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【アラン漫遊記】はじめての冒険

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【アラン漫遊記】はじめての冒険

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第2幕 とかして、とかされて?


 頂上目指して進む一行。
 山の中は少しひんやりして湿気を含んだ空気が漂っている。
 木々の葉の間から落ちた光は、そよ風が吹くたびにその表情を変えた。
 そして、心配していた植物モンスターなのだが……一歩進むだけですぐに違うモンスターが現れてるんじゃないかというほど、うじゃうじゃしていた。


 アランを護衛しながら、ダウジングで宝探しをしている日下部 社(くさかべ・やしろ)は、隣を歩く五月葉 終夏(さつきば・おりが)をちらっと見る。
 終夏は目が合うと、少し恥ずかしそうにはにかむ。
「あー……ええ天気になって、ほんま冒険日和やなぁ〜」
 照れ隠しなのか、へらりと笑う社。
「うん、天気が良いと心まで晴れるよね」
 そう返しながら終夏は、アランに近づいてくる植物を『崩落する空』を使って空からタライやら鐘やらを落とし、撃退していく。
 そんな、ちょっとしたカオス状態の中、いつの間にか社は自分の妄想の中へ――
(これって、もしかして……護衛を抜きにしたらオリバーとのデートみたいなもん!?
※あくまで社の脳内妄想なので、テンション高め※
『オリバー、今日もかわええな』
『そんなこと……ないよ』
『ああ、すまん。ちゃうな』
『えっ?』
『今日はいつもの5割増しでかわええ』
『も、もう! それじゃあ、いつもが可愛くないみたい』
『はっ! す、すまん』
『ふふ、冗談』
 なーんてことがあったりとかか!?
 あっまあまのシチュにここから発展するんやろ!?
 くぅ……! たまらん!!!)
「あぶない!!」
 突然妄想ではない生の終夏の声にびっくりする社。
「へっ?」
 気が付くと終夏に押し倒されていた。
(まだ妄想の続きやったんか!?)
 社は少しして、やっと状況を飲みこんだ。
 妄想してたため、油断していたところをモンスターの触手が伸びてきて、それを終夏がかばってくれたのだ。
「オリバー!! すまん……俺……」
「やっしーにケガがなくて良かった」
 終夏はさすがに恥ずかしさが込み上げてきたのか顔を赤くして、社の上から素早く退いた。
「っ! オリバー服!!」
 終夏の服が背中から融け始めていた。
「おんどりゃー! なんてうらやま……ちゃう! なんて、ひどいことを! うらぁぁー!」
 社は轟雷閃をモンスター本体にぶち当てると、キラリ輝く昼の星にしてやった。
「大丈夫か、オリバー!! って、オリバー!???」
 社が振り返ると、終夏は『ちぎのたくらみ』で5歳くらいになってしまっていた。
「残っていた服の面積でなんとかしようと……」
(やっしーの前だし……その……まな板レベルでも恥ずかしいから……やっしーの前だし……!!!)
 あわあわしている終夏を見て、ほんのちょっぴり残念そうにしている社がいた。
「あー……アランの良い話し相手になりそうやね……。って、そうじゃなくて……その……助けてくれて、ありがとう。でも、次からは気を付けるから、今度は俺に守らせて、な?」
「う、うん……」
 終夏は嬉しそうに頷いたのだった。


「沙幸さん、今こっちに向かってきています左側の紫色の花がついている方からやっつけてくださいね。そっちの黄色いのはすぐに攻撃はしてきませんから」
 藍玉 美海(あいだま・みうみ)が『博識』で危険なモンスターを見極めていく。
「うん! 任せて!」
 それに応えて、久世 沙幸(くぜ・さゆき)が植物が伸ばしてきたツタを仕込み番傘の刃物でスッパスッパ切っていく。
 ツタを切られた、花つき二足歩行型サボテンっぽいモンスター2体は逃げ出していった。
「ふぅ〜♪ そんなに強くないけど、数が多いから気を付けないとだね」
「そうですわね。っと、右斜め後ろですわ!」
「ええっ!? 急に言わないでよ〜!」
 驚きながらも、すぐに反応する沙幸。
 後ろにいたのは根っこでうねうねと動き回っているラフレシアのようなモンスター。
 しかし、伸ばされたツタに刃物が当たったそのとき、ぬるりとした粘液でツタが切れずに、刃がツタの表面を滑る。
 突然のことだったが、沙幸はすぐにツタに対して直角になるように刃を当て、切断。
 そのまま、モンスターが逃げるのかと思いきや、切り落とされた断面から粘液を放出してきた。
「きゃっ……!」
 切った沙幸はその粘液をもろに浴びてしまう。
 粘液が顔についてしまい、慌てる沙幸。
「ファイアーストーム! 沙幸さん、大丈夫ですか?」
 美海が放った炎がラフレシアに当たると、ラフレシアはすぐに退散していった。
「思いっ切り服にかかっちゃいましたわね」
「服より、顔とかの方が嫌だよ〜。ねとねとしてて気持ち悪いんだもん……」
 沙幸は胸の谷間から、粘液から免れたハンカチを取り出し、顔を拭く。
「それよりも、早く服についた方をなんとかした方が良いと思いますわよ?」
「?」
「その粘液……服を融かしますわ」
「ええっ!? そういうことはもっと早く言って欲しいんだもん!! ど、どこか水のある場所で服を急いで洗わないと――」
 そう沙幸が動いた瞬間、融けた服がはらはらと落ちていき、気付いたらなんとか無事だったパンツだけという姿になっていた。
「きゃーーーっ!! ねーさまの……ねーさまの……うわーーーん!」
 沙幸は胸を腕で隠しながら(大きいのであまり隠せていないが……)、叫ぶのだった。


「ヒャッハー! また1株仕留めたぜっ! 俺様最強!!」
 木崎 光(きさき・こう)が『煉獄斬』で10株目を撃退したところだ。
「植物には炎より氷の方が効くんでないか? それに山火事になったら大変だし」
 その隣では『氷術』を使ってモンスターを倒していくラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)がいる。
「良いんだよ! 倒した!! って感じがするだろ?」
「それだけ!?」
 会話をしながらも2人は次々と植物を燃やしたり、氷漬けにしていたりする。
「あ、そっちに男好きの植物が行きましたわよ」
 まだあわあわしている沙幸のそばにいる美海からそう声がかけられた。
「俺様大丈夫じゃん! だって、女だし! ぜってー来ないから!」
「いやいやいや! 男ものの水着着ていたのに女だって気付かれなかったんだよ!? モンスターも勘違いするかもしれないから気を付けて!」
「バカなこと言うなよ! どっからどう見ても女だろ!? こんなに女子力高いやつ捕まえて何言ってるんだ、よっと!」
 光は近くまで来ていた薔薇型モンスターを燃やした。
「な?」
「何が、な? だよ。めっちゃ狙われてたじゃないか!」
「いやいやいや! 気のせいだから! そんな事実どこにもないから、っと!」
 またしても近づいてきていた、さっきとは違う薔薇型の植物を光が仕留める。
「どんだけ女子力たけーと思ってるんだよ。俺様の女子力は大気圏突き破るレベルだぜ? 男と間違えるだなんてそんなことあるわけ――ソニックブレード! ふぅ……ないじゃん?」
「……明らかに、光を狙ってるじゃないか」
「……いーや! 違うね! 気のせいだから! わかった! 女性が好きなモンスターなんだよ! さっきの情報の方が間違ってるんだろ?」
 ラデルはきょろきょろと辺りを見回してみるが、どう見てもこの薔薇型は男性を好んで攻撃している。
「ちげーって! そもそも、じゃあ、なんでおまえは狙われてないんだよ! おかしーだろ! どう考えたってさ」
 ラデルは首を傾げた。
「そういえば、そうだな。こっちには1本も触手が来ない」
「……たんに男失格なんじゃねーの? ……もう良いよ……ラデル、おまえ今日から女装な。しかもふりふりドレス」
 光は拗ねながらも周りに攻撃を忘れない。
「はぁっ!? 何言ってるんだかわからない。却下ー!」
「ダメだから」
「絶対に着ないからな!」
「これ、決定事項だから」
 わくわくしながら光が言う。
「う……すみません、やめてください」
「却下」
 こうしてしばらくの間、ラデルが女装することが決定してしまったらしい。


 警戒をしながら後方を歩いているのは芦原 郁乃(あはら・いくの)秋月 桃花(あきづき・とうか)荀 灌(じゅん・かん)の3人だ。
「みんなけっこう派手に戦ってるね〜」
 郁乃の言葉に桃花が頷く。
「そうですね。こちらまでモンスターが近寄ってきませんし……」
「ほんとうに意思のある植物たちがいっぱいいたのです。びっくりです」
 灌は興味津々といった体で、倒されていく植物たちを見つめている。
 そんな3人のもとに、パンジーのようなかわいらしい植物たち3株がすり寄ってきた。
 パンジーたちは2本の太い根で移動し、葉をまるで手のように使っている。
 見たところ、他の植物たちとは違いツタが見当たらない。
 ちょこちょこと歩いてきて、3人の足元でふわふわゆらゆら動いている。
「えっと、倒した方がいい……です?」
 灌が首を傾げると、花たちも真似をするように首を傾げた。
「害はないのかな?」
「油断は禁物ですが……倒してしまうのも気が引けますね」
 桃花が言うと、3人は顔を見合わせる。
「じゃあ、油断せずにちょっとだけ遊んでみようよ♪」
「郁乃さま……なんだか矛盾しているようにも感じますが……荀灌ちゃんはどうしたいですか?」
 桃花が荀灌に話を振ると、荀灌は目を輝かせた。
「ちょっとだけ遊んでみたいです」
 この言葉が決定打となり、花たちと一緒に過ごしてみることにした3人は近くにあった原っぱに座り、しばらく花たちと戯れることにしたのだった。
「なんか可愛いね。お持ち帰りはしちゃ……ダメだよね?」
 郁乃が桃花を潤んだ瞳で見つめる。
「そんな目をされましても……さすがに持ち帰るのはよくないかと思います。何かあってもいけませんし、生態系に変化をもたらしたら大変ですよ」
「だよねぇ……残念」
 名残惜しそうに郁乃は自分の一番そばにいるピンクのパンジーを持ち上げ抱きしめた。
「こんなに可愛くて、大人しいのになぁ」
 郁乃が抱き上げるのを見た荀灌は、そばにいたオレンジのパンジーをじっと見る。
「大人しくしてくれますよね?」
 荀灌が話しかけると、パンジーは考えるように右の葉を花の下にあてる。
 ほんの少しすると、荀灌の方に花を向け、こくりと頷いた。
 それを見て、恐る恐る抱き上げる荀灌。
 胸の位置まで持ち上げると、大丈夫だと確信したのかぎゅっと胸元に抱き寄せた。
 本当に害はなさそうだと安心したその時だった。
 郁乃と荀灌から悲鳴が上がる。
「きゃっ! なになになに〜!? 服脱がそうとしちゃダメだよーー!」
「な、なんで、どこからツタが伸びたんです!? そ、そこはお尻です! 触っちゃダメですーー!」
「郁乃さま!? 荀灌ちゃん!?」
 いつの間にか花の下から伸びていたツタに絡まれ、動けない状態になっていた2人。
「冗談がすぎますよ、やめてください」
 桃花が花たちに言い聞かせると、動きがとまる――
「ひゃぅっ……」
「だ、ダメですっ……服の中に入ってきちゃ……きゃぅん」
 が、またすぐに動き出してしまう。
 突然、桃花が荀灌が絡まっているツタを引きちぎり、郁乃に向けている花に向かって拳を向ける。
「…………やめてくださいって……言いましたよね?」
 花たちもさすがに恐怖を感じたのか、ゆっくりと首を縦に振った。
「わかっているならいいんです」
 桃花は郁乃に絡んでいる花を殴り飛ばし、ツタも片手で引っぺがし、ちぎった。
「……桃花はさ、怒らせちゃダメだよね」
「…………はいです」
 2人は静かに頷き合ったのだった。


 先頭切って戦っているのは刀真、月夜、白花の3人だ。
 それぞれ、少しずつ距離を開けて植物たちを蹴散らしている。
 刀真は『殺気看破』で殺気を感じたところに素早く『アルティマ・トゥーレ』で切りかかり、植物たちを凍らせていく。
 植物たちはツタを出そうとするが、攻撃に使おうとしているので、殺気を読まれてしまい刀真に伸ばす前に切り付けられ氷の中に閉じ込められていく。
「ふぅ……山全体がモンスターなんじゃないのか? 切っても切っても切っても……あー! キリがないですよ!」
 刀真の周りには10株ほどが常にいる状態が続いている。
「強くはないですが、こうも多いのは疲れますね……ふぅ……」
 そうため息をついた瞬間だった、一瞬の油断をつき背後からツタが伸びてきた。
 すぐに気が付いた刀真は『分身の術』でツタをかわす。
 しかし、気付くのに遅れたためかツタが頬をかすめた。
 刀真は振り返ると同時に剣でツタを伸ばしてきたモンスターを薙ぎ払う。
 一段落したところで、頬が異様に痒くなっていることに気が付いた。
 革手袋で頬を拭うとツタの粘液が付着していた。
(これはやばいかもな。痒すぎて集中力が切れかねない……月夜たちに伝えてくるか)
 刀真はとりあえず一番近くにいる月夜のもとへと走り出した。
 月夜もちょうど戦闘が一段落したところだった。
「月……よーーーー!?」
 声を掛けようと駆け寄った、ところで急に服を破くように脱ぎ捨て始めた。
「な、何してるんですか!!」
「あ、刀真」
「あ、刀真……じゃないですよ」
「痒くて……」
 たしかに月夜の体と服はねっとりとした粘液にまみれていた。
 服はもうすでに融け始めてきている。
「それ、服も融かすんですね」
「そう……だから……」
(新しい黒い花柄レースの下着についたらどうしようかなって思ってたんだけど、さすがにこれは言えないよね)
「そんな恰好じゃ動けませんよね」
 そう言うと、刀真は自分が着ていたコートを月夜にかけてやろうとするが、それを月夜が押し止める。
「ありがとう、刀真。ちょっと待って」
 月夜は粘液のついた服をすべて取り除いてからコートを受け取り、羽織った。
 そんな状態では満足に戦えないだろうと、刀真は月夜を連れて移動する。
 2人が到着すると、白花は『白虎』の背に乗りながら『適者生存』で敵を追い払っているところだった。
 余裕が出来ると白花は2人に気が付き、近寄る。
「どうかしましたか!?」
 白花は月夜の恰好を見て、そう声をかけた。
「あの植物たちの粘液……服を融かして、すっごく痒くなるから気を付けて」
「大変です! ちょっと待っててください! あ、かいちゃダメですよ!!」
 白花は持ってきていた水筒の水でハンカチを濡らし、月夜の体についた粘液を拭きとっていく。
「じゃ、あとは任せました」
「はい!」
「無茶……しないでね」
 2人に見送られ、刀真は近くの敵を蹴散らしに行った。
 しばらくして、ある程度掃除が出来ると、刀真は2人のところへ戻ってきた。
「こちらはあらかた終わりました。月夜は大丈夫ですか?」
「こっちは大丈夫ですが……刀真さんも粘液がついたんですね。頬、かいちゃダメですよ」
 刀真は無意識のうちにかいていた手を止める。
 白花は大人しくしている刀真の頬をやさしく拭ってやるのだった。


 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)が火術でモンスターを焼き払うと、それを鎮火させるように氷術をぶつけるマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)
 いいコンビでモンスターを退治しまくっていたのだが、この2人から叫び声が聞こえてきた。
「きゃーーーーーーーーーーーー!!」
 ゆかりはとけた服の破片を使い、見えてはならない部分だけをなんとか隠しその場にしゃがみこんでいた。
「うがーーーーー! 殺す殺す殺す殺すー!!」
 マリエッタは完全に一糸まとわぬ姿になり、怒りで我を忘れている。
 2人が遭遇してしまったのはハエとり草型のモンスター。
 開いたり、閉じたり出来る葉の部分をまるでガムを噛んでいるかのように動かしていたと思ったら、服をとかす粘液を吐き出してぶつけてきたのだ。
 マリエッタは喚きながら『ヒプノシス』を使い、周りのモンスターを眠らせる。
「いつまでもパニックになってる場合じゃないですよね!」
 ゆかりは立ち上がるとやけくそ気味に眠らされたモンスターに『爆炎波』や『轟雷閃』などを叩き込み、止めをさしていく。
 正気だったときより、3倍くらいのスピードで周りのモンスターを駆逐していく2人。
 そこへ、先ほどの声を聞きつけてやってきた者がいた。
「何かあったんかー!? 大丈夫かーー!?」
 そう声を掛けながら近づいてきたのは瀬山 裕輝(せやま・ひろき)だ。
「って、なんちゅー素敵場面に遭遇ーー! いざとなったら助けるが、これは入っていったら逆にオレが危険やね……ちゅーこって脳裏に焼き付けねば……」
 じーっと2人の肢体を脳に焼き付ける裕輝。
 2人はパニック状態で戦闘中なので、なかなか裕輝の視線に気が付かない。
 2人で50株目を倒したところで、やっとマリエッタが裕輝に気が付いたらしく、ずんずん近づいていく。
「うぉーー! やない! なんか……オレ危険?」
「堂々と覗きとはいい度胸だ……痴れ者が、恥を知れ!」
 マリエッタはハンドガンを構え――裕輝に向かって発砲。
 銃声が辺りに響く。
「ぬわーー! 危ないやろ!?」
 裕輝の頬、太ももの内側、足首に弾丸がかすめた。
「去らねば、今度は当てるだけでは済まんぞ? 子孫を作れなくしてやろうか?」
「ぎゃーーー! 妬み隊隊長兼否定人間の瀬山裕輝……妬み隊への勧誘や! みんなーよろしくなーーー!」
 そう叫びながら、裕輝は素早く逃げて行った。
 それを確認すると、マリエッタはゆかりのもとへと歩いていく。
「もう……お嫁にいけない……」
 服の破片もなくなり、すっかり裸になってしまったゆかりは再びしゃがみこんでいたのだ。
「あっちに水の音がする。とりあえず体を洗おう?」
 マリエッタの言葉に促され、2人は山の奥の小さな滝で体を洗い、服がなくなったと聞きつけたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)より、着替えを受け取り、着替えたのだった。


「単なるお宝さがしじゃなかったのー!? もっと魔法で楽々いけると思っていたのに……」
 ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)はファイアーストームや氷術を使って戦っているが、なかなかモンスターの数が減らない。
 それどころか、どんどん仲間を呼ばれてしまっているようだ。
「お父さん! 危ない……!!」
 ユーリはユゥノ・ユリン(ゆぅの・ゆりん)に勢いよく背中を押され、地面に突っ伏した。
 背後からきた植物の粘液からユーリを守ったのだ。
「ユゥノ君!?」
「お父さんが無事で良かった……あれ? うご、けない……?」
 ユゥノは粘液のついた背中と足元から徐々に石化していき、しばらくすると完全に石になってしまった。
「ユゥノ君……!! だ、誰かーーー! いませんかーーー!?」
 ユーリは必死に叫ぶが、モンスターがどんどん寄ってくるだけ。
 石化モンスターだけではなく、他の種類も交じってきたようだ。
「このままじゃ……」
 泣きそうになっていると、漫才のような絶妙な会話が聞こえてきた。
「この声は……!」
 囲んでいたモンスターたちを蹴散らしてユーリの元に現れたのは白雪 椿(しらゆき・つばき)ネオスフィア・ガーネット(ねおすふぃあ・がーねっと)ヴィクトリア・ウルフ(う゛ぃくとりあ・うるふ)だ。
「だ、大丈夫ですか? ユリンさん……!」
 あわあわしながら、椿がユーリに話しかける。
「ユゥノ君が僕をかばって……」
 椿は完全に石化してしまったユゥノを見て、すぐに『清浄化』を唱える。
「椿に指一本触れさせないからな」
 ネオスフィアはにやりと笑うと、また囲ってきたモンスターたちを氷術で足止めしてから火術で燃やしていく。
「あれは……! 男大好きなモンスター!?」
 ヴィクトリアが見たのは光を襲っていた、薔薇型のモンスターだ。
 その薔薇型のモンスターが10株ほど押し寄せてきている。
「なんだと!? 椿、危険だから俺の後ろに!」
 ネオスフィアがユゥノを治療中の椿を守るように立つ。
「え、え……? でも、あ、あの……それではネオスフィアさんが……」
「大丈夫です。この卑猥物の事はどうぞお気になさらず椿様。椿様はどうぞ治療を続けていてください」
「ここは俺に任せ――ってーーー! ぎゃぁぁぁぁっ!」
 ヴィクトリアが前に立っていたネオスフィアの背中を蹴り飛ばし、薔薇型モンスターの群れの中へと放り込む。
「ウルフ貴様ぁぁぁぁ…………!!」
 薔薇型モンスターは我先にとネオスフィアの体をいじったり、絡んだりしようとしながら、山の奥へと消えて行ってしまった。
「彼は犠牲になったのです。さあ、他の植物も片してしまいましょう」
「あ……あう……」
 にっこり笑うヴィクトリアにあわあわしながら椿はなんとかユゥノの治療を終えた。
「椿さん、助けてくれてありがとう!」
「その……少しでもお役に立てて良かったです」
 ユゥノがにっこりとお礼を言うと、椿も嬉しそうに笑うのだった。
 その後、椿がなんか色々と危険だったららしいネオスフィアを発見し、連れ帰ったが、しばらく植物……特に薔薇には決して近寄らなかったとかなんとか。


「もうちょっとだよ、頑張ろうね〜♪」
 元気よくアランに声をかけたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。
「う、うむ……」
 さすがに歩き疲れてきたのかアランから少し疲れた声が聞こえてきた。
「歩けなくなりそうなら、早めに言ってくださいね」
 ベアトリーチェがそんなアランの手を引いて歩く。
「よ、余だって……やれば出来る子なのだ。子ども扱いするでない……ぜぇ……はぁ……」
 なんとか自分の足で頑張ろうとしているアランに呼雪が水筒を差し出した。
「飲んだ方が良い。水分補給は大事だからな」
「そうですね。あ、良い感じの切り株がありますよ。ここで休んでいきませんか?」
 呼雪の提案をうけて、ベアトリーチェが近くにあった大きな切り株を示した。
 切り株はちょっとしたテーブルくらいの大きさがあり、小さい子を座らせ休憩するには十分。
 アランにマユ、ファル、ユーラの4人が腰掛けて水筒の水を飲む。
 そこへ近づいてきたひまわり型のモンスターがいたが、ヘルが『風術』で吹き飛ばして、撃退。
 他にも近づいてくるモンスターがいるのだが、それらはたいてい背中の翼で空を飛んでいるコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が槍を振るい『真空波』で蹴散らしている。
「う……? どうしたのだ? なんだか息が荒いようだが……」
 護衛してくれているヘルにアランが声をかける。
「ん〜……魅惑の猫耳の誘惑と闘ってるのー」
(呼雪の猫耳にじゃれつきたい! もふもふしたい! しっぽを軽くひっぱったりして反応を楽しみたい! なーんて言えないもんねー)
「う? なんだかよくわからんが、大変そうだな」
「うん、まあねぇー」
 そこへミニ薔薇型のモンスターが大量に押し寄せる。
 数は50を軽く超えている。
 なぜかツタで狙ってくるのは男の子ばかり。
「わっ……数が多い……! どこから……出てきてるんだろう? あ、あった! 小さな洞窟が住処なのかな? そこからいっぱい出てきてる」
 そのことを知らせようと、アランのそばに下りてきたコハク。
 ミニ薔薇たちはコハクがアランのそばへ来たのを見計らったようにツタを伸ばしてくる。
「危なーーーい!!」
 次の瞬間、コハクとアランが見たのは美羽の蹴りから出てきた『真空波』によって切り刻まれたツタとミニ薔薇たちだった。
「これで大丈夫……じゃない!?」
 美羽が切ったツタから出た粘液がアランの服にべったりとくっついていた。
 粘液はアランの服を融かし始める。
「アラン様、失礼します」
 そう言うと、セバスチャンは素早く無事だったかぼちゃパンツ以外の服をはぎ取った。
 なんだか、小さな裸の王様みたいになってしまった。
「そのままだと、困るよね」
 コハクは自分が羽織っていたロイヤルガードのコートをアランに着せてやる。
 しかし、ぶかぶかでコートを引きずってしまっており、裸の王様がマントをつけたみたいになってしまった。
「可愛い……!!」
 美羽は思わずそう声を漏らしていた。
「ここは俺が道を開く。早く行ってくれ」
 ヴァーチャースピアを振り回し、押し寄せるミニ薔薇たちを切りながらマグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)がやれやれといった体で話しかける。
「……!!」
 マグナを見たアランの目が光る。
「なんだ?」
 キラキラと目を輝かせながら、戦っているマグナに近づくアラン。
「ここには俺が所属しているパラミタ狩猟組合の仕事で来ている。危険な場所なのだからとっとと通行してくれるとありがたいのだが?」
「そなたは……」
「?」
「そなたは……ロボットヒーローなのか!?」
 わくわくした瞳で見つめるアラン……と、栄斗。
「そうだな……【鋼の勇者たる心】を持つもの……とでも言っておこう」
「かっこいいのだー! ヒーローはやっぱり実在したのだーーー!!!」
 さらに目が輝いた。
「ありがとう。だが、ここにいては危険だし、俺はこいつらを狩りにきている。よって、早々に立ち去ってくれると嬉しい」
「わかったのだ! すぐに移動する! ヒーローのお仕事頑張ってくれ!!」
「いや、狩猟組あ……ああ、頑張るよ」
 あまりにもキラキラした瞳で言われたため、そう答えたマグナだった。
 マグナの支援もあり、アランたち一行はそのまま頂上へと向かって行ったのだった。