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花とウサギとお茶会と

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第1章 集いし者達
「しっかし二人とも、よく飽きないよなぁ」
 黒脛巾にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)がその二人……春川雛子井上陸斗の事を知ったのは、偶然だった。
 緑豊かなツァンダに在る、蒼空学園。その片隅にひっそりと存在している不毛の土地。そこにせっせと花を植えている物好き達……それがにゃん丸の認識だった。
 それでも、来る日も来る日もちっとも実を結ばぬ努力を続ける二人を、呆れ半分感心半分で見守っていたのだ。
「わぁ……見て下さい、陸斗くん! 咲きましたよ!」
 やがて、少年少女の努力はホンの少しだが報われ、手伝いを募って更に頑張ろう、という段になってにゃん丸は申し出た。
「あ〜、当日は俺も手伝ってやるよ」
「本当ですか?」
「ああ。菜園なんか作るのもいいんじゃないか? シャンバラ大荒野でも育つって有名な野菜の株、集めてくるよ。白くて小さな花もつけるから見た目にもかわいいし」
 にこやかに告げられた陸斗は瞬間、何か言いかけたが。
「嬉しいです! ありがとうございます、にゃん丸さん」
 雛子に、言葉を飲み込んだ。
「皆でお花や野菜を植えて、お茶会して……楽しみです」
 そう笑う雛子は本当に、嬉しそうだったから。

「っていうのに、まったく」
 お茶会当日、突如発生したパラミタウサギの大群に、頭を抱える陸斗。
「まぁ三百羽をすべて一人で食い止める、というのは難しいよね」
「ですが、あなたは一人ではありませんから!」
 十倉朱華(とくら・はねず)のパートナーのウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)は、陸斗に力強く声を掛けた。
 頑張る雛子にも、彼女に心配をかけないようにウサギをどうにか食い止めようとする陸斗にもウィスタリアはいたく感銘を受けており、俄然張り切っているのだ。
 そんなパートナーを微笑ましく思う朱華も勿論、陸斗達に力を貸したいと思っている。
「朱華ちゃんもウィスタリアちゃんも優しいのね。良かったわね、陸斗。友達少ないあなたにもようやく春が来たかもよ」
「お前が何か言うと力が抜ける、頼むから黙っててくれ」
 パートナーであるキアの茶々に、ガックリ肩を落とす陸斗。
「お茶会の警備を手伝うよう依頼されたシャンバラ教導団からやってきました憲兵科教官マリー・ランカスター憲兵大佐、人呼んでブラッディー・マリ……あわわ、長いのでこれからは『マリーさん』と呼んでくださいね」
 そこにやってきたマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)はお手本みたいな敬礼を披露して、直ぐに表情を引き締めた。
「状況は把握しているであります」
「今日はたのしいお茶会、なんだけど、その前に一仕事なんだよねぇ」
 マリーの傍ら……というより足元でぶーぶー言ってるのは、カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)
「そっちは俺達に任せておいて貰っても良いんだが」
 その頭をポムっと優しく叩いたのは、ゴットー・ラムネス(ごっとー・らむねす)だった。並ぶと陸斗達の父親とも見えかねない相貌だが、立派に蒼空学園の生徒だ。
「ん〜、でもカナリーちゃんはマリちゃんから『かんげーいいん』ににんめーされたから、がんばるんだもん」
「そうか」
「でも、ウサギさん、何があったのかな? ウサギさんも一緒にお花見ながらお茶会に参加できるといいよね♪」
「晃代ったら、のん気なんだから」
 ともすれば暗くなりがちな空気を和ませるような山田晃代(やまだ・あきよ)に、パートナーであるイリス・ベアル(いりす・べある)は呆れ顔……しつつ、その眼差しは優しい。
「今回300匹ほどのパラミタウサギが向かってるというのは、きっと我々の種族が町を発展させた結果、自然にいるウサギ達が食料不足になり、食料を求めて学園に向かったことだと思う」
 百合園女学院の制服を着た二人に、ゴットーは優しく目を細め、自分の考えを口にした。
「ん〜? つまりウサギさん達は餌を求めて突撃したって事かな?」
「まぁ俺の考えだが……」
 と、ゴットーの視線が、雛子たちの方へと向けられた。正確には、その傍らのあるものへと。ゴットーの視線を追った晃代と陸斗。
 三人が見つめたのは、にゃん丸が持ち込んだ大量のパラミタニンジンの株。
 それは周囲にたっぷりと香りを振りまきながら、存在を主張しまくっていたりして。
「……お前か!? お前が現況なのか?!」
「え〜? 何のことだか全然まったく分からないなぁ?」
「陸斗ったらヤル気ね? やっちゃえやっちゃえ」
「わわわっダメだよ! それ以上やったらにゃん丸さんがピンチだよ!」
 てへっ、と小首を傾げるにゃん丸の首をキュキュッと締め上げようとする陸斗を、煽るキアと必死で止める晃代。
「そうそう。あんまり騒ぐと雛ちゃんにも気づかれちゃうしねぇ」
「……ぐぁっ!?」
「まぁまぁ、原因が分かったという事は、これを使えばウサギ達を誘導できるという事だ……そうだろう?」
「だが、このニンジンだけがこの異常事態の原因とは考えられない。ウサギが生息地の異常等の原因で何かから逃げている可能性も考慮した方が良いと考えるであります」
「オレもそう思う」
 サイクロン・ストラグル(さいくろん・すとらぐる)も同じように考えていた
「生息地で何か重大な事件か問題が起こったなら、それを解決すれば事態が収集できるはずだ」
「なれば我等は、現地の問題解決に当たろう」
 サイクロンに、相棒であるグランメギド・アクサラム(ぐらんめぎど・あくさらむ)も頷く。
「そうですね、ウサギの後方に調査に向かう人と、ウサギの足を止める人と役割分担するのが上策と考えるであります」
「妥当でござるな。300匹程度ならここに集いし方々の奮闘で何とかなろうが、それ以上となると、少し手に余るやもしれぬでござる」
 発言する椿薫(つばき・かおる)自身は正直、お茶会にもウサギにもあまり興味はないのだが、パートナーであるイリス・カンター(いりす・かんたー)の「ウサギさんを放って置けませんわ!」という強い主張に半ば引きずられここにいた。
 勿論、ここにこうしている以上、やる事はやるつもりだが。
「……イリス?」
 と、それぞれの役割分担やら連絡方法やらが迅速に確認・伝達されていく中、薫は気づいた。自分がここに居る原因とも言えるパートナーの姿がいつの間にか消えてしまっている事に。
「だから、一人で行くなと……!?」
 そう、一見おっとりさんなわりに行動力は、行動力だけはあるイリスは既に飛び出していた。慌てて後を追う薫。
「もうちょっと後先考えて欲しいでござるが……そこがイリスの長所でござろうか」
「とにかく、ウサギ達を食い止めよう。学園に入り込めば、雛子さんが一生懸命に頑張って咲かせた花、その想いが消えてしまう。事情を知ってる生徒達だけで秘密裏に行動して、今日の日を無事に成功させようじゃないか」
 そうして、その背を追いかけるようなゴットーの言葉に、マリー達はそれぞれ大きく頷いたのだった。