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リアクション
「グッドモーニング皆さん! 今朝のマグ・メルスウィンギングレポートショーでは予定を変更して戦乱渦巻く遺跡での模様を激しく、緊急レポートしたいと思います!」
 シン・クーリッジ(しん・くーりっじ)の持つカメラに、そう元気よく挨拶したのは九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず) だ。
 この戦いの真実を伝えようと、光勢力ではあるものの、公平に遺跡内での戦いをリポートしていた。
『ロゼ。もう少し右に寄って。シンは遺跡の傷が見えるようにカメラをゆっくりまわして」
「了解っと」
 そんな2人に無線で指示を飛ばすのはディレクター兼ローライダー運転手の冬月 学人(ふゆつき・がくと)だ。車の中で終始送られてくる映像を見つめながら、事細かに立ち位置を指示していく。
(ありのままのものを皆に届けるんだ!)
 そんな意気込みが感じられた。
「いいなぁ。俺もドラゴン触りてぇ」
 シンが、ドラゴンと戯れる一行をカメラに映しながら言った。確実にその声が入ってしまっただろうが、本人はまるで気にしていない。他の二人も注意しないので、よいのだろう。
 ローズはドラゴンを見つめ、何かを言おうとして口をつぐむ。
(ダメダメ。リポーターは公平でなくっちゃ)
「ロゼ、シン。場所を変えよう。地図の行方を探さないと」
「そうだね! たしかあっちに行ってたよね?」
「ああ! かなり早かったし、いそがねーと」
 3人は再びローライダーに乗り込み、地図の行方を追いかける。
「あ! 見つけた」
 1人遺跡を走るフレデリカの姿を見つけ、ローズは怪訝に思いながらもリポートを再開する。
「どういうことでしょう? 地図を奪い去った光勢力の託とそれを追いかけた闇勢力のゲドーの姿が見当たりません」
 シンがカメラをフレデリカに向ける。そして、彼女が地図を持っているのをとらえた。
「おっといつの間にか地図は光勢力へと渡っていたようです。しかし、ここに来る道中、残り二人の姿はありませんでした。これは一体」
「どういうことなんだ?」
「知らないよ!」
 軽快なやり取りをしつつ、リポートは続いていく。
「このまま逃げ切れるのでしょうか?」
「(あれ、なんなのかしら?)」
 フレデリカはよく分からない顔でローズたちを見るが、敵ではなさそうだと逃げることに意識を集中させた。
「っと、待った! 地図は俺がもらう!」
 そこに立ちはだかったのは神崎 荒神(かんざき・こうじん)。声を発する夜より前に拳を突き出していた。フレデリカは直前で気づきなんとか受け止めるものの、二発目の拳をまともに受けてしまった。
 腹に刺さった拳に、ぐっと息が詰まるフレデリカ。その一瞬に荒神は地図を抜き取る。
「かえ……う」
「悪いが、俺と超宝珠との出会いは必然。地図を手に入れるのも必然だからな」
 奪い返そうとするフレデリカだが、今までの疲労がここで一気に彼女を襲った。ゲドーとの戦闘。託とのやり取り。逃亡。
 肩で息をし、膝をつく彼女に「じゃあな」とだけ言った荒神は、そのまま走り去って行った。
「手に入れた……けどまだ油断はできねーな。俺と同じこと考えてるやつはいそうだ」
 同じこと。つまり、地図争奪戦のどさくさで奪おうとすることだ。急ぎつつも慎重にあたりを警戒しながら荒神は出口を目指していた。
 このまま逃げ切れるのかっ?
「超アイドル勇者、美羽ちゃん参上! 闇の勢力に、超地図は絶対渡さない!」
 と、頭上から声が聞こえたのはそんな時。
 荒神が動きを止めて首を上へ向ける。高い天井の梁、のようなその場所に堂々と立つ小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の姿があった。美羽の隣には
「あ、えっと……超賢者のベアトリーチェです」
 礼儀正しく頭を下げるベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)もいる。
 リポートをしているローズたちの目やカメラも美羽たちへと向けられたことで、美羽はどこか嬉しそうな顔をした。
 そしてぽかんと口を開けている荒神に向かって絶対領域を使った。一瞬動きを止めてしまった荒神に、美羽はその場から飛び降り、勢いそのままに回し蹴りをした。
 ひらひらと超ミニスカートが揺れる。
「ちっこれぐらい!」
「やるね! でも絶対負けないんだから!」
「俺だって負ける気はねー」
 白熱していく両者の後ろで、ベアトリーチェは静かに地面へと降り立ち、地図をじっと見つめた。隙をついて地図を奪い返す。それが彼女の役目だ。
 が、地面が揺れ始めたことで注意が地図からそれる。それは戦っていた荒神と美羽も同じで、全員が周囲を警戒した。
「すいません! 私を魔物から助けて〜〜!」
「ちょ、なんであたしまで」
「すいませ〜ん。光の勢力を不利にさせるつもりだったんですぅ」
 叫びあうように会話しながらやってきたのは師王 アスカ(しおう・あすか)と、どこから見ても小学生な姿になった茅野 菫(ちの・すみれ)である。赤いランドセルが眩しい。
 そんな2人の背後で砂埃と地響きを立てているのは、モンスター。それも一匹や二匹ではない。それらが2人を追いかけていた。
 と、いうのも、闇の一員として召喚されたアスカは「特技を使って光側の英雄達を不利にさせよう」と考えた。その特技は、何もない所でなぜか転んだり、魔物を呼び寄せたりすることだ。
 決して自慢にはならないが、今回はそれを利用しようと考えたのだった。
 悪くない着眼点だ。
 そうして実行した結果、たまたま近くを通りがかった菫を巻き込んでしまい、ここまで逃亡してきた、というわけであった。
「あ、もしかしてあれって光勢力じゃ」
「そうかもですぅ。よかったぁ」
「えっこっちくる?」
「そうみたい、ですね」
 美羽と菫の目がばちっと出会い、アスカの目が輝いた。
「ちょっとこんなの聞いてないよ!」
「困りましたね」
 突撃してきたモンスターの相手を仕方なくしながら、美羽とベアトリーチェは荒神を見ると、同じくモンスターに襲われていた。どうも、操ったモンスターではないらしい、と理解した。
 その場は闇も光も関係ない混戦状態に陥っていた。
「え〜っとあなたはたしか闇におられましたよねぇ?」
「あ、ああ」
「じゃあ、ここは私に任せてぇ先へ」
 荒神のモンスターを請け負ったアスカ。美羽たちは焦るが、モンスターが邪魔をして向かえない。荒神が混戦状態から抜け出る。
「この超地図はコグレたち闇の軍勢の手元に渡すわけにはいかない! 邪魔する奴はこの超勇ニャー如月がお相手しよう!」
 そんな彼の前に現れたのは如月 正悟(きさらぎ・しょうご)。地図の奪い合いが始まるだろう時を待っていた彼は、ようやく混戦から抜け出て安堵した荒神から地図を奪い取った。
 それを見た美羽とベアトリーチェはホッとしてから、正悟を促した。
「ここは私たちに任せて、君は地図をお願い!」
「しかし!」
 今だそこはモンスターがたくさんおり、しかも闇陣営が3人。明らかに美羽たちが不利だ。正悟は声を上げようとし、
「頼んだ」
 くるりと背を向けて、全速力で走り去る。
――彼女たちの犠牲、決して無駄にはしない!
※死んでません。
「でも敵のヤラシー・キテルってどこがやらしいんだろう。いやらしさだけなら負けないぞ、多分!」
 そんな疑問を呟きつつも、周囲を警戒する彼の目は鋭い。
 仲間から地図を託されたのだ。奪われてなるものか。という意気込みを感じる。
 そうして正悟が去って行った混戦地帯……の、少し離れた場所で、菫はじ〜〜っとソレを見つめていた。
『絶対押すな!』
 でかでかとそんな注意書きが貼られた場所にある、赤いボタン。怪しい。怪しすぎる。ボタンの左には、
『マジだぜ。マジで押すなよ』
 右には
『え、押しちゃうつもり? 危ないから止めた方がいいって』
 下には
『総員退避ーーー!』
 と、ご丁寧にも張り紙があった。ここまで言われてしまっては、逆に気になる。
「押すなとか危険とか書いてあったら、つい押しちゃうものよね?」
 誰にともなくそう言いながら、菫はぽちっとな、と押した。押してしまった。
「ここは通さないんだかっ」
「通してもらっ」
「これで光の皆さんを足止めで」
「美羽さ」
 全員の声が途切れた。……いや、違う。その場にいた者たちの姿が、消えていた。どこへ消えたのか。
 たくさんの着ぐるみとパンを抱えたたり下着を買いに行ったりしている人々の姿が見えた、ということだけ、お伝えしよう。
 
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