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第七章 教導団一武闘会・二回戦

 
 二回戦に進んだのは、レオンハルト、バルバロッサ、デゼル、風次郎、優梨子、雫の六人。
 またまた厳正なるアミダにより、戦いが組まれた。

 第一回戦、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)水渡 雫(みなと・しずく)となった。
 宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)の血を摂取して、気力体力を回復した優梨子は、また、銃を手にして、雫を牽制した。
 雫はフェイントをかけつつ、サイドステップで近づいたが、相手がどういう攻撃で来るか分からない。
「……世の中は広いって、ことですね」
 剣士の家柄である雫は、優梨子のような戦い方に慣れていない。
 なにせ優梨子は武闘会であっても「バイクで体当たりは無しかしら?」と思うタイプだ。
 雫の常識は通じない。
 戦いは、優梨子の勝利で終わった。
 腹の探り合いが好きではない雫と、そういったことが大得意な優梨子では、雫にとって相性が悪すぎた。
「吸血鬼が噛みついて攻撃するのは、文化です」
 勝利を宣言された優梨子がクスッと笑った。
 雫の喉には優梨子が噛みついた痕があった。
 優梨子は喉に噛みついた際に「降参せねば食い破る」と伝えた。
 降参なんて……と雫は思ったが、ローランドがその雫に合図を送った。
 優梨子は喉を食い破るのをためらっているのではない。
 むしろ、雫が抵抗したら、それを理由に喜んで噛み破ろうとしているのだ。
 それに気づいたローランドは急いでやめさせた。


 第二回戦は、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)
「……魔法使いなのに剣かよ。……ったく……あ〜……メンドクセェ……」
 デゼルはやりづらいな、という顔をした。
 何せ遠距離・近距離どちらも注意しなくてはいけない。
 その言葉を聞いて、レオンハルトが薄く笑う。
「これからは銃器も剣も、魔法も槍もというものが増えるだろう。戦っておいて損はないと思うが?」
 その薄い笑いを見て、デゼルは自分の金色のポニーテールをがしがしかいた。
「うわ、もう一つ、メンドクセェ」
「何がだ?」
「あんたはいまいち読めねぇ」
 じっとデゼルの青い瞳がレオンハルトの隻眼を見つめる。
 しかし、その片方の緋の瞳は何も語ろうとはしない。
「簡単に心が読めるようでは、隊を率いるなど出来ぬし、頂点など目指せんよ」
「頂点? 何の頂点だ」
「さて、何だろうな? 俺にも分からぬよ」
 レオンハルトがくっくっと喉を鳴らして笑う。
 それを見て、デゼルは顔をしかめた。
「やっぱりあんたは読めねえタイプだ。オレは正義や大義を口にする奴は大嫌いだ。だからといって悪事をする奴も好きじゃねえ。あんたからはどちらの匂いもしないようで、どちらの匂いもする。なんなんだ?」
「単純、素直、純粋……どれも俺に似合わぬ言葉なのでな。一言で表せないと思ったならば、それは正解だと言っておこうか。さて、始めるか」
 2人の戦いは最初から白熱した。
 騎士のデゼルは守りを重視する。
 それに対して、レオンハルトは攻めることを好む。
 初動に遠距離攻撃を警戒したデゼルは態勢を低くして、盾を前面に構えたが、その盾がレオンハルトの光条兵器に切られた。
「ちっ!」
 しかし、デゼルはそれで怯むことなく、盾でレオンハルトを殴りつけた。
「くっ!」
 レオンハルトはその攻撃を受け、顔を歪める。
 デゼルはそのままレオンハルトに体当たりをしようとしたが、レオンハルトは違う光条兵器を取り出し、デゼルの体にそれが触れた。
「いてえっ」
 先ほどレオンハルトが光条兵器を使ったときには盾は切れたものの、デゼルの体は切れなかった。
「どういうことだ!?」
 レオンハルトは答えず、デゼルの攻撃を食らわないように少し距離を取った。
 デゼルは焦りはしたものの攻撃の機会を逃さず、残った盾をレオンハルトに投げつけた。
 しかし、それは先ほどの盾を切った光条兵器で、再び細かく叩き割られた。
「俺と同じく投擲を考えていたものがいたか。おもしろい」
 レオンハルトの顔に笑みが浮かぶ。
 唇の端を釣り上げたその笑みに、
「ちっ、そんなかわいくねえ笑いは初めて見たぜ!」
 と毒づきながら、デゼルがランスを手にレオンハルトと対峙した。
 戦いはレオンハルトの勝利となった。
 最終的には雫対優梨子と同じく、相性の結果だった。
 防衛を好むデゼルと、攻勢を好むレオンハルト。
 その防衛側のデゼルが盾を無くしたため、打ち合いになると、レオンハルトの方が有利だったのだ。
「見知り置くがいい、貴様を狩った者の姿をな」
 レオンハルトの言葉に、デゼルは棘の付いた肩をすくめる。
「そんなオレ以上の悪人面、忘れたくても忘れねえよ」


 第三回戦は前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)バルバロッサ・タルタロス(ばるばろっさ・たるたろす)
「さてさて、それでは応援していますぞ、マイブラザー。私はセコンドとしてベンチに入っておりますからな。万が一恥ずかしい戦いぶりを見せたらお仕置きですな」
 後でセバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)が静かに脅し、バルバロッサがそれに怯える。
「ああああああ兄上、虎が! 虎が!!」
「レオンハルト坊っちゃまが勝ち進まれましたからな。せっかく坊ちゃまがどこまで強くなったかを測る良い機会。分かっております、な?」
 にんまりと笑みを浮かべるナイスミドル。
 そういうふうにしか見えないセバスチャンだったが、その笑みに「てめぇマジでやらねぇと潰すゾコラ」的な殺気が混ざっているのが分かるバルバロッサはがくがくと震えた。「伐折羅との鍛錬の成果を確かめるには良さそうな相手だな」
 風次郎はバルバロッサをそう評し、戦いに臨んだ。
 先ほどと同じく風次郎がドラゴンアーツで相手を牽制する。
 さすがに全身鎧のバルバロッサはルースのように簡単に飛ばなかったが、バルバロッサは戸惑った。
「ド、ドラゴンアーツだったら、どうすれば……?」
 セバスチャンからドラゴンアーツの対応法は習っていない。
「…………次は『臨機応変』と言う言葉を教えねばなりませぬな」
 セバスチャンはあきれたが、それでもバルバロッサなりに真面目に何とかしようと、シールドを構えたまま、重量任せの突貫を行った。
「オォォォ!貴殿に恨みは無いが、私の平穏の為に終えよっ!!」
 風次郎は攻撃に転じてきた相手を一度かわし、バルバロッサの懐に潜り込んだ。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
 会場の空気も揺るがす風次郎の気合いと共に、ドラゴン特有の力を伴った強攻撃がバルバロッサに叩きつけられる。
「ゴホッ!」
 重量30kgはある漆黒の全身鎧さえも超える風次郎の攻撃。
 小次郎が倒れこんで起き上がらないバルバロッサを見て、風次郎の勝利を宣言した。
 が……。
「拳が……」
 素手で全身鎧を殴りつけて倒れさせた風次郎の拳は、イカレテしまった。
 救護スタッフのクレアたちが寄り、症状を見る。
「治すことはできると思います。後を引くような問題は起こらないでしょうが……今このまま戦うのは……」
 風次郎は勝利を収めたものの、ドクターストップがかかり、舞台を降りることとなった。