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リアクション
7・楽しい京都観光(銀閣寺)
着替えの終わった生徒たちが外に次々と出てくる。
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は京都に来るのは初めてだ。
白い瞳にあわせて、銀糸でバラの花を織り込んだ豪華な西陣織の着物を着ている。花簪もおぼこ(靴)も着物とお揃いだ。カリフォルニアに住む資産家の両親が娘のために用意したものだ。
セシリア・ライト(せしりあ・らいと)の着物も、一緒に誂えたもので、瞳の色に合わせて紅色の着物に、メイベルと同じバラの模様が淡い色彩で織り込んである。
生前は英国ガーター騎士団所属していたフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)にも着物がプレゼントされている。瞳の金色に合わせて、淡い水色に金糸のバラが裾模様で織り込んである。
「どこにいきましょうか?神社などを見たいですが、京都は始めてですし」
メイベルはガイドブックを片手に迷っている。
「甘いもの、食べたいな」
セシリアの興味は食べる方らしい。
「人力車には乗りたいですね。とりあえず車夫さんのところにいってみましょうか」
アリス・ハーバート(ありす・はーばーと)も実家はかなりのお金持ちだ。初めての京都旅行と聞いた両親はかなりの大奮発をした。
金糸銀糸を織り込んだ紅葉を散らした着物に、瞳の色に合わせた緑色の帯を特注で作った。
エマ・アーミテージ(えま・あーみてーじ)にも、エマが好きな黒地の着物とアリスの着物と対になる紅葉を散らした豪華な帯が用意された。
かんざしも、真珠を使った豪華なものだ。
「着物で歩くのって、難しいんだわ。ふらふらしちゃう」
アリスは、はしゃいでいる。
「私、舞妓さんに見えるでしょうか」
エルシー・フロウ(えるしー・ふろう)は、パートナーのルミ・クッカ(るみ・くっか)に何度も訊ねている。
「その心配はわたくしの方でございます」
「ピンクの髪ですもの。はやり黒髪の鬘にしてもらえば良かったかしら」
髪の色と青い瞳を引き立たせる淡い色彩の着物を身についたエルシーは、はかなげで可愛らしい。
「わたくしです。問題なのは」
ドラゴニュートのルミは気にしているが、不思議なほど舞妓姿が似合っている。化粧師の配慮で、鬘はやめて普段どおりの束ねた髪に小さな花かんざしを挿している。着物も黒と髪の色と同じピンクを基調にした渋めの柄だ。
「さて、どこに行きましょうか。」
それぞれが人力車の待機場所まで歩いていく。
待っていた車夫が口を開く。
「行く場所の決まっていない方は、銀閣寺はいかがでしょう。ここから遠くありませんし、時間が余れば他の場所へもお連れできます。せっかくですので、皆様ご一緒でいかがでしょう。私がガイドいたします」
メイベルとアリスが顔を見合わせる。
「そうね、そうしましょうか」
メイベルがセシリアに同意を求める。
「ガイドさん付なら安心です」
世間知らずなアリスは1人での行動よりも皆と一緒の方が安心できる。
「エルシー様はいかが致しますか?」
車夫がその後ろにいたエルシーに話しかけた。
メイベルとセシリア、アリスとエマ、エルシーとルミがペアで人力車に乗り、最後にフィリッパが1人で乗った。
フィリッパは、「万が一」に備えて後ろからついていくのが役目だと思っている。
人力車が動き出すまで、エマはとても緊張していた。
「エマ怖いの?」
「いえ・・・」小声でささやくように呟く。
(アリスにどうしても来て欲しい、とお願いされたので来て見たのですが・・・やっぱり・・・)
車夫が歩き出す。
初めにがたんと動いた座席は、その後はほとんど揺れない。普段より少し高いところに目線があるので、視界が開けて
京の街が良く見える。
エマの顔から緊張が消えた。
「銀閣寺ってどういうとこだろうね」
「文献では調べてきましたが、見るのは初めてです。この乗り物はゴンドラよりも揺れませんね」
旅先のせいか、エマは普段より少し饒舌になっている。
哲学の道を人力車で通ると、観光客からカメラが向けられる。
「撮影かなぁ。かわいいっ!」
ドラゴニュートのルミを見て、女の子がささやいている。
「わたくし、可愛いのですか?」
「あの子がそういうのだから、可愛いのでしょう。」
エルシーはひらひらと落ちてきた紅葉を手に、ご機嫌だ。
メイベルとセシリアにも多くのカメラが向けられている。
メイベルは全く気にせずに、景色を眺めながら、日本の童謡を口ずさんでいる。
「あっ!」
セシリアが声を上げた。前方にいたのは、藍澤 黎(あいざわ・れい)だ。
薔薇の学舎の藍澤 黎は、帽子と茨を取った白い薔薇学制服で、パートナーのフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)、エディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)、ヴァルフレード・イズルノシア(う゛ぁるふれーど・いずるのしあ)と共に、京都観光という名の食べ歩きをしている。
まずは、ヴァルフレードの希望で、南禅寺付近で湯豆腐を食べてきた。
初めは渋っていたエディラントが一番興奮している。
「あ~あの、柔らかく口の中でとろけるような食感・・・九条葱の歯ごたえと苦味の中にある甘さ・・・なにもかも完璧だよぉ。オレ、戻ったら湯豆腐屋やろうかなぁ」
「エディラは料理人とちゃうやろ、それはボクのいう台詞やろ」
可憐ではかなげな美少年、フィルラントがエディラントの頭を思いっきり平手打ちする。
「次はどこに行くんだ?」
「く〜りっ、く〜りっ!!!秋はやっぱり栗のお菓子だよっ」
エディラントが黎の手をとって、ジッと瞳を見ながら力説する。
「しっとり渋皮煮、風味薫る栗きんとん、濃厚な栗鹿の子、秋の栗はなんでも美味しいんだよねっ。
エディラントも黎の肩を抱き、揺さぶりながら力説する。
「せっかくの京都さかい、赤い傘のあるところで、お茶と京菓子が食べたいんや。お願い!黎!」
真っ白な制服を着た美形の4人が、ケンケンガクガク議論する姿は、紅葉に染まる京都の風景や秋の装いの観光客の中でかなり目立つ。
「黎さん!」
呼ばれて振り返ると、人力車が留まっていて中から二人の舞妓さんが降りてきた。
降りてきた舞妓は、乳白色の髪と白い瞳を持っている、日本人でないことはひと目見て分かる。
「メイベル?」
少し時間は遡り。
着付けをしている部屋には篠北 礼香(しのきた・れいか)がいる。
礼香は、髪型があごまでの長さのボブカットだ。鬘を着用することになったのだが、これが重い。着物自体は初めてではないが、舞妓さんの格好をするのは今回が最初だ。
着付けのお姐さんにお任せで選んでもらったものは、山吹色に鞠が描かれた総柄の可愛らしいもので、半襟も小さな花が刺繍された可憐なものだ。
「んっ・・・・これは!」
鏡を見て、呟く。
どうも自分のキャラクターと合わないような気もするが、鏡の中の礼香は愛らしく、無垢そのものだ。
「似合うじゃん」
パートナーのジェニス・コンジュマジャ(じぇにす・こんじゅまじゃ)は鬘を嫌って、乳白金の髪を少し大人っぽく結い上げている。着物は黒でだらり帯は髪に合わせて白にした。可憐な舞妓というより婀娜っぽさがある。
機晶姫の氷翠 狭霧(ひすい・さぎり)は最後まで舞妓になるのを渋っていた。
礼香に言われて仕方なく、着ることになったが、可愛い柄を断り、渋く渋く決めた。
ジェニスが狭霧の舞妓姿を見て、考え込んでいる。
「本物の舞妓に迷惑が掛かるから、行儀よくといわれてきたが・・・あたしとあんたは舞妓には見えないよなぁ」
「口元のマスクはパーツなので外せないのです」
狭霧が憮然とした顔で応答する。
「まあ、いいわ。さて、どこに行きましょう」
玄関先には、人力車の列、ハイヤー、観光バスとそれぞれある。
「どれにする?」
「姉貴、あの黒い乗り物がいいじゃん。あれにのりたい!」
ジェニスが興奮して礼香の袖を引っ張る。
「そうね、ハイヤーにしましょう、狭霧・・・あれ、狭霧はどこ?」
狭霧は歩いていこうとしている。
慌てて、袖を引っ張る。
「その目立つ格好で、どこに隠れるつもりなの」
狭霧は、普段は陰に隠れて礼香を見守ることを常としている。
「今回は、駄目よ。一緒に行動するのよ」
無理やり車に押し込められる狭霧。
「黎さん!」
ハイヤーの運転手に「適当な観光地を」とお願いした礼香たちが車を降りてきて、聞いた第一声だ。
人力車から、自分たちと同じような舞妓が降りてきている。
その目の前には、薔薇の学舎の制服を着た4人がいる。
「あれ、狭霧さんだ」
後方の人力車から降りてきたドラゴニュートのルミが軽く会釈をして近寄ってきた。
舞妓の白塗りの顔になると誰が誰だかわからない。
結局、ひと目で判別できるのは、特徴のあるドラゴニュートと機晶姫ということになる。
白川道と今出川通りの交差する所から、銀閣寺への参道が始まる。
乗り物から降りた舞妓達は、黎らと共に参道を歩く。
道の両側には土産物屋が軒を連ねている。
湯豆腐、にしんそば、八つ橋、京つけもの・・様々なのぼりが立ち、観光客を誘っている。
イベルとセシリア、アリスとエルシーは四人並んで歩いていた。
「うわっ〜これ、かわいいっ!」
エルシーが声を上げる。色とりどりの匂い袋を手にとっている。
「お揃いで買いませんか」
「うん、僕はこれにしようかな」
セシリアが青地に金魚が描かれた袋を手に取る。
それぞれがお気に入りの1つを選んでいる。
「ありましたぁ!」
メイベルがあぶらとり紙を手にする。
「お土産に頼まれていたのです。幾つ買いましょう」
友人の名前を思い浮かべて、指を折るメイベルに、
「全部くださ〜いっ!」
アリスが手を上げて叫んだ。
「全部?」
「そうですわ、みなさんに配るんですもの」
世間知らずの令嬢らしい発言に、
「全部は駄目ですよ。他の欲しい方が買えなくなります」
後ろで見ていた黎が優しく諭す。
「それもそうですね、では・・・」
アリスも指を折り、幾つ買うか考えている。
「串ぬれおかき。人数分買ったぞ」
エディラントが両手いっぱいに串のついたおせんべいを抱えて走ってきた。
「きゃぁ!」
舞妓の誰かがバランスを崩すと、付き添った薔薇の紳士がそっと支える。
なんとも華やかで穏やか。
観光客から多くのカメラが向けられるが、あまり気にしないようで、時折、頭上に落ちてくる紅葉を愛でながら先に進んでいる。
先を歩くエマとルミは礼香と共に、銀閣寺に夢中だ。
案内役である車夫にあれこれ質問している。
(文献で知ってはいましたが、日本の京都とはとても興味深いですね。特に寺院関係は目を見張る物があります。お庭も独自ですね、これはなんというお庭なのでしょう?)
エマが心のなかで小声で呟いたことを、なぜかルミが車夫に質問してくれる。
「なぜですか?」
エマが声に出して、ルミに訊ねる。
「同じものを見て、同じ感動をしているからでございます」
ルミは丁寧に答える。
礼香は、主に軍事的観点からの質問だ。
この寺院に要人が来たときに、どう警備していたのか気になるのだ。
ヴァルフレードも礼香と車夫の会話に
「・・・なるほど」
時折相槌を打っている。
フィリッパも英国と日本の戦術の違いに興味があるらしい。
「・・・英国では・・・」
と車夫と礼香と共に国による戦術の違いについて、議論をしている。
紅葉シーズン、銀閣寺周辺は多くの人で賑わっている。
両手におかきやら八つ橋やらを持ち、食べ歩いていたジェニスは、他の仲間を護るように前を歩く。
「ここが撮影スポットです。みなさん、記念写真を取りませんか」
車夫がカメラを構える。
薔薇の学舎4人と舞妓姿の百合園生徒10名が並んで写真を取る。
車夫のカメラの横には、観光客が押し寄せてカメラを構えている。
「ね、ねっ!あの人、テレビでみたことある」
「本当ぅ?」
誰のことを言っているかは、わからないが。
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