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絶望を運ぶ乙女

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絶望を運ぶ乙女

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第六章 現れたモノ





「そういえば、ここにいる機晶姫たちも攫ってきたんだっけか」

 ゲー・オルコットは思い出したように休憩のために入った小部屋で、カプセルの中で眠る機晶石がない機晶姫たちを眺めながら言った。ホワイト・カラーはカプセルにそっと触れると、赤い瞳を細めた。こつん、と額をカプセルに当てるが、そこにいる機晶姫たちの声は聞こえてきたりはしなかった。そんな彼女の肩を、エル・ウィンドはぽんと叩いた。

「いずれ救えるさ。ここを出たら、ヒラニプラに行って助けてあげよう?」
「はい、エル……そうしたらこの子たちは、実験なんかじゃなく、大切にしてくれる人たちのそばで幸せになれるでしょうか?」
「きっとなれます」

 ユニコルノ・ディセッテが今度は答えた。その返事がその場の気休めでしかなかったとしても二人は笑顔になってカプセルの中で眠る同胞を見つめた。霧雨 透乃は別の機晶姫を眺めていた。耳までそっくりに作られた、とても人に近い機晶姫だ。

「でも本当に不思議。こうしてみてると私たちと何も変わらないのにね」
「機晶石が、透乃ちゃんにとっての心臓であり、脳みたいなものだからな」
「………」

 緋柱 陽子は閉じ込められた機晶姫たちを感慨深げに眺めると、ほう、と熱っぽいため息をついた。

「……陽子さん、まさかこんな風に閉じ込められたいとか思ってないよな?」
「え、や、やだ。どうしてわかったんですか? やっちゃん」

 頬を赤らめている仲間にわからないよう、霧雨 泰宏はため息をついた。早川 呼雪が定時連絡を終えると、もう一度辺りを見回した。ここも調査済みの部屋であるが、他の部屋動揺隠し部屋があるかもしれないと睨んだのだ。霧雨 透乃は睨みつけるように辺りを眺める早川 呼雪に臆することなく話しかけた。

「外の爆弾はどうなったのかなぁ。外と直接連絡取れないの辛いね」
「……今のところ、着々と回収しているらしい。あとは此方の謎が解けるかどうか、なのだが」
「謎? なんだそれ?」

 ウィルネスト・アーカイヴスがあくびをしながら適当に腰掛けると、そのお尻の部分の岩が消えてなくなったのだ。正確に言えば、眼に見えていただけで、もともと実物はなかっただけなのだが。

「なんでええええええええ!?!?!!」

 素っ頓狂な悲鳴と共に滑り落ちて行きそうなウィルネスト・アーカイヴスの手を、近くにいたドロシー・レッドフードが掴んだが、引っ張られてしまい二人そろって落ちていった。ユニコルノ・ディセッテが声を発するよりも早く、早川 呼雪は行動を起こし、二人が落ちた穴に自ら飛び込んでいった。それを、他のメンバーも追う形で穴に落ちていく。





 その頃、別の場所で石碑を調べていたアリア・セレスティたちも魔獣たちからの襲撃を受けていた。以前戦ったのと同じく、再生能力は顕在だったようで、小一時間前に倒した魔獣たちが後から何度も追いかけてくる。凍らせても、足元を流れる温泉がその氷を保ってはくれないのだ。

「く、皆さん大丈夫ですか!?」
「ひとまずは、足止めっ!」

 霧島 春美が足場を凍らせて魔獣たちの動きを止めると、ウィング・ヴォルフリートが二刀流の光条兵器で切りあげる。とどめはブルーズ・アッシュワースが天井に叩きつけられた魔獣たちをそこに凍りつかせるといった戦法だ。

「これならば、水に影響されず、凍っている時間も長くなるだろう」

 黒崎 天音が独り言のように呟くと、手近な部屋で一度休憩を取ることになった。ジャッカロープの獣人、ディオネア・マスキプラが先陣を切っていたアリア・セレスティにヒールをかける。

「ありがとう」
「いえいえ、お礼は結構だよ」

 みみを可愛らしくぴょこぴょこさせている少女に、アリア・セレスティはおやつに持ってきたチョコクッキーを差し出した。

「コレ、よければどうぞ」
「わーい♪」
「なんだ、甘いのがすきなのか? それなら作ってきたビスケットもどうだ」
「わーい☆」
「ワトソンくん! 君はおやつばかり食べていて、ちゃんと観察してるのかね?」

 適当な場所に腰掛けていた霧島 春美は、唇を尖らせながらパートナーに向かって声をかける。だが呼ばれた彼女は全く無視してお菓子をほおばっている。ふと、気がついたようにお菓子のかすまみれになった口を開いた。

「そういえば、何で雷術使わないの? 前はよく利いたんでしょ?」
「ちっちっちっち。ワトソン君……お菓子に夢中になって観察を忘れてるなぁ」
「あ、でもそれは私も思いましたが……」
「だって、この水の流れがある中、雷術なんか使ったら皆に被害出ちゃうでしょ? 効果的だって、確かに言ってたけど、水がないところじゃなかったら怖くって使えないよ」

 和気藹々とした会話が続いてる頃、黒崎 天音とウィング・ヴォルフリートはその部屋の中にある石碑を調べていた。だが、新たな発見となりそうなものはなく、二人そろってため息をついていた。霧島 春美は超感覚を使い、自らもうさぎの耳を生やすと「うさ耳魔女な名探偵〜」と場をさらに盛り上げていた。

 カタン

 背後から物音がして、霧島 春美は振り向いた。
 そこはただの壁のはずなのだが、確かにその向こうから音がしたように思えた。壁に歩み寄り、石造りの壁を丁寧に触れるか触れないかわからない程度に、壁へ指を這わせる。

 一つ。色の違う石が見つかった。固唾を呑み、その石に触れる指に力を込めた。

「春美ー、一体どうしたの?」
「ワトソン君、静かに」

 急に顔色を変えた霧島 春美を心配したディオネア・マスキプラとアリア・セレスティは小首をかしげた。しばらくすると、石壁が開いた。そこにあるのは、大量に積み上げられた機晶石の山が中心にある部屋だった。だが、どれもエネルギーを使い切ったのか本来の機晶石の力を感じられない。周りに本棚とよくわからない機械がいくつもならんでいる。

「ここは、機晶石を研究していた場所なのでしょうかね」

 ウィング・ヴォルフリートが本棚から適当に一冊取り出したが、その中は相変わらず虫食い状態だった。

「隠し部屋の類はいくつかありましたが、ここも外れでしょうね」

 ウィング・ヴォルフリートがそういって隠し部屋を出ようとすると、霧島 春美は機晶石の山に向かい呪文の詠唱を開始した。ディオネア・マスキプラはその詠唱を聞くや否や、隠し部屋に入った全員を部屋の外に出した。霧島 春美の衣服とピンク色の髪が魔力の波にたなびき始める。

「雷王の怒りをここに示せっ!!」

 今の彼女にできる最大限の雷術が機晶石の山に直撃すると、機晶石は全てばらばらに砕け散った。その下に、地下へと続くらしい階段を見つけると、いつもどおりの満面の笑みを浮かべて「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのでは大違いなんですよ……なんてね☆」と自身が敬愛する名探偵の名言を口にした。






 ルーノ・アレエへの取調べが再開する時間となったが、桜井 静香は応接まで待つよう言われてしまった。真口 悠希は少し気落ちしている校長を励まそうと思い、あえてライバル関係にあるロザリンド・セリナに電話をかけた。

「ロザリンドさま? そちらはいかがですか?」
『遺跡の中は、思っていた以上に未開の場所が多かったようです。爆弾ですが、着々と発見していますし、恐らく爆発による被害もなくなるでしょう』

 その報告を聞いて、桜井 静香はぱあっと顔を明るくして、真口 悠希の肩を借りてなき始めた。それが携帯越しにわかりロザリンド・セリナはほんの少しだけ嫉妬してむうっと唸り声を上げる。真口 悠希はそんな校長の背中を数回撫でると、つながったままの携帯を差し出した。

「ロザリンドさん、ありがとうっ! 早くルーノさんが解放されるよう、こっちもがんばるね!」

 突然最愛の校長からの言葉を聞いて、ロザリンド・セリナは顔を真っ赤にしてしまった。電話越しでそれがばれないのが幸いだが、「はい、ご期待に沿えるようがんばりますわ」と返事を返し、丁寧に電話を切った。

「静香さま、よかったですね」
「うん、うん!」
「あとは、ルーノの無実が晴れるのを祈るばかり、か」
「おかしいです。爆弾の情報は此方にも入っているはずなのに、何故まだ取り調べるのでしょう」

 ささやかな疑問を口にしても、それに答えるものはいなかった。アシャンテ・グルームエッジは、パートナーを連れて緋山 政敏のそばへ歩み寄った。

「ん? あんたたしか、グルームエッジ、だったか?」
「知ってたか、自分はラズ・シュバイセン。こいつのパートナーをやってる。突然で申し訳ないが、ルーノとかかわりがあるという鏖殺寺院のこと、知っているか?」

 何かいいたげなアシャンテ・グルームエッジの瞳は、今は澄んだ銀色になっている。ラズ・シュバイセンがその代わりに問いかけた。緋山 政敏はちらり、と応接間のメンバーがそばにいないのを確認して口を開いた。

「そのことを聞きたくて、ここまで来たのか」
「ルーノを護りたい気持ちは一緒だ」

 押し黙っていたアシャンテ・グルームエッジは、それだけ呟いた。ラズ・シュバイセン自身はかなり驚いていたが、とりあえず、と話を進めた。

「いや、単に疑問点が多いだけだ。鏖殺寺院って言ってる割に、行き当たりばったりな作戦に行動理念……」
「別組織、あるいは鏖殺寺院の内部で仲間はずれにされてる研究者達、ってのが今のところの見解だ」

 緋山 政敏は隠すことなくたどり着いている憶測を口にした。相手が目を丸くするのを見て、わずかに口元を緩めた。

「なに、隠すようなことじゃあない。ルーノを助ける気持ちがあるやつは、仲間さ」

 そういった直後、胸ポケットの携帯電話が鳴り響く。相手はリーン・リリィーシアだった。

『政敏! あんたの勘、当たっちゃったじゃないの!』
「……当たってうれしいような、哀しいような、だ。で、セリナは?」
ディフィア村よ。今飛空挺かっ飛ばしていったわ』

 それを確認すると、緋山 政敏は携帯を閉じた。

「それにしても、驚いたなぁ……」

 案内役だけ任された佐野 亮司は、応接間で茶菓子を神楽坂 有栖に分けてもらいながらぼんやりと呟いていた。いきなりそういわれて、お茶のお代わりを差し出しながら、神楽坂 有栖は小首をかしげた。

「何がですか?」
「あ、いや……アルディーン教官は、何度か授業を受けたことがあるが、取調べになるとあんなに人が変わるんだなぁって話さ」
「そんなに違うの?」

 朝野 未沙が言葉を挟むと、唸りながら紅茶をすする。そういえば、と桜井 静香が口を開いた。

「そういえば、あの衛生科の生徒さんも『いつもと雰囲気が違う』っていってたなぁ」

 何気ない言葉だったが、エメ・シェンノートは気になって目を閉じて意識を集中した。だが、ルーノ・アレエのそばに邪悪な何かはいないようだった。ほっと胸をなでおろしたが、警戒するには越したことがないと思って立ち上がる。すると、朝野 未羅もとてとてっと付いてきて、「私もお手伝いするの!」と声をかけてきた。

「では、お願いします。プリンセスナイト」

 そういって、彼女の手をとってエスコートするかのようにルーノ・アレエがいる取調室まで向かっていた。




 閃崎 静間はアフロ頭が修復できないのをみて涙を流していた。幼馴染と同じ姿をした剣の花嫁は、嬉々としてそのアフロ頭を弄んでいる。ミルディア・ディスティンとレイナ・ライトフォードはもう一度、校舎内を見て回ったがそれ以上人形は見つからなかった。ほっと胸をなでおろした影野 陽太の通信機に薔薇の学舎にいる瓜生 コウから連絡が入る。

『こちらは調査は終えた。後は爆弾の処分だが、人気のないところで爆発させるのが無難と考えた。どうだろうか』
『私も同意です。これから回収に向かいます。アトラスの傷跡で誰もいないところに放って爆発させましょうか〜』

 少し楽しげに浅葱 翡翠が返事をするのを聞いて、影野 陽太も送信ボタンを押した。

「僕も同意します。処分してしまったほうが、ルーノさんのためにもなるでしょうし」
「うのぉ? 何のお話?」

 ミルディア・ディスティンが通信機に話しかけている影野 陽太に声をかけた。事情を話すと、彼女も快く同意した。

「それじゃ、今持っていきますね」
「静間〜、持っていこうよ〜」
「頼む、もうこれ以上生き恥を晒させないでくれ……」
 
 無邪気にアフロヘアで遊んでいる少女を、冷徹な機晶姫がようやく抑えて閃崎 静間はようやく立ち上がった。もさ、と頭の上のアフロヘアが揺れる。

「……ええと、僕が行きますよ」
「気ぃ使わせて、悪いな……」

 アフロ頭の閃崎 静間は男の友情に、目から汗を流していた。







 ユリ・アンジートレイニーが見つけた隠し部屋の奥には、簡素な部屋があった。フィル・アルジェントがよく知るルーノ・アレエの寮部屋に似ていた。生活に必要最低限那モノだけ並べられており、時折かわいらしい雑貨が並んでいた。強いて言うならば、二段ベッド脇に大きな水溜りができていることくらいだろうか。下の段はもう使えないくらいびしょびしょになっている。

 その中に、綺麗にラッピングされた赤い髪の少女と緑の髪の少女の人形が並べられていた。それぞれ、胸に金色のボタンと銀色のボタンをつけてもらっていた。すっかりほこりを被っており、これらが別の部屋で見つけた『イシュベルタ・アルザスお手製のプレゼント』であることは明白だった。確かに、とても丁寧に作られたその人形は、とても一人の少年が作ったとは思えないほどの出来栄えだった。

「この緑の髪の少女が、ニフレディ……ということでしょうか?」
「エレアノールは青い髪、イシュベルタ・アルザスは黒髪だったと聞く。それ以外、考えられぬであろう」

 シェリス・クローネがそういいながら、部屋の中を物色する。机の上のものは触れていないようだったが、ベッドや扉は人が使った形跡があり、水溜りの脇にはいくつモノバケツや手桶が置かれていた。

「生活が脅かされない程度に水を部屋の外に捨てに行っている、ってことか」

 高村 朗がそういってベッドの奥を見ると、その向こうに横穴があるのを見つける。脇から入り込んだ桐生 円は服が濡れるのも気にせずにその横穴を覗き込んだ。人一人は優に通れそうな穴だった。

「この向こうに、いるのだろうか」
「わからないのだ。今は……」

 桐生 円に続いて、リリ・スノーウォーカーはその横穴に入っていった。





「2体の完全体を祝して、ここに石碑を残す。これが、後世に残る偉大なものであると私は確信している」

 ソア・ウェンボリスが解析した石碑を読み上げると、『2体の完全体』を褒め称える詩が延々と書かれているだけだった。それを聞いて緋桜 ケイは盛大にため息をついた。エヴァルト・マルトリッツも探していた合体パーツ……もとい、ここで死んだはずのイシュベルタ・アルザスの遺品が見つからず途方にくれていた。


「せっかく残って調べてるってのに、結局外れかぁ」
「きゃ!」

 聞きなれない声を聞いて、その場にいたものたちは思わず武器を構えた。そこにいたのは、緑色のショートヘアーをした幼い少女だった。小麦色の肌に、白い半そでのワンピースがよくにあっていた。ソア・ウェンボリスはほっと胸をなでおろし、前に立ってくれた雪国 ベアの脇から顔を出した。向こうが怯えているのだと知ると、両手に何も持たない状態でゆっくりと前に進み出た。

「あなた達……誰?」
「はじめまして! 私、ソア・ウェンボリスって言います。驚かせてごめんなさい。ここを、調べさせてもらってました」

 ぺこっと頭を下げると、緑の髪の少女も習うようにして頭を下げた。

「はじめまして! 私」
「ニフレディさん、ですよね?」

 そこへ姿を現したのはユリ・アンジートレイニーだった。緋桜 ケイたちが驚きの声を上げていると、第三グループの面々がそこに姿を現したのだ。彼ら自身もあの横穴が、この機晶姫たちの墓場につながっていたことに驚いていた。

「それより、ニフレディって?」
「白銀に輝く機晶石を抱く……2体目の完全体、です」

 ララ ザーズデイの言葉を聞いて、ロートラウト・エッカートは目を丸くすると、ニフレディと名前を呼ばれていた少女の身体をあちこち触る。

「なんで? どこからどう見ても人間みたいだよ!」
「お前がサイズの割りにいかつすぎるんだ」

 エヴァルト・マルトリッツの鋭いツッコミを受け、ロートラウト・エッカートが苦笑いをする横でデーゲンハルト・スペイデルは顔をしかめた。

「白銀の機晶姫、というわりにニフレディ殿の機晶石は光っていないのだな?」
「……光る? どういうことでしょうか?」

 ニフレディは小首をかしげていた。失礼、とリリ・スノーウォーカーが小さな彼女の身体を自分のマントに隠す。だが、確かに彼女の身体はルーノ・アレエのように光ってはいなかった。

「君は……」
「私は確かに、ニフレディといいます。ですが、その名前を知るあなた達はどなたですか?」 
 
 彼女自身が名前を名乗ったことにより、彼らはさらに驚いた。
 ニフレディは自分の名を名乗っても、兵器と化さなかったのだ。フィル・アルジェントは自分より低めの少女に視線を合わせた。

「ルーノさん……いえ、エレアリーゼという名前を知っていますか?」
「はい、私のお姉さんにあたる方ですね。まだ、お逢いしたことないんですけど、イシュベルタ兄さんから聞いています。イシュベルタ兄さんが作ったお人形さんに、この綺麗に光る玉を入れタラ動き始めたから、姉さんを探してもらうようお願いしたんです。どうしてもお逢いしたくって……」

 ニフレディが取り出したのは、淡く光を放つ球体がつめられた瓶だった。儚げな光だったが、ロートラウト・エッカートはそれを見てすぐに理解した。

「あ! それボクの機晶エネルギーだ!」
「ということは、上の爆弾の謎は解けたのぅ……」

 シェリス・クローネが深くため息をついた。オリヴィア・レベンクロンは不思議そうに首をかしげると、自分もニフレディに視線を合わせるため少しかがんだ。

「ところでぇ、あなたはいつごろ目覚めたのか知っていますかぁ?」
「え? ああ、つい数週間前です。イシュベルタ兄さんに起こしてもらいました」

 満面の笑みを浮かべるニフレディの言葉に、リリ・スノーウォーカーは顔をわずかにこわばらせた。ユリ・アンジートレイニーが不安げにパートナーの顔を見る。視線を向けず、黒髪の少女は顔を向けずに答えた。

「……死んではいなかった、ということなのだろう」

 また低い唸り声が空間に響き渡り始める。ミネルバ・ヴァーリィは嬉々として剣を構えると、真っ先に魔獣の群れに突っ込んでいった。エヴァルト・マルトリッツはニフレディの手をとり、
「一旦外に出よう。君の会いたがっているお姉さんにも会える」
「本当ですか!」
「はい、私たちが連れて行ってあげますね!」

 フィル・アルジェントも緑髪の機晶姫に微笑みかけた。その横で金髪赤眼の魔女が口元をほころばせてゴスロリの姫袖をまくった。それを見てどこから取り出したのかたすきを巻いて同じくヤル気を見せたのは悠久ノ カナタだ。

「そうと決まれば」
「さっさと突破せねばならぬのぅ」
「ケイ! 最大魔力でいきますよ!」
「任せとけ!!」

 ソア・ウェンボリスの言葉ににんまりとした顔で答えた緋桜 ケイは魔力を振り絞って詠唱を開始した。 






 ディフィア村に一足先に訪れていたのは、九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )マネット・エェル( ・ )九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)の三人だった。大会も終えてまだ半年もたっていないというのに訪れた彼女たちを、村人達はいぶかしがりながらも歓迎した。完全防寒対策をした彼女たちは、白い息を吐きながら以前紅葉を楽しんだ洞窟へと再度向かった。

 白いファーことを着せてもったマネット・エェルは上機嫌でルーノの歌を口ずさんでいた。九鳥・メモワールはおそろいの夜色のファーコートのすそから寒風が入り込まないように押さえながら辺りを見回していた。

「あの洞窟の封印、解いちゃうの?」
「まだわからないわ。それに、私に解ける代物じゃないと思うしね」

 九弓・フゥ・リュィソーはそっけなく答えると、一度来ただけの山道を難なく乗り越えると、見覚えのある小さな石碑を見つけた。そばには水が湧き出る洞窟があった。入り口は、相変わらず固く閉ざされていた。何かしらの理由があって封印することになったこの場所のことを、決して口に出すまいと思っていたのはつい昨日のような気さえする。


「開いてないのです〜」
「開くのは私じゃなくても、いずれ開かれることになるかもしれないわね」
「そのために、ここに着たんですもの」


 九弓・フゥ・リュィソーは振り向いた。息を切らせてようやく追いついたという安堵の顔を見せるロザリンド・セリナがそこにいた。