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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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プロローグII

 騎凛 セイカ(きりん・せいか)教官が珍しく休暇をとるようだという話が、生徒の間でちょっとした噂になっていたという。
 学校入り口で、李 梅琳(り・めいりん)らが、そういう話をしていたらしい。
 騎凛先生が旅行に行くなら、付いて行こうかなあという生徒も。


prologueII-01 騎凛の旅立ち

 騎凛出発の前夜。
 そういうこともあって、
「朝霧さん。では、今のうちに出発しちゃいましょうか?」
「あはは……そうだな」
 出発の準備をしているのは、朝霧 垂(あさぎり・しづり)
 【第四師団メイド隊長】として、共に旅に出向くことになる。騎凛の親友でもある彼女だから。
(騎凛教官を一人で行かせられないだろ……色んな意味で。)
「って、夜だけど……」
「なんだか、秘密の冒険みたいで、楽しくありませんか?」
 夢見がちなところもある騎凛。
「そ、そうかもな」

 でも本当にもう出発しちゃうことになりました。

 小さな灯りのともる、暗い階段を下りながら、
「朝霧さん……」
「どうかしたか?」
「この旅は、何となく安全でない気がするの。
 本当は皆を巻き込みたくなくて。朝霧さんも……」
「何言ってるんだよ。
 俺はちょっとくらいのこと、平気さ。メイド隊長だしな、俺は。
 ライゼは怒るだろうけど……」
「……ありがとうございます」
 二人が、砦の入り口を出ると、明るい月夜。
 秋も終わりの少し冷たい風に髪をなびかせ、夜空を見ている一人の男。
「今宵は三日月、ですか……。
 かよわき女性二人だけを、危険な旅に行かせる訳にはまいりません」
 月を眺めたまま話し、くるっと二人を向き直ると、剣を脇に跪いてみせた。
「騎士ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)。貴女方のお供を致しましょう」
 ふ、と顔を上げ、月明かりに照らされる微笑。
「ユウさん……」
(な、何だこのきざな台詞はMSが用意したのか??)
 ……それに、どこがかよわき女性だか。(朝霧、「それは余計だぜ」)
「ユウさん。来て頂けるのですか?
 ユウさんならば、心強くはありますが……」
「騎凛先生。
 ……ええ、修学旅行の折の、デコキス騒ぎの謝罪の意味も兼ねて」
「ちょ、……知りません!! なんですか、デコ、キ、キ、キス、って……!」
「キス?? 騎凛教官、修学旅行で何かあったのか?(俺、修学旅行は行けなかったんだが……)」
「すみませんでした、騎凛先生。あなたのキス……」
「ありません!! 何も、ありませんっ」
「そうです、その通りですよ」
 ユウの背後から、さっと現れたのは、アリスのルゥ・ヴェルニア(るぅ・う゛ぇるにあ)
 ユウの腕にしっかりとしがみつく。
 分校門の反対側には、腕組みし刀を差した少女剣士。柳生十兵衛、三厳ちゃんこと柳生 三厳(やぎゅう・みつよし)である。
「だって、ユウのキスを頂いたのは、ルゥなのですから」
 さらりと述べる、ルゥ。
「く、……」
 それを聞いてちょっと涙目なのは、奥手な方の三厳。
 ユウは、静かに瞳を閉じている。
「は、はは……まあ、とにかくそろそろ出発しようぜ? 夜が明けちまうぜ……」
 騎凛に恋敵ビームの視線を投げる、ルゥと三厳。
「……やれやれだな。先が思いやられるよ……」
「うう〜眠いよぉ」
「ライゼ、起きてきたのか」
 朝霧のパートナー、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)
「そうだよ。僕がいなきゃ、だれが料理を作るんだよ。
 はい、お弁当」
 「垂は庶務の仕事が残ってるでしょ! 僕が作っておくから安心して仕事を終わらせてね!」と、絶対に朝霧に料理を作らせなかったライゼだ。
「はぁぁ!!!!」
 騎凛のお目付役として随行するマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)が、ゆる馬車を駆ってやって来る。「目的地までは、これに乗ってゆくであります!!」
 馬車の中から、カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)が顔を出す。
「馬車に乗れるのは、女の子だけだよ」
「……。えっ」(ユウ)
「では騎凛ちゃん。目的地までは、どう行くでありましょう?」
「さあ……」
 どかっ。マリーは落馬した。
「ご、ごめんなさい。大体なら、わかります」
「……」
「じゃあ、早速重症を負ったマリちゃんに代わって、カナリーちゃんが馬車を駆っていくよ!
 気を取り直して、いざ黒羊郷へGO!!」
「本当に先が思いやられるよな……」



prologueII-02 騎士ルイス

 明け方。
 草原地方に入った馬車を追って来る、後方に何者かの騎馬の駆ける音。
「まさか、いきなり敵のお出ましじゃないだろうなあ」
 仕込み竹箒に手をかける、朝霧。三厳も、馬車から身を乗り出して、木刀を取り出す。
 ゆる馬車の速度に、すぐさま彼らは追いすがってきた。
 二騎。
「その馬車、待たれい!」
 ざざっ。馬車の横に付ける。……教導団の紋章。
「敵ではないみたいだな……」
 双方、手綱を引いて、馬車をとめる。
 手前の騎士が、冑を脱ぐと、精悍な顔立ちをした青い瞳の青年。
「騎凛教官のご一行ですね? 
 騎士ルイス・マーティン(るいす・まーてぃん)と申します。
 教導団上層より、護衛の任を仰せつかり参じた次第。よろしくお願い致します」
「上層より……?」
 見張りでも付ける、ということか? という者も。
 比較的最近、教導団に配属された任務に対し忠実な騎士だと聞く。
「騎士ルイス殿、か。
 自分は騎士ユウと言います。どうか見知りおきを」
 すっと一礼する、ユウ。ルイスも、軽く頭を下げる。
「あなた……は?」
 馬車から飛び下りて、もう一騎の前に立つ、三厳。
「私は、サクラ。サクラ・フォースター(さくら・ふぉーすたー)です」
 兜をとると、こちらは女性であった。すらりと背の高いヴァルキリーの女剣士だ。
「サクラちゃん、か。ボクは柳生の剣士、十兵衛三厳(みつよし)。
 よろしくね!」
「え、ええ。……こちらこそ、よろしくお願い致します」
「では、日の暮れる前に草原地方を抜けられるよう、まいりましょうか。
 して、騎凛教官。まず我々の目指す地点は?」
「さあ……」
 どかっ。落馬するマリー。
 ルイス、「……」。サクラ、「……」。
「あ、あれっ? 
 この二人、現実的で真面目でありますなっ。わてらの旅(テンション)について来れるでありましょうか。
 ま、まあいいであります。
 ……ふふり。しかし見ればこの騎士ルイス、なかなかの好青年ではありませんか。この旅で、わてがみっちりと教え込んだるであります。覚悟せいや騎士ルイスでありますぞ。ふふり。
 あ、あれっ? こら、軍師(候補)のマリーを置いていくなであります!」
 馬車は、草原の向こうを目指し、駆けてゆくのであった。