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オークの森・遭遇戦

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オークの森・遭遇戦
オークの森・遭遇戦 オークの森・遭遇戦

リアクション


中盤戦


 橘が、木刀を振るう。
 が、それをひらりと交わし、しかし攻撃に転ずることなく、構える戦部の脇を通り越して行く大きな影。
「か、交わされただと……」
「何やつでしょうか」


第3章 新手、来たる?!

3‐01 先生?、現る

 ガサッ……
 近くの茂みが、動いた。
 即座、その方向へアサルトカービンを手にとるイレブン、ジャック。
 全体を警戒するクレーメック。
 一色は前面に立つ。

 現れたのは、法衣(ローブ)を纏ったロング・ヘアの女性だった。
 学生ではなく、騎凛教官と同じくらい二十代の大人の女性だ。
「え? こんなところにき、教官……?」
「教官? まあ、そういうことなら、私は高校の数学教師だけど。今は、イルミンスールで魔法を学んでいる生徒でもあるわ」

 日紫喜 あづま(ひしき・あづま)は、イルミンスールに入学したばかり。十代の学生に負けじと、空飛ぶ箒で飛行訓練をしていたら、何故か森に辿り着いていた、という具合。
「まさか、こんな所で戦闘に巻き込まれるなんて。
 ローランド、彼らと一緒に戦うわよ。今回ばかりは「危ないから駄目」だなんて言わないでよね」
 オークに襲われたとき、少し向こうで、オークと戦う木刀を持った男、銃の男を見た。シャンバラ教導団の生徒。が、彼らはすぐに、木々の向こうへ去ってしまった……。急いでいるようだ。この森で、何かが起こっているらしい。
「ああ、こんなことになるなんて。
 あづまさんが戦うというのなら、ボクも援護します。本当は、あまり危ないことはして欲しくないんですが……しょうがないですよね」
 しょんぼり、とするのは、あづまのパートナー、守護天使のローランド・シェフィールド(ろーらんど・しぇふぃーるど)
 森を歩いていくと、はたして、やはりシャンバラ教導団の、今度はまとまった人数のグループに行き当たった次第だ。

 日紫喜は、クレーメックらと歩みを共にしながら、事の経緯を聞いた。
「それにしても……なぜ今のタイミングでオークキングが襲ってきたのかしら……。これは何か仕組まれた事象のようにも思えるけれど」
 それは、確かにそうなのだ。
 日紫喜の言葉を聞いて、にわか一行に緊張が横切るようだった。辺りの森を、見渡す。すでに日が落ち、森は薄暗さを増していた。

「……まぁ、考えるのは後にして、今はオークを蹴散らして、退路を確保するのが優先よね。一緒に戦うわ。
 ……皆が安心して戻ってこられるように、退路を切り開きましょう。行きましょう、ローランド」
「はい、行きましょう。あづまさん。あ、でも、打たれ弱いんですからあまり前に出ては駄目ですよ〜っ!」
 そのときだった。
 再び、行く手の茂みが、ガサッ、と動く。
 今度は一行の前に姿を現す者なく、そのまま、脇の茂みを音を立てて、通り過ぎていった。大きな音。複数なのか……?
「禁猟区にかからなかったのですが……」
 殿の方へ向かっている。
「逆方向だぜ? もしかして、施設からの……?」
 一色が、尚注意をしながら、言う。
「に、しては気配は少なかった。一人、いや、一匹……」
 茂みへ向けた銃口を、引き戻し、ジャック。
「けものか?」
 イレブンも銃を収めている。
「いずれにしても禁猟区が作動しなかったのだ。敵ではあるまい。森に住む動物の類だろう」
 クレーメックは警戒を緩めず、見回しつつも、進行方向に向けまた歩き出した。クリトバルは少し、身を震わせて言う。
「しかし……とても邪悪な気を感じましたわ……」



3‐02 戦場の救済者

 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、包囲するオークとの戦闘が始まったときに、騎凛教官のもとを訪れ、演習参加者の名簿を確認していた。
 その間に、金髪長身の男が率いる一小隊(あれが獅子小隊か……!)、それから、最近入団してきた旅の剣士と、一部ならず者?のような者も含む一団(他校生、であろうか……?)が、森奥へ向かっていった。
「アンテロウム副隊長、これ、ありがとうございます」
 彼女らしいはっきりした口調で、名簿を返すと、クレアも、その後を追おうとする。
「クレアさん。あなたは、壊滅した小隊の救助に出向くのね。先、遣った二小隊の人らには、功を焦り、怪我する人もいるかもしれない。それに戦いに精一杯で、救助にどれだけあてられるか……だからあなたのような隊員は、必要だわ。でもどうか、気を付けて。本当はアンテロウムの一人でも付けたいところですけど……」
「隊長、わたくにお任せあれ。クレア様のことは私がお守りいたします」
 坊ちゃん刈りの守護天使は、クレアのパートナー、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)だった。
「もちろん負傷者のことも、わたくしのヒールにお任せください」
「隊長。衛生科所属ですが、私も軍家出身のソルジャー。極力戦闘は避けつつ、不明者の救出に努めます」
「……わかりました。ではご武運を」
「これを持っていくがいい。アンテロウム家に伝わるカンテラじゃぃ。ほれ、今じゃ。行きなされ」
 アンテロウムが、オークの群れに矢を乱れうつと、包囲の一端が開いた。
 クレアとハンスは、そこを走り抜けた。





 同じように、森奥へ発っていく者達を、少し離れて見ていたのは、憲兵科所属、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)
 彼女はベオウルフ隊が包囲を突破し、森へ消える間際にそれに追随。シャンバラ人のナイト、セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)と共に、森へ突入したのだった。
 途中、作戦を練るのか、立ち止まっているベオウルフ隊を通り越し、その辺りの森に分け入った。
 彼女の目的もまた、森での仲間の救出だった。
「シャンバラ教導団の学長は……」
「金 鋭峰、様。……私はナドセ隊の者だ、仲間だ」
「シャンバラ教導団の立地は……」
「ヒラニプラ。……なるほどあんたは、仲間だな。この木立の向こうに、傷を負った兵と隠れている」
 宇都宮は迅速且つ、的確に行動を開始した。気配があれば、合言葉を使うことで、動けずに隠れている仲間達を見つけることに成功した。
 森で迷った者には、施設への撤退指令が出ていること、および殿への方向を伝えた。
 怪我で走れない者は、ひとところに集めた。
 そして彼らに話を聞き……
「これで、オーク・キングとの接触位置もおおよそ、つかめたわね。このまま行けば、おそらく、裏手に回りこめる……。でも、この人達は、どうしよう。思ったより、怪我で動けない者も多いわ」
 そこへ……
 離れた木の間を、通っていく二つの姿。
「待って。黒い羊は……」
「アンテロウム。……衛生科所属、クレア・シュミットだ。それに、こちらは守護天使ハンス・ティーレマン。あなたは?」
「宇都宮 祥子。守護天使連れのようね? あなたの力を必要としている人達がいるわ」

 クレア、ハンスが木立のなかへ分け入ると、そこには、森奥で負傷した部隊の兵達の姿があった。
 不明者のメモを取り出し、照らし合わせる。
「なるほど。この三人は、さっき、状況を伝え、逃げる方角を示したわ」
「ここにいるのが、四名。森奥の部隊にいた者は、他にまだ十余名……」
「残る十余名、のうち五名は、僕達が見つけ、同じく撤退の支持を伝えておきましたよ。ねえ、クロ」
「そうだね、匡。あとはおそらく、森奥で取り残された人達でしょう」
 クレア達は驚いたが、そこを訪れたのは、もちろん、味方であった。
 黒炎の、四人だ。
 彼らも常に用心深く、オークに悟られないよう、また、仲間は確実に見つけられるよう、動いている。

「私は、森奥へ向かうつもりだわ」
 と、宇都宮。
「ならば私とハンスは、この人達をここで治療し、一旦殿へ戻ろう」
 クレアはすでに、ヒールによる回復を試みている。
「僕たちは、では、更にこの近辺を探索してみます」
 ……そして、黒炎が、そこを出て間もなく、見たのは、森奥から隠れるようにやって来た、オークの一団だった。殿の方に向け、歩を進めていく。
「あれを追いましょうか……何か、危うい気がします」



3‐03 交戦

 森奥までの道で遭遇する敵数は少なく、出遭っても、新手ではなく昼間の残党ばかりのようだった。
「オーク・キングどもはまだ駒を進めて来ているわけではないようだな。奥の部隊が踏ん張っているのか、それともオークどもに別の策があるのか……」
 と、レーゼマン。
「でも……オークにそのような知恵があるのかな」
 いぶかしむように、クライス・クリンプト。
「じゃけど、あのだれじゃったか、レーヂエ。彼とてそんな踏ん張りがきく輩とは思えんがのう……」
「セシリア。そろそろ、後ろに下がっていた方がいいかもしれんぞ」
 いよいよ近付く戦場を前に、レオンハルトは剣の柄に手をかけた。
「……行くぞ」
 剣を抜く、レオン、レイディス、風次郎、機晶姫達。クライス、ローレンスはランスを持ち攻撃の姿勢に。レーゼマン、ルース、霧島、月島、クリスフォーリルが各々の構えで、銃をとる。セシリア、仙國も、魔力を高める。剣の花嫁達は、少し不安そうだが、戦士達を信じる。

 獅子小隊は予定通り森奥へ、到達した。
 そこは、高く曲がりくねった樹々のため空はほとんど見えないが、随分開けた場所で、森奥の部隊が陣取っていたらしい。
 陣営は無残に蹴散らされ、ずたずたに引き裂かれた天幕の向こう、打ち合う音が聞こえた。

 横たわる、数名の、味方敗残兵の姿。重症だが、死者はいないようだ。オークの死体は、四、五……どれも切り口は多く、味方は随分苦戦した様子が窺えた。

 その前方に、レーヂエの姿を見とめた。
「おうおう! おうおう!」
 勇ましいかけ声が聞こえる。
「……とりあえず死んでないようだな」
「おうおう! りゃありゃあ!」
 押されている。
 相手は二刀のオークだ。
「なに、死なれていては困るからな。俺達獅子小隊の……っくっく、まあそれは後だ」
 こちらに気づいたオーク弓兵らが、矢をつがえ始めた。
「おう、りゃあ、おう! 貴様ー死ね!!」
 レーヂエもさる者。羽飾りを付けたオークの首が一つ、転がっている。
「キングじゃないよな?」
 レイディスが剣を構える。
「まさか。よし……オークども、我ら獅子小隊が来たからには、ここまでだ!」
 レオンハルトが剣を振るうのを合図に。
 ソルジャーの弾幕が、前に出ているオークらを襲う。しかし装備が森に屯するオークと違い、盾や強靭な鎧で身を防いだ者もいる。
「スプレーショット……一斉掃射!」
 レーゼマンが叫ぶ。
 今度は機関銃のごとく、ばらまかれた弾がかなりのオークを倒れ伏した。
 そこへ、剣を持った者達が、切りかかる。
「レーヂエ殿! 獅子小隊が参りました! こちらへ」
「お、おう……少々苦戦しておったところだ。貴公、名は?」
「士官候補生、レオンハルト・ルーヴェンドルフ」
「レオンハルト、あの者、なかなかの手練れだ。討ち取れるか?」
 二刀のオーク。弾幕を交わしていた。笑っている。
 レオンは全体の戦況を見る。完全に倒れたオークは、セイバーらがとどめを刺した四、五匹。
「まずは陣形を整えます。
 レーヂエ殿を救助した。獅子小隊は無理に突っ込まず、陣を組む!」
 統率のとれた、獅子小隊の動きは、早かった。
 負傷したオークに代わって、まだ後ろからぞろぞろと新手が現れてくる。かなりの数だった。最後尾に、一際も二際も巨大なオークが不敵な笑みを湛え、こちらを睨みつけている。

 後衛にポジションをとり警戒していた霧島が、左右の森に敵影を見つける。「左右に、オークの影! 気をつけろ」
 前方で、レーヂエの説得にあたっているレオンに代わり、彼の剣の花嫁であるシルヴァが、後衛で陣形指示を担当している。
 イライザ、ソフィア、クレッセント、ファルチェ。それぞれ、レーゼマン、ルース、クリスフォーリル、セシリアらの機晶姫が、後衛を守るように、防壁を展開し、円陣の壁となる。そのまま、左右からのオークにあたる。
 四体の機晶姫。ほぼ完璧な防壁だった。オーク達は、陣のなかには切り込めない。
 陣の内に密集したソルジャー。レーゼマン、ルース、月島が射撃し、数匹が倒れた。残りは、森のなかへ、キングらの方へ、逃げ散る。クリスフォーリル、霧島が、辺りを注意深く見回す。

 円陣前方の壁には、クライスと、パートナーのヴァルキリー、ローレンスが隣同士で並んだ。前面に展開した相手は、まだ突撃の素振りは見せない。
「……ったく。あんたに死なれたら飯が不味くなる」
 レーヂエとすれ違い、前に出る前田 風次郎。
「……フン、前田、風次郎、といったな? ……礼は申すぞ。が、ここを切り抜けねば今宵の飯にもありつけぬ。それと礼代わりに部隊長としアドバイスを遣ろう。よりいい飯を望むなら、戦果を上げること、だ」
「無論のこと」
 レーヂエを、円陣の中央に回収し、陣形は整った。円陣はほぼ前面一列に展開するオークに対峙し、負傷兵らは陣の後方に隠れる形になり、軽傷のマッゴゥも、剣の花嫁達に合流した。
「では……監視を行うであります」
 クリスフォーリルは、付近の木に向かって素早く、走る。
 途中、迫り来るオークがあったが、回避ざま、撃ち倒す。
 霧島も、クリスフォーリルと反対方向にある樹木に上ると、警戒に就く。
 オークは再び、左右にもじりじりと兵を出してきているが、円陣が完成しているので、無闇には突っ込んでこない。

 レオンも、すでに陣の前衛に出て、二刀と向かい合っていた。
 傍には、クライス、ローレンスがいる。

 ふとオークの前衛から、ゆらりとせり出してくる二体の影。一方は、大きい。
「むっ?! ……そいつらには近づくな!」
「! ムッ」
 一方は、角の折れた騎士冑を被った小柄なオーク。曲刀を両手持ちに構え、と思うや、ひゅんひゅんっ、と円弧を描いて切りかかってきた。
 すんでに交わし、その速さに驚くが、すぐさま脇に刀を返す風次郎。
「ホヒィィィィィ」
 ――交わされた?
「レイディス!」
 前衛の一方、レイディスの前に立ちふさがったのは、キングには劣るが中では背一つ飛びぬけた巨躯。手にしているのは歴戦を匂わせる戦斧だ。
「ムハーーー」
 ジャンッ、地が深く抉れる。
「こ、こいつ〜〜」
 ジャン、ジャブ、ザッ。敵は意外に素早く、カルスノウトを振るう隙を与えない。

 一瞬。
 月島の射撃が、レオンハルトに対峙するオークの眉間を掠めた。
「邪魔者は……排除する」
 クライスのランスが猛然と襲いかかり、レオンハルトの一閃が、両腕を断つ。二刀はグサリと地に突き立つ。続けて、ドサリ、体も地に落ちた。
「オークどもにシャンバラの獅子の牙は折らせんよ」
 レーゼマンの一撃だった。
 前面の新手勢が、いきり立ち、一斉にかかってくる。
 レオンが中央からレイディスの加勢に向かう。
 クライス、ローレンスは前方を固めた。
「ムハーーー!!」
 ガっ、戦斧を受け流すレオン。その隙にレイディスが攻撃するも、鎧が刃を通さない。
 ……っ、鎧の隙間を攻めるんだ、鎧の隙間を……
 今度はレイディスに迫る戦斧。スウェーで交わす。強大な攻撃だった。
「ホヒィィィィィ!!」
 ひゅんっ、ひゅんっ、……速過ぎる……今までにない敵だ。
 風次郎には、近くの樹上から、霧島が加勢し援護射撃するが、交わすオークの身軽さは曲芸的だ。切っ先は常に風次郎の首の位置を狙ってくる。
「うぬぬ。風次郎殿、加勢したいでござるが、後衛を守らねばならぬ状況ゆえ、踏ん張ってくだされ……!」
 最前線の攻防戦の後ろでは、機晶姫達が支えているが、ソルジャーも、間を抜けてこようとするオークを打ち洩らさぬのに必死で、前衛を押しつつある邪魔な二匹を撃てない。
「チッ。だれだあいつらは!」
 レーゼマンにも、若干の苛立ちが見える。銃撃の手を休めず、ルースが応える。
「ホヒィにムハーだろ……しかし、俺達の最大の敵、パラミタ実業の生徒は、こんなものじゃないらしいぜ」