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絶望を運ぶ乙女

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第八章 知らされなかったモノ



 外へ出て行った偽ランドネア・アルディーンの身体の表面を覆っていたスライムが剥げ落ちると、そこにいたのは青白い顔をした男だった。緋山 政敏は見覚えのある男と対峙していた。
 忘れるはずもない。最後の言葉を聞いたのは自分だったからだ。

「アルザス……よく生きていたな」
「これでも吸血鬼の端くれでな、早々死にはしない」
「ルーノのところへ、戻る気はないのか? あんたが起こした妹のことだって、放っておくわけにいかないだろ。ルーノは、今でもあんたを信じてる」
「……以前、貴様らを襲った女がいただろう」
「アンナ・ネモか?」

 その名を聞いて、イシュベルタ・アルザスは首を振った。「今は、ニフレディルと名乗っている女だ」そう、ようやく聞き取れる声で呟いた。

「今日は引こう……だがいずれこの地の我らの英知を取り戻しに来る」
「おまえ自身の望みはなんだ?」

 緋山 政敏に問われて、立ち去ろうとした足が止まる。イシュベルタ・アルザスは空を仰いで目を細めた。

「……望むことなど、俺には許されていない」

 それだけ呟くと、イシュベルタ・アルザスは姿を消した。いずれ対峙することがわかっていたので、その後を追うことはしなかった。








「ええええええ!????」

 本物のランドネア・アルディーンは目をまん丸にして驚きの悲鳴を上げた。

「そ、そういわれてみれば、昨日の夜外食したときに、知らない人からお茶をご馳走になって、凄く眠くなったから早く部屋に帰ったんです……なのに目覚ましがなったのに気が付いたのもう夕方で……」
「落ち着いてくださいませ、アルディーン先生。さ、お茶でも召し上がって……」

 クエスティーナ・アリアは教官にお茶を勧めながら、事情を聞いていた。どうやら、青白い顔の男にお茶を勧められたらしく、校長じきじきに「しばらく外出禁止だ」とお達しを受けていた。

「まぁ、大事に至らなくってよかったな」

 佐野 亮司はルーノ・アレエの頭にぽんと手を置いた。夏野 夢見は、一つ無事だった人形が爆弾入りではないとわかり、お土産代わりにルーノに差し出した。

「あ、これ私が作った奴だ」
「ええ! もう、紛らわしいことしないでよね……」

 はぁ、と心身ともに疲れきった夏野 夢見は人形を差し出した手を暖かく包んでくれたのに気が付いてもう一度顔を上げた。

「私のために、力を尽くしてありがとう。夏野 夢見」
「うん。ルーノ、もしよかったらまた教導団に遊びに来てね。歓迎するから!」

 肯定を示すために力強く頷くと、既に外で待っている友人達の下へとルーノ・アレエは駆け出していった。そして、そのままアトラスの傷跡にいる仲間達と合流することになっているのだ。






「さーって! せっかくですから盛大に爆発させちゃいましょ〜!」

 飛空挺を猛スピードで運転させながら、浅葱 翡翠は後ろに乗っている永夜 雛菊に合図を送る。アトラスの傷跡で人気がなさそうなところ、といっても誰が通るかわからないから空中爆破を狙い、彼女はいくつものルーノ型爆弾(氷付け)を放り投げた。

 それを国頭 武尊がアサルトカービンで見事に打ち抜けば、昼間の花火として見事にはじけていった。人形を凍てつかせていた氷がきらきらと輝いて、露天風呂を楽しむものたちにとっても目の保養になっていた。

「ふぅ、いい湯じゃのぅ」

 男女を分ける壁ができていないので混浴状態の露天風呂では、皆水着を着用して疲れを癒していた。遅れて出てきたガートルード・ハーレックや、如月 佑也も今はのんびりと湯船に使って疲れを癒している。



 露天風呂から上がるころには、教導団から来た大型飛空挺に載ってきたルーノ・アレエたちがいた。ソア・ウェンボリスはニフレディの手を引いて、ルーノ・アレエに引き合わせた。
 ニフレディは姉の首に飛びつくと、ルーノ・アレエは目を丸くしていたが、リリ・スノーウォーカーが経緯を説明した。

「私の、妹ですか?」
「そうなるのだ」
「遺跡の中で、ルー嬢が生まれたときに同じ時期に作られた機晶姫じゃ」

 口元に手を当て、青ざめた様子で救いを求めるように顔を上げた。ララ ザーズデイがその両肩に柔らかく手を置いた。

「大丈夫だ。彼女を見つけたときから、彼女の身体は光を帯びていなかった。あるいは、彼女の本当の名前が別にあるのかもしれないが……」
「ルーノさんにも妹ができたなんて、私もうれしいです! ニフレディさん、ツヴァイとも、仲良くしてあげてくださいね?」
「姉上がそう仰るのなら……ボク皆と仲良くしますよ」

 ラグナ ツヴァイはその言葉に引きつった笑みを浮かべていた。

「私、イシュベルタ兄さんから聞いて、ずっと姉さんに会えるのを楽しみにしていたんです!」


 その無邪気な微笑みに、ルーノ・アレエは思わずニフレディを抱きしめる腕に力を込めた。
 今ここにある幸福を、決して離さない様にするために……。

「よし、小腹もすいただろうから、このギルド特製メロンパンを食べるといいよ☆」

 エル・ウィンドは二人にメロンパンを差し出すと、ホワイト・カラーも一緒に記念撮影をした。それが羨ましかったのか、写真を撮りたがるものが後を絶たず、結局全員集合写真を取ることになった。

「で、私が撮るんですか」

 浅葱 翡翠はすこし残念そうに呟きながら、ちゃっかり移る側に回っている永夜 雛菊を置いて飛空挺で飛び上がると、上空から皆が入るようにカメラのシャッターを押した。








「完全に調査することはできなかったようですが、恐らくルーノさんがいた遺跡と、このディフィア村はつながっているようです。地下水脈の件からしても……」
「ここの封印は、近いうちに解けてしまうのね」

 言葉をさえぎって、九弓・フゥ・リュィソーは呟いた。ロザリンド・セリナは不思議そうに、纏め上げたディフィア村の歴史を保存するとパソコンを閉じると声をかけた。

「どういうことでしょうか?」
「大きな力は、眠っているほうが幸せだということよ」
「……だとしたら、ルーノさんは眠っているほうが幸せだったのでしょうか?」

 マネット・エェルがとことこ、とロザリンド・セリナのそばまで歩み寄ってくるとにっこりとした笑みを向けた。

「ルーノさんは、たくさんの仲間に恵まれて幸せなのですよ☆」
「まぁ、そういうこともあるってことね」

 苦笑しながら、九鳥・メモワールが付け足した。九弓・フゥ・リュィソーは冬の寒空を仰いで、星空に手を伸ばした。つかめそうなほど近くにある光を、決してつかむことができない。

「だからこそ、輝きが尊いのよ。近くにある光が、偉大ではないとは思わないわ。ランプは、人の心も明るくしてくれるものね」

 薄く笑った彼女の笑みに、ロザリンド・セリナも微笑んだ。











担当マスターより

▼担当マスター

芹生綾

▼マスターコメント

 お疲れ様です。
 今回招待する予定だった方々、招待枠を用意できなくて申し訳ありませんでした。
 次回はこのようなことが無いようにいたします。

 数少ないヒントの中、このシナリオを選んでいただきありがとうございました。皆様の知恵を絞ったアクションをいつも楽しみにシナリオを作らせて戴いております。
 今までルーノ関連のシナリオに参加していない方々でも楽しんでいただけましたでしょうか?

 今回、ルーノの妹がはじめて出てきましたが、今後どのように皆様と絡んでいくのか、私も楽しみにしています。
 イシュベルタ・アルザスが完全に復活したというのは、皆さん周知の事実として受け取ってくださいませ。

 次回は、ディフィア村の遺跡が舞台となります。どうぞ、よろしくお願いいたしますね。