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■第3章

 動物園の入り口。
 園長はこの場所で捕獲された動物達を数えていたが、どうにも数が合わないようだ。
「……これで全部、じゃないですよね?」
 彼の様子が気になった騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は園長に話しかけた。
「ええ、大方はみなさんのおかげで無事に保護できたのですが」
「なるほど、夜行性動物達に足りてない子達が多いんですね」
 詩穂は園長がチェックを付けていた資料を覗き込む。
「丁度日も暮れてきましたし、いいタイミングですね!」
「どこへ?」
 突然歩き出した詩穂へ園長が声をかけると、彼女は歩きながら振り向いた。
「ナイトサファリ、行ってきますよ!」
 
「暗くなってきましたね、面倒な事にならないといいですが……」
「もう十分面倒な事になってるけどなー」
 枝々咲 色花(ししざき・しきか)八草 唐(やぐさ・から)は園内に黒幕となる人物がいるという話を他のメンバーに聞いてから、園内を回りそれらしい人物を探している。
 もっとも、結果は今のところ出ていないのだが。
「やってらんないぜ……」
 黙々と探索を続けている色花とは別に、唐は歩き続けることに疲れてしまったのかやる気を感じられない。
「唐、後ろです!」
「あ、なんだよ?」
 色花の叫びに反応し、背後を見ると目の前には大きな口を開き飛びかかってくるヒョウの姿が目に入った。
「おおっ!?」
 咄嗟に体を捻り間一髪噛みつかれることはなかった。
「この……!」
 唐がヒョウを見据えながら武器を取り出そうとするが、色花がそれを制止する。
「傷つけてはダメです、何としても捕獲します」
「どうやって!」
 今2人は捕獲用の装備を持っていない。
 どうすればいいかと悩んでいるうちにヒョウは既に体勢を低くしており、飛びかかるつもりだ。
 しかし、ヒョウが動くよりも先にその体が真紅のマフラーによって包まれ、動けなくなった。
「大丈夫か?」
 暗がりから伸びてきたマフラーの先には酒杜 陽一(さかもり・よういち)の姿があった。
 すぐ横にはシャンバラ軍用犬が控えており、低く唸ってヒョウを威嚇している。
「助かりました」
 色花が礼を言うが、唐は少し気に食わなさそうだった。
「こちらこそ、抜かりがあってすまない。っと、暴れるなよ」
 お互い様だ、といった感じで陽一が言うなりヒョウが突然暴れだした。
「この……!」
 マフラーが引きちぎられそうになった瞬間、陽一がタイムコントロールを発動させる。
 すると、見る見るうちにヒョウの体が縮んでいき、最終的には子供の姿まで戻ってしまった。
 束縛からは抜けたものの、小さい体で逃げることが叶わずにその場で陽一に抑えられてしまう。
「よし、うまくいった。これなら危険でもないだろう」
 陽一はそのままヒプノシスをヒョウにかけて眠らせる。
 これでひと段落と思った瞬間、軍用犬が吠える。
 慌てて周囲をナノ熱センサーで調べると、気や物陰にいくつもの熱源を探知する。
「囲まれたっぽいね……」
 熱量からわかるのは目の前にいるヒョウと同じサイズの動物だ。
 そのことを2人に伝えると、唐は怪訝な顔をする。
「おかしいだろ、あいつ等は群れで狩りなんてしないんだぞ?」
「例の黒幕達が指示を出したんでしょうか?」
 唐に続いて色花も怪訝な顔をする。
「本気になったんだろうな、気を付けろよ」
 陽一のナノ熱センサーで捉えている熱源は統率のとれた動きをして、徐々にこちらに近づいてきている。
 ピクリと陽一が体を動かすと、木の陰から一匹のクロヒョウが飛び出し、陽一に噛みつこうとして飛びかかった。
「はぁっ!」
 予想通りといわんばかりに陽一はヒョウを捕まえ、地面に叩き付ける。
 強烈な一撃にヒョウは気絶、動かなくなった。
 その流れが争いの火ぶたを切ったのか、一斉に猛獣達が飛び出してきた。
 色花と唐も背中を合わせ、次々と飛びかかってくるヒョウやジャガーといった猛獣を捌いてはいるが数が多く苦戦している。
 このままではまずい、そう思ったときに辺りに心安らぐ歌が響き、猛獣達の動きが止まった。
「さぁ、こっちにおいで!」
 歌声の先にいたのは詩穂。
 彼女が口笛をひと吹きすると周囲の動物達の視線は彼女に集まり、隠れていた動物も寄ってきた。
「もう暗いから眠っててね!」
 詩穂がヒプノシスを発動させると、戦意を失っていた動物達は次々と眠っていく。
 動物達が全て眠るのを確認すると、詩穂は3人の元に歩み寄る。
「大丈夫だった?」
「はい、助かりました」
 色花が礼を言うが、詩穂の視線は陽一の眠らせ、幼獣に変化させたヒョウに視線が行っていた。
「わあ! 可愛い!」
 ヒョウを抱き上げもふもふし始めた彼女は何を思ったのか、無言でタイムコントロールを発動させた。
 すると辺りで眠る動物達は次々に子供に戻り、辺りには眠りこける幼獣達が溢れかえった。
 突然のことにあっけにとられる3人を気にせず、詩穂は動物達をもふもふすることに専念している。
「これ、1匹ぐらいならバレねぇんじゃねぇか?」
 唐がこっそりと眠る仔ヒョウを持ち上げ、その場を去ろうとする。
「あ、園長さんが動物達のリストをチェックつけてたから連れてってあげてね!」
「う……」
 詩穂の言葉に唐の動きが止まる。
 動物達それぞれの管理するリストがあるのならば、居なくなった動物がいればすぐにばれてしまうだろう。
「ちぇ……」
 仕方ない、と唐は自分を納得させる。
 しかし、もふもふの毛並みは抱き心地が非常によかった。