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パニック! 雪人形祭り

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パニック! 雪人形祭り

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 降る雪がだんだんと強くなってきたようだが、公民館の中は生温いような温かさに満ちていた。暖房が申し分ないのと、大勢の子供がたむろしているのとがその理由だ。
「『……森にはたくさんの花が咲き、みんなは大喜びでした。』めでたし、めでたし」
 物語の結びを読み終えて、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はおとぎ話の絵本をぱたんと閉じ、辺りを見回す。正直、子供たちが周りに集まっているというより、子供の群れの中に自分がぽんと置かれて座っている、という風情だ。それほど人数が多いのだ。
 それは、すぐ近くで彼女と交互に絵本の読み聞かせをしていた白雪 椿(しらゆき・つばき)も同じで、目の前で寝転がっているうちに眠ってしまった子供の頭を、さわさわと撫でていた。周りの子供たちも、いかにしても外出はできないと悟ってか、退屈のままに大半が綺麗な絨毯敷きの床にごろごろ転がっている。朗読を聞きながら眠ってしまった子供も少なくなかった。
「風邪ひかないかしら」
「ここは温かいから……きっと、大丈夫でしょう……」
 そこへ椿のパートナーの虎臣が、先程脱出を試みた少年を連れて戻ってきた。少年はまだ怒られることを予期しているのか、少し表情が強張っている。察して、椿は柔らかく微笑みかけた。
「大丈夫ですか? 外は、寒くなかったですか? ……もう少しだけ、ここで待っていましょうね……?」
 こくんと、少年は頷いた。と、横から虎臣が、
「椿殿、実は彼が……あの噂のことで、何か知っているようで」
 そうして、少年が出ていこうとした経緯について話した。椿と、傍らから吹雪も、その話に耳を傾ける。
「ねえ、君。そのおうちのこと、誰から聞いたのかな? お友達?」
 吹雪が尋ねると、少年はううん、と首を横に振った。
「今年初めて喋った男の子。テスって子だよ。死んじゃった子とお友達だったんだって。……可哀想だよね。お友達が死んじゃうなんて」
 子供なりにその悲しみを察してしゅんとする少年の頭を、虎臣がぽん、と軽く、励ますように叩いた。
「テス君……。どの子……でしょうね?」
 椿はそろそろと立ち上がって辺りを見回した。子供の数は半端ではない。吹雪が腰を浮かせた。
「ワタシも、一緒に探します」
「ならば私も……」
 虎臣も同調しようとしたが、くいっと、横から別の小さな男の子に裾を引かれた。
「ねえ、虎のおじさん、また背中に乗せてよう」
「(……お、おじさん、か)……い、いや」
「……八雲さん、ここはお願いします……ね?」(くす)
「仕方ない。ここだと泣く子がいるから、向こうでだぞ。あ、あと、尻尾は引っ張るんじゃないぞ?」


「雪がますます激しくなってきましたね……しかし! この雰囲気こそ、我々【雪だるま王国】民の戦意を高揚させるに相応しいではありませんか!」
 そろそろ本格的に吹雪に移行しようとしている雪に塗れながら、しかしそんなことなど意に介さず、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は意気揚々と言い放った。勢いよく吹き抜ける寒風が、その言葉に答えるような形になった。
「幸い、拙者らの作戦を阻むような人間もいないようでござるし」
 隣で童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)も、雪だるま姿で意気込んでいる。鼻息は荒いが体は冷たい。
「確か先程、塩を雪に撒いて融かすという案を持ってきた方がいらしたようですが……その方はどうなさったのですか?」
 赤羽 美央(あかばね・みお)がクロセルに訊くと、
「ご心配には及びません、赤羽へーか。レイナさんに代わって俺がきちんと我らの計画を説明し、大量の雪が必要なのでその案はご遠慮頂きたいとお願いして、了承を得ました」
「それで納得してもらえたのでござるか?」
 スノーマンが訊く。横で見ていた限りでは、彼女たちは怪訝そうな表情をしていたように思ったのだが。
「もちろん。代わりに、その案は街中で実行して頂けないかとお願いしました。そうすれば街中の雪人形が展示場に出てくるのを防げるし、街路の雪が融ければ市民の皆さんも歩きやすくなって万が一雪人形に襲われても逃げやすくなる、と」
「なるほど。その方がよろしいですね。雪人形は大した戦力はなさそうですが、同じような大きさでこちらの雪だるまと見間違えたりしてしまうとややこしいですし」
 美央は、スノーマンのお付きの雪だるまを見ながら呟いた。そんな見間違いをするつもりはないが、降る雪で視界がだいぶ利かなくなっている。用心するに越したことはない。
「しかし、降る雪は私たちにきっと味方してくれるでしょう。この街に迫る危機が去った時、必ずや平和と、その象徴となるべきふくよかで美しい雪だるまが残っているはずです」
 美央の言葉に、クロセルとスノーマンは「もちろんです(ござる)!」と感動していた。