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第五章 現れる封印部隊! そして始まる悲しみリレー!

「覚悟は出来た! あとは叫んで呪いのサンタ人形を封印させてもらう! 封印部隊、行くぞ!」
 おお! と答えた声の数は大よそ十人。封印部隊と呼ばれた生徒達が一斉に放送室のマイクへ向かう。そして雅羅達は理解し、自分達にすべきことをする。
「各自後ろの封印部隊の援護に回って! 絶対近づけさせないで、気合入れていくわよ!」
 その声を待たずして陣形を取る七人。そして始まる、矢継ぎ早に行われる悲しみのリレーが。
「一番! 黄泉 功平(よみ・こうへい)行くぞ!」
 そう名乗った彼は校内放送の電源をONにする。より呪いのサンタ人形に効果を与えるためだ。しかしそれは自分達も傷つくのを倍にする諸刃の刃だった。それでも彼らは喋りだす。
「お前がどんなに悲しい思いをしたかは知らない! だがな! カップルが溢れかえる街で俺が何をしていたか、お前に分かるか? それっぽい場所に立ちながら待ちあわせっぽい雰囲気を出して辺りを眺めていた俺の気持ちが分かるか? 長時間いると不自然だからメールをする振りをしたり、電話を掛ける振りをして待ちあわせ場所を変えたように見せかけて、別の場所に移動する俺の気持ちが分かるか? 『ごめん、待った?』と聞く俺の隣にいたカップルの言葉に、心中で『俺も今来たところだよ』と答える空しさがお前に分かるか? お前だけが不幸じゃないのに、お前の都合だけで人様にも迷惑かけるなんてお門違いなんだよ!」
 先ほどの雅羅の悲しい発言も霞むほどの熱弁だった。

ピキキッ

「さっきよりもバリアーが薄くなったわ! 辛いだろうけどその調子で頑張って!」
「お、俺はもうだめだ。次、頼む……」
「二番! 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)だ!貴様、幸せなカップルを破壊するならまだしも、モテない連中のモテない率を減らすとは言語道断! 何でよりによって幸せじゃない奴等を更に不幸せにしようとするんだ! お前は呪う相手を根本的に間違っているんだ! 俺の悲しみが聞きたいなら聞かせてやる! 運搬業をやっている俺はな、基本クリスマスは幸せそうな連中ににこやかな顔をしていつもケーキをお届けだ! 何が悲しいって必ずそいつらは二人で寄り添いながら俺のことそっちのけでイチャイチャするんだ! 荷物を取りに来るだけでどうして二人で来るんだという話だ! お前はそんな悲しみを味わったことがあるか? さっさと帰ってくれないかな、空気読んでくれないかなと言うお客の空気を吸ったことがあるのか! いいか、もう一度言うぞ! お前は、呪う相手を、間違えているんだ!」

ピキピキッ

 悲しみがバリアーを破壊していく。
「俺も、限界だ。後は頼んだぞ……」
「任せておけや! 三番! 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)や! ありがたい説法聞くくらいの態度でよう聞き! ウチの親はむっちゃ真面目な仏教徒やったから、ガキのころはクリスマスケーキなんか、夢のまた夢やったんや! クリスマスはロンリーでもなかったけど、恋人とはまあ無縁やった! なによりも! 毎年12月25日はじいちゃんの命日やから、きちんと仏壇の前に家族そろって座って読経して! その後はみんなで精進料理で会食という抹香くさい一日やったんや! 他の家庭はやれクリスマスケーキやら七面鳥やらローストビーフやらシャンパンやら贅を凝らした食いもん食うとる時にやぞ!? お前に分るか? 皆がクリスマスやーて言うて騒いでるときにな、僕が何してたか? わからへんやろうなぁ! それはな、葬式の後、香典の勘定の手伝いしとったんやー!!」

ピキピキキッ

 バリアーが更に薄れる。しかし、ここで呪いのサンタ人形も封印される危機を感じたのかサンタ人形達に妨害をさせる。だが八人の厚い防御陣形を突破することはできない。バリアーに力を回すために力を抑制しなければならないのだ。更に悲しみのリレーは続いていく。
「無理、心痛い、もう堪忍やで……」
「御祖父さんの命日、忘れにくくていいと思うよ、泰輔。それじゃ四番はフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)でいかせてもらいます。とは言ってもそこまで悲しい思い出はありませんが、あえて言うのならば……王立の少年合唱団にいたころ、クリスマスはあちこちで歌う予定が入っていたんだ。教会にまできて、いちゃついてるカップルを目の前にして、それでも音を外したりすることなく譜面どおり、指揮者の指導通りにクリスマス・ミサ曲ばっかり歌ってた合唱団員の気持ちが分かるかい? クリスマスのムードを盛り上げるBGMを歌う側の無念が分かるかい? ああ、だからってイエス様を信仰していないわけじゃないよ? ただまだ救いがこないだけだからさ。主は、主は、来ませり〜ってね。……泣いてなんかいないですよ、これは心の汗が滲み出ただけですから」

ピキキピキキッ}

 淡々とした口調の裏側に見え隠れする悲しみにバリアーが悲鳴を上げ始める。
「……もうだめ、任せました」
「では五番。長原 淳二(ながはら・じゅんじ)、行かせて頂きます。俺には皆さんのように語るべきクリスマスはありません。そう、何もないんですよ。勿論、昔の自分はクリスマスを祝ってもらったこともありません。……何もないんですよ、クリスマスの楽しい思いでも、苦い思いでも何もない。あれだけの大掛かりなイベント、町中はイルミネーションに飾られ周りの話題もクリスマスばかり。それなのに俺には何もない。あれだけのイベントで何一つ思い出が、ないんだぞ? お前にそんな経験があるか、呪いのサンタ人形とやら。苦い思い出がない分悲しくないと思われるかもしれないがな、何もない苦しみと虚脱感が襲って来るんだぞ? 突然、急に、抗うことも出来ないで! お前にわかるのかよ! 何もない悲しみが!」

ビキッ

 深めの亀裂が入る。ストレートだけではない変化球による攻撃に呪いのサンタ人形の動揺が見て取れる。動いていたサンタ人形達の動きが止まる。
(そろそろまずいかなぁ)
 それまで様子見をしていた託だったがゆっくりと妨害の準備をし始める。
「もう、いい。悲しみは何も生まない……」
「ちょ、ちょっと! 淳二まで倒れちゃうの!? もう慰めるのだって手一杯だよ! しかもこの後もまだ自らを傷つける我慢大会みたいなの続くんだよね? このままじゃ学校中が悲しくなっちゃうよ!」
 そう言うのは淳二のパートナーであるミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)である。彼女は過去の話があまりないので皆を励ましていくことに全力投球していたのだ。
「だが仕方ない。そうしなければ呪いのサンタ人形は止まらないんだ。だから頼む、このリレーが終わったらミーナの明るさで皆を励ましてやってくれ」
「だーかーらー! それは無茶振りだって言ってるでしょ、ってちょっとー!? 淳二ー!」
 そのまま淳二は倒れてしまいミーナは取り残され、仕方なく皆の励ましに戻るのだった。