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伝説のリンゴを召し上がれ

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伝説のリンゴを召し上がれ

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第一章

「はあはあ……」
 大きな籠を下げた少女が、立ち止まって息を整える。短い漆黒のおさげを揺らして、一生懸命に丘を駆け上ってきたのは、林美瑠。エンパイアーパラミタホテルの厨房で働く、14歳の見習いパティシエールだ。
「ほら、見えてきたよ。到着まで、あともう少し。がんばって!」
 美瑠を励ます笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)が、丘の頂上を指さす。
 そこには、赤く輝くようなリンゴを、数え切れないほど実らせた大きな木が、大きく枝を広げていた。
「あれです! あれが、伝説のリンゴの木です!」
「伝説のリンゴとは、リンゴ好きにとっては聞き捨てなりませんね」
「ここまで、いい香りが漂ってくるね。蜜が星型になってる甘い林檎の、果汁が詰まった甘酸っぱい香り。パイ、パウンド、ゼリー、ジャム……どれも大好きだけど、なんといっても、シロップ煮のチョコがけが好き♪」
「自分は、シナモンを効かせたアップルパイや、リンゴの砂糖煮が特に好きですね。丸焼きも良さそうです」
 リンゴ好きのザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、にっこりと笑い合う。
「俺が生きていた頃と比べて、果物も格段と美味くなったのぉ。して、ぱてぃしえーるという職の娘。美瑠と申したか」
 と、美瑠に語りかけたのは、木曽 義仲(きそ・よしなか)だった。
「女子に荷物を持たせてはいかん。行きも帰りも、俺が籠を持ってやろう」
 と、美瑠の手から、籠を引き受ける。
「でも……あ、あの……」
「遠慮せずに、任せて大丈夫ですよ」
 と、長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が、優しく笑いかける。
「皆、がんばってる美瑠さんを、放っておけないんですよ……もちろん、俺も」
 淳二は、伝説のリンゴの噂を聞いたミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)ナナユキ・シブレー(ななゆき・しぶれー)に連れられてやってきた。
「伝説のリンゴ……興味ないわけじゃない、です」
 ピンクの髪のミーナは、並んで歩く青い髪のナナユキと話している。
「ですよね! でも、私ができるのは、皆さんのフォローくらいかな」
「手に入ったら、皆さんに分けつつ、私も何個か貰えたら……貰いたいです。料理とか、いろいろ使い道ありそうですし」
「まずは、美瑠さんの籠をいっぱいにしてあげなきゃね!」
「伝説のリンゴ……か」
 マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)も、パートナーの御堂 椿(みどう・つばき)の願いを聞き入れて、コースに参加した。
 どうして椿がリンゴを手に入れたいのか、理由は聞いていない。が、そこまで欲しいのなら、手に入れさせてやりたい、とマクスウェルは思っている。