでも、ショタを堪能しに来たわけでもありません。
ただぺいゆちゃんといちゃいちゃできればいいなーと思って来ているのです。
二人のたくらみなどどうでもいいのですが、どうやら用がある相手は同じなようです。
結局三人――キャッキャと騒ぐリカインと狐樹廊と、アストライトは一緒にぺいゆちゃんの元へ向かうのでした。


一方、柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)須佐之男 命(すさのをの・みこと)を連れてお城の厨房を訪れていました。
小さくなってしまった命は勝手が違うためか動きにくそうにしながらも、氷藍について歩いています。
氷藍の方はと言えば、先ほどうっかりオヤジムシの攻撃を避け損ねてしまったせいでがっしりとした体形で、此方もいつもとは大きく違う容姿でした。
氷藍がその姿になってしまってから、傍を離れようとしない命を微笑ましく思いながら氷藍は命の頭を撫でました。
「何だよ」
「いや、スーが何だか可愛いと思ってな」
「うるせぇ! 好きでこんな姿になったんじゃねぇよ!」
「それはわかってはいるが」
「いいから飯作れよ飯! 腹減ったって言ってんだろ!」
「わかったわかった」
氷藍が亡き父の姿に似ているせいか、懐かしく思う命は強く出られないらしいのです。
そんな命の頭をもう一度かるく撫でてから、氷藍は命の為におにぎりでも作ろうかと厨房の冷蔵庫を覗き込みました。
「……具は何がいいかな」
ごはんは用意があるというので、具はあるもので作ろうと冷蔵庫を見回すと、卵やソーセージ、ベーコンやキャベツなど様々な食材が目につきました。
ひょいひょいといくつか手にとった氷藍を見て、厨房の使用人を手伝っていた博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が声をかけます。
「何か作るんですか?」
「あ、ああ。おにぎりでも作ろうかと」
「それじゃあお手伝いしますよ」
「いいのか?」
「ええ、みなさんの分も作ろうと思っていましたし」
博季の申し出を有難く受け入れた氷藍でしたが、でも、と博季が視線を落としたのに釣られて手元を見遣りました。
「おにぎりにチョコレートはあまり合わないと思うけど……」
「え?」
言われて氷藍が手元を見ると、確かにチョコレートが握られていました。
「あー……あるものでそのまま使えそうなものーって取ったらつい……」
「おい、糞餓鬼、俺に何を食わせるつもりだったんだ」
「いやだからおにぎりを……」
「ま、まあまあ、火を通せばいろいろ作れますから」
チョコレートはともかくね、と博季が二人を宥めていると、「食事の用意はどうだ?」と椎名 真(しいな・まこと)が顔を出しました。
「あ、椎名さん」
「手が空いたから見に来たんだが」
真は小さくなってしまったお城の執事に代わって、色々と城内を見回っているようです。
掃除ひとつとっても小さくなった体では大変だろうと負担が減るように割り振り直したり、食材など物資の手配の確認をしたり。
城の執事に普段の様子を聞きながら指示を出しているのでした。
そして言葉通り、ひと段落がついて様子を見に来てくれたようです。
「今みなさんの分の食事を用意しようかと思っていたところです」
「そうか、それじゃあ俺はテーブルのセッティングの手配をしておこう」
「何か騒がしいようですが大丈夫ですか?」
「ああ、恐らくな。城が壊れるようなことはなさそうだ」
それは大丈夫なのか、と博季が苦笑しかけたところで、騒がしい足音が聞こえてきました。
「失礼します! わぁい! ここもショタだらけだ!」
歓喜の声と共に厨房のドアを元気よく開けたのは吉崎 樹(よしざき・いつき)でした。
「ここに執事さんがいるって聞いて来たんですけど」
「ああ……どうしたんだ?」
どのショタが執事なんだろう、と楽しそうにきょろきょろする樹に、真が答えました。
「あ、どうも。この城すごいですね! ここで働かせてください!」
「ここで?」
「はい! 俺に出来ることは何でもします!」
ショタだらけなんて楽園! と樹は目を輝かせます。
「人手が足りないから助かるが……」
「本当ですか! 頑張ります! あ、でも俺料理苦手なんで料理以外なら何でもやります。できればぺいゆ様のお世話係がいいですけど」
嬉々としてまくしたてる樹に真はとりあえず頷いて、ついてくるように言いました。
料理が出来ないというのなら、他のところで手伝ってもらうのがいいと判断したからです。
それにこのまま喋らせておいたら他の者たちの手も止まるほどショタ談義をしそうでしたから。
真は博季たちに一言断りを入れてその場を辞すると、樹に手伝ってもらうべく人手の少ない場所を頭に思い浮かべながら城内を案内します。
その間も樹はずっと少年たちを見て目を輝かせていました。



「此処にいたんだね」
「『おやおや、王様は休憩中? それでも挨拶はしなくてはね! ごきげんよう!』」
ぺいゆちゃんたちが逃げ込んだ謁見室。
その扉をゆっくりと開いて葛洪 稚川(かつこう・ちせん)キャロル著 不思議の国のアリス(きゃろるちょ・ふしぎのくにのありす)がやってきました。
何事かと視線を向けると、稚川が「知りたいことがあるんだ」と小首を傾げました。
「『君が使う不思議な魔法の謎を解きたいのさ!』」
芝居がかった仕種で言いながら、アリスは抱えていた何かを傍のテーブルに下しました。
「それは何ですか?」
ぺいゆちゃんが尋ねると、何かの入った小さな容器をひとつ手にして稚川が微笑みます。
「対象者のデータさ」
「対象者?」
「『ショタになってしまった人たちの細胞だよ!』」
「何でそんなものを……」
横から貴仁が問うと、待っていたとばかりに稚川がぺいゆちゃんに告げます。
「みんなをショタ化してしまった仕組みが気になって仕方ないのさ」
「えっ」
「錬金術師は研究者。僕は錬金術師としてこのショタ化の謎を解き明かしたいんだ」
「『私はそのお手伝いをしているの』」
「謎って言っても……」
「知ってるよ、君が彼らをあんな姿にしたんだろう?」
「『どうやってやったの?』」
「ボクは絵を描いただけですよー」
「絵を?」
ぺいゆちゃんの答えに考え込む稚川の横で、アリスも首を傾げます。
「『それじゃあ自然にショタ化するわけじゃないのかい?』」
アリスの脳内に、姿が変わってしまうのを敬遠した多比良 幽那(たひら・ゆうな)ジョゼフ・バンクス(じょぜふ・ばんくす)の姿が浮かびます。
城に入るみんなが次々と少年になっていくのを見た二人は、これは少し遠慮したいかな、と入り口でアリスと稚川を見送ったのでした。
しかし流石に稚川たちだけをそのままにしておくのも心配と思ったのでしょう。
自身のアルラウネたちを稚川たちについていかせ、
『まぁ、稚川たちに任せるよ』
とひらひらと手を振ったのでした。
『大丈夫だとは思うけど、城で粗相や怪我をしたりしないように気をつけるのよ』
そんなジョゼフの言葉を受けてお城を訪れた二人は、言葉通り己の目的以外のもの――オヤジムシやそれによってオッサン化した人々――には目もくれませんでした。
そうしてぺいゆちゃんを探してここへ来たというわけです。
けれどぺいゆちゃんが絵を描くことでショタになるのなら、二人も来ればよかったのに、とアリスはぼんやり思いました。
「何か特殊なものを使っているのかい?」
思考の海からふと顔を出した稚川がそう問うと、ぺいゆちゃんは首を振りました。
「このクレヨンしか使ってませんよ」
そう言ってクレヨンを取り出してみせます。
クレヨン、と口内で呟いた稚川は、それを注視してまた思考の海に潜ってしまいました。
それ以降質問を投げるような素振りもないので、ぺいゆちゃんは首を傾げました。
とにかくショタ化希望者、もしくは同志ではないようだなという事だけはわかったものの、どうすればいいのでしょう。
賑やかな外の声を聞きながら、一同は暫く考え込んでしまうのでした。




「……そろそろ離してもらえると嬉しいんですがね」
身動きが取れない状態の魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)は、苦笑まじりにつぶやきました。
先ほどからトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の愛を一身に受けている魯粛は、抱きしめられたまま目の前で繰り広げられる光景を見やります。
そこではしゃかりきにはしゃぐテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)がいました。
しかもはしゃぐだけでなく、何やらいたずらをしかけているようです。
その相手はぺいゆクレヨンを手にして絵を描こうとしている人たちでした。
「いいじゃないか、大人に戻らなくても!」
クレヨンを借りに行こうとする人に通せんぼをしながら、テノーリオは笑います。
「子どもだからってことで、大目にみてもらえるんだ。この状況を、楽しまないと損だよ、損!」
それより缶けりとかしようぜ、と戸惑うみんなを誘うテノーリオに、トマスはあっと顔をあげました。
「テノーリオ、言動までおこちゃまになるんじゃない! 他の人の邪魔をするな!」
魯粛から離れてテノーリオに絡まれている人の元まで行くと、申し訳なさそうに頭を下げます。
「……ああ、すみません。堪忍してやってください」
あれウチの子です、すみません、と繰り返しながら、またどこかへ行こうとするテノーリオを追いかけます。
それを見てため息をついたのは魯粛だけではありませんでした。
同じく頭を抱えたミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)は、魯粛と目配せをしました。
「これは由々しき事態ですわね……」
「ええ、まったく……」
「でもテノーリオが離れてくれましたので、ぺいゆさんにクレヨンを借りに行ってきます」
魯粛にそう告げてミカエラが踵を返しましたが、その場を離れようとしてすぐに何か蠢く影に気付きました。
「あら? 何かしら……虫?」
足元の何かを踏んでしまわないように目を凝らしたその瞬間――。
「きゃあああああぁぁぁぁあああ!!」
ウネウネと寄ってきた何かがオヤジムシだと気付いて、ミカエラは絹を割くような悲鳴をあげました。