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イルミンスールの迷宮!?

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イルミンスールの迷宮!?

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6.最奥

 寄生虫撃破班がニーズヘッグを倒したころ、運搬班と護衛班は、目的地の「根の奥」に到着した。

 ズィーベン・ズューデンは、あたりを見回してつぶやいている。

「さて…だいぶきたけどここが終着点かな?
何か世界樹にはお宝ないのかな…あ、世界樹の枝とかは実は貴重な研究資料になるか?」

 パートナーのナナ・ノルデンは、そんなつぶやきを聞いているのかいないのか
「ここが世界樹の最奥ですか…今、栄養剤を撒きますからね!」
と、イルミンスールに話しかけていた。

 新田 実は、一行より先に到着していた。

 狭山 珠樹は、パートナーの実を見つけると笑顔で駆け寄っていったが、どうも実の様子がおかしい。

「どうしたの?」
と尋ねる珠樹に実はこう答えた。

「いやぁ、栄養剤ってどんな味がするのか、みんなの来る前にこっそりちょっと飲んでみたんだけど。
う・・まずい」

「当たり前ですわ! まったく、なにをやってんだか」

 ふたりのやりとりを横目に、ルーザス・シュヴァンツは冷静に言った。

「まだまだ油断はできません。ここは自分が防衛にあたりますから、みなさんは早く根に栄養剤を投与してください」

 というわけで、早速栄養剤の投与を始めた。

 峰谷 恵とエーファ・フトゥヌシエルは
「イルミンスールさん元気にな〜ぁれっ、と!」
そう言いながら、栄養剤が偏り過ぎないように注意して散布していった。

 リリサイズ・エプシマティオも、愛情を込めて投与する。

「さぁ、イルミンスール、遠慮は要りませんわ!
たっぷりと吸い上げて、その枝を大きく伸ばし、世界を覆い尽すのですわ!」

 少し遅れて到着したロベルタ・オークリィは、息を切らせながら栄養剤を投与した。

「これで私が遅いせいでイルミンスールに栄養剤が届かなかったら、それで枯れたらどうしようと思ってたわ。
でも間に合ってよかった。」

 運搬班メンバーたちは、めいめい自分の持ってきた栄養剤を根の奥に投与したが、さきほどの戦闘でずいぶんこぼれていたため、途中で枯渇してしまった。

 狭山 珠樹が予備に持ってきた追肥用のフリーズドライもやってみるが、まだ足りない。

 イルミンスールに最後の1000リットル目を注ぎたかったルーザス・シュヴァンツと狭山 珠樹は少し残念そうな表情をしたが
「まぁまだ後から来るから心配ないわね」
と、後続部隊を待つことにした。

 と、そこへ寄生虫撃破班の御影 春菜と、護衛班のカレン・クレスティア、ジュレール・リーヴェンディらも栄養剤を持って駆けつけた。

 だが、必要量1000リットルというのは予想以上に多かったようで、依然として規定量に達していなかった。

「困ったわ。どうしよう」

 運搬班メンバーみんなで青ざめているところ
「おーい」
という声が聞こえてきた。

 なんと、藤原 和人、鯨魚戯 閃鷲、ウヒュイ・ホロケウの3人が、長いホースを手にして駆けつけたのだ。

「いやぁ、間に合ってよかった。道が複雑でまいったまいった!」

 鯨魚戯 閃鷲がまくしたてると、ウヒュイ・ホロケウは
「おまえがウロチョロしなけりゃ、もっと早く着けたんだぜ」
と突っ込みを入れる。

 どうやら鯨魚戯 閃鷲が後先考えずに突っ込んでいくので、ウヒュイ・ホロケウはほとほと手を焼いていたようだ。

 藤原 和人は彼らを制して言った。

「みんな、遅れてすまない。でも、安心してくれ!
このホースは地上からつながっているんだ。
地上にいるムジカ・ウィーズルが、栄養剤を送り込んでくれるから、もう大丈夫だ」

 これを聞くと、メンバーからは一斉に歓呼の声があがった。

 しかし、藤原 和人は喜ぶのはまだ早いと、急いでムジカ・ウィーズルに電話をした。

「ムジカ! 今やっと根の奥に着いたよ。
さあ、栄養剤を流してくれ」

「了解で〜す」

 地上から、ムジカ・ウィーズルと日下部 社、望月 寺美がポンプで栄養剤をホースに送り出した。

 根の奥では、藤原 和人を先頭に、鯨魚戯 閃鷲とウヒュイ・ホロケウ、そして1000リットル目を自ら投与したかったルーザス・シュヴァンツ、狭山 珠樹がホースを握った。

 やがて、長いホースを伝って、栄養剤が流れ出してくる。

 救いの液体は、ドボドボと心地よい音をたてて、巨樹の根に注がれていく。

 すると、根が光り始めた。

 これまで土気色をしていた根に、生気が戻ったのだ。

 成功だ!
 目標の1000リットルに達したようだ。

「やったわ・・・」

 峰谷 恵が涙ぐむ。
 ナナ・ノルデンも恵の肩を抱いて一緒に泣いた。

 御宮 万宗は言った。

「状況完了。皆さんお疲れ様です。
さて…うまく持ち返してくれるといいんですが。」

 こころなしか、周囲が明るくなったような気がする。

 栄養剤をたっぷり吸ったイルミンスールが、みずみずしい色に戻ったためかもしれない。


 みんなが喜びに浸っているとき、本郷 涼介が言った。

「もう制限時間の2時間まであとわずかだぜ。早く出なきゃな。
でも安心してくれ。帰り道は、俺が結んでおいたリボンを伝っていけば間違いなく出られるぜ」

 新田 実は
「そうだな。帰りもモンスターが出るかもしれないから、俺が珠樹やみんなの護衛をするぜ」
と、張り切っていた。


 一行は、地上目指して進んでいく。

 途中の分岐点では、和原 樹、ナナ・ノルデン、本郷 涼介らがつけてくれた道しるべを頼りに進めたため、スピーディな行軍ができた。

 やがて、先のほうから歌声が聞こえてきた。
 愛沢 ミサの声だ。

 彼女は、1時間が経過した時点から、根の中心に向かって思い切り歌い続けていたのだ。

 その歌は、パラミタの民謡や地球の民族的などいろいろ。聞くものを吸い寄せるような歌声だった。
 また、選曲にあたっては、少しばかり珍しいものにし、他の人が偶然口ずさんでいても被らない曲を優先するという隠れた配慮もあったのだ。

 一行が、歌声に惹かれて愛沢 ミサのところまでくると、彼女は笑顔でみんなとハイタッチしながら人数をカウントしていった。

 やがて、愛沢 ミサの前を全員が通り過ぎたと思ったのだが、数えてみると3人足りない。
 おかしいなと思って、ミサが3人を探しに行くと、やがて、帰り道に迷った鯨魚戯 閃鷲とウヒュイ・ホロケウが、ジャンキー状態で栄養剤を飲んでいるナガン ウェルロッドを支えながら歩いているところに出くわした。

「コイツ、栄養剤を飲みすぎて酔っ払ってるみたいだぜ」

 鯨魚戯 閃鷲の呆れ顔をよそに、ナガン ウェルロッドは
「波羅蜜多タイタンズナインに走塁妨害は通じねェ! ヒャヒ!」
といってからグーグー寝てしまった。

「しょうがない、俺たちで担いでいくか」

 そういって、4人は地上へ向かった。