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【猫の日】ニャンルーの知られざる生態

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【猫の日】ニャンルーの知られざる生態

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■ 庭園 ■

 最終目的地、タカーイマタタービ(小枝)が生えている庭園が見えてきた。
「うはー」
 誰かが思わず感嘆の息を吐いた。
 ここからでも見える庭園は、例え見えてるのが一部であってももなかなか立派なもので、伝説の植物が生えていると聞いて納得できる説得力があった。
 この不思議な空間に根を張る植物がどんな代物なのか、否応にも期待が高まるほどの鮮やかな色彩だ。
 しかし、浮かれてはいけない。
 この試練の道程の最後として、マシュマロ曰く最難関だと言う庭園の門を守っている巨大ニャンルーのボスネコダ・モンクアッカが残っているのだ。
 許可証が無ければ全て門前払いの、忠実で屈強で知能の低い門番に高度な交渉は難しい。そう、かの庭園に入り込むにはボスネコダを倒さなくてはいけない。
 では、どうやってニャンルーの十倍はあろう巨体を倒すのか。
 先手必勝とばかりに、最初に動いたのは、途中で拾ったボロ布を纏ってどこか風来坊っぽい感じになっている恭也だった。
 先ずは挨拶とばかりに疾風迅雷の速度で接近すると手刀を振り上げた。
 最速の不意打ちをまともに食らったボスネコダはぐらりとよろめいた。よろめきつつもなんとか踏み止まったボスネコダの前に恭也は着地して、すちゃっとポーズを決める。
「おら、かかって来いよデブ猫!」
「う”にゃあぁー――!」
 見下し顔の挑発にボスネコダは正面突破を狙う侵入者の存在を認めた。
 庭園を充満するだけでは飽きたらず風に乗って漂ってくる柑橘系のきつい匂いに平気そうな顔をする侵入者の面々に、ボスネコダは目をゆっくりと細めた。
 ただのニャンルーにしては雰囲気が違うと本能で察したらしい。
 むしろ庭園から漂う香りにうっとりとし全身からうきうき気分が滲み出ているエースにこいつが主犯かと警戒心を攻撃へと転じた。先んじてディテクトエビルで襲撃を察知したメシエがエースのその首根っこを掴んでニャンルーの十倍大きいボスネコダの拳を回避した。
「いきなり攻撃されたにゃ」
 そこらのもんすたーよりも迫力のある一撃にエースははしゃぎ様は加速していくばかりだ。そんなに猫と戯れるのが楽しいのかと呆れるメシエにエースは耳がちょっと傾く感じで首を傾げた。
「ボス戦している間にマタタービをチョロっとかすめ取れにゃいかな」
「狙われている限り無理だろうねぇ」
 タカーイマタタービ(小枝)が最終目標だ。大きくてもニャンルーな門番に手酷い喧嘩をふっかけに来たのではない。被害を最小限に抑えるには短期決戦なのが理想とエースは両手の肉球をぷにっと合わせて、ニャンルー全員にゴッドスピードを分け与える。
「さぁ、こっちよ!」
 結局は性格のやさしさが故にマシュマロの不甲斐なさにため息を吐きながらも手伝うさゆみは臆せずボスネコダの足元に駆け寄った。振り払われる腕をスウェーで躱す。それを繰り返して体力の摩耗を狙う。傍から見れば小さいニャンルーが大きいニャンルーを手球に取っているように見えて、どことなく微笑ましい。
「こんなのはいかがです?」
「みう”?」
 光術のフラッシュが焚かれた。光の刺激に驚いたボスネコダは条件反射の様に怒りゲージを跳ね上げ、網膜を焼かれて見えぬ視界にブンブンと見当違いの空間を攻撃し始めた。
 恋人の後方支援にと錯乱を狙ったアデリーヌの作戦は見事成功し、冷静さを失ったボスネコダは増々とヒートアップして攻撃方法はどんどん単調になっていった。
「マシュマロくんのプロポーズを成功するようにタカーイマタタービを手に入れるのにゃから、いくら門番でも邪魔はさせにゃーい!」
 忍が密林で拾った秋刀魚にしか見えない枝をボスネコダに向かって突きつけた。
「お庭を荒らすわけじゃありませんのにゃ。ただ私達はタカーイマタタービを欲しいだけですにゃ、譲っていただけませんかにゃ?」
 無血開城ならこの上ないと香奈はダメ元で頼んでみたが、はやりマシュマロの言うとおり、脳筋でも庭園の守り手。事情があるんですね、わかりましたはいどうぞ、というわけにはいかないようだ。
「言っても分からぬ猫には力づくで分からせるしかにゃい!」
 例え相手が強敵でも怯まずばっちこーいと臨戦態勢を取った信長は握った拳を腰に溜めると大きく息を吸った。ぴりぴりとヒゲが緊張に張り詰めていく。
「食らえ、肉球波ッ」
 信長の遠当てがボスネコダに命中し、ぺこんとお腹がなんとなく肉球の形にへこんだように見えた。
 一歩退いたボスネコダに向かって忍は得物を万力を宿さん気概で握り込むと地面を蹴り上げる!
 両耳を両手で塞いで、蹲りびくびくとただ怯えているだけのマシュマロに近づいたのは天音だった。彼は怒りMAXのボスネコダにヒュプノシスが通じないことに少し考える様だった。
 ぽん、とマシュマロの肩を叩く。
「ひにゃんッ」
 酷く驚いたマシュマロに天音はただ微笑んだ。
「マシュマロ。これが最後なんだよ。勇気を振り絞ろう」
 何のために僕らが此処にいるのか、忘れないで欲しいとマシュマロに短く伝えた天音はボスネコダに挑戦しているニャンルー達に向かって歩き出す。
「ねぇ、ちょっと考えがあるんだ。できれば同じ考えの人がいると嬉しいくらいなんだけど」
 と、皆を呼び集める。
 ボスネコダの注意をお供のニャンルーに任せて契約者組は円陣を組んで話し合いを始めた。途中からじゃんけん大会になっている。
 耳を閉じることを止めたマシュマロは蹲ったまま自分の両手を見下ろす。
「これが最後にゃ」
 手を握ったり開いたりしてみる。
「これが最後にゃ」
 手を握ったり開いたりしてみる。が、それでボスネコダが消えるわけじゃない。
「これが最初で、最後にゃ」
 手を握って、握って、握りしめた。
 なんの為に挑戦しようと決心したのか。
 巻き込まれながら仕方ないなと皆がどうして協力してくれたのか。
 それは、思い出すまでもない。
 すっくとマシュマロは立ち上がった。
 同時に、じゃんけん大会も終了した。
「あの、にゃ」
 契約者達に近づいてマシュマロは震える声で両手を握りしめた。
「僕、やるにゃ」
 決意したマシュマロに変わらない微笑を浮かべた天音は、彼に手を差し伸べる。
「じゃぁ、君が一番上だね」
「へ?」
「ブルーズ!」
 掛け声に待ってましたとばかりにブルーズはぷにぷにお手てでなんとか印を組み僅かに腰を落とした。
 発動したホワイトアウトで場は瞬時にして白い世界に閉ざされる。
「いまだ! 猫身合体ッ!」
 誰かが発した号令が響き渡る。
 かくして、目眩ましに増々こめかみに血管を浮き上がらせたボスネコダの前に、その巨大な影は姿を現したのだった。
 ニャンルーが腕組で横に。
 ニャンルーが肩車で縦に。
 それはニャンルーで全て構成された大きな大きなニャンルーだった。
 全員参加のブレーメン作戦である。
 一番てっぺんに配置されたマシュマロがきゅっと唇を噛み締めて、大きく息を吸った。
「せーの、 ――威嚇ッ!」
 誰よりも大きいボスネコダ。
 自分よりも大きい存在を知らないボスネコダ。
 そして、ニャンルーは自分より大きいものが苦手。
 その脅威はいか程か。
 ボスネコダは気絶した。