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オークスバレーの戦い

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オークスバレーの戦い

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<5>



第9章 戦いの向こう側へ

9‐01 終局、そして……

 本陣には、オークの死骸の山が築かれていた。

 放心状態の皆、恍惚状態の騎鈴。
 どさっ、としりもちをつく、軍師戦部。
「はあ、はあ……」
 落とし穴に落ちて死んでいる、仮面とフロシキに身を包んだ魔術師。
 何者なんでしょう、こいつは……と、言っても、どうせ今回、正体が明かされることはないのでしょう。
 死骸の山のたもとでは、
「……スー……スー……」寝息を立てる、グレン。
 寝ているグレンに、膝枕してあげてる、ソニア。
「お休みなさい……グレン」



9‐02 再興への願い

 シャンバランこと、神代 正義はすでに、約束通り西の集落の人達のもとへ戻っていた。
「皆! 見たかな。正義は勝つ。悪は、滅びるのだっ!」
「あのオークどもを追い払ったのか!」
 (追い払ったというより……殺し尽くしたですが……)
 大神 愛も、やっと血に塗れたオークのきぐるみを脱ぎ捨てることができた。「危なかったです……騎鈴教官に討たれるところでした……」
「シャンバランすげえ! ほんとにシャンバラン一人がやったのか!」
「ああ。その通り!! はっはっは。これがパラミタ刑事シャンバランの力だっ」
 シャンバランわっしょい シャンバランわっしょい
 正義の赤いマフラーが、峡谷を吹き抜ける風にはためいていた。





 こちらは、東の集落の商店街。
 ぺたぺた。ぺたぺた。
「……」
 集落の子ども達が、ぺたぺたと、カモノハシゆる族、ジュバルの頭や腕や足やらお腹やら、しっぽやらをさわって遊んでいる。
「……きやすくさわるな。おっさんおこるぞ」
「わあっ。喋った!」
「毛並みがいい〜♪」
「ぼんっ、ぼんっ」
「こ、こらっ、たたくなっ」
 そんなジュバルと子ども達のやり取りをよそに、佐野は、商店街の端に見つけた、一軒の鉱石店で話し込んでいた。
「これは、俺が持ってきた嗜好品です。今まで長い間、交流が途絶えていたということもあって、このようなものは如何かと ?」
「おお。これはヒラニプラ煙草?か?」
「街がオークに蹂躙されてより、交易が途絶えて久しい。これはもう何十年と見ることがなかったものじゃ」
「うむう。交易が復活すれば、この土地の再興も可能じゃ。それにまた、鉱山が賑わえば……」
「その前に、オークじゃ。教導団さんは、本当にこの土地からオークを追い出してくれるんじゃな」
「あ、ああ。まあな。
 おっ」
 佐野は、外へ飛び出て、遠く河辺の方から、勝利を示す信号弾?が上がっているのを確認した。
 やったのか。
 佐野の、片想いのあの人もそこに……無事だっただろうか。
 この峡谷の再興、か。自分にできる戦いというのもあるのかも知れない、と佐野は思った。

「わーい♪ おっさんみてみて」
「こ、こるぁっ! しっぽをおもちゃにするな!」





 何事もなかったかのような平然さで、銃の手入れをする、クリスフォーリル。
 敵三乃砦は、獅子小隊によって制圧された。
「クリス! だいじょうぶ? サミュエル? 怪我は……」
 皆のところを駆け回るイリーナ。
「トロルは、俺とグリムと、それニ、とりわけローレンスさんが頑張っテ、やっつけたヨ。
 レーヂエさん、途中でどっか行っちゃっタ。必殺トロル殺法見れなくテ、ちょっとざんねン」
 砦の屋上に、どんと座った風次郎は、旗を掲げ、まだ勝利の余韻にひたっているのだった。
「旗……風次郎さんが立てちゃいましたね」
 と、クライス。「ってことは、まあ、僕とレオンさんの個人的な勝負は……って、え?」
 ぽん。とクライスの肩を叩いて、イリーナ、
「親友と一緒に戦いたい、ってことさ」
「〜〜……!! 僕以外の人が立てたら、同じだったっていうことですかっ」

 周囲に逃げ散ったオーク兵のほとんどは、騎狼部隊が掃討済みだ。
 メイベルも、最終的に、騎狼に乗って追いついてきていた。
「がんばったな。俺達。オークはほぼ全滅、か。
 メイベルは、百合学からほんとこんな山の中まで、ご苦労様だよなあ」
 葉巻を吸いながら、ロブ。
「はあ、はあ。そうでしたか、私達は、勝ったのですねぇ……
 実は、この辺りの鉱山を、かつて父が所有していたということもあって、どうしても気になって、来たのですぅ」
 ぶっ、何だって。ロブは葉巻を落とした。
「……お、お嬢さん。それはまた大そうなことだな……」
 辺り一帯にそびえる鉱山の連なりを見渡して、ロブはもう一本、葉巻を取り出した。





 さて、その鉱山の何処かでは……
 坑道の奥深くへと迷い込み、オークを操る謎の集団の核心に触れようとしている沙 鈴と綺羅 瑠璃。
 機晶石の秘密を求め、峡谷の冒険に乗り出したジャックとイルミナス。
 そして、機晶石を狙い、独自の判断で動くメニエスとミストラル。


 峡谷に張り巡らされた戦士達それぞれの運命の糸は、どう絡み合ってくるのだろうか。





 戦闘を終えたノイエ・シュテルン。
 もとの砦へと、ボートで引き返していく。
 対岸で燃える、もう敵のいなくなった砦。
 敵はほぼ、全滅だろう。
 河にも、焼け焦げたオークの死体が、浮かんだり、流れたりしている。
 黙々と進む船影。
 戦いを終えた戦士達は皆、静かだった。
 金烏はふとぽつり、
「この世に果たしてロマンはあるか、人生を彩る愛はあるか」
「ん? 黒おぬし何か言ったか? まあ、いい。……ぬぉわはは……」
 青の笑いも今はかすれて、河面に消え入るばかりだった。
「クレーメック殿……」
 マーゼンが、低い声で言った。
「自分は、今後の支配のためにも、あの砦に代わる新しい拠点を、峡谷の人々の協力も得て作る必要があると考えますな」
「うむ。帰還して後、我々でロンデハイネ部隊長にそのように進言してみよう」





 北岸の二乃砦の方から、その向こうの三乃砦からも、信号弾が上がっているのが、確認できた。
 教導団の、勝利のようですね。
 ……が、南岸一乃砦で、騎狼とたわむれて待つ、アリーセのもとに、ズタボロになって帰ってきた、シャンバラ人ユハラ。
「あ、ありーせ殿……無念。……敵一乃砦落とせませんでした、このユハラ、切腹してお詫び致す……」
「って切腹ってユハラさんシャンバラ人ですよね。それより、だいじょうぶ……」
「パ、パルボン閣下に……」
 どっ、とその場に倒れ込むユハラ。
 アリーセは階段を駆け上がり、暗がりの廊下を駆け、パルボンの待機する部屋の前に。
 部屋の中では、男の荒い息と、機晶姫の装甲が擦れる音がかすかに、聞こえている。
「あ、あの。パルボン部隊長……! ユハラさんが戻って参りまして、」
「はあはあ。……何だね、わしは取り込み中なのだ。ユハラにもイレブンにも、砦を攻め落さずに戻ったらコン刑にでも処してやると、伝えておくんだな!!」




9‐03 垂の受難

「おーーい??
 ……おかしいな。誰もいないのか……
 いや、そんなことはないぞ。斥候の言った通り、ひとの気配自体は感じる。けど、どうして姿を見せないんだ」
 外れの村に到達した朝霧 垂は、声をかけて回り、住人の存在、あるいは怪しいものがいないか、確認を進めていた。もちろん、警戒を解くことなく。
 が、村中を回っても、一向に手応えがない。
 家は、随分古びて、粗末なものだが、廃墟というわけではなさそうだ。生活の痕跡がうかがえるし、辺境の民の家ならば、こういうものなのだろう。戸は一様に、閉められたままで、叩いても、だれかが出てくる様子はない。家のなかには、いないようだ。本当に、どこへ行ったのか……
 村の広場に座り込んで、ため息をつく朝霧。
「ふう。無駄足か……」
「し、垂〜〜」
「なんだライゼ。げっ」
 広場を取り囲むように、村の其処此処よりわいて出てきたのは……
「オ、オーク?! ここはオークの村ってわけ。無駄足どころか」
「ハズレの村だよね」
「……」
 ライゼをかばうようにして身構え、竹箒に仕込まれた刃に手をかける、朝霧。「……来るなら、来な!」
「ん? ……ってわけでもないのか」
 オークはよく見ると、武器を持ってもいなければ、剣鎧をまとってもいない。
「オ嬢サン。ナニシニ来タネ? 私タチヲ討チニヤッテ来タノカイ。
 私達ハ、オークト人間ノアイダニ生マレタ種族ダ。ココハ、望マレナイ者達ノ住ム最果テノ村ダ……」
 村は、ハーフ・オークの村だった。
 仕込み刀を抜くべきか。信号弾を打つべきか。こうしてハーフ・オークの、意図の読めない歓迎を受けた朝霧 垂とライゼ。
「し、垂〜〜どうするの??」





「ナ、何?! オーク五人囃子マデモガ、殺ラレタ、ダトォォォオォォク!」
「オノレ、オノレ、クルード・フォルスマイヤァァァァァオォォォォォク!!」
 ザッ。
「其ノ、クルーゾトヤラ。此ノワタクシメニ御任セ在レ」
「ソナタワ!」
「……オーク四天王、土ノ、ブブリカイネ!」