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団長に愛の手を

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団長に愛の手を

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「第二回戦は〜〜大岡 永谷(おおおか・とと)バルバロッサ・タルタロス(ばるばろっさ・たるたろす)! さあ、幼き騎士は正体不明のヴァルキリーにどう戦うか!」

 小次郎の実況と共に2人の試合が始まる。
「ちょっとさすがに体格差がありすぎですねえ……」
 伽羅の言葉に団長は深く頷く。
 それは小さい側も永谷強く感じた。
「……これは……」
 身長149センチでまだ13歳の永谷と。
「……こーほー」
 謎の呼吸音を出す全長2メートル弱のバルバロッサ。
「セコンドも無駄に強そうだな……」
 セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)の姿を見て、団長がそう呟く。
 永谷は自分たちを見つめる団長をチラッと見た。
 今回、合コンがメインと分かっていても、永谷が参加しなかったのは年齢のことがあった。
 団長にアタックと言っても、プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)ではないが、自分ではロリコン呼ばわりされるだろうし、と。
 合コンのおまけという大会だから、たいしたものじゃないかもしれないが、それだからこそ、しがらみがなく、いい試合ができる、他の人たちも緊張などをせずに真の実力を発揮できる、と永谷は期待しての参加だった。
 初戦の相手との体格差は激しいものの、永谷は怖気づくことなく、武器を手にした。
「俺は、俺の全力を尽くすだけだ」
 永谷は全力を尽くすと言う意味で、敢えて光学迷彩を使って戦おう、と決めていた。
 光学迷彩を使って、姿を消す。
「……光学迷彩、ねえ」
 観戦していた玖朔がボソッと何か言いたげに呟く。
 永谷はバルバロッサから少し離れた場所で、フェイントとして、大声で突撃するように叫んだ。
 相手が身構えて、実際には突撃しないということを行う。
 そして、もう一度、声を上げ。
 また、突撃しない。
「……」
 バルバロッサはカルトスノウを持ち、じっと立っていた。
 そして、ついに本当に永谷が突撃をした時。
 その足音を聞いたバルバロッサはブンと自らの武器を振った。
 重い一撃が永谷に入り、永谷は倒れこむ。
「はい、そこまで! 勝者、バルバロッサ!」
 小次郎が勝者を宣言し、セバスチャンが舞台の端まで飛ばされた永谷を起こしてあげる。
「……すまない」
 永谷が礼を言って立ち上がり、無事なのを確認すると、リースが小次郎に解説を振った。
「今の対戦はいかがですかー? 実況の戦部さん」
「はい、そうですねー。一言で言うと、『光学迷彩の使いどころの間違い』でしょうか。武闘会の舞台のように、戦闘する場所がまっ平らで、他の物が何もなく、雑音も少ない場所での光学迷彩の利用は無意味と言うことです。光学迷彩持ちの方、覚えておいてくださいねー」
「解説ありがとうございました。では、次をどうぞー」


「第三回戦は〜〜デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)ビクトリー・北門(びくとりー・きたかど)
! 教導団でも異端キャラの2人がどう戦うか!」

「異端か。へへへ、否定はしねえぜ?」
 異端と言われて、デゼルはむしろうれしそうに笑う。
 デゼルの服は教導団では珍しい改造制服で、南 鮪(みなみ・まぐろ)が団長にさせようとしていた世紀末的な格好に似ていた。
 黒い肩当てとベルトには刺々しい……というか、金属の棘がそのまま生えており、不良っぽい外見と相まって、まるで悪役のような感じになっていた。
「おやおや、うちのお嬢よりも、ずっとパラ実らしいのが、教導団にいるんだねえ」
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)のパートナーである宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)がデゼルを見て、感心する。
 もっとも教導団にも、チュパカブラのゆる族はいないと思うのだが。
 一方、ビクトリーの方は、教導団員の多くが、彼と面識がなかったので、他の大会参加者も観戦席の人も興味深げに彼を見つめた。
 デゼルはオークスバレーでは騎狼部隊突撃隊長であり、実況の小次郎やリースも、デゼルとは、《工場(ファクトリー)》と名付けられた遺跡で、一緒にバリケードの構築・修復をした仲なので、良く知っていた。
 しかし、ビクトリーは教導団のそういったものには行っていなかったので、ほぼ知り合いばかり、という大会において、非常に珍しい人物として注目されたのだ。
「ビクトリーーーッ!!」
 舞台に立つなりそう叫んだビクトリーを見て、みんなギョッとした。
 手には『完全燃焼』という文字が入った旗付きのランスを持っていて、それを見たデゼルが笑った。
「なんだ、そんなもんくっつけて、オレと戦おうって言うのか?」
「俺はレスラーだ。そんな真似はしねえぜ」
 ビクトリーは巨大な体を揺らしながら、小次郎に手を伸ばした。
「おい、マイクをよこせ」
「はい?」
「マイクだよ。マイクパフォーマンスは重要だろ?」
「はい、マイクマイク」
 会場係のウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)が慌てて持って来て、ビクトリーにそれを渡す。
「おお、ありがとう。では……って、これはスルメだーー!!」
「あっ!!」
 素で間違えたウォーレンがビックリすると、撮影係をしていた張コウが見かねてつっこんだ。
「何をどうすれば、マイクとスルメを間違えるのだ!」
「ごめん。机や椅子やメモを用意する時に、一緒にスルメを持ってたから……」
「そこでスルメを持つな!」
 ウォーレンにつっこみつつ、張コウはちょうど良く間が空いたと思い、今まで撮っていたスマートメディアを取り出して、番号を書き、新しいスマートメディアを入れた。
 魏の武将だったわりに、意外と現代の技術に慣れているらしい。
 関羽も着信拒否をしているので、意外と現代的な気もするが、あれは団長が関羽の携帯を弄って着信拒否をしているという噂も……。
 と、それはさておき、ウォーレンは今度は真面目にマイクを持って来て、ビクトリーに渡した。
「さあ、これからが俺の独壇場だぜ! お嬢ちゃん、耳の穴をかっぽじって、良く聞きな!」
「誰がお嬢ちゃんだ!」
 ビクトリーの挑発に、デゼルはキツイ目つきで睨みつける。
「お嬢ちゃん、だそうですが、小次郎さん……?」
「そうですねー。ビクトリーさんは今回の参加者の中でも34歳と年齢が高めの方なので、今回の参加者の中でも15歳と若いデゼルさんとは、下手すると親子に近い年齢差なので、お嬢ちゃん、でも間違いないかと」
「どういう意味だ!」
 デゼルが小次郎にまで突っ込む。
 ボケが多いと、ツッコミは忙しい。
「このランスはな、こうやって使うんだよ!」
 ビクトリーは舞台にザクッとランスを突き刺した。
「こいつは俺の旗だ。俺はレスラーだからな。素手で行くぜ!」
「ほう、後悔すんじゃねえぞ。オレは優勝したら団長に挑むつもりだから、手を抜く気はねえぜ?」
 といっても意外と心優しいデゼルは、団長の実力を知りたいと共に、団長のイメージアップに一役買ってやろうと思っていたのだが。
「望むところだ。レスラーの強さってやつを、とくと味わえ!」
 ビクトリーはバッと服を脱ぎ、プロレスパンツの姿になった。
 そして、パートナーの百二階堂 くだり(ひゃくにかいどう・くだり)に顔を向けて、声を張り上げる。
「始めるぜ!」
「OK!」
 頭に『必勝』の文字が入ったハチマキをしめ、体操着とブルマーの上に赤いジャージを着た熱血少女・くだりが光条兵器を首に下げる。
 光条兵器は『ゴング』
 様々な光条兵器が数あれど、この光条兵器は珍しい。
 というか、武器として役に立つのか?
「レスラーはそんなことは気にしない! なぜなら、レスラーが戦いに使うのは、己の肉体のみだからだ!」
 自らの鋼の体を会場全体に見せつけ、ビクトリーは高々と宣言する。
「いい心意気だ。それじゃ、オレも全力で行かせてもらおうか!」
「よーし、ゴングを鳴らすぜ! そこの兄ちゃん! あたしにレフェリーと実況の座を譲りな! ああ、リングドクターもあたしがやるぜ!」
 くだりが威勢よく、小次郎に手を差し出す。
「ど、どうしましょう」
「まあ……いいんじゃないですかね。いざとなればウォーレン殿もクレア殿もいますから、なんとかなるかと」
 リースは困ったように小次郎を見たが、小次郎は盛り上がるなら、と大人しく、くだりにマイクを渡した。
「さーて、それじゃ、始めるぜ!」
 光条兵器のゴングが良い音で鳴る。
「ビクトリードロップ!!」
 いきなりドロップキックが飛んでくる。
「へっ、その程度じゃ、オレの防御は破れないぜ!」
 デゼルは盾でそのドロップキックを捌き、攻撃に入ろうとする。
 しかし、一瞬早く、ビクトリーの方が動いた。
「ビクトリーチョップ!!」
 両手を同時に振りかぶり、デゼルに叩きつけようとする。
「甘いぜっ!」
 デゼルが足を伸ばし、ビクトリーを蹴る。
 攻撃は避けない、がレスラーとしてのスタンスのビクトリーは、その蹴りを受け取った。
「ちっ!」
 ビクトリーにダメージを与えたものの、引かないのを見て、デゼルは咄嗟にナイトシールドを上にやり、ビクトリーの両手はシールドに当たった。
「くっ!」
「うわ、響いた」
 両手を振りおろしたビクトリーの方に大きなダメージが行ったが、防御したデゼルの腕にも響いた。
「やるじゃねえか、さーて、こっちからも行くぜ!」
 デゼルが相手を挑発するようにランスを構える。
「武器があっても引かぬ。それがレスラー魂だ!」
 ビクトリーはまったく怯むことなく、デゼルに向かってきた。
「へ、教導団にもまだまだ面白い奴がいるってことだな!」
 デゼルは向かってくるビクトリーと向かい合い、一瞬、半身をずらして、盾で殴りつけた。
「うおっ!」
 殴りつけられたビクトリーが舞台に倒れこむ。
 それを見て、くだりが眼帯を付けてダミ声で叫んだ。
「立て〜、立つんだ〜〜!!」
 しかし、ビクトリーは立てない。
「クレア殿ー!」
 小次郎に呼ばれて、救護スタッフであるクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が駆け付ける。
 しかし、担架を持った二人を、くだりが阻んだ。
「ビクトリーは、これくらいでは倒れない! まだまだ、決め技のビクトリースープレックスホールドが……」
「昏倒した場合は、処置に入るまでの時間が長いか短いかで、どれだけ助けられるかが変わる。衛生科として、看過できない」
 クレアはそう言い放つと、くだりをどかせて、救護に入った。
 そして、ハンスと協力して、ビクトリーを舞台から下ろし、2人でヒールをかける。
「大事はなさそう、ですね……」
「ああ、良かった」
 そう答えながら、クレアはチラッと金団長の方を見る。
「まぁ、それなりってところかな……」
 団長のそばにいる人たちを見て、クレアはそう思った。
 「慕われていない」ということはないが、「積極的に団長に関わろう」という人は「遠くから団長の幸せを祈る」とか「嫌いでない」とかいう人よりも、少なかった。教導団員で言うなら特に。
 もちろん「権力を動かせるものとして」あるいは「校長と言う立場にあるものとして」意識する人はそれなりにいるけども。
 チラッとクレアは会場内を見まわす。
 意識してそうなったのかは知らないが、やはりクレアと同じ『白騎士』に所属したり、『白騎士』に関わる人たちと共に行動をしている人たちは、武闘会に出たり、スタッフをしたり、団長から遠い行動をしている人たちが多かった。
「私も人のことは言えないがな……」
 団長派の風紀委員や査問委員会とクレアの所属する『白騎士』とは仲が悪い。
 その気もないのに団長に近づいて、風紀や査問委員会はもちろん、白騎士の側からも勘ぐられてはかなわないと思い、クレアは合コンにも参加しなかったし、団長にも近づかなかった。
 スタッフが集まった時に、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が自分に話した「別に団長を嫌いではないが、サミュと違って、私が団長のそばに行ったら、何か企んでるのかとしか人からは見えないと思うぞ?」という言葉がクレアには良く分かる。
 ヨーロッパ系ゆえに白騎士と言う立場ができてしまったがゆえに、動きづらく……なのだ。
「よし、もう大丈夫そうですね」
「ああ」
 ハンスの声を聞き、クレアが顔を上げる。
「まあ、後は金団長も出ないようですし、関羽様は不在のようですから、それほど大きなことも起きないでしょう」
「だといいな」