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リアクション
●第三章 変人? 個性? の新人教師と起木保
昼を告げるチャイムが校内に響く。
廊下を歩く風森 巽(かぜもり・たつみ)とティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は話しながら職員室を目指していた。
「得た情報を整理してみましょうか、ティア」
「はーい。えっとー」
ティア・ユースティはメモを取り出した。先程保健室で起木保に質問したことを思い出す……。
がらんとしている保健室。白いベッドに腰掛ける風森巽とティア・ユースティが、椅子に座った起木保に向き合っていた。
「さって、起木先生、新人教師さんの経歴書とかって見せて貰えます?」
「うーん……見せてあげたいところだが、プライバシーの侵害だとか、色々うるさいからな……」
「そこをなんとか頼みます」
「お願いします」
生徒二人に頭を下げられた起木保はカリカリと頭を掻いた。
「……そうだな……学校側の資料を提示するのは無理でも僕が覚えていることを話すなら問題ないだろう」
自己完結した起木保が大きく頷いた。
「何を話せばいい?」
「新人教師の専門教科と研究内容を教えてください」
「そうだな……まず、緒喫円先生は、国語担当。研究しているものはパラミタにおける文学だったか。生物学にも興味があるらしいな。ちなみにヘビースモーカー。校内は禁煙だから大変だな。次に――」
「ちょっと待って、メモメモ〜と」
ティア・ユースティが急いでメモをとる。
「生物学に興味、ですか」
「詳しいことは僕にはわからない。本人に聞いてみることだね」
咳払いをして起木保は続ける。
「日付由耶先生は、理科担当。研究しているものは化学がパラミタにどのような影響を及ぼすか、だと思う。炎色反応実験が好きだと聞いたことがあるな」
「メモメモ〜」
「ふぅん、そんな研究をしているんですね……にしても、炎色反応実験って……」
「金属を火に入れると炎の色が変わるアレだね。僕も結構好きだな」
薄く笑ってから、養護教諭が続ける。
「そして羽田美保は、家庭科担当。研究しているものはパラミタの郷土料理。美容に目がなくて様々な情報を仕入れては実践している」
一呼吸置いて、起木保は悪戯っぽく笑った。
「ちなみに僕の妹だ」
「メモメモ〜……え?」
「妹ですか!? でも苗字が……」
「早々と結婚したからな」
やや遠くを見遣って、起木保が言った。
「こんな感じかな」
メモを閉じたティア・ユースティにしっかりと頷いてみせる風森巽。
「それを踏まえて、新人教師達を追求しましょう」
頷きあって職員室内へ入る。
「失礼します……。日付先生はいらっしゃいますか?」
「日付は私ですが……」
首を傾げて出てきたのは白衣を着たひょろ長い男性だった。
「お忙しいところ申し訳ありません。少々お聞きしたいことがありまして」
「構いませんが……なんでしょう?」
首を傾げる日付由耶に、銀色の瞳を光らせて問いかけた。
「先生は炎色反応実験がお好きだそうですね」
「は、はあ、そうですが……それが何か?」
「どんなものを燃やしているんですか?」
「……え?」
日付由耶の顔から、汗が流れ落ちた。それを見逃さず風森巽はずい、と前に出た。
「まさか燃やしてはいけないものを燃やしているわけではないですよね?」
「ま、まさか」
応える笑顔がひきつっている。
「そそっ、そう、ですね……えぇと、金属の粉をふりかけて……あ、ガ、ガスバーナーに……」
「ん? どうかしたの、先生? 急にしどろもどろ〜になっちゃったけど?」
メモを取ろうと待ち構えていたティア・ユースティが済んだ青い瞳で問いかける。
「そ、そんなことはないです。私は何も間違ったことはしていません」
「ふぅん……」
疑いの眼で見つめるが、日付由耶の口はしっかり結ばれた。
「質問は以上ですか? 私は次の授業の支度をしたいのですが」
「わかりました。ありがとうございます」
頭を下げて身を翻し、緒喫円の姿を探す。ティア・ユースティが不満そうに頬を膨らめた。
「タツミ、いいの?」
「もう少し情報を集めてから追求します」
風森巽が緒喫円の姿をみとめたとき、がらがらと職員室の引き戸が開いた。
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