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第六章 悲しみの終わりの果てに

「あんな可愛い子に慰めてもらえるのなら悔いはないよ! 六番、コルフィス・アースフィールド(こるふぃす・あーすふぃーるど)! あれは、4年前のクリスマスの出来事だった……俺は相変わらず街で歩いていて、突然女の人がいじめられているのを見つけたんだ! 美女をいじめるとは、許すまじ! そう意気込んだ。もちろん俺はいじめていた奴等を成敗してやった。よし、これで彼女ができる! と思いきや何故か俺は警察に連行されたんだ。どうしてかって? あの女は、スリだったんだ……そして俺は彼女の仲間と誤解された! どれだけ違うと言っても耳を貸そうともしなかった! 俺はクリスマスを永延と二人の警官と共に薄暗い取調室の中で過ごしたんだ。誰も救われないだろう! 俺も、警官二人も! ちくしょー! 四年前のクリスマスよ、カムバーック!」

ビキキッ

 本人は泣いているにも関わらずあまり効果がない。それもそのはずで、その涙は玉ねぎをすり潰して目を刺激して出した涙だったからだ。
「玉ねぎで小細工をしやがってきたねぇぞコルフィス! お前の悲しみなんかちっぽけだと思わせてやるぜ! 七番、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)! 聞かせてやろう俺の最高の悲しみをな! コルフィス、お前のその経験は何だ? 俺の方こそ悲惨ぜ! 俺は恋人がいなかった頃、クリスマスの日に学園一の美少女から手紙をもらった。あの時ほど胸が高鳴ったことはなかったさ! 俺は当然それをラブレターかと思った! だが違ったんだ。その内容は『3年前のジュース代を返せ』だったんだ! うああああ……!」
「ダウト」
「えっ?」
「それ嘘だろ、涙も目薬差してるし」
「嘘だなんてどうしてそんなことがわかる! その証拠に呪いのサンタ人形を見てみろ! あんなに苦しそうにしていて、バリアーももう壊れる寸前までいって」
「ない」
「えっ?」
 勇刃が呪いのサンタ人形を見ると先ほどから変わらず浮いている呪いのサンタ人形の姿があった。バリアーの損傷具合も先ほどから変わっていない。
「な、何でだ! 完璧な悲しみを織り交ぜたはずなのに!」
「悲しみを背負ったものにはわかるんだよ、本物の悲しみがな……ああ、もうダメ」
「俺もだ、まさかこんな形で悲しくなるなんて、な……」
 二人同時に倒れる。ここまで終わって七人、バリアーの損傷もあと少しのところまできていた。このチャンスを逃すまいと八人目がマイクの前に立つ。
「八番、白露 ネユン(はくろ・ねゆん)。まあ聞いて頂戴な。あれは去年のクリスマスシーズン。ちょっと年齢詐称してサンタガールのバイトをクリスマスシーズン中ずっとしてたのよ。分かるでしょうけれど、こんな事してるんだからぼっちよ! すごく寒かったわ、ぼっちの上に寒いのよ。心も身体もね。というか真冬にミニスカよ? タイツすらなくて生脚、ブーツも短かったし! 何よりも最悪なのは肩周りがなんか開いてて寒いを通り越して痛かったのよ! ……分からないわよねぇ。紅白の愉快なおっさん人形には太ももをしもやけに腫らすクリスマスなんて。ねぇ聞いてる? 聞いてるなら何か言いなさいよ! それともなに? 私の話なんて聞けないって言う訳? そんな連れないこと言わないでさ、子供用のシャンパンで飲み明かそうぜ? おじさんとさ……」

ビキビキキッ

「ああだめ、シャンパン飲みたい。あとで誰か一緒に飲みましょう……」
「さあ続けていくぞ! 九番は刀村 一(とうむら・かず)、オーラス手前だ! まずは自分の外見と年齢から説明させてもらおう! さあいくつに見える? 20歳くらいか? それともそれよりも下の未成年に見えるか? それは大きな間違いだ! こんな学生みたいな俺でもちゃんとした37歳だ! 三十路も超えて四十近いんだ! それなのに、酒で寂しさを紛らわそうとコンビニに行けば年齢確認! 部屋に戻れば幼い子供達が出迎えてくれると思ったら親父にからまれ! よりによってクリスマスに親から早く身を固めろ云々説教されるのはオンリーロンリーよりきついんだぞこの野郎!! 親に説教されるクリスマスってのはな! 心にくるんだよ馬鹿野郎がぁあ! お前がいつまでたっても呪われてたんじゃちびっこ達と楽しくクリスマスの飾りつけが出来ないだろうが! さっさと普通の人形になって大人しくしてろ! 終いには木刀でしばくぞ!」

ビキ、ビキキビキッ―――。

 あと一歩、しかしここで託が動き出す。更に大人しかったサンタ人形達も今までよりも凶暴さをまして襲い掛かってきたのだ。もうバリアーが限界近いと悟った呪いのサンタ人形は防御よりも攻撃に転じたのだ。サンタ人形に足止めされて動けない雅羅達。その横をするりと抜ける託。
「しまっ―――!」
「残念、マイクは壊させてもらうよ。そうすればこのリレーも終わ」
「悪りぃが、そいつぁできねー相談だな。坊主!」
「っ!」
 咄嗟に回避行動を取る託。そこに暴君のように現れたのはベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)だった。冷静に見えるがその裏には怒りが見え隠れしている。今にも暴れだして全部壊してしまいそうなほどだ。既にスキル『紅の魔眼』を自分にかけているらしく準備は万端状態のようだ。
「さぁーて、サンタ共。いや今はサタンか? 悪魔の手先なら倒さなきゃな? 『エンドレス・ナイトメア』で苦しませてやろうか? 『ファイアストーム』で燃やし尽くしてやろうか? あぁん! こちとらあの鈍感女のせいで寂しいクリスマス確定的なんだよ! おまけに呪いまでかけられたらどうなっちまいやがるってんだ! 俺の気が変わらない内に観念しろ! そこの坊主もな!」
「ちょ、ちょっと乱暴はだめよ!」
「うるせぇ最悪不運女! どうせお前が事の発端だろうに! 何となく分かるぞ!」
「なによそのあだ名は!」
 味方なのかそうじゃないのかよくわからないベルクではあるが託を止めたところを見ると彼もまた呪いをかけられると困る人間のようだった。形成は逆転する。それを好機と見た悲しみリレー最後の走者がマイクに叫ぶ。
「私は全ての悲しみを背負ってここにいるわ! ラスト、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)! 私のは至ってシンプル! だから言葉だけじゃなくてパフォーマンスも交えてあげるわよ! この白髭おやじ!」
 マイクに叫んだと思ったらいきなり走り出すルカルカ。ボロボロのバリアーを張る呪いのサンタ人形の眼前にまで行って叫びだす。
「あのね、教導団にクリスマスなんてないのよ! どーせ今年も訓練よ、演習よ、戦争よ! 心まで寒くなるっつーの! 何ですか? 心まで鍛錬してくれるとか言いたいの? そんなのこっちから願い下げよ!」
 言いながらバリアーに向かって攻撃を繰り返す。バリアーからは決壊を予感させる音が響いてくる。それを見たルカルカは雅羅を呼ぶ。
「雅羅! 挟み撃ちで一気にバリアーを壊すよ! 右側お願いね!」
「え、ええ! わかったわ! 皆もフォローお願い!」
 依然攻撃の手を緩めないサンタ人形達を掻い潜りぬけながら二人は位置につく。そして目だけ会わせて同時にスタート。呪いのサンタ人形に迫り、そして。
「これで―――」
「終わりよ!」
 二人の攻撃がヒットする。すかさずルカルカは相方のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に目線を送る。それを行動予測していたダリルは聖なるタロットでサンタ人形を威嚇しつつ、自分に『ゴットスピード』をかけて疾走する。懐から封印お札を取り出し投げつけ、距離をとる。
「これで終わりだな、呪いのサンタ人形」
 息ピッタリの三人の連携に、あれだけしぶとかった呪いのサンタ人形も封印され
「……ない!? 今のでもだめなの!?」
 後ろに下がったルカルカが叫ぶ。バリアーはボロボロながらまだ呪いのサンタ人形を守っていたのだ。そのバリアーにお札は阻まれ消滅した。予想外の出来事にダリルも雅羅も驚いて声も出ない。
「ふふっ、よく頑張ったけど後一歩足らなかったね。バリアーは時間が経てば完全に戻る。同じ悲しみは二度とは効かないよ」
 託がやたら嬉しそうに言う。余程この騒動が続くのが楽しみなのだろう。それを見たベルクが悔しそうに吼える。
「くそっ! こんなんで俺の運命決められてたまるか! どうにかならねぇのかよ! ハデス!」
「ん、いやクリスマスには楽しい思い出しかないが」
「何でだよそれも気にくわねぇよ! どんな楽しい事だってんだ、あぁ!」
「ま、毎年研究室に篭って発明に勤しむという、とても幸せなクリスマスを送っているが?」
 放送室にしばらく静寂が舞い降り、そして。

―――パリィーンッ!

 どんなマイクを使った悲しみの叫びよりも、ハデスの自分では楽しいと思っているが世間的には一番悲しいと思われている呟きにバリアーも霧散してしまった。
「そーいうことは先に言え、この大馬鹿野朗がぁあ!」
「な、何をしたって言うんだー!」
 ベルクがハデスに八つ当たりをしている間にもう一度ダリルが走る。最後の封印お札を懐から取り出し直接貼り付けようとする。
「やらせはしないっ」
「こっちの台詞よ!」
 止めようとする託を雅羅が阻む。激しいにらみ合いの横をすり抜けたダリルの疾走は止まらない。
「もうやめにしよう、西洋のお前にはわからないかもしれないが日本にはこんな言葉がある。人を呪わば穴二つ、ってな」
 そしてダリルは呪いのサンタ人形に封印お札を貼り付ける。キョンシーのように貼り付けられたサンタ人形が何やら悲鳴にも似つかない擬音を残して封印された。ぽとっと下の床に落ちる。
「あらら、終わっちゃったかぁ。さすがにこの人数相手は分が悪い。僕も退散するとしよう。それなりに楽しめたしねぇ、それじゃあね」
 託もそのまま目晦ましをして去っていった。他のサンタ人形達も呪いの影響下になくなり、今では可愛らしい人形に姿を戻していた。
「はぁ、やっと終わった。まさかこんなことになるなんて……」
「まあまあ、雅羅のせいじゃないって! ねっダリル」
「そうだな。不可抗力だった、ということだ」
 放送室には悲しみをぶちまけた人たちの生気のない体だけが横たわっていた。そこへ、ケーキを持った四人がやってくる。ベストタイミングだ。
「おっ、もう終わったみたいねーそれじゃ頑張った皆に!」
「ケーキのプレゼントです」
「おーい! ルカルカとダリルに雅羅ー! 美味しいケーキ様のご到着だぜー!」
「他の皆さんもお疲れ様でした。是非召し上がってください」
 美味しそうに漂う甘い香りに倒れていた英雄達も立ち上がり、ケーキを口に運び始める。雅羅もやけ食いと言わんばかりに食べるのだった。
「もう、今日は散々だったわ。でも美味しいケーキが食べられたのは、不幸中の幸いだったのかも」
 こうして皆は無事に事件を片付けて、少しだけ早いクリスマスパーティーを楽しむのだった。ちなみに柚が持ってきた縄は腹の虫が収まらないベルクがハデスを縛り上げるのにちゃっかり使っていたことを皆は知る由もなかった。何はともあれ、メリークリスマス!

担当マスターより

▼担当マスター

流月和人

▼マスターコメント

初めましてメリークリスマス、流月和人です。
この度はこのシナリオに参加していただき感謝しております。
今後も精進していきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。

▼マスター個別コメント