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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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 一方、校門前。
 ふらりとやってきた東條 カガチ(とうじょう・かがち)が手を払った。
「さあて、ちょっくら遊んでくるかねぇ」
 目の前のサハギンの群れに微笑む。その瞳は後から来る幼コカトリスも捉えていた。
 バスタードソードを振り上げ、水を吐き出すサハギンを一閃。さらに飛び上がって急降下してくるもう一匹を転がって避ける。
 魚に近い敵の足元がぐらついた。
「魔物は黙って俺の晩御飯!」
 今が機とバスタードソードを振りぬく。しかし体勢を立て直したサハギンは回避。ヒレがひらりと揺れる。
「……お?」
 揺れていた背ビレがピンと立った。反射的に回避。途端に水鉄砲が東條カガチのいた場所へ飛んだ。水圧で土の地面に穴があいた。
「危ないねぇ」
 言葉とは裏腹に口端を上げる。視線はサハギンの背ビレへ。再び直立したことを確認し移動。水鉄砲を避けつつ背後へ回る。
「晩御飯確保―!」
 バスタードソードを背ビレに振り下ろす。サハギンは超音波に似た甲高い鳴き声と共に鱗におおわれた体を倒した。
「へぇ……喰えんのかな、これ」
 動かなくなったサハギンを指先で突き、品定めを始めるためにしゃがみ込んだ東條カガチ。そのごく近くで、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が幼コカトリスと対峙していた。
「これ以上生徒を傷つけさせるわけにはいかねぇからな、戦ってやるぜ!」
 取り出すのは一・二メートルあるバスタードソード。少年のような見た目にそぐわないその長い得物を、しっかりと構えた。
「ぉおおこぉぉぉっ!」
 何かを求めるように素早く走りくちばしを突き出す幼コカトリスの攻撃を避け、大地にしっかりと足をつけた。
「そんな攻撃、効かねぇよ!」
 避けた勢いでバスタードソードを引き、腰をひねって振りぬくように斬る。
 大きな一振りは幼コカトリスの羽と体液を周囲にまき散らした。幼コカトリスが動く気配はない。
「さて、次は――」
 探す間もなく、瞳に映る大ダンゴムシの大群。転がってくるその背は甲冑のよう。固い魔物であることは明らかだ。
「これならどうだ!」
 判断して即座に呪文を唱え一匹の大ダンゴムシの背中へ突き刺したバスタードソードから【轟雷閃】を放出。感電して倒れたことを見計らい、さらに【チェインスマイト】で周囲の大ダンゴムシを蹴散らし【爆炎波】を畳みかけるように放つ。
「オォオオオオォンォォォォ……」
 長い断末魔は切れ、大きなダンゴムシの魔物は体を横たえて動かなくなった。その巨体をバスタードソードで軽くつついてみるが、動く気配はない。
「ここはもう大丈夫そうだ。次は……」
 周囲に目を光らせる。溜池キャンパス内のあちこちで戦闘が行われていた。
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、槌を片手に魔物達の動向を観察していた。
「まとまりがあるようで、ないような……よくわかりませんね」
 首を傾げて、槌を持つ手を伸ばした。ちょろちょろと蠢くマンゴラドラの脳天を打ち、気絶させる。
「なんのためにここへ集まっているのか……調べさせていただきます」
 伸びている球根の魔物を間近で観察する。全身をくまなく見遣る。
「とくに不審な物がついているわけではありませんね。洗脳されているわけではない、と」
 続いて小さな足先を見た。その足に柔らかな土がついていた。
「? このあたりの土ではありませんね……手掛かりの一つになりそうです」
 頷いてから、近くを通ったサハギンを槌で殴る。不意を突かれたサハギンはぱたりと倒れた。
「こらー! それは俺の獲物だよー」
 東條カガチの声が響く。
「わ、すみません……どうぞ」
 頭を下げ、気絶したサハギンを東條カガチの元へ滑らせるようにして渡した。東條カガチのもとにサハギンが渡ったことを確認する。
「これでいいでしょうか。……とりあえず、今わかった情報をケイさんに……」
 片手で槌を操って魔物から目を離さぬまま携帯電話を耳に押し当てダイヤルを押した。
 電話を耳に当てる緋桜遙遠のごく近く。地上で跳ねるサハギンの集団に鋭い視線が向けられる。
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)はブロードソードを抜いた。
「サハギンか……溜池に水浴びしに来たのか?」
「溜池は逆方向だよ」
「だよな……調べてみるか」
 エヴァルト・マルトリッツは首を傾げてブロードソードを振り上げた。一番近いサハギン二体へ【ツインスラッシュ】。
「ボクも!」
 赤い髪を振り、ロートラウト・エッカートも【ツインスラッシュ】を使用。サハギンの高い鳴き声が響く。
 衝撃波を帯びた斬撃はサハギンの鱗を断ち肉へ到達。更にブロードソードを振り、泡を吐いたサハギンの喉元を裂く。
 続いてエヴァルト・マルトリッツは【爆炎波】を使用。ブロードソードに炎を乗せ、切り裂く。
 ロートラウト・エッカートは再び【ツインスラッシュ】でサハギンを攻撃する……。
 二人の華麗な剣捌きにより集団の全て……七匹が地に伏せった。
 起き上がらないことを確認して、エヴァルト・マルトリッツが傍に倒れたサハギンのヒレをめくる。
「何かあるのか?」
 サハギンの全身を眺めて首を傾げた。
「どこを見ればいいかわからないな。何か情報があれば……」
「待って、訊いてみるよ!」
 向かってきた幼コカトリスへとブロードソードを振り上げるエヴァルト・マルトリッツを背にロートラウト・エッカートは携帯電話を取り出した。
「本郷くん、何かわかったことはあるかな?」
 問いかける。明るい返事が返ってきた。
『はい。校内周辺の木々の中に切り株があり、魔物がその樹液を食べていた様子からこの件に樹液が深くかかわっていると思われます』
「そっか……じゃあ樹液が学校のどこにあるかを突き止めればいいんだね」
『そうですね。こちらでも、怪しげな伐採ロボットを泳がせていますので、何かわかり次第また電話いたします』
「うん。よろしくー」
 電話を切ったロートラウト・エッカートは幼コカトリスを倒そうとするエヴァルト・マルトリッツを振り返った。
「待った! 殺しちゃ駄目だよ!」
「? どうした?」
「魔物は樹液の在り処を目指してるかもしれないんだって。追いかけよう!」
「そうか、わかった」
 エヴァルト・マルトリッツは頷いて攻撃の手を止め、手近な茂みに身を隠した。傷を負った幼コカトリスは首を傾げ、あたりを見回してから校舎に向かって歩き始めた。
「気付かれないように追うぞ」
 視線を交わして尾行を始める。幼コカトリスは何かを目指しているように見える。
「? そなた達も魔物を追っておるのか?」
 ミア・マハとレキ・フォートアウフが背後から近付いてきた。
「マハさん、フォートアウフさん……?」
「うん! 二人も?」
「うん、そうだよ」
「調査の者から連絡をもらったのじゃ」
「俺達と同じだ」
 頷きあう。エヴァルト・マルトリッツが目をぱちくりさせた。
「あれ、別々の魔物を追ってたのに同じところに来たってことは……」
「みんな同じところを目指してるのかも!」
「そうじゃな」
「引き続き、追いかけようぜ」
 答えを求めるため、四人で魔物の後を追った……。