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第二章 ため息まじりのラプソディー
「代役ということは奈夏さんに顔や体格が似ているということですよねっ☆ 詩穂、覚えた♪」
「折角のイベントが台無しになったら事務所の人もそうだけど、何よりソララだって嫌でしょうから」
「音楽祭を楽しみにして来た人達の為にも、ソララ自身の為にも、見つけて上げないとね」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)白波 理沙(しらなみ・りさ)長原 淳二(ながはら・じゅんじ)はいなくなってしまった歌姫ソララを探しに来ていた。
「どんな格好をしているのか、分かりますか?」
「そうね……服装・持ち物、あとは行先を絞れるかもしれないので、趣味や好きな事など教えて下さい」
 問う淳二や理沙に、事務所の社長さんは真剣に答えてくれた。
「ステージ衣装のまま手ぶらで……趣味・好きな事は『歌う事』か。ん〜、情報が少なすぎるか」
「そうでもないよ。少なくとも、ソララさんはそう遠くに行ってないって事だし」
「写真があるのは正直、有難いですね」
 写真代わりのブロマイドを見やる淳二に、詩穂達も頷く。
「これならきっと、見つかる……ううん、見つけるわ」
「帰ってきたらお説教ですね」
「よろしくお願い致します」
 任せて、と言う詩穂に社長さんは深く深く頭を下げ。
 理沙達は顔を見合わせてから、確りと頷いたのだった。
「それにしても人が多いわね……当然と言えば当然だけど」
「怖いのは、戻ってこれない事情があるのかも、って事だよね」
「何かトラブルに巻き込まれていないといいのですけど」
 言いつつ、聞き込みをしながら捜索を続ける三人。
 勿論、理沙のパートナーであるチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)ミユ・ローレイン(みゆ・ろーれいん)ピノ・クリス(ぴの・くりす)達もまた、共にソララを探していた。
「ソララさん、どこに居るのかしら…?」
「あら〜、チェルシーさんに探せるのかしら〜?」
 イベント成功させる為にも頑張って探しますわ!、と意気込むチェルシーだったが、横から掛けられた声に反射的に睨みつけてつまう。
「……て、なんですの? ミユはわたくしが役に立たないと言いたい訳ですわね?」
「だって、チェルシーさんってお嬢様育ちなのでしょう? お金を持たずにどこかに行ってしまったソララさんが居る場所を探せるほど世間を知っていると思えないんですけどぉ〜?」
 にこにこと一見邪気のないミユの笑顔だが、チェルシーには真っ黒に見える……というか、そうとしか思えない。
 それでも、まだ言葉遣いだけでも丁寧なのは、理沙が側にいるから、だろうが。
 その理沙は二人のやり取りには気付かぬまま、道行く人達に声を掛けていて。
「アナタだって大した考えも無いくせに毎回毎回うるさいですわよ!!」
「オマエが役に立たずじゃなければ誰が居るっていうんだよ? 足引っ張るのがオチなんだから幼女は大人しく帰れよっ!」
 理沙が気付いていないのを確認したミユとチェルシーとの言い合いは、加速……というか暴走を始めていく。
「なんですってぇ?!」
「何か文句あるのか、あぁ!?」
 往来で睨みあった二人は熱くなり、互いに掴みかかった。
 そのまま激しく口論しつつ、先を行く理沙から離れていく。
 ……パートナー達もまた、共にソララを探して『いた』(完全過去形)。
「あれ? チェルシーとミユは?」
「ん〜、二人なら仲良く遊んでたよぉ」
「そうなの……まぁこの雰囲気じゃ仕方ないかな」
 暫くして気付いた理沙だったが、やはりチェルシーとミユの状況を全く理解していなかったピノの口からは真実が語られる事はなく。
「私達は真面目に探しましょうね」
 お祭りで遊んでいるという二人は放置し、そのままソララ探しを続行するのであった。
「音楽祭……だけど、出店とかも凄いのね……あ、あれ美味しそう……」
 川村 詩亜(かわむら・しあ)川村 玲亜(かわむら・れあ)はメインストリートの出店をあちこち覗きながら、賑わいを楽しんでいた。
 焼きそばやたこ焼き、射的に型抜き、様々な出店が並んでいて、見て回るだけでも楽しかった。
「あっ、あの人達、何やってるのかなぁ?」
 その他、色んな所でパフォーマンスを披露していたり、ちょっとした演奏をしていたりもしていて。
「ダメよ、玲亜」
「えっ、行っちゃダメって…お姉ちゃん、酷いよぉ…」
「人が多いでしょ。離れたら会えなくなっちゃうわ。それに……あれはパフォーマンスじゃないみたいだし」
 迷子にならないようはぐれないように、ギュッと玲亜の手を握った詩亜は苦笑をもらした。
「大体、オマエ家で大人しくお留守番してりゃいいんだよ」
「まったく同じセリフをお返ししますわ!」
「……ね?」
「……う、うん」
 仲良く(?)罵り合いつつフェードアウトしていくミユとチェルシーに、やや怯えつつ玲亜は詩亜の手を握り返し。
「お姉ちゃん、私、あのキレイな色の飴、食べたいなぁ……って?!」
「あそこ見て! カラフルなヒヨコさん!」
 キラキラした瞳の詩亜がヒヨコさん達の前から動いたのは、それから結構な時間が経ってからだった。



「SoLaLaさんって歌手さんが出てくるんだって! 楽しみなの!」
 とわくわくしながらやって来た音楽祭で及川 翠(おいかわ・みどり)が知った、ソララ失踪。
「SoLaLaさんが失踪!? えっ、それじゃぁコンサート中止って事は無いわよね…?」
「あらら、噂の歌姫さん失踪しちゃったのね…大丈夫かしら?」
 反応は微妙に異なるが、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)徳永 瑠璃(とくなが・るり)の声にも顔にもそれぞれ心配の色があって。
「う、歌姫さん失踪ですか!? 大変です、大事です! ミリアさん、捜しに行きましょう!」
 それはティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)も同じで。
「えっ、エンジュって子が捜しに行ったの? それに、様子が変だったって…確かに、これは追いかけたほうが良いかもしれないわね…」
「とにかく私も捜してみるの!」
 更にそんな事を知ってしまえば、ティナも翠も放っておける筈はなかった。
 そうして、エンジュを見つけた時には。
「あなたがソララ……ですか?」
「うんエンジュ、それは男の子だからね!」
「どの辺が奈夏さんに似ているのでしょう?」
「……体重が同じ」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に脱力されている所だった。
「あ……あの人、奈夏と同じ身長……です」
「いやいやいやいやいや、あれどう見てもおばさんっていうか、うん一度根本的な所を確認しようそうしよう!」
 ベアトリーチェと二人、エンジュの両腕に縋るように引きとめているのだが、その力は強く。
 半ば引きずられつつ、美羽は無理やり説得を試みた。
「エンジュさん、どうしたの? 何かすごく焦ってる感じがするよ?」
 それは翠の指摘というサポートを得て、叶い。
 翠達はソララを探しつつも、とりあえず人気の少ない方へと移動していった。
「何か悩みがあるのなら、聞くよ?」
 エンジュは翠を見た後で、ミリアと瑠璃とティナとを順繰りに見つめてから。
「翠は……翠にはたくさん……います……」
 おずおずと口を開いた。
「私がいなくなっても……奈夏は誰か見つければいいです……でも私は……奈夏しかいません……」
 夏の海で奈夏が幽霊にとり憑かれた事を翠は思い出した。
 おそらくあれから、エンジュは怖くなってしまったのだろう……今まで考えた事もなかった、奈夏がいなくなるという可能性を考えてしまい。
 元々、奈夏とエンジュは少々歪なパートナーだった。
 記憶も一般常識も持たない機晶姫と、偶然出会った少女と。
 何も分からない二人は何も分からないまま契約に至りパートナーとなった。
 不器用で上手く距離がとれなくて、だから気付かなかったのだろう。
 分からないけれどずっと一緒にいた相手が、どれほど大切なのかに。
「あ〜」
 俯いてしまうエンジュに、翠とミリアは顔を見合わせ、美羽は空を仰いでしまう。
 これは多分、口で説明してもピンとこないだろうと察して。
「ソララさんを見つければ分かると思うの」
「あ、それ同感」
 翠に頷きつつ、「?」な顔のエンジュに美羽は少し口元をほころばせた。
 美羽は蒼空学園の先輩として、ずっとエンジュたちを見守ってきた。
 だから理由はともあれ、エンジュが自分から人助けをすることに、感激していた。
 思い悩むようになったのも、喜ばしいと思うエンジュには内緒だが。
「昔よりずっと感情とか表情とか出るようになったし、うん、いい傾向だよね」
「……?」
「ああうん、とにかくソララを見つけようって言ったの」
 小首を傾げたエンジュに、「頑張ろう、オー!」と美羽は元気よく声を上げたのだった。