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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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第6章 黒羊旗

「教導団め、やはり我らのことを嗅ぎ付けて来おったか。
 で、どうするんだ? こんなところに旗を掲げて構えたところで、奴ら逃げ出すとでも?
 なあ、メサルティムよお」
「さあて。どうでしょうねえ。
 ……しかし長は、これだけの数を私達に付けてくださったのです。つまり……」
「くっふふ。……だよなあ?
 どうせ奴らも血の気の多い兵どもの集まりよ。早く来ねえかなあ、しばらく人を殺してねえんだ、腕がにぶっちまうぜえ」
「まあまあ、ボテイン
 私は何もそこまでは言ってませんよ? 全くあなたは気が早い」
「何、貴殿も人が悪いよ。いつも殺し足りぬ殺し足りぬと言ってるのはどこの誰だか。
 まあ、戦になればわかるさ。くっふはははは」
「おほほほ……おっと、私としたことが。
 軍師殿? あなたは、教導団の連中はどう出るとお考えですか? 一戦交えたことのあるあなたは……」
「……。
 わからぬ。あいつらには、計り知れぬところがある」
「おほほほ」
「ふん。軍師殿、なあ。俺は認めたわけじゃねえぜ?
 いくら長に選ばれたからって、軍師面する前に、ちゃんと貴様の策を見せてもらわにゃなあ。
 ……と言っても、今回はそれまでもなく、俺が一人で片付けちまうかな。くふ、っははははは」


6‐01 初めての偵察

 湖の西回りで、北の森へ駆けた騎狼部隊所属、突撃隊長のデゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)、そして林田 樹(はやしだ・いつき)
 もちろん、今回の任務は偵察だ。
「一応、認めたくはないけれど上官からは喧嘩戦いはご法度の命が出てるし、ものすごぉぉぉぉぉく! アレの命令かと思うと不本意ではあるけど! 交戦はしないように気をつけておくよ。専守防衛ってやつかな」
 ルケトは、なるべくパルボン(アレ)の顔は思い浮かべないように、そう言った。
「まぁ、なるべく騎狼に音を立てないように歩いてもらって、接近しよう。
 ……ルー、寝てないか?」
「るー……おきてる……」
 騎狼の足音に注意した者はあるだろうか。実は、騎狼は、馬などに比べるとさほど足音を響かせずに動くことができる。甲冑を着けていても、動きは素早い。
 鎧を纏った兵が大軍で移動すれば無論音を響かせることになるが、単体や数体で移動する分には、ほとんど響かせることなく、偵察向きとも言える。
「どうやら、森に入ったな。位置的に考えても、そろそろであろう」
 徐々に、木立が増えてきた。
 林田が言う。
「姉御、どうする?」
「ああ、速度は落とそうか。もう少し木が密になってきたら、湖のほとりに騎狼をつないでおこう」
 敵の姿も、気配も、まだない。
 騎狼を下りると、林田は周辺の草や木の枝でカモフラージュを施し、顔にも泥を塗った。
 コタローも、
「おりぼんとって、どろぬって、てーさつするお。
 こうがくめいさいつかうお。
 のろのろあるいて、えらいひとのかおみるお。
 とにかくみて、おぼえるお」
「はは、え、えらいな。林田のとこのコタローは……。
 さて、俺は偵察向きのスキルがないし……」
 デゼルは、ルーを見た。
「ルー?」
「オイオイ、ルー? 寝てちゃだめだぞ?」
 ルケトがルーを起こす。
 幾らも歩くと、ざわめきが聞こえ、人の気配も感じられるようになった。
 馬のいななき、それに、甲冑を鳴らす音がほんのかすかにだが、聞こえる。
 移動している様子はなく、駐屯しているようだ。
「! 誰か、来る……」
 ざっ。ざっ。
 黒い甲冑の兵士だ。
 辺りを見回っているものと思われる。
 デゼル・林田らは、それをやり過ごすと少し後方まで下がった。
「ここからは……」
「危険だが……」
「るー☆」
「こたにまかせるお」
 ルーと、コタローが行くことになった。
「……行ったな」
「……ああ」
 二人(?)の姿が、木立の中へと、消えていった。
「大丈夫か?」
「あの二人(?)なら、まあ見つからないとは思うが、問題は……」
 ……報告が、ちゃんとできるか?
 初めての、偵察だ。

 しばらくすると、森の中に動きがあった。
 どこからだろう、馬の駆ける音が、近付いてくる。
 身をひそめる。
「……違うな。私達の方ではない、この先に駐屯する軍の方へ向かっているようだ」
「聞いた感じ、二騎……いや、三騎、か。相手方の斥候でも戻ったか?
 だが若干、馬脚が乱れてる感じがしないでもないが……」



6‐02 連携する三人

「……教導団……やけに殺気立っていたな……新しい戦いが始まるのか……行ってみるか……頼むぞスレイプニル……!」
「そうですね。私も魔術を習って、手助けができるようになったって見せてあげます! お願いホービィ!」
「置いて行かないでくださいよ! お、追いかけて! ヴァルプニル!」
 それぞれの馬を駆って、走る三人。
 教導団の後を追ってきた。
 教導団の行軍を見た三人、その先には、必ず敵の存在がある筈。
 三人は、北の森まで、やって来た。
 何人かの兵の姿が見える。黒い甲冑。
「……奴等か……ユニ、アイシア……新しい連携が試せるかもしれん……行くぞ……」
 ばっ。
 三人は、森の開けた場所に飛び出した。
 黒尽くめの軍の、ど真ん中だ。
 手綱を引いて、その場に止まる。
 しん、となる場。
 黒の甲冑達も、ぽかんとして謎の訪問者を見つめている。
「……謎の勢力、とはお前達のことかな……? ……さて、敵、か? ……」
 甲冑の中にあって、一人黒い法衣を纏った長身の男が答える。
「敵か、とは?
 そなたは? ……教導団の者か?」
「……いや、違う……わからないか? ……俺の名はクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)……!!」
「何? 紛らわしい。
 まぁ、そうだな、教導団の者ならいかに血の気が多いとも、敵地に真っ向から三騎で乗り込んでくるようなことはしまい。
 ええい、あっちへ行け!」
「……敵地、と言ったな……敵、なのか……」
「わけのわからぬやつめ。何が言いたい?
 私達は、お前の敵ではない。見逃してやるから、早く行けと言っておるのだ!」
「……なんだ、違うのか……ユニ、アイシア……行くぞ……あちらで、連携技の練習でもしよう……」



ガッ ガッ
「ユニ、アイシア、行くぞ! 黒翼展開!」(クルード)
「行きます! ……我が身に宿りし蒼天の力よ……その輝きを示せ! ……蒼雷閃!」(ユニ)
「わ、私も行きます! ……闇を封じる真白き吹雪……」(アイシア)
「……」「……」「……」(左から、メサルティム、ボテイン、??(軍師))
「閃光の銀狼の爪牙……見せてやろう……その身に刻め! 冥狼流奥義! 驟雨狼雷閃!」
「ブルーライトニング!」
「アブソリュート・ゼロ!」
「……」「……」「……」
ガッ ガッ
「ユニ、アイシア、行くぞ! 黒翼展開!」
「行きます! ……我が身に宿りし蒼天の力よ……その輝きを示せ! ……蒼雷閃!」
「わ、私も行きます! ……闇を封じる真白き吹雪……」
「……」「……おい」「……」
「閃光の銀狼の爪牙……見せてやろう……その身に刻め! 冥狼流奥義! 驟雨狼雷閃!」
「ブルーライトニング!」
「アブソリュート・ゼロ!」
「何だ、ボテイン」「メセルティム。あいつら、やっちまってもいいか?」「……」
「……ぴくん……」
「……クルードさん、ひそひそ……」
「……」
「勝手にしな」「おう」「……フ」
「……おお、やっと戦う気になったか!! ……」
 クルード達の目が、きらきら輝いた。
「ええーい貴様ら、いい加減にせぬか!
 どこのどいつか知らぬが、我々の陣営に勝手に乗り込んできた上に、ちょこざいな曲芸など見せおって!
 これ以上は、我らへの妨害行為と見なす」
 髭を生やした巨躯の男が、黒いマントを勢いよくはだけた。
「黒羊軍の将ボテイン
「……どこのどいつか、だと……言った筈……俺の名はクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)……
 ……【オークの歴史にその名を刻んだ男】……だ……
 ……黒羊軍、か……お前らも、俺の名を刻むがよいだろう……」
 ボテインは、にやりと笑って、大剣を抜いた。目は、笑っていなかった。
「ユニ、アイシア、俺に続け! 黒狼天翔!」クルードの背中に、漆黒い片翼が!? 「黒翼展開!」クルード、そのままバーストダッシュで上空へ飛び上がる。
「……力を貸してねレミィ」肩に乗せた蒼いネコの使い魔に話しかけるユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)。「行きます! ……我が身に宿りし蒼天の力よ……その輝きを示せ!」
「わ、私も行きます! ……聖なる氷の祝福を……出でよ……聖剣デュランダル!」アイシア・ウェスリンド(あいしあ・うぇすりんど)の手に、巨大な剣が召喚される。その刀身は、少し蒼みががって見える。美しい剣だ。
「……ふん」
 ボテインは、再び笑って、大剣を片手でかまえた。
「閃光の銀狼の爪牙……見せてやろう……その身に刻め! 冥狼流奥義! 驟雨狼雷閃!」
 居合のかまえを保ったまま、上空から襲いかかるクルード。抜刀と共に雷の狼が敵に飛びかかった(轟雷閃使用)。
「蒼雷閃! ……ブルー・ライトニング!」
 ユニの蒼い雷が、クルードの狼に合わさり速度が増す。
「……闇を封じる真白き吹雪……アブソリュート・ゼロ!」
 更に、アイシアの刀身から放出された吹雪を、狼が纏う。
「おう?!」
 ボテインに食いかかった狼。鎧が凍てつき、感電する。
 周囲に響く衝撃波。
「……おい、ボテイン」「……」
 氷ついた甲冑。
 中からは、煙が出てくる。
 が、
 ぼんっ。兜を脱いだボテイン。笑っている。
「くはっはっは。中身までは、凍らせていない。
 俺をしびれさせたことまでは誉めてやるがな……」
「……ボテイン」「……静電気で髪が立ってるな。顔まで黒くなってる」
「……く、何故だ……」
「貴様らの連携ならさっき、嫌というほど見ていたからな」
「……何だ、ちゃんと見ていたのではないか……」
「嫌でも見えるだろうが! さあ、では今度は……」
 ボテインは大剣を振りかぶった。
「……オークのようにはいかないか……ユニ、アイシア……行くぞ……」
「クルードさん!」「あ、あの……」
「……新しい連携を考えねばならん……」
 スレイプニルにまたがる、クルード。ユニ、アイシアも続く。
「おい、……」
「ボテイン、もういい。ほうっておけ」
 駆け去る、三人。
 ……だが、あいつは俺のことを覚えた筈だ……あそこまでダメージを与えたのだからな……黒羊軍か……俺が討つ、必ずな……その身に刻むがいい……俺の名は、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)……!! ……



 以上の件を、しかと見届けたルーとコタローは、デゼル、林田のもとへと戻り報告した。
「ぎんいろかみのながいきんいろおめめのおにーさん、うまでやってきたお。
 おにーさんおねーさんおねーさんれすよ。でゅらんだる」
「るー。さんにんで、たたかってた。めいろうるーおーぎ」
「戦った?」
「銀の、髪の長い、金の、瞳の、男……って誰だろう」
「えらそなひと、きょうどうだん、きょうどうだん、てき、てき、いってた」
「な……」
「まずいな。もしかしたら、好戦的な誰かが、たまたまここへ来て戦いを挑んだのかも知れない」
「それで、教導団と言っていたということは……」
 軍に、動きがあった。
 西の方へ、一部が移動しているようだ。
「まずいことになったな……」
 西回りで動き出す、ということは……?
「騎狼のもとへ戻り、湖のほとりを伝って、バンダロハム経由で戻ろう」
「イレブンも気になるが、早く本営へ」
 しかし……
 東へ向かった騎狼部隊は、そこでも軍に遭遇した。そして、
「! お前ら……?」
「更に、まずいな」
「逃げるしかなかろう」
 東回りでも、軍が動き出していた。
 軍が、迫ってくる。