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ツァンダ夏祭り☆!

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ツァンダ夏祭り☆!

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◇序章 忍者の頭は虹色に輝き、波乱は巻き起こる◇

 ――日没後、三日月が西の空に瞬く頃、蒼空学園が存在するツァンダに巨大な振動を思わせるような祝砲があがった。
 それは一発、二発と続き、辺り一面に降り注ぐ光の雫を降らせていく。いつもはこの時間になると、蒼空学園の校舎内に残っている生徒は少数である。しかし、今日は違った。一際、大きなざわめきの後の静寂、そして再び大きなざわめきに変わるのだ。

 ドォーン!☆ ドドォーーンッ!☆ ドドォォーーーーン!!☆

「レインボーの光は見つからないよねぇ、エルミルちゃん?」
「そうですねぇ。虹色に光り輝くアレなんて、そんなにある訳がないんですが……」
 両手のひらで眼鏡を抱える独特のポーズで、キョロキョロと『虹色』を探しているのは騎沙良詩穂(きさら・しほ)。その斜め後ろでピンク色の浴衣を身に纏い、自慢のふわふわのポニーテールが乱れないようにあくまでお淑やか、上品さを醸しだしながら立っているのがエルミル・フィッツジェラルド(えるみる・ふぃっつじぇらるど)だった。
「せっかくのお祭りだから、【馬鹿騒ぎ】したいのにぃ!」
 普段はご主人様やお嬢様方に仕えるメイドの仕事をしている詩穂も、今日ばかりはストレス発散とばかりに遊ぶつもりだった。それも当然だろう。だって、今日は一年に一度しかない『ツァンダの夏祭り』なのだ!☆

「玉や〜〜〜!!!!」
「きゃっ!!?」
 耳元で突然、鳴り響いた声に驚くエルミル。なんと、彼女の後ろに鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)が立っているではないか。
「イシシシッ」
 翔子は満面の笑顔でエルミルに牛乳を差し出す。
「!? こ、これは?」
「……あっ、間違えた。サーセン!!」
 翔子は急いで牛乳を隠すと、クシャクシャに丸まったチケットを靴の中から四枚取り出した。
「ジャーン! これが噂のかわいそうな人たちの会の入会証!」
「やったぁ!! これで、私たちは『かわいそうな人たちの【馬鹿騒ぎLOVE☆】会』の会員ね!!」
 そう口にした詩穂は暫くした後、ちょっと複雑な気分になった。
(……なぜ、笑顔で牛乳を手渡そうとしたの? それに靴の中からチケットを取り出すなんて……昭和のヤン……)
 エルミルも別の意味で複雑になった後で翔子に声をかける。
「鈴虫様、牛にゅ……ではなくて、虹色の禿頭の彼の姿を見かけませんでした事?」
「あっ、椿クン? あのコなら、電灯の下で禿頭を磨いてたよ」

 ――彼女らが話しているのは、【真の勇者(スケベ)】と言う漢(おとこ)らしい称号を持つ椿 薫(つばき・かおる)である。彼は蒼空学園の校門付近に備え付けられた電灯の下で、忍者スーツを身に纏い、自らを目印とする為にキュキュッと音を立てながら、漢(おとこ)らしく禿頭を磨きあげ、虹色の光を発光させながら、『かわいそうな人の【馬鹿騒ぎLOVE☆】会』のメンバーである三人の到着を待っていたのだ。
「ニンニンニンニン!! 皆の為に頭を磨くでござる!! 暗闇に虹色を光らせるでござる!!! ニンニンニンニン!!」
 それを聞いた詩穂は大声をあげる。
「じゃあ、どうして、呼んでこなかったの?」
「ほへっ?」
「どうして、呼んでこなかったの!??」
「…………牛乳……イシシッ、どーんとこい……って、ボクはどうして呼んでこないんだよッ!!!?」
 翔子は地面にチケットを叩きつけてノリツッコミをする。
「えええっ!!? チ、チケットがぁぁぁ……」
「で、でも、大丈夫だよ。牛乳屋は覚えているから!! たぶん、そこにいる……サーセン!!」
「牛乳零れるよ!!? 牛乳!!!」
 詩穂に対して全速力で謝る翔子に対して、詩穂は牛乳の心配をする。だが、エルミルは別の事が気にかかっていた。
(……なぜ、牛乳がメインなの? この空気は何? フフッ、フルーツ牛乳とかコーヒー牛乳だったら、どうなるのかしら?)
 彼女の気にかかる事もちょっと不思議系だが、エルミルはあくまでお上品に翔子たちの後を尾いていく。

 そんな馬鹿騒ぎな連中をよそに、青い浴衣姿の高潮 津波(たかしお・つなみ)はお祭り会場の入り口で立ちすくんでいた。
(今日はあの人に出会う事は出来ないのかしら……)
 出会いは『地下水路の闇』。彼女は冒険等で時々すれ違う人が気になっていた。何回も会った事はあるのに親密な話をした事はない。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えている時に蒼空学園の祭りを開催を聞いた。お祭りの時期であり、教導団と百合園で合同主催されている【関帝誕】にも行かずに、蒼空学園のお祭りに来てしまった。
 自分の気持ちはよく分からないので、告白とかは考えていないが、少し会って話でも出来れば何かが変わるような気がするのだが――その隣で彼女のパートナーである球体関節型の機晶姫ナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)は、複雑そうな顔で先ほど買ってきた広島風お好み焼きを食べていた。ナトレアは津波の事が気になったが、とてもそれを聞く勇気はないようだ。
「これ、広島焼きって言って、怖そうな人が売ってましたけど、とても美味ですわ」
「……うん」
 その証拠に先ほどから遠回しに津波に声をかけている。しかし、返ってくるのは生返事のみ。
(でも、これ、本当はあんまり味が……きっと、あの人は家庭の能力が低いのね)
 ナトレアはチラリとその屋台を見た。

 その屋台の縦看板にはデカデカとした文字で、『広島風お好み焼き! 焼きそば! 早い! 安い! 美味い?』と書かれていた。まるで、空手家の道場を思わせるその看板は店の主人の性格を表しているようだ。
「あんた、関西風を頼むとは……あんたは目が見えんのかいぃ!!? もっと、眼球を近づけて、よく看板を確認せんかいぃっ!!!」
「ヒッ、ごめんなさいぃ!!!?」
「待たんかい!! 別に喧嘩を売っとる訳じゃないんじゃ!!!」
 しかし、『仁義』と書かれたハチマキを締め、包丁を振り回しながら客を追いかける光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)が怖くないわけがない。彼は喧嘩も大好きだが、お祭りも大好きだった。そんな彼は自分の大好きなお祭りを、他の人にも楽しんでもらおうと店を出したのだ。
 だが、残念ながら翔一朗は料理が得意でない。『2人組割引券』にも対応し、それなりに多くのトッピングや客の要望にも応えたいのだが、子供や女の子には優しく出来るものの、チャラチャラとした男や一見して強そうな男を見つけると、喧嘩魂が疼いてしまい接客にならないのだ。これでは繁盛など夢のまた夢である。

 失敗、失敗、また失敗。その男はまるでデパートの売り子のようにすれ違う女の子に声をかけていた。
「お嬢さん、お名前は? お嬢さん、ご注文は? お嬢さん、渋い男お一つどうですか? 今ならチケットが一枚付きますよ? お嬢さん、この後デートに行きませんか?」
「うざい! それに私はオジンは嫌いだし、かわいそうな人たちの会に参加するつもりなの!! 却下!!」
 ツカツカと金色のポニーテールを揺らしながら、白波 理沙(しらなみ・りさ)は去っていく。どうやら、彼女には恋愛年齢制限があるらしい。
「やれやれ、最近の若い奴はオレの魅力がわかんねーのかね?」
 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)は銀のジッポーで煙草に火を灯すと口に咥え、肺にヤニを運びこんだ。身体の中で売人が健康と一時の悦楽を取引すると彼は深い息を吐く。
(……と言うより、乗り気じゃねーのが本心ってとこかな?)
 恋人がこれなくなった事から、ナンパに没頭していたルース。だが、どこかで熱くなれなかった。まぁ、シャンバラ教導団で戦争に明け暮れる彼にとって、この地が平和すぎるのかもしれない。しかし、そんな彼の後ろから声をかけてくる人物が居るではないか。

「ルース、そこで何をやっている? まさか、あの娘を差し置いて、ナンパをしているのではあるまいな? そうであれば許さぬぞ」
「そっ、そんな訳ないだろ、藍澤 黎(あいざわ・れい)!? それにパートナーのフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)まで、こんな所で何をしているんだ!!?」
「もーう、ルースはん。あまりに『説明的』すぎるで、かなわんわぁー! ボクらがやっているのは警備にきまっとるがな! お祭りのけ・い・びっ! 漫談やないでぇ〜!」
「ファルラ、下品な物言いは慎みたまえ」
「もぉなんでキミは、まいどまいど、そうなんや! 固いでホンマ!!」
 可愛らしい顔と関西弁が特徴のフィルラント(パートナーからはフィルラと呼ばれている)は黎に裏拳でツッコミを入れる。しかし、黎は優雅にソレをヒラリッと避けると微笑んだのだ。
「フフフッ、ファルラ。その程度の打撃で我を殺せると思ったのですか?」
(あかんっ!? 芸人殺しのスイッチが入ってとるッ!!?)
 黎は裕福な家庭に育ったために生真面目な部分がある。だからこそ、ナチュラルにフィルランドのツッコミを殺してしまうのだ――これぞ、『芸人殺し』。しかし、そんな黎にも気の許せる仲間が何人かいる。その一人が目の前にいるルース・メルヴィンだった。時に黎はルースを『るーくん』と呼ぶ。
「るーくん、頼みますから秩序だけは乱さないでくださいよ。我もるーくんを獄に繋げたくはありませんから……」
「わかってるよ。オレだって、黎にだけは捕まりたくないからな」
 ルースは手を振るとその場から離れる事にする。そして、お祭り会場の入り口に佇む少女の姿を見つけたのだ。
(誰だ?)
 その少女は何か陰鬱な気を放っているようにも見えた。

(ふう、残念ながら、彼女達は今日は別の依頼をこなしているようだな)
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、『彼氏・彼女のはじめの一歩』と依頼で出会った女の子たちを誘おうと思っていたが、どうやら、彼女達は別の依頼があるようで祭りには来ていなかった。寂しい――そこに罠があるならば、挑むのは冒険者、避けるのは探検者が身上の彼はまさに冒険者。その二刀はまさに神速。
 だが、過去に『一刀流……ただの斜め切りっ!!』と言う技を使っていたのは気のせいだろうか? 気のせいだろうか? 気のせいだろうか? しかし、彼はそんな事でメゲル弱い男ではぬわい。
(仕方がない。どうせ、祭りで揉め事を起こすであろう、パラ実の連中でもしょっぴいてウサを晴らすとするか……フフフフ、フーンッ、フフフ、フーーンッ……)
 ウィングは鼻歌で『運命』を唄いながら、二刀の柄を握ると軽やかなステップで歩き出す。しかし、彼は重要な事に気づいていなかった。パラ実は『ザンスカール・フェスティバル』と言う専用のお祭りでヒャッハーしてると言う事実にだ。

 ――ウィングの側で一枚の紙が落ちている。そして、そこにはこう書かれていた。
 ぼくのかんがえたすごいさくせん。
 おまつりにはおかねがいっぱいたまるからたのしみです。