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リアクション
6・楽しい京都観光(上賀茂神社)
長く連なる人力車の列の隣には、黒塗りのハイヤーや小型バスが用意されている。
人力車での移動が困難と思われる場所に向かうためだ。
やってきたのは七瀬 瑠菜(ななせ・るな)だ。着物のオーダーをしなかった瑠菜は、用意された着物から自分でチョイス、可憐で可愛い舞妓姿に変身している。
薄桃色の総柄に水色の半襟、黒地に金糸の織り込んだ帯をしている。老舗日本料亭の娘だけあって、着こなしもこなれている。
パートナーのリチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)は、瑠菜に着物を見立ててもらった。瑠菜とは反対に水色の総柄の着物を選び、薄桃色の半襟をしている。帯は瑠菜と同じ柄で、黒と金糸の割合が逆になっている。
おぼこ(靴)の鼻緒は着物に合わせた。
一緒に歩いてきたのは、鳥丘 ヨル(とりおか・よる)と笹原 乃羽(ささはら・のわ)。ヨルは緑のかかった薄青の着物で、可憐な裾柄がおぼこを運ぶたびにゆれている。
乃羽は、青地に大きなひまわりの咲いている着物をオーダーしていた。季節は合わないが、秋の青空の下で見るひまわりは、華やかである。
瑠菜が行き先を人力車の車夫に告げると、
「申し訳ありません。こちらにどうぞ」
車夫の差し出した指先には、黒塗りのハイヤーが止まっていて運転手がドアを開けて待っている。
「ハイヤー見ると、日本に戻ってきたって気がするね」
お嬢様育ちのヨルが呟く。あまり嬉しそうでないところを見ると、良い思い出ではないのだろう。
「うるさい親を思い出すよ」
四人は裾を持ち上げて、ハイヤーに乗り込む。車内は広く、四人で乗ってもまだ余裕がある。
運転手が声をかける。
「それでは上賀茂神社に向けて出発いたします」
他の人から隔離された車中で、4人の話題と言えば、「和菓子」である。
ガイドブックを見ながら、作戦会議だ。
乃羽がささやく。
「まずは神社を見て・・・門前で人気のやき餅を・・・」
「でもやき餅は売り切れ次第終了だよ」
ガイドブックを指差す瑠菜。ヨルも頷いている。
「やき餅が最初だと思うよ」
「だけど、買い食いって禁止なんじゃ・・・」
「美味しそうだよね、絶対食べたい」
「私も和菓子好きなんです」
「大丈夫だよ、みんな祇園周辺にいるんだもん。ここまでは・・・」
車は少し渋滞の始まった京都の街をゆっくりと走りぬけ、郊外へと向かっている。
「あと、何食べる?」
「なんか生唾湧いてきた・・・」
窓からは京都も街並みが見れるが、4人はガイドブックに夢中だ。
しばらくして、ハイヤーは上賀茂神社に到着する。
はんなりと淑やかを装って車から降りる4人。
周囲の観光客から「うわぁー」という声があがる。
この4人は、身長も体重もほとんど同じ、舞妓姿も板についている。
本物の舞妓に見えないこともない。
到着した上賀茂神社は世界遺産にも登録している由緒ある神社だ。境内は広い。
神社の二の鳥居を入ると、一番最初に目に入るのがガイドブックなどでおなじみの円錐形に整えられた「立砂(たてずな)」。
紅葉の季節だ。観光バスで訪れるツアー客も多く、4人の舞妓姿を見るたびに、
「すみません、写真いいですか」
と声が掛かる。
そのたびに笑顔で
「舞妓一日体験をしてるので、本当の舞妓さんではないのですよ」
とリチェルは答えている。
それでも、記念写真を希望する人は多い。
立砂の前にいる4人の前に、短い行列が出来つつある。
「困ったよ」
乃羽が笑顔のまま小声で呟く。
「逃げよっ」
瑠菜の一言で、後ずさりするように移動する四人。
「この格好、目立つすぎっ!」
ヨルがため息をつく。
「さすが、ラズィーヤさんです。これでは悪いことなど出来ません」
リチェルは関心している。
「見て、あの行列!」
乃羽が叫ぶ。
お目当てのやき餅を売る店には、長い行列が出来ている。
「この格好であそこに並ぶと目立つよね」
ヨルが呟く。
「でも、絶対に食べたい!」
瑠菜の決意は固い。
・・それから数10分後、お目当ての「やきもち」を手に入れることができた。
境内に入り、人気のない場所を探して頬張る4人。
「美味しいねぇ」
「はい」
瑠奈とリチェルはニコニコ笑いながら食べている。
「甘さもちょうどいいし、作り方知りたいな」
料理が好きなヨル。
「あれ、乃羽、幾つ買ったの?」
瑠菜は乃羽が1つ買ったのかと思っていた。しかし手にはもっと大きな袋がある。
「はは・・夜食用」
「ね、せっかくハイヤーなんだし・・」
ヨルが焼きもちを頬張りながら、ガイドブックを指差す。
「ここも行こうよ、少し遠いけど」
「大丈夫でしょうか」
リチェルは心配そうだ。
「だって・・・食べたいよね。ねっ!」
この言葉が誰の言葉だったか。
結果、4人は両手いっぱいの和菓子やカステラなどを手に宿舎に戻ってきた。
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