リアクション
第五章 雨降って雪溶けて
「はい、皆さんお疲れ様です」
「コーヒーに紅茶、色々あるがどれにする?」
「子供達にはココアもありますよ!」
ゲームが終わった面々を迎えたのは、朱里とアインとベアトリーチェの、温かな飲み物だった。
「ずっと雪の中で遊んでて、寒かったでしょう」
美羽や子供達が作った大きなかまくらの中、朱里はセレンフィリティやリース、マーガレットに飲み物を手渡していく。
「ありがと」
「つ、疲れました」
「でも楽しかったよ」
「後一歩のところだったのに、悔しいであります!」
「ていうか箒はやっぱり反則だよ、盛り上がったけど!」
「それを言うならあのトラップには参ったわ、完全に引っ掛かっちゃったもん」
温かな飲み物で身体を温め疲れを癒しながら、吹雪や翠や梢が声を弾ませる。
そんな光景にそっと微笑んだ朱里だったが、奈夏とエンジュ……隣合いながら、やはり少しぎこちない二人に気付いた。
「ね、朱里お姉ちゃんとアインお兄ちゃんはふーふなんでしょ? ケンカとかする?」
と、一人の女の子に問われた朱里は少しだけ考えから、口を開いた。
「そうね……ケンカというのは滅多にないけど、私に何かあった時の彼、結構取り乱したりして大変なのよ」
「!?、朱里……っ?!」
思わず声を上げるアイン、朱里は気づかぬフリでニコニコと続けた。
「こないだなんか『朱里を傷つけた奴は誰だ!?』なんてものすごい剣幕で怒ったりなんかしてね、結局その誤解は解けたんだけど」
「え〜、アインお兄ちゃんが?」
「普段冷静な彼なのに意外?」
子供達の視線の集中砲火を受けたアインは、自らの顔を両の手で覆った。
「君は一体何を言っているんだ、朱里。だからあれは僕の誤解であって……」
アインのその声は常に無く弱く、顔は誤魔化しようのないくらい赤くて。
「でも、相手を好きであればある程、不安も大きくなるものなの。たまには正面からぶつかって、不安な心も、寂しい気持ちも、きちんと吐きだしてみてもいいんじゃない?」
「確かに……傍目から見て、君達は圧倒的にお互いの会話が足りてない。きちんと話し合うことで、見えてくるものもあるだろう」
それでも、朱里に続いて告げた言葉は、奈夏達を労わる気持ちに満ちていた。
「仲が良いというのは、全くケンカをしないことだと思いますか?」
ほわほわと漂うココアの湯気の向こう、顔を窺い合う奈夏とエンジュに聞いたのは、ベアトリーチェ。
「出会った頃とは違う……2人はケンカできるくらい近い存在になった、それくらい親しい関係になったということですよ」
「別の人間だもの、意見が違って当たり前なんだよ。だからぶつかって、時にはケンカして、それで仲直りして……前よりもっとお互いを知っていくんだよ」
「私達、ケンカする前より仲良くなれた、かな?」
「……はい。少なくとも私は……嬉しかった、です……」
「うん。じゃあエンジュ、聞いてくれる? 色々カッコ悪いけど……ていうか寧ろ、カッコ悪いトコしかないうじうじした話だけど!」
「奈夏がカッコ悪いのは……最初からです……最初から奈夏はカッコ悪くて……それからすごくカッコ良かったのです……」
ひどい、と言いかけて奈夏はへにゃりと笑い、エンジュもまた微笑んだ。
互いの顔を見合わせ、久しぶりに。
「変わった関係、か」
マークは呟いて隣のジェニファをそっと窺った。
自身では、出会った頃より成長したつもりでいる、否、成長している!、筈。
なので守られる弟の立場ではなく、ジェニファを守る立場になりたい。
故に呼称も「ジェニファ」と呼びたい!
(「けど、習い性で今まで通り、つい『姉さん』と呼んでしまうんですよね(泣)」)
「ん? どうしたの、眉間にシワ寄ってるわよ?」
「えっあっ、あの……………………なんでもないです、姉さん」
確かに築いて来た関係を変えるのは難しい、マークはそっと気づかれないように目頭を押さえた。
「しかし、解決方法も含めて子供のような喧嘩だ…結局の所、似たもの同士と言うことか」
かまくらの外で奈夏とエンジュの顛末を見届けた刀真は、笑みを刻み。
「喧嘩が出来る、そして喧嘩をした後に仲直りが出来る、それもお互いの絆の一つだな」
その視線を上空へと向けた。
「正直に言おう…雪の女王と冬将軍の喧嘩が痴話喧嘩にしか見えない」
「痴話喧嘩ですか? 雪の女王様と冬将軍様はいつからお付き合いされていたんですか?」
『付き合ってなぞ居らぬ!』『誰がこんな奴と?!』
「バッチリ気があってるじゃない」
「素敵です!」
揶揄する月夜と純粋に言う白花。
『誤解じゃ!』『誤解だと言うておろう!』
「あぁまたケンカになっちゃうよ!」
「いや、それで良いんだ。お互い言いたいことを言い合って、それから仲直りすればいい」
刀真は月夜に言い、ちょっとだけ不安そうな白花の髪を撫でてやった。
「平気だよ…絆っていうのは、壊そうとするから壊れるんだから。相手を想っていればちゃんと仲直りできるよ」
まあ、喧嘩した後にゴメンと言うのは結構恥ずかしいんだけどね、とつけ足した刀真は、ふとからかうように言った。
「というか冬将軍は半分、演技だったろ? 雪の女王と俺達が上手く仲良くなれるように、一芝居打ったんだろ」
『……さぁてのぅ』
『ふん、お節介が』
「あっ、お二人共、背中合わせでお話してみてはどうですか? 出会った時の事、過ごしてきた中で起こった事とかその時の気持ちとか、直接顔を見たら照れてしまっていえない事も、声だけだと素直に言えると思うのです」
「お互いの姿を見ないで想い出話をする事で、色々と話を広げるのか〜、白花よく思いついたね? 凄い」
白花と月夜に促され、精霊達はかなくらの横、不承不承背中合わせになりながらポツポツと語りだした。
聞いている方が思わず微笑んでしまうような、優しい響きで交わされるそれ。
「私達も出会ってから色々あったよね…今度皆で話しよう!」
「それもいいが、俺達も偶には喧嘩をして、言いたい事を言い合った方が良いのかな?」
ふと呟いた刀真は、月夜の目がキランっと光るのを見た。
「むっ、刀真に言いたいことか〜…自分の好き勝手に動いて、危ない所にも平気で突っ込んでいっちゃうし少しは気をつけて欲しい」
「えっ、そう? うん、気をつけるよ」
「無茶はしないで下さい…色々と心配しているんですよ?」
「えっ、それも? はい、気をつけます」
「後は私達の事をもっと気遣って! えっと…もう少し構って欲しい」
「もう少し一緒にご飯を作って欲しいです…一緒に居られると嬉しいですから」
注意の後、頬を赤くして上目づかいで「お願い」してくるパートナー達に、つい軽口を叩いてしまったのは、照れ隠しだった。
「いや、俺も月夜達のスキンシップが激しいと困るから勘弁して欲しいな〜と…あっ、スイマセン、ホントゴメンナサイ」
「まだ、そんな事言うの! 私達も恥ずかしいけど、頑張っているのに! とうまのばか!」
だが、それが失言だと気づいたのは、月夜が両の頬っぺたをつまんでむぎゅっと引っ張ったからだ。
「月夜さん、落ち着いて下さい、刀真さん痛がってますから……」
「良いの! 刀真をいじめて良いのは私だけなの!」
「……それをして良いのは月夜さんだけじゃありません!」
「にゃー!? 白花が怒った? いたい、いたい〜、ほっぺた引っ張らないでー!」
『……あの者達は何をしておるのじゃ?』
『仲直りする為のケンカ……というよりじゃれ合いだな』
ぎゅーぎゅーぎゃーぎゃーする三人に、かまくらの中から顔を出した子供達がビックリしたり、精霊達が楽しそうに笑ったり。
凍てついた雪は溶け、冬が終わろうとしていた。
こんにちは、藤崎です。
今回はちょっと色々弄らせてもらっちゃいました、チーム分けとか不本意な部分等ありましたらごめんなさい、楽しかったです♪
三歩進んで二歩下がったり、一歩進んで三歩下がったり、な奈夏とエンジュの関係ですが「したいの」シリーズ(と藤崎は呼んでました)としてはこれで一先ず終わりとなります。
多分、この二人はこの後もやっぱりこんな感じで、でも少しだけいい感じでやっていくのではないかな、と思います。
とうか思わせてくれる終着に辿りつかせてくれた皆様に、心からのお礼を申し上げます。
ではまた、お会い出来る事を心より祈っております。