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 百合園女学院の実質のトップであるラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の元には、沢山の卒業生が挨拶に訪れていた。
(鈴子さん……は来てないようね)
 あたりを見回しながら、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)はラズィーヤに近づく。
「ラズィーヤさん、ごきげんよう。少しいいですか?」
 ラズィーヤがフリーになった瞬間に話しかけ、リナリエッタは壁際へと誘った。
「リナリエッタさんはまだ、就職もお相手も決まっていませんでしたわね? ですが、侍女は向いてなさそうですわよねぇ……」
 リナリエッタの姿を見ながら、ラズィーヤは言った。
 リナリエッタは淡いピンクのドレスを纏っていてる。清楚で可愛らしさを感じる格好だった。
 とはいえ、彼女の普段の姿はラズィーヤも知っている。
「そのことなんですけれど……エリュシオン帝国の第七龍騎士団に、紹介ってしていただけますか?」
 ラズィーヤが訝しげな表情でリナリエッタを見る。
「ふふ、私エリュシオンに行きたいって前から思っていまして……就職先で素敵な騎士様と職場恋愛でゴールインとかいいですわねえ」
「邪な理由ですわね」
「あ、仕事はしますわよ」
 口には出さないが、リナリエッタは強い思いを抱いていた。
(魔道書を巡る騒動の真実も知りたいし――もっと強くなりたい)
 使えるものなら、なんでも使う。
 強い意志を持ち、ラズィーヤの前にいた。
「そうですわね、あなたは良い『仕事』をしてくれそうですわ。わたくしに紹介を頼むということは、シャンバラの住民として、エリュシオン帝国で働いてくださるということですわね?」
「ええ、これからもよろしくお願いしますわあ」
「ただ、軍人になりましたら、今までのような自由な行動は出来ませんわよ? ご覚悟の上でしたら、推薦させていただきますわ。
 仕事はきっちりこなしてくださいませね。百合園生と、龍騎士のお見合いパーティーなどを企画してくださると、信じていますわ」
 ゆくゆくは龍騎士を百合園卒業生の婿に。シャンバラの戦力アップ! などの目論見がリナリエッタに伝わってきた。
「任せてください。どうやら私、適任のようですわねえ!」
 そして、リナリエッタとラズィーヤはがっちり握手を交わしたのだった。

 教導団員が集まるテーブルでセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、行われている余興を楽しみながら会話をしていた。
「在学中から色々な任務に駆り出されてて、事実上学生なのか、現役軍人なのか曖昧な立場だったわよね」
 セレンフィリティがセレアナに目を向けた。
「そうね。でも、卒業式に出席して卒業証書ももらったし、これで本当に学生じゃなくなったのね、私達」
「うん、ようやく実感したような……やっぱりわかないような?」
「まあ、お互い教導団本校で勤務してるしね……」
 言って、2人は笑い合った。
「お2人は夏に卒業されたんですよね」
 傍にいた、教導団の後輩が声をかけてきた。
「うん。去年の夏に少尉昇進が決まって、そのまま繰り上げ卒業しちゃったものだから、実は『お前は卒業取り消し、階級も剥奪だー!』とか言われてまた学生に逆戻り……なんて夢を見るのよねー」
 セレンフィリティの笑いながらの言葉に、セレアナも笑みを浮かべながら頷く。
「春からも、本校で働かれるのですよね?」
「ええ、通常の本校での勤務の他、出身兵科の歩兵科で非常勤講師の仕事をさせてもらう予定よ」
 後輩の質問に、セレアナがそう答えた。
「そうですか……こんな魅力的な先輩が講師だなんて、授業に身が入りすぎて大変そうです」
「ちゃんと『授業』に身を入れてねー。じゃないと、お仕置きしちゃうわよ」
 セレンフィリティがウインクをして言うと、後輩の少年達が頬を上気させて元気よく返事をしてきた。
(セレン……)
 話をしながら、セレアナは少し前のことを思いだしていた。
 セレンフィリティとセレアナは、長い間、すれ違いをこじらせて、互いに酷く苦しんでいた。
 少し前に、ようやく元の関係に戻れたのだけれど。
 ふとした時に、こうしてあの頃のことが思い浮かぶのだ。
 今はまだ、胸が締め付けられるような苦しさも記憶と共に蘇るけれど。
 あの日々も、自分達にとって大切な日々であったのだと、時が経つとともに認識されていくのだろう。
 回り道をして、互いに大切なものを確認できたのだから。
「お仕置きは是非、居残り個人指導で!」
 後輩のそんな冗談に付き合って。
「いいわよ、2人でたっぷり可愛がってあげる」
「足腰立たなくなるまで、指導してあげるわ」
 そうしてセレンフィリティとセレアナがぱきぱきっバキッと指を鳴らすと。
「ひぃえ〜」
 笑いながら後輩は逃げていった。

「私は百合園警備団生徒部に所属して頑張ってみようと思う」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がそう言うと、白百合団3代目団長の風見 瑠奈(かざみ・るな)が目を見開いて喜んだ。
「ホント? それは凄く嬉しいな〜。……漆髪さん、卒業しちゃうかもって思ってたから」
「まだ百合園にいるよ。……刀真に引っ付いているだけじゃなくて、私自身が色々とできなきゃいけないの。瑠奈にそれを気付かせてもらったから」
 月夜は瑠奈をまっすぐ見て、心からの感謝を伝えていく。
「私は瑠奈に色々と教えてもらった。
 瑠奈に教えてもらえなかったら、気づくことはなかった」
「……」
 瑠奈は少し瞳を揺らしながら、黙って聞いていた。
「ありがとう、瑠奈に会えてよかった。
 地球でも頑張って。連絡するし、時々会いにいくから」
「……うん」
 瑠奈はちょっと声を詰まらせたが、こらえて笑みを浮かべる。
「ありがとう、漆髪月夜さん。
 そう言ってもらえて、とっても嬉しい、わ」
 瑠奈には、月夜達に刀真は必要だと知っていながら――刀真に自分だけを選ばせたい、という気持ちが、全くなかったわけではない。
 月夜を百合園に誘ったのだって、僅かには、自分の都合で刀真から離したかったという思いがあったのだ。
 でもこれ以上謝罪の言葉を口にしても、何も変わらない。自分の心が癒されることはなく、これから幸せを掴むだろう彼女にも何の意味もないことだと分かるから。
「ありがとう、頑張るね」
 そう言って、精一杯の笑みを見せた。
「何かあったら行くよ。君は自分の事になると人に頼らないから、俺達が勝手に行くよ」
 少し離れた場所から、男性の声が届いた。
 瑠奈は体をこわばらせて、少し沈黙した後で。
 振り向いてその人――樹月 刀真(きづき・とうま)に顔を向け、でも目を伏せたままで首を左右に振った。
「大丈夫。成長して、ちゃんと友達と思えるようになってから、また会いたいです」
 そして、再び月夜に顔を向けると。
「連絡先教えるね。でも、樹月さんにはしばらく秘密にしておいて。お願い」
 小さく笑みを浮かべながら小声でそう言って、皆の輪の中に戻っていった。

 謝恩会後、瑠奈はヴァイシャリー家の人と白百合団初代団長の錦織 百合子(にしきおり・ゆりこ)と共に、地球に下りて行った。
 刀真は遠くからそっと、彼女を見送っていた。
 近づくつもりも、声を掛けるつもりもなかった。
 ただ、自分がそうしたかったから。何かを伝えたい。だけれど、何を言ったらいいのか分からなかった。
 瑠奈は卒業式でも謝恩会でも、涙を見せなかった。
 見送りに来てくれた友人達と別れたあと――。
 百合子にしがみついて、声を上げて泣いた。

○     ○     ○


 謝恩会が終わり、卒業生達は旅立ち、在校生はそれぞれの学園に戻っていった。
「無事採用してもらえたし、心置きなく卒業だな。……百合園に教師として通勤っていうのも変な気分だけど」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、パートナーのリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)と共に、空京の街を歩いていた。
「卒業……ですね」
 リーブラがシリウスに穏やかな目を向けた。
「ああ。白百合団の最後を見届けた1人として、暫くは頑張るさ。警察の方に就職する奴らもいるだろうし、警備団生徒部と警察組織のつなぎ役として動ければと思ってるぜ」
「キミたちももう卒業か。早いものだね」
 サビクは行きかう人々を眺めていく。
 仕事や遊びで訪れている人々に混ざり、謝恩会を終えた後の若者達の姿。新生活に向けての買い物や住居を探している人々の姿がある。
「ボクは何も変わらないけどね」
 サビクは、これまでも、シリウス達に付き合って百合園にいたようなもので。
 今後も、しばらくはシリウスにくっついている予定だった。多少心配でもあったので。
「……それじゃ、ボクは早々に退散させてもらおうかな。
 積もる話もだるだろうし……」
 サビクは、シリウスとリーブラの肩をぽん、ぽんと叩くと、笑顔で去っていった。
「柄になく嫉妬しちゃいそうだしね……」
 2人に背を向けてから呟いた言葉は、2人には聞こえなかった。
「……わたくしも、試験は大丈夫でした」
 交差点で立ち止まり、リーブラはまっすぐシリウスを見た。
「この春から、シャンバラ宮殿に勤めさせていただきます」
「ああ」
 シリウスも穏やかな目で、リーブラを見て言う。
「だから……ここでお別れだ、相棒」
「……はい」
 進路については、既に何度も話し合っていた。
 互いが進もうとしている道が、同じではないことも、十分理解し納得していた。
 ずっと家族として一緒にいられたらと、互いに互いを大切に想ってはいるけれど。
 だけれど、大切な人だから、未来を諦める言い訳にしたくはない。
 2人でそう決めたのだ。
 リーブラ・オルタナティヴは、ヴァイシャリーには帰らない。
「まぁ同じ世界に生きてるんだし、今生の別れじゃねぇさ!
 休みは遊びにいくし、年末年始は一緒に地球に帰省して……」
 シリウスの言葉に、くすっとリーブラは笑みを見せる。頷かずに。
「……わかってるよ。会えるとも限らない、なんて……」
 弱い笑みを浮かべた後、シリウスは目を細めた。
「今までありがとう、リーブラ。愛してるぜ」
「どうか、お元気で。愛しい人」
 微笑み合って、2人は空京の交差点で別れた。
 反対方向に。
 リーブラはシャンバラ宮殿へと。
 シリウスは空京駅へと歩いていく。

担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

シナリオへのご参加ありがとうございました。
今回、所属先が決定したと思われる方、部活動を始められた方につきましては、称号を発行いたしましたのでご確認くださいませ。
推薦を希望された方やまだ迷われている方につきましては、今後のシナリオのアクションで教えていただければと思います。

貴重なアクション欄を割いての、私信、ご意見ありがとうございました。
今回は余力がなく個別メッセージを全く書けておりません、申し訳ありません……!

ご参加と励まし、いつも本当にありがとうございます。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします!