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リアクション
●2章 コボルド侵攻阻止作戦
颯爽の森から街道を挟んだ先に存在する村。
農作業に勤しむ彼らを、コボルドたちが襲うようになったのはつい最近のことである。それまでは大人しく、時に村人とも交流をすることがあったコボルドたちが突如秩序をなくし、武器を取って略奪を始めたのである。
村人は戸惑いながらも、コボルドたちに対して何ら抵抗することができなかった。身を護る術を持たず、そして彼らを護る領主も城壁もない村は、このままでは壊滅してしまうだろう。
「こちら右サイド、目立った動きはありません。このまま索敵を続けます」
六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が、上空からコボルドの探索を行いながら、拠点となっている村近くに設置された本部へ連絡を取る。彼女ともう一人、峰谷 恵(みねたに・けい)が拠点の左右から索敵を行い、コボルドが現れ次第本部に連絡を送る手筈となっていた。
(どうして、大人しいはずのコボルドさんが村人を襲うようになってしまったの……? 森に吹く風と何か関係しているのかしら?)
優希の胸中を、得体の知れない不安感が満たしていく。
(できることならコボルドさんは傷つけたくないけど……でも、ここで迷っていたら村人さんに危害が及んでしまう……ううん、弱気になっちゃダメ! 私だってやればできるんだから! まずはコボルドさんを見つけて、それからよね!)
自らを奮い立たせるように数回首を振って、それから前方の森と平地の境目付近を見つめていた優希は、そこから出てくる数個の人影らしきものを目に留める。
(! 出ましたわ!)
それはかなり広範囲に及んでいた。おそらくもう一方からも判別はできるだろう。そんなことを思いながら、優希は本部へ連絡を取るべく携帯電話を手にした。
そして、優希の予測通り、森から出てきたコボルドの姿を確認した恵は、しかし自らの中から湧き出るどこか黒い感情と、自らの役目を果たすべきとの感情の狭間で揺れ動いていた。
(あのくらいの数なら、ボクでもやれるかもしれない。……けど、ここで下手に手を出したら、事態がどうなるか分からない)
そうこうしている間に、数匹のコボルドは動きを止めることなく街道へと近付いていく。そこに、どこからか抜け出したのか知れない一匹の犬が、コボルドへ向けて吼えているのが聞こえてきた。
(! あのままだと犬が……! させない、それだけはさせない!)
意思を固めた恵が、コボルドへ向けて急降下すると同時に、光り輝く武器を取り出し射撃を行う。次いで放たれた火の弾が地面を抉り、それに気付いたコボルドがあっけないほどに恐れをなして元来た森へと帰っていく。
(やった! ボクにもできた! ボクにも誰かを護ることができた!)
喜びに打ち震える恵は、しかし次の瞬間発生した事態に驚愕の表情を浮かべる。先程は点だったコボルドが、今度は面となって森から飛び出してきたのだ。
(……ウソ!? と、とにかく、報告しなくちゃ!)
慌てて携帯を取り出す恵の真下を、コボルドの群れが通過していく。
索敵をしていた者たちからの報告を受けて、本部は一気に慌しさを増していく。
「右からは少数、左からは大群だぁ!? あぁメンドクセェ……が、誰かがやらなきゃもっとメンドクセェことになっからな! ここは罠でも用意して一網打尽といくか!」
「フッ……その作戦、俺も協力させてもらおう!」
「うおっ!? 誰だよあんた、そんな高いところから不敵な笑みこぼしやがって。……なんかメンドクセェのが出た気がするが、まあいい、協力するならしてくれ」
「フッ、この俺に任せておけ! とうっ!」
コボルドを効果的に行動不能にするための罠を製作しようと動き出したデゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)の前に、何やらお約束っぽい格好をしたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)がこれまたお約束な登場でもって協力を願い出る。
「で、あんたは何か策でも考えてんのか? オレは投網とか眠り薬入りの餌とか考えてんだけど」
「フッ……奇遇だな。俺も同じ案を考えていたところだ」
いちいちポーズを決めながら話すクロセルに、半ば呆れながら応えるデゼル。とはいえデゼル自身も格好が格好だけに、二人が並んでいるとどこぞの戦隊アニメのヒーローと悪役(両方とも衣装は黒だが)にしか見えない辺り、滑稽でもある。
「よっしゃ、じゃあ餌のトラップにするか。んで、コボルドってヤツはどんな餌が有効なのか、思い当たるのはあるか?」
「知らん。村人に聞けばいいと思っていた」
「んだよ知らねえのかよ。んじゃメンドクセェが、その辺知ってるヤツらに聞いて――」
デゼルの言葉を遮るように、いくつもの破砕音、それに何語か分からない何かの叫び声が聞こえてくる。
「……おい、うかうかしてるとヤバイことになるんじゃないかって気がしてきたぞ」
「フッ……奇遇だな。俺も同じことを考えていたところだ」
デゼルとクロセル、二人顔を見合わせて、そして一目散に駆け出していった。
「ちっ、もうやって来ちまったか! 月夜、まずはこの場でできるだけ食い止めるぞ!」
「ええ、分かったわ、刀真」
襲い来るコボルドの大群を目の前に、しかし樹月 刀真(きづき・とうま)とそのパートナー、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は一歩も引く様子を見せない。刀真の右手が月夜の、開いた胸元から飛び出した柄を掴む。
「お前たちを、この先には行かせない!」
勢いのままに引き抜けば、黒く光を放つ片刃の剣が現れる。それを両手に握り締め、コボルドの群れへ突っ込んでいく。一振りでコボルドの脚が飛び、二振りで腕が飛び、それぞれもがれたコボルドが正気を取り戻し、その痛みに喚く。
「わりぃが、手加減はなしだ! 話があるなら後でゆっくり聞いてもらいな!」
言った刀真が剣を構え、力を込めて一気に振り抜けば、発生した剣圧が二匹のコボルドを襲い、行動不能に陥らせる。その調子で次々とコボルドの動きを封じていくが、いかんせん数が多い。その内に幾重にも囲まれ、前進も後退もままならなくなってしまう。
「ちっ……ちょっと力みすぎたかな、こいつは」
荒く息をしながら、刀真が剣を構え直して周囲を見遣る。どこか虚ろな瞳をしたコボルドが、何事かを喚きながらじりじりと距離を詰めていく。
「癒しの力よ、かの者を癒したまえ!」
そこに、月夜の癒しの力が刀真を包み込む。
「サンキュ、月夜! ここはひとまず後退だ!」
戦う力を取り戻した刀真が、後方に剣戟を放って空間を作り、そこに飛び込む。繰り出される剣や槍の応酬を打ち払い、月夜の元へと辿り着く。
「大丈夫? 刀真」
「ああ、何とかな。……しかしこりゃ、長丁場になりそうだな」
彼らの前には、なおもコボルドの大群が控えていた。
「私の後ろへは行かせませんよ! ここで食い止めます!」
織機 誠(おりはた・まこと)の繰り出したランスが、コボルドを行動不能にする。その隙を狙って別のコボルドが攻撃を繰り出すが、鎧に弾かれ反動でよろける。
「やい誠、そんな腕では瞬く間にやられてしまうぞ! もっと腰を入れるのじゃ、腰を!」
そのよろけたコボルドにランスの一撃を見舞って、上連雀 香(かみれんじゃく・かおり)が声をあげる。
「やるだけやってますよ! それに腰を入れるって何ですか、どうすればいいんですか!」
「むぅ、言っても分からぬというなら、わらわが示してみせようぞ!」
言った香めがけて、二匹のコボルドが武器を振りかざし向かってくる。
「早速獲物がやってきおったな……! まずはおぬしからじゃ!」
気合一閃、香のランスがコボルドを貫く。
「次いでおぬしじゃあ!」
ランスを引き抜き、もう一匹のコボルドへ突き出せば、それに貫かれたコボルドが身体を弛緩させる。
「なるほど、参考になりました、ありがとうございます! えっと、こうすればいいんですね!」
香の振る舞いに感銘を受けた誠が、やはり向かってきた二匹のコボルドへランスを突き出す。一匹の脚を貫いたランスが瞬く間に、二匹目のコボルドの肩を貫き、二匹を地面に転がす。
「ほう、おぬしもなかなかやるな。この調子でコボルドどもを無力化していくぞ!」
「はい! 頑張って付いていきます!」
誠と香が前線に立ち、コボルドたちの襲撃を水際で食い止めていく。そして後方からは、セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)の火弾による援護が放たれていた。
「この者たち、本当に統制が取れておらんのう……まあ、こちらとしては楽なのじゃが……楽なのじゃが……この数は流石に想定外じゃーっ!」
次から次からやってくるコボルドに呆れ返りながらセシリアは、まだ抵抗力を持っている者から順に、脚もしくは胴体を狙って火の弾をぶつけていく。そうしていると、他の攻撃を受けてコボルドが、セシリアの後方すぐ近くに吹き飛ばされてきた。
(……おや、せっかくじゃから、このロープで捕獲しておこうかの。縛るのはちと可哀相じゃが、こうしておけばこれ以上痛めつけられることもないだろうしの)
セシリアが、意識を朦朧とさせているコボルドに近付き、手にしたロープを解けない程度に結び付ける。
(これでよし……と。後で意識を取り戻したら、何故コボルドたちがこのようになったのか、聞いてみようかの。言葉が通じないのならば、絵でも描いて見せてみるかの。……多分分かる程度には描ける、と思うがの)
自分が描いた絵を想像して若干落ち込んだ様子を見せたセシリアだが、戦いの音を耳にして現実に意識を戻す。
「まだ戦いは続いておるからの。村人たちを護るためにも、もう少し頑張るとするかの」
立ち上がり、掌に火の弾を浮かび上がらせたセシリアが、コボルドの大群を見据える。
左側から襲い掛かるコボルドの群れに対処していく者たち。しかし、少し遅れて右側からも、大群ではないもののそこそこの数を擁したコボルドが突撃をかけてきた。
「おい! 向こうからもやってきたぞ! 放っておくとヤバいんじゃないのか!」
「……まずいぞウィルネスト、指揮系統が混乱している。このままでは突破される可能性がある」
箒にまたがり偵察活動を行っていたウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)とパートナー、ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)が警告を発するが、様々な音が入り混じっている空間にその声はあっという間にかき消されていく。
「くそっ! とりあえず俺たちが行くしかないのか!?」
「それしかないようだな。積極的に攻撃するより、俺たちが囮となってコボルド共を引きつけた方が、時間が稼げるはずだ」
ヨヤの提案にウィルネストが頷き、箒で現地へ赴く。街道の向こうからひとかたまりとなってやってくるコボルドたちを視界に捉えて、二人の身体に緊張が走る。
「向こうの柵が見えるところまで奴らをおびき寄せよう。その後ウィルネストが奴らの後方に回り込んで、魔法で仕留めてくれ」
「オッケー、ふっ飛ばせばいいんだろ? それなら得意だぜ!」
頷き合った二人が行動を開始すれば、ヨヤの目論み通りにコボルドたちはおびき出され、人止め用の柵と物見やぐらが立っている場所が段々と近づいていく。そこには高月 芳樹(たかつき・よしき)とアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)の姿があった。
「勝負は時の運というが、今回は女神は僕に微笑んでくれたようだ。ここで待ち伏せていた甲斐があったというものだ」
「彼らの声を聞いていなければ、ここにいたかどうかも怪しかったわよ」
「……そうとも言うな。ともかく、コボルドたちを中に入れるわけにはいかない! 頼むぞ、アメリア!」
「任せて。芳樹は私の命に代えても守る」
言ったアメリアが姿勢を低く踏み込み、次の瞬間には拳銃の弾のように身体が弾かれ、瞬時にしてコボルドの懐に飛び込む。その勢いのままに剣を振るえば、たちまち数匹のコボルドが戦意を無くす。なおも数匹のコボルドが戦意を露に襲い掛かるが、それらは芳樹の放った火の弾の餌食となり、地面に伏せる。それらを目の当たりにして本能的に危機を察したか、残る何匹かのコボルドが武器を捨て一目散に元来た道を逃げ帰っていく。そこにウィルネストの火球が降り注ぎ、殆どは撤退叶わず倒れ込むが、一部のコボルドが彼の背後を抜けて森へ走っていく。
「あれ〜? ここどこ〜? ワタシどうしてこんなところに来ちゃったの〜?」
(やれやれ、危なっかしくて見ておれませんな。こうして見つからぬよう後をつけてまいりましたが、さて……むぅ?)
この任務に参加するつもりで寝坊して遅刻し、コボルド退治に参加しようとするも自らの方向音痴ぶりを存分に発揮して、晃月 蒼(あきつき・あお)は本部から遠く離れた森の入り口付近を彷徨っていた。そんな彼女を心配そうな視線で見守っていたレイ・コンラッド(れい・こんらっど)は、彼女に近付く一匹のコボルドの姿を目撃する。
「あっ! ねえねえ、ワタシ『コボルド退治』ってのに加わろうとしてたんだけど、どこに行けばいいか分からなくて……キミ、どこにいけばいいか知ってる?」
まさに目の前の生物がコボルドであることに気付かず尋ねる蒼に対し、コボルドは何かを喚きながら後ずさり、意を決したように横をすり抜けて森へ駆け込もうとして、大木に思い切りぶつかり、そのまま目を回して意識を無くす。
「あ、あれ? ワタシ何か悪いことしたかな? ねえ大丈夫?」
「……蒼様、まずはこれで縛っておくのがよろしいかと」
「あ、レイ、どうしてこんなところに? ていうか一体何が起きてるの!?」
すっかり困惑気味の蒼だが、ともかく、一つの戦場には決着がついた。
一方、もう片側の戦場では、未だ激しい戦闘が繰り広げられていた。
「ちょっと、倒しても倒してもキリないわよ! 何かこう、一箇所にまとめて魔法でどかーんっていうアイテムとか罠とかないの!?」
「落ち着け樹、コボルドだって心から望んでこんなことをしているとは思えない。理由が判明するまでは手荒な真似は控えよう」
水神 樹(みなかみ・いつき)が憤慨しながらコボルドの攻撃を鎧で弾き、ランスで突き飛ばしていく。カノン・コート(かのん・こーと)はそんな樹をなだめながら、メイスで武器を受け止め、弾いていく。
「……しかし、樹の言う通り、このままでは厳しいな。魔法で爆発とはいかないまでも、せめて大多数を一気に眠らせることができれば、楽になるんだろうが……」
息を吐いて、カノンが周囲に目を向ける。そこかしこでコボルドと生徒、そしてパートナーとの鍔迫り合いが繰り広げられていた。
「お待たせー! コボルドさんを大人しくしちゃう罠、できたよー!」
その時後方から、レイティ・アーク(れいてぃ・あーく)とフォーティ・アレイ(ふぉーてぃ・あれい)が、投げ縄に何かが詰まったものを複数持って現れた。
「これを、ある程度間隔を空けて放れば、多くのコボルドを無力化できると思います」
「分かったわ。カノン、やってみましょう!」
「おお、これを放ればいいんだな。……せーのっ!」
樹とカノン、それに前線から一旦引き揚げてきた力自慢の者たちが、次々と投げ縄を振り回して適当な場所に放る。するとコボルドは、鼻をひくつかせたと思うと一目散に投げ縄の投下された場所へ駆け出し、中身を貪る。
「ねえ、あの中には一体何が入っているの?」
「えへへ〜、それはですねぇ……もうそろそろ効果が出てくると思いますよ」
レイティの言葉通り、中身を食べたコボルドとその周囲にいたコボルドが、次々と地面に倒れていく。苦しむ様子はなく、安らかな寝息を立てているところを見ると、眠り薬の類が混ぜられていたようである。
「食べた人とその周囲にいる人に対して、しばらくの間眠ってもらう魔法薬を混ぜたのです。コボルドにも効果があるようでよかったです」
フォーティが安堵のため息をつく横で、樹がその説明を聞いて思い至ったことを口にする。
「何だかそれって、害虫駆除に使う……うわ、思い出したのはいいけど思い出したくないことまで思い出しちゃったわ。ヤメヤメ、忘れておきましょ。……ねえ、もう私たちが近付いても大丈夫なの?」
「うん、コボルドさんが眠っちゃったら、大丈夫だよ」
「そっか。じゃ、眠っているうちに、また暴れ出さないようにしておきましょ。行くわよ、カノン」
「おう、任せとけ!」
「あ、待って待って、私も行くよー!」
「目覚めた時には、正気に戻っていて欲しいものですが……」
樹にカノン、レイティにフォーティ、その他戦闘に参加していたものでまだ動ける体力のある者たちは、手に手にロープを持ってコボルドたちの捕獲に努めていった。
「大丈夫? もし痛いところがあったら教えてね? あとお腹が空いてたらおにぎりあるから、どうぞ!」
「君たちを止めるためとはいえ、傷つけてしまって本当にすまない。僕たちに敵意はない、どうか信じてほしい」
あらかた捕獲を終え、それまでの戦闘で捕獲された数匹のコボルドが意識を取り戻す中、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)とアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)が介護に当たっていた。
他の手が空いた者たちも献身的な介護を行った結果、最初は敵意を向けていたコボルドも打ち解け、その表情に笑みがこぼれるようになった。
「みんな元気になってよかったね!」
「ああ……だが、言葉が通じないとなると、何故コボルドたちがこのようになったのかの原因が分からないな。どうにかして意思疎通を図ることができれば――」
「それができる人を連れて来たぞ」
「つれてきたぜー!」
アインの言葉を遮って、ノイ・マクマレン(のい・まくまれん)と佐藤 ぺぷこ(さとう・ぺぷこ)が声をあげる。彼らの背後には長い髪を一本にまとめた快活そうな少女の姿があった。
「ふんふん……はいはい……なるほど……」
コボルドの一匹とアレコレ会話を交わしている様子を目の当たりにして、ぺぷこがはしゃいだ様子でノイに話しかける。
「ノイくんノイくん! さっきあの子なでなでしてきたんだよ! かわいかった!」
「手を洗ってきなさい。それとここの防衛およびコボルドの捕獲にかかった費用の概算を記録しておきなさい」
しかしノイの至極冷静な返しに、ぺぷこがしょんぼりしながらそれでも言われたことを遂行すべく向かっていく。
「コボルドさんは、『俺たちは森で平穏に暮らしていた。だが森の奥の遺跡が発光したと思ったら、風が吹いてきて、それ以降の記憶がない』と言っています」
少女が話を聞き終え、一行に概要を説明する。
「コボルドさんは、『お前たちに迷惑をかけたお詫びに、遺跡の案内をする。俺たちは遺跡の抜け道を知っている』と言っています。それと、『まだ狂わされている者たちがいる。遺跡を調査して、そいつらを助けて欲しい』とも言っています」
「そうか……ここは協力を願うのが妥当だろうか」
「だよね! じゃあ私、先生に連絡するね。……うん大丈夫、私たちが必ず、みんなを助けるからね」
「さて……俺はこの情報を持って、先に遺跡へ向かうか。おそらく森の調査へ向かった者たちが、跡を残しておいてくれているはずだからな」
「あー、待ってよー、ノイくーん!」
一人箒にまたがって先へ進もうとするノイを、ぺぷこが引き止めようとする。
そうして、元気を取り戻したコボルドたちをお供に連れて、遺跡への道を進み始める一行であった。