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イルミンスールの迷宮!?

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イルミンスールの迷宮!?

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3.岐路

 寄生虫との激しい戦いをくぐりぬけた運搬班と護衛班は、先を急いでいた。

 しかし、根の中は複雑で、ともすれば道がわからなくなってしまうような迷宮と化していた。

 和綴 季彦は、心細くなってきた。

 根に入るときは、「子供じゃない」ところをみせようと、たくさんの栄養剤を運んできたが、
「やっぱり80リットルも持つのはちょっとキツイかな…?」
とさすがに疲れを隠せなかった。

 これをみたデュアリス・スプリングノートは
「男の子として見得を張りたい気持ちは解りますけど…。
こうやって無理をする所がまだまだ子供っぽいですね。」
といって、季彦の栄養剤を半分運んであげた。

 しばらく行くと、愛沢 ミサが立ち止まって言った。

「俺はここで待って、みんなが素早く帰ってきてもらうよう道しるべになるよ。
一時間後にここで歌っているから、帰りに迷ったら俺の歌声を道標にして欲しいな」

「わかった。いい考えだね。じゃあ俺たちは先を行こう!」

 御剣 カズマはそう答え、メンバーたちは愛沢 ミサを残して奥へ進んでいった。


 さて、だんだんと分かれ道が多くなってきた。どれが正しい道なのか、メンバーには見当もつかない。
 こういうときは、イルミンスール自身に道を尋ねるのが一番。

 如月 陽平は、イルミンスールに手をあて、やさしく話しかける。

「イルミンスール。虫たちに食い荒らされて辛かっただろうね。
でも大丈夫、きっとうまくいくよ! 僕たちみんな、イルミンスールを救おうとがんばっているからね。
今、君に栄養剤を投与するため、根の奥に向かっているんだけど、どっちに行ったらいいかわからない。だから教えて欲しいんだ」

 すると、イルミンスールの根がモゾモゾ動いたのだ。
 まるで、消化管の蠕動(ぜんどう)のように、一方だけが大きく開き、他の穴は縮小していった。

「よし、こっちだ」

 イルミンスールに導かれて、一行は正しい道へ進んだようだ。

 次の岐路に立ったときは、クロセル・ラインツァートが同じようにイルミンスールに語りかけ、導きを得た。

 何度か分かれ道に遭遇し、そのたびに同じように世界中の肌に手を当てて尋ねてきた。

 ところが、八方に分かれた場所に出くわすと、今までのやり方が通用しなくなった。

 リリサイズ・エプシマティオは、なんと○×のプラカードを持ってきていて、分かれ道の一つ一つに
「あちらに向かえばよろしいのかしら?」
と訊いてまわっている。

 しかし、残念ながら世界樹イルミンスールにプラカードは効かなかったようだ。

「なによこの樹は! せっかく苦労してプラカード用意したのに」

「HEY! 仲良くしやがれでございます」

 プンプン怒るリリサイズを、リヴァーヌ・ペプトミナがなだめた。

 リヴァーヌの変な言葉遣いが周囲の爆笑を買い、かえって場を和ませたようだ。

 エリオット・グライアスは、パートナーのメリエル・ウェインレイドに向かって言った。

「ここはメリエルの出番だね。
この岐路を打開するのは君にしかできない。すごく重大な役割だよ」

 こうわれてしまうと、メリエルもがんばるしかない。
 イルミンスールに手を当てて、心を込めて話しかけた。

「お願いイルミンスール、私たち時間がないの。道を教えて!」

 すると、純真なメリエルの願いが通じたのか、8つあった道はみるみる寄っていって、やがてひとつにまとまった。
 どうやら8つに見えたのは幻影らしい。

「あたしの言葉、通じちゃった・・・」

「すげぇ〜!!!」

 エリオットは、パートナーの快挙に驚いていた。

「よかったね〜。さてと、現状をエリザ様に報告しなくては」

 狭山 珠樹はそういうと、携帯でエリザベートに連絡をとって、これまでの状況を伝えた。

 さらに、珠樹は電話でエリザに話し続ける。

「私が軍務を抜けてプリーストになれたのは、エリザ様のおかげです。この一大事に必ずお役に立って見せます!
ここは我にお任せ下さい」

「期待してますぅ」

 狭山 珠樹は、この機会に、かつてエリザベートから受けた恩への感謝を伝えたのだった。

 電話を切ると、珠樹の相好が崩れた。

「これはっ! 幸せの予感ですわっ!」

 エリザベートに期待をかけられたことが、よほどうれしかったようだ。

 みんなも
「よかったね〜」
と口々に珠樹をねぎらった。


 さて、分岐の多い根っこはイルミンスール自身への問いかけによって道を切り拓いてきたが、帰り道も迷わないとは限らない。

 なにしろ、門が閉まるまでの制限時間は2時間しかないのだ。
 この間に栄養剤の投与だけでなく、全員が根の入り口まで戻ってこなければならない。

 だから、帰り道にも迷うことは許されないのだ。

 しかし、彼らは賢かった。
 クノッソスの迷宮から糸をたぐって帰ってきた英雄セテウスの故事を髣髴とさせるような「帰路の準備」を施していたのだ。

 和原 樹は、帰り道の道しるべとして根に赤いリボンを結んでおいた。

 ナナ・ノルデンも、地面や壁の樹にチョークで目印をつけており、帰り道の迷子再発防止に一役買っていた。

 さらに、本郷 涼介とクレア・ワイズマンも、目印として分かれ道ごとにリボンを結びつけていた。
 運搬班全員が、まとまって行けるようにするための配慮だ。

 何重にも目印を施しているので、戦闘や何かの事情により目印の一部が欠けてしまっても、帰りの心配はいらないだろう。


 メニエス・レインは、キョロキョロとあたりを見回している。
 帰りの目印をつけているわけでもないようだ。

「なにか面白いものないかしらね〜?」

 ときどき、根の隙間や穴に雷術を放っているが、これもモンスター退治のためではなく、”物探し”のためにやっているという。

 たまに何かを見つけると「クスリ」と微笑を浮かべ、大事そうに懐へしまっている。

 今回のパーティにも、そういった動機で参加しているため、みんなとあまり歩調を合わせることなく、興味の向く方へばかり足が向いているようだ。

 パートナーのミストラル・フォーセットは、最初そんなメニエスのテキトーぶりを諌めようと思ったけど、やめてくれないのであきらめたようだ。
 今ではメニエスと一緒になって「宝さがし」をやっている。


 そうこうしているうちに、道はだんだん狭くなってきた。
 ところどころ、ひとりがやっと入れるだけの通路すらでてきた。

 このままじゃ、時間が足りないな・・・・・・。
 みんながそう思い始めたとき、フィッツ・ビンゲンがひらめきの声を上げた。

「通路が狭くなるようなら、バケツリレーをやろう。このほうが速く運べると思うから」

 みんなは「なるほど」と納得し、フィッツ・ビンゲンの提案どおり、狭い場所を手際の良いバケツリレーで乗り切った。

 おかげで、タイムロスが少なくて済んだようだ。

「フィッツ、さすがだね〜。
戦うだけが能じゃないってことがよくわかったわ。
あなたは、栄養剤を速く確実に運搬するという自分の使命をきっちりと果たしたのだから」
という、天枷 るしあら女性メンバーからの賞賛に、フィッツはうれしそうだ。

 運搬班の彼は、戦闘に参加することはなかったが、今回頭脳で株を上げたわけだ。


「さあ、行くわよ。根の奥までもう少し。みんながんばって」

 ユーニス・シェフィールドはそういってメンバーを励まし、一行はさらに進んでいった。