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 第 4 章 -スイーツの誘惑-


 真新しい薔薇の学舎新制服に身を包んだ小学生くらいの男の子――見た目は子供、だがその正体は騎沙良 詩穂(きさら・しほ)であった。
「”ちぎのたくらみ”で子供の姿になってるし、仮に知り合いに会ってもわかんないよね……うん、自信持とう! 問題は彩々の場所ってどこなのかな」
 キョロキョロと学舎前を見回すとお土産用スイーツを販売しているのを見つけた。
「え、お土産用のスイーツってあるんだ……! でもここまで来ちゃったし、せっかく忍び込める恰好してるからやっぱり行かなくっちゃ。あの人達に聞けば彩々の場所教えてくれるよね……?」
 子供らしく、トコトコと近付くと詩穂は一番近くにいたヴィナの上着をくいくいと引っ張ってみた。

「おや……どうしたのかな、坊や?」
 ヴィナの反応に詩穂は心の中で『大成功!』と叫びつつ彩々の場所を訊ねた。
「あの、彩々へ行きたいんです。詩穂は……っあわわ! ぼ、ぼく入学したばかりでまだよくわからなくて……え、えへへ」
 一瞬、訝しげな顔をするヴィナだったが制服を着ている事と子供故で体型を見分けづらい状況から一応目の前の子供は男の子と判断した。
「ああ……彩々なら、校舎に入ってすぐに案内板があるからそれを辿っていく方が間違いなく行けるはず……入学したばかりなら君の道案内に俺も付いていこうか?」
 詩穂が遠慮しようとすると、横から突然ボーイソプラノの声が響いた。
「ワタ……じゃなかった、ボクも彩々の場所が知りたいの!」

 ヴィナと一緒に声のした方を向いた詩穂はノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)とばっちり目が合った。直感で男装してきた少女だと気付くとおもむろにノーンの片手を掴む。
「あ、あの……お兄さん! 場所を教えてくれてありがとう! ぼく、友達も一緒だからっ、彩々の場所は聞いたから行こう!」
「ふえ? ……きゃあー!」
「あ! 待ってくれ君達!」
 引き留めようとしたものの、ノーンの手を引いて一目散に学舎の中へ入る詩穂をヴィナは茫然と見つめていた。

「……俺としたことが、眼鏡の坊やはともかく後から来た子は間違いなく女の子だろう。どうしたものかな……ひとまず、一寿とダニーに注意するよう頼んでおいた方がいいだろう」


◇   ◇   ◇


 頭を抱えるヴィナの横を堂々と通り過ぎる二人組――
ダッフルコートに身を包み、女性らしい身体のラインを隠すための補正下着などを身につけ薔薇の学舎へ潜入という一大ミッションを実行中である。
「彩々の場所を突き止める事が現時点での最優先事項……」
 ヒソヒソとミッションの内容を確認し合うように小声で話したセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は真剣そのもの。それを横目で見たセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が溜息混じりに訊ねる。
「ねえ、セレン……? 一応お土産用で持って帰れるスイーツが売られているけれど、それで妥協するつもりはない……?」
「何を言うのよセレアナ! 持って帰れるスイーツの中に、限定品があるとは限らないわ……彩々で振る舞われるから限定品という価値も出るのよ!」
 主張するセレンフィリティも多少、声を抑えているものの限定品スイーツへかける情熱は隠せない。セレアナはもはや諦めたように後に続き、その際に一つ独り言を零す。

「……その熱意と真剣さを、少しは職務に向けたら今頃もっと昇進していたのじゃないかしら……?」

 聞こえない、とでも言うようにひたすら彩々の場所を探るセレンフィリティ。丁度、通りかかった初老の紳士が「彩々で休憩を……」という言葉を聞きつけ、その紳士の後について彩々までの潜入ミッションを成功させようとするのだった。


◇   ◇   ◇


 ノーンの手を取って校舎に飛び込んだ詩穂は、ひとまず隠れられそうな場所を見つけ、そこに身を隠した。
「うーんと……どこかで会ったっけ?」
 覚えがない、というように首を傾げるノーンに詩穂だと告げる。
「えー!? 詩穂ちゃ……っむぐ」
「お願いだから大きな声出さないでね、ノーンちゃん……でも一人で来たの?パートナーの方よく許してくれたね?」
 こくこくと首を縦に振りながらノーンも詩穂へ質問する。
「うん、男装で行っておいでって。でも詩穂ちゃん、よくワタシだってわかったね? 上手く変装出来てたと思ったのに」
 詩穂はなんとも言いづらそうに曖昧な笑顔を見せると乾いた笑いで誤魔化した。
「あ、うん……あの、ほらそれは同じ『匂い』というかね」
「くんくん……ワタシから、何か匂いするの?」
「いや、その匂いじゃないの……ノーンちゃん。同じように男装してる女の子だって直感したらそれが大当たりしちゃったの」


 その後、2人で相談の結果――幼馴染同士で「彩々」へ招待し、一緒にスイーツを食べに来たと口裏を合わせてヴィナに教えられた案内板を頼りに彩々へ向かっていった。